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中村修平のテーロスドラフト考察その1 
 
text by Nakamura Shuhei

 初めまして、まずは自己紹介から始めましょうか、
 私は「ぷろぷれいやー」なる謎の職業を営んでいる中村修平と言います。
はい、謎です。自分でも何をもってプロと名乗っているかと問われると返答に窮してしまいます。

 とりあえずはそこそこ長くやっていて、そこそこ勝たせて貰っているからでしょうか、
 まあ好きこそものの…というやつをちょっとこじらせてしまった人。みたいなので概ね間違ってはいないかと。

 今回はそんな感じのちょっとした縁でBIGMAGICさんで記事を書かせて貰うことになりました、どうぞよろしくお願いします。




 さて記事についてですが、

 内容はテーロスドラフト。

 ただでさえ狭いリミテッドというパイから、そのまた更に分け入ったドラフトという種目の、一種攻略記事とでも言ってしまえば良いでしょうか。
 ニッチ中のニッチですね。


 しかもこの分野、だいたい3~4か月周期で新しいセットが発売されて環境そのものも全く新しいものになってしまうのです。


 つまりたった3か月程度でこの記事の賞味期限は過ぎてしまう

 じゃあなぜそんなものを?
と書いてて自分自身で思ってしまうのですが一方でだからこそ、かなとも思います。ほんの僅かな期間であるからこそ素晴らしい。

 限られた時間の中で誰よりも早く及第点にまでたどり着けるか、300枚程度の限られたほんの僅かなカード達から、どういう組み合わせが最強なのか。

 そこから先にも更に道は続いています。

 皆が及第点にまでたどり着いた時、そこから先に更なる頂があるのか。個人的にはある時の方が少ない印象ですね。

 でも見つからなくても放っておけば次のセットが発売されてまたリセットされるのです。挑戦して見つかればよし、見つからなくてもその内新しい道が用意される。

 こうして休む間もないドラフトという無間地獄に人はハマっていくのです。


 今回の記事は私流の及第点までへの到達ガイドのようなものです。

ある程度ドラフトについて解っている方を念頭において書いていくのでドラフトについての定石については特に説明はしません。それが解っているという上で話を進めていきます。

 またテーロスドラフトについてもはや極めた、という方については当たり前の内容ともいえるのでやはりお勧めしません。具体的にはキングオブドラフトなあの人とかですね。

 と、どうも私は前口上が長くなってしまいがちです。
 そろそろ本題に入る事にしましょうか



・まずは

 これを見て貰いましょう。
ザ・リスト、フランク・カースティンのテーロスドラフト点数表です。

他人の記事をそのまんま使うのは基本的にはご法度ですが4分の1くらいは私も手伝っているのでカースティンもそれくらいは許してくれるはず。


Frank Analysis – A Pick Order List for Theros Draft
By Frank Karsten(外部リンク)





 もちろん私の優先順位と細かなところでは色々と差があります。
例えば《恩寵の重装歩兵/Favored Hoplite》が低すぎるだとか。
  試練シリーズも総じて低い。それに《モーギスの匪賊/Mogis's Marauder》と《神々の憤怒/Anger of the Gods》は高すぎる。

 あと基本的にこういったリストが完全に機能できるのはp1p1、パック1ピック1に限られていると思うので初手を賭けるリスクとリターンという意味では神シリーズはもうちょっと点数高くしてもよいなどなどなど


 ですが大筋では私が考えているものと変わりません。
環境で強いコモンを順番にランク付けていくと

《雨雲のナイアード/Nimbus Naiad》、《天馬の乗り手/Wingsteed Rider》、《アスフォデルの灰色商人/Gray Merchant of Asphodel》のトップ3に《航海の終わり/Voyage's End》、《稲妻の一撃/Lightning Strike》、《捕海/Griptide》、《旅するサテュロス/Voyaging Satyr》、《葉冠のドライアド/Leafcrown Dryad》、そして《ネシアンのアスプ/Nessian Asp》といった順番。

 ここまでが私が初手で取ってまあ良いだろうといえるラインですね。

 試練シリーズは上位の青と赤、ちょっと離れますが色的な補正が加わる白までがこの初手クラスリストのすぐ下といったところ。

 アンコモンに話を伸ばすと使者の位置もだいたい同じです。
 白が一番強くて、青と黒がこの位置。緑はアスプの方が優先するかな。



環境コモンランキング


環境トップ3

《雨雲のナイアード/Nimbus Naiad》
《天馬の乗り手/Wingsteed Rider》
《アスフォデルの灰色商人/Gray Merchant of Asphodel》




