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中村修平のタルキール覇王譚ドラフト考察その1 
 
text by Nakamura Shuhei




・前書き
お久しぶりになりますね、中村修平です。
今回はリミテッド方式で開催されるグランプリ・静岡が間近というのもあり、
その中でタルキール覇王譚ドラフトについての記事を書かせてもらう事となりました。よろしくお願いします。
と、ちょっと記事の前に但し書きを。

実はこの記事、中身については自分用のまとめ的なものからの抜粋がちょうど今回の依頼である「グランプリ静岡2日目に残ったプレイヤーに向けて」に合致しているから流用しようか、というところからスタートしています。

なので書き直すと色々面倒だという理由で本文中は今年初めに某所で書いたような妙に硬い文章になっていますがその点についてはご容赦をお願いします。


この記事は主に私のタルキール覇王譚ドラフトの環境把握とドラフト指針についてを記したものである。

まずその前に簡単にではあるが環境の特徴を列挙していく。
全体のカードパワーは低めでドラフト中のプレイアブルカードは多い。ゲームスピード自体はかなりゆっくりで、2マナは賞味期限が早く、壁は多めでタフネス5が主軸、そしてとにかく飛行が強い。というのがこのタルキール覇王譚のドラフト環境である。
それについて順に説明していこう。






・変異


至って地味でありながら環境のスピードの基礎になっているキーワード能力。
かつての環境のように変異解除で何かを誘発orシステムクリーチャーになるという事がほぼないのでただ変異解除後のサイズが厄介か否かという問題になりやすい

変異を出し合ってのゲームの場合、
4ターン目に変異が殴ってきた→変異解除されても損にならないので自分の変異が要らないのであればブロック
5ターン目土地を置いて変異が殴ってきた→変異解除されると2/2を超えるサイズになられるのでブロックが出来ない


という3,4,5ターン目がタルキールドラフトのお約束。
このお約束をどういう風に崩していくかがドラフト攻略のテーマとなる。

ただし変異戦を突き崩すデッキというテーマに即して話してしまうと見落とされがちな点で注意して貰いたいのは、あくまでこの段階で話しておきたいのはどう突き崩すかではなくてどういう環境であるかという事だ。まずは環境を理解するためには環境そのものを知らなくてはならない。

というのもこの変異のやりとりが許される環境としてセットが作られているという事を確認してみると色々と見えてくるものがある。テーロスではそれほどでもなかった《鞭の一振り/Lash of the Whip》とタルキール覇王譚での《絞首/Throttle》のパワーレベルの差はこのあたりに現れているし飛行クリーチャーが至って少ないというのも2/2バニラが主役ということで説明がつく。更に変異解除するための時間を用意するために強烈にテンポを奪う1対多数交換ができるカードはもっと極端に少ないのだ。






・2マナ2/2
3ターン目以降のゲーム展開については説明したが、それでは2ターン目についてはどうなのか。
冒頭で結論から先に述べられているが、2ターン目2/2の有用性はテンポ的に見ると高いが、賞味期限が非常に短いのがこの環境の特徴となる。その理由としては主に2点ある




▲環境に壁が多い


デザイナー視点で考えて3ターン目と5ターン目の行動を食いつぶしてしまう変異をゲームとして成り立たせる為にはどうすればよいか、最も簡単な答えは2ターン目か4ターン目に壁となるクリーチャーを用意してやればよい。この環境で壁役になるカードは事欠かないし、変異前提の環境であるからそれだけで優位である3マナ2/3クラスのカードにもやはり足止めされてしまう。  そうでなくとも5ターン目には変異解除、6ターン目には素出し、変異として出すことが許される分従来の環境に比べて格段に6マナのカードを入れる事が許されている。よって「ただの」2/2の有用性が大幅に低下する。




▲2マナ圏のほとんどがバニラである



これは2/2側が変異環境という制約を受けてのデザインであるが、ほとんどの2マナ2/2クラスのカードにはそれ以上の優位性を取れるものがない。回避能力持ちであったり、何らかのシステム付きや、一時的に自らサイズを上げるといった2/2以上を乗り越える要素を持つカードがほとんどない。

通常の運用をするのであれば4ターン目までは強いがそれ以降は役割を終えてしまうというカード、出来れば対戦相手の変異と相打ちにしたいカードという扱いとなってしまう。

2ターン目に出せた時の強さをどう持続させていくか。
というのが裏をかく、強いドラフトデッキを組む上のテーマとなる。

・キーワード能力

次に変異と並ぶもう1つの軸となるはずの部族ごとのキーワード能力について、1つを除いて簡単に概要を説明していこう




▲長久


ほぼ個別カードの性能依存のキーワード能力
強いカード、例えば《アイノクの盟族/Ainok Bond-Kin》はただ強いし、弱いカード、《塩路の巡回兵/Salt Road Patrol》は比較してただ弱い。そしてカウンターが載ってる際に何かというシナジーのほとんどが先制攻撃+アンコモン、狙ってできるものではない。




▲探査


キーワード能力自体はコントロール寄り。
殆どの場合○○すると自分の墓地へカードを落とすというカードとのセット運用が前提。ただしコモンのクリーチャー2種、特に《スゥルタイのゴミあさり/Sultai Scavenger》は普通に使って充分に強い




▲強襲


完全にアグロ向けのキーワード能力。
誘発条件が簡単すぎる為に殴っていけるデッキではほぼ無条件で達成可能と考えて良いが、防御的なコントロールの場合は強襲部分を排除してカードを考えなくてはならない。




▲果敢


キーワード能力としてカテゴライズできるほどの質を保持していない。
どうしても果敢デッキが組みたいのであれば2種類のアンコモンのエンチャントを軸にしたデッキがあるにはある。



この4つについては最近のドラフト環境で流行りであったアーキタイプ的なドラフト傾向、集めれば集めるだけ強いというものはほぼない。
各キーワード能力は各対応色に満遍なくカードがちらばっており、例えば攻撃的な黒白デッキに白の長久、黒の探査、黒の強襲、白の果敢全てが入っているというのが普通に行われる。

その上でマナサポートが全色に渡って充実、2色土地がコモンに10種類、戦旗も5種類あるという恩恵で、タルキール覇王譚ではラブニカブロックのように多色推奨のようでいて実はギルド固定のリミテッド環境ではなく、かなり色に関しては広く緩く作られている。

キーワード能力が各部族3色に広がっていてデッキを志向する要素に薄く、マナ補正は1つのセットなのに全2色の組み合わせがあると歴代のリミテッドでも上位、変異持ちは最悪ただの変異としての運用も可能である。

これをちょっと言い方を悪くするなら色的なまとまりがないとも言え、デッキをまとめ上げる基軸として

・アンコモン以上に多くある強力な多色カードと楔の3色カードによるデッキの色固定
・環境にある最速デッキに耐えうる構造を持っているか
・それに沿う形のできるかぎり許容できる土地バランスを持てるか


この3点が均衡すればデッキとして成り立ってしまう。

なので人によって最強戦略に大きな違いが発生し、マルドゥ派やティムール派、はたまた多色教など多くの宗派がそれぞれ併存できるという摩訶不思議なフォーマットとなっているのである。
ここまでが冒頭で伝えた環境の概要。


だが、それはあくまで環境にある最速デッキが未成熟な為に発生している過渡期。
スタンダード環境が徐々に特定のデッキへと収束されるように、リミテッド環境でも最速デッキの完成度が上がるにつれ、それに抗しえるデッキは数を減らしていく。

その最速へと繋がりやすいのはゲーム製作者が許容した環境のルール破りを探す事だ。テーロスの英雄的ほどではないがこの環境にもアーキタイプドラフトを目指せる組み合わせが3つある。それを述べていこう






・獰猛


ここまで4つのキーワード能力について纏めてといった形で説明をしたが、ティムールのキーワード能力である獰猛だけを別の章に纏めてあるのは獰猛だけが別格、パワー4という数字が環境を規定する大きな要素になっているからだ。



核となっているのは《凶暴な殴打/Savage Punch》。たった1枚のコモンカードではあるが、このカードこそ獰猛そのものであり、特定のカード以外は弱めに作られているセットの中で抜けて強力な一枚となっている。

これもテーロスのカードでの比較であるが《狩人狩り/Hunt the Hunter》が1マナ増えただけで色参照条件がなくなっていると言えばどれだけ強いかわかるだろう。

部族間でただ1種族、「獰猛」というアーキタイプドラフトを組める事ができるだけのポテンシャルを持つまでにである。だが同時に獰猛こそがこの環境のドラフトピック指針を複雑にしている一因でもある。

《凶暴な殴打/Savage Punch》をちゃんと使いこなす為にはそれなりにデッキを獰猛獰猛させなければならない。ただの《捕食/Prey Upon》で打つ時の殴打はほとんどの場合、2マナかけて自分の変異と相手の変異を交換するだけの呪文へとなり下がるというデメリットを抱えてるカードでもある。

そしてパワー4を早期に用意できないコントロールにとって《凶暴な殴打/Savage Punch》はただの弱いか勝ってる状況を勝ちすぎるだけのカードでデッキにとっては不純物となりやすい

緑絡みのピック指針にビートダウン用、コントロール用に加えて獰猛用の指針があることを念頭に置かなくてはならないのだ。






・戦士


リミテッド環境用の7番目のキーワード能力、それがこの「戦士」である。
これは一度でもドラフトをしたプレイヤーであれば非常にわかりやすいだろう。環境には種族「戦士」をキーワードにしたシナジー郡があり、このカード間での結びつきが薄いセットでは白眉となっている。わかりやすく環境のルール破りができる一角である。