4位~10位


4位《航海の終わり/Voyage's End》
5位《稲妻の一撃/Lightning Strike》
6位《捕海/Griptide》
7位《旅するサテュロス/Voyaging Satyr》
8位《葉冠のドライアド/Leafcrown Dryad》
9位《ネシアンのアスプ/Nessian Asp》



----------ここまで初手ライン---------------


次点

《パーフォロスの試練/Ordeal of Purphoros》
《タッサの試練/Ordeal of Thassa》




《ヘリオッドの試練/Ordeal of Heliod》


 これが私のp1p1での優先順位です。

 なぜこういうランク付けになるのか、それを環境の説明、同じカテゴリー内での優越などを交えながら説明していきたいと思います。




・環境の軸その1

 とあるところでも書いているのですが、この環境の軸となるのは「大型クリーチャー」です。

 セット全体を見渡しても大型クリーチャーが暴れやすいように目につきやすいところ、つきづらいところで色々と手が加えられています。

 例えば環境にタッパーや《平和な心/Pacifism》が無いのはたった1枚とほんの少しのマナで大量のリソースを消費して作った置物にさせないようにしているから。

 大量のリソースという意味で占術も大きなクリーチャーをサポートするためにあります。リミテッド戦で高コストのカードが嫌われるのはそこへと辿りつく為に土地を適度に、多すぎず少なすぎずで引かないといけないからです。

 もちろん大抵の場合で現実はそう上手くいかずに多くの場合で高コストのカードは入れ過ぎるとデッキにならないという教訓を得る事になります。

 そこを占術は不要な土地、あるいは不必要な呪文のドローを省く事によりデッキの廻りを一定に整えるのです。


 では肝心の大きなクリーチャーをいかに用意するか、
最も簡単なのは怪物的クリーチャーへの道です。


《ネシアンのアスプ/Nessian Asp》を見て下さい。



  強いです大きいです。怪物的になるともっともっと強いです大きいです。

 コモンで自力だけで8/9にまでなるというのは3、4年程前にエルドラージが大暴れしてたセットというのがありましたが、その時ですらコモンは8/8くらいでした。

 そんなカードが5マナで、しかも通常状態で4/5到達持ちなんです。

 歴代最強のコモン蜘蛛とかいうレベルを通りこして歴代でも最強クラスの緑コモン5マナ圏では…

 と、アスプを褒め称えようと延々と続けられそうなのでこのくらいにするとしてここが怪物的というシステムでデッキを組む際の基準点。軸となる要素を1枚で体現しちゃっているのです。

 もしこの環境のコモンのみで最強のドラフトデッキは何かというお題でデッキを募集すると確実に

《ネシアンのアスプ/Nessian Asp》×5とあと全部除去。

みたいなデッキが有力候補に上がってくるでしょうね。


 ※筆者注
怪物クリーチャーで基準となるのは《ネシアンのアスプ/Nessian Asp》。
アスプと同等以上のスペックがあれば怪物としては合格。例:《定命の者の宿敵/Nemesis of Mortals》
 《不機嫌なサイクロプス/Ill-Tempered Cyclops》は怪物後のスペックは充分脅威だが、通常の性能は極めて普通のクリーチャー。別として考えるべき





 加えてアスプの4/5到達というサイズはクリーチャー戦となる リミテッド、
特にドラフトにおいてはもう一つ大きな意味を持ちます。

 それはほとんどのビートダウンの基本戦略にとって、
中盤以降のサイズ負けを飛行で差しきるというゲームプランにとってアスプは超えなければならない壁でもあるからです。

 構築フォーマットではまずビートダウンが存在して、
それを倒す為のコントロールデッキという順序でメタゲームが形成されますが

 リミテッドでは得てしてこういう、まず遅いデッキ側が繰り出すゲームを決めるカードと、それを倒すためのより早い戦略という逆の形でのメタゲームが進行されるのです。





・では大きなクリーチャーの対抗軸としてどうやって大きなクリーチャーをさばくのか。
 大きいクリーチャー推しなのは分かりました。ですがただ大きいクリーチャーを出せれば勝てる。
 先に大きくしたもの勝ちの先手ゲー万歳、と言うほどにはR&Dもアバウトには作っていません。

 まずは誰にでも思いつくドラフトの基本といえば除去でしょうね。

 どんなクリーチャーも殺してしまえば問題なし、ということで私のコモン/アンコモンでの除去ランキングはこんな感じです。


コモン/アンコモン除去ランキング

1位《海神の復讐/Sea God's Revenge》
2位《航海の終わり/Voyage's End》
3位《マグマの噴流/Magma Jet》
4位《稲妻の一撃/Lightning Strike》
5位《捕海/Griptide》
6位《食餌の時間/Time to Feed》
7位《神聖なる評決/Divine Verdict》
8位《一口の草毒/Sip of Hemlock》
9位《鞭の一振り/Lash of the Whip》
10位《ファリカの療法/Pharika's Cure》
11位《今わの際/Last Breath》
12位《パーフォロスの激怒/Rage of Purphoros》
13位《火花の衝撃/Spark Jolt》


 デッキに入れたいカードとしての限界は《今わの際/Last Breath》を1枚まで、それより下はメインには入れたくないか、何か特別な理由があれば。といったところ。


 そして残念ながら割とR&Dはアバウトに作っていました。
 アンコモンまで含めてこの程度というのはちょっと少なすぎると思いませんか?

 端的に言ってしまえば私は大きなクリーチャーを除去によって解決するのは諦めています。
 この環境で本当に殺したいカードを的確に殺すにはあまりに信頼できる除去が少なすぎるのです。


私が除去に求めている役割は

①こちらが攻勢に出て相手を倒しきるまでの時間稼ぎ
②あるいはこちらが守勢の時の大きなクリーチャーを出すまでの時間稼ぎ


のどちらかが主となります。

 バウンス呪文の評価が高いのはどちらの時間稼ぎにも有効に活用できるから。
 《マグマの噴流/Magma Jet》と《稲妻の一撃/Lightning Strike》の順位付けに関しては火力で本命を倒すことは諦めて序盤のクリーチャー処理として割り切った場合、占術が付いている方が高いから。

 この環境で唯一例外的に除去らしい除去として扱えるのは《神聖なる評決/Divine Verdict》だけですね。
 ちょっと振りが大きすぎるのが難点ですが信頼できるカード、白で最も過小評価されているカードです。



 そういえば除去の代名詞。
《破滅の刃/Doom Blade》系の除去がコモンにもあるにはありましたね。
《一口の草毒/Sip of Hemlock》


 これがなぜここまで評価が低いかというと、求めている品質はクリアしているのですが、いささか重すぎるからです。

 定石として対処するべきカードより重いコストをかけるというのはいただけませんし、そもそもな話として6マナのカードが沢山入っているデッキというのはあまり使いたくない。先ほどの重いカード満載のデッキの話です。

 6マナもかけるのであれば撃てばだいたいゲームに勝てるような《海神の復讐/Sea God's Revenge》こそが優先的に入るべきです。

  後で取り過ぎたと後悔するくらいならそもそも早く取らなければ良いのです。


 そしてもう一点、この環境の除去の役割を考えた結果として通常の環境に比べて評価を落としてしまうカードが
《鞭の一振り/Lash of the Whip》と《パーフォロスの激怒/Rage of Purphoros》ですね。

 一振りは辛うじてコンバットトリックとして使えるから良いですが、激怒はどうしようもないです。カードが足りない時以外は占術で何かボーナスがあるか《死の国の歩哨/Sentry of the Underworld》をたくさん見た時くらいしか入れたくありませんね。


 お手軽簡単な怪物。そして時間を稼ぐための除去という組み合わせを求めるとこんなデッキになります。


高橋優太
GP香港ドラフト1・3-0
17land
9《森/Forest》
8《島/Island》

16creature
1《菅草の蠍/Sedge Scorpion》
1《旅するサテュロス/Voyaging Satyr》
2《蒸気の精/Vaporkin》
2《ネシアンの狩猟者/Nessian Courser》
1《彼方の工作員/Agent of Horizons》
1《波濤砕きのトリトン/Wavecrash Triton》
1《トリトンの財宝狩り/Triton Fortune Hunter》
1《信条の戦士/Staunch-Hearted Warrior》
2《ネシアンのアスプ/Nessian Asp》
1《海檻の怪物/Sealock Monster》
2《地平の識者/Horizon Scholar》
1《巨体の狐/Vulpine Goliath》

7spell
2《無効/Annul》
1《戦士の教訓/Warriors’ Lesson》
1《航海の終わり/Voyage’s End》
1《蛮族の血気/Savage Surge》
2《残忍な発動/Feral Invocation》
 ちょっと3-0デッキというには弱い気がしますが、世の中にはもっと弱い謎の青緑3-0デッキなんかもあるので気にしない方向で。

 序盤からクリーチャーを展開していきつつ、最終的には大きなクリーチャーで圧倒するといったゲームプランのデッキ。

 コモンが