次回の白黒という頁で詳しく解説していく事になるだろう。






・トークン
変異で述べたと思うが変異環境を守る為にこの環境ではカードの1枚ずつがかなり遵守されており、その上で2/2クラスが基本値となっている。それは例え1枚の変異を解除できたとしてもそれに費やすマナとターンは他の変異カードを解除できないという現実によって「大きなクリーチャーと2/2クラスの群れ」という状況は変わらないのである。

その環境のルール破りを目指しにいっているのが1枚のカードで複数のクリーチャーを生成し、それが攻撃時に2/2を討ち取れるサイズであればよい。トークン戦略、いわゆる《ラッパの一吹き/Trumpet Blast》ドラフトである。




このアプローチは色の組み合わせ、挙動と構成するカードが「戦士」と重複する箇所があるので、同じアーキタイプと捉えている人が多いように見受けられるが、私としてはこのトークン戦略は全く別のものだと主張したい。
強い戦士デッキと強いトークン戦略デッキの構築ではドラフトの過程がかなり異なる。端的に言ってしまえば戦士とトークン戦略のハイブリッドはあれど、完成された戦士デッキにはそもそも赤など必要ない。

これについても次回の白赤の頁で解説していく事になるだろう






・土地


最後にこの環境の特徴である多色土地についてだが、基本的には環境は攻撃的で土地は17枚、その内でメイン色が8枚以上、サブ色が5枚以上を目標にしている。

それを簡単に確認できる方法として、私はドラフト中に取った土地が色が合致しているコモンの2色土地なら+1、色が合致している3色土地なら+2とカウントして覚えておく事にしている。このカウントによって完成させたいドラフトデッキからどの程度土地が不足しているかという目安がたてられる。

例えば攻撃的な3色デッキであれば、マナ総数は8-8-5の21色分が必要で17を引くところの4がマジックナンバー。

ちなみに4色以上の構成になる際は8-8-5-5の26以上なので9。
だが現実的にはそれが可能な数字ではないのと多色であるほどコントロール傾向が強くなるので戦旗を追加する事によって補う。3色とも合致している戦旗であれば1枚につき3色分を確保できるので土地18枚+戦旗1枚or土地17枚+戦旗2枚が私の基本値としている

もっともこれについては7-7-3でも廻せると思うのであればそれを辞めろとは言わない。
土地配分については机上の安定性よりも短期のゲームでの決着、10ゲーム少々の結果が全てだからだ。まあ私なら7-7-3にしかならない場合、攻撃的デッキであろうとも戦旗を入れて擬似8-8-4にするだろうが。

ところでここまで書いたところで2色であれば土地カウントが0でもデッキの要求を満たしている事に気づいただろうか。今回用意している私のドラフト戦略はこの2色であれば土地を必要としないという点を基礎としている。

環境の最強戦略が多色にはなく、特定のカードを鍵としたアーキタイプ型であるならば、概要で触れた多色の強力なカードを使わないかわりに、何もしなくても手に入る9-8のマナベースでその戦略に合わせて構築していく。

土地という各人の思惑によって大きく人気が変わるものに手をだす必要を極力省く。この環境では色を渡る結びつきが薄いので求めている戦略が概ね2色だけでもやろうと思えば可能であるし、その過程で余裕があるならば3色目に手を伸ばせば良い。

現実にはそこまで理想通りにはいかず、タッチで何枚かのカードを入れなければならないが2色ベースでドラフトを進め、攻撃的or防御的or獰猛的という区割りでカードを見ると思いのほかカードの基準がはっきりとする。
私にとっては白黒、緑系、トークンのどれか。

それでは次回から具体的に2色よりのドラフト過程についてその考え方へと話を移すとしよう。



中村修平
「なかしゅー」の愛称でお馴染み。

「国籍が不明になりつつある」とまで書かれるほど世界中プレミア・イベント行脚を続けていた、まさに世界を股にかけるプレイヤーである。
公式での連載も多く、過去から現在まで長きにわたり日本のMTGの最前線で活躍する、名実共に日本のトッププレイヤーである。

2011年に、日本人二人目となるマジック・プロツアー殿堂入りを果たしている。

主な戦績
・プロツアーハリウッド08 ベスト4
・プロツアーヴァレンシア07 ベスト4
・プロツアープラハ06 ベスト4
・世界選手権05 ベスト8
・プロツアーコロンバス04 準優勝
・2007-2008年 プレイヤー・オブ・ザ・イヤー
・2011年マジック・プロツアー殿堂入り
他多数

中村修平のテーロスドラフト考察
その1
その2
その3



 
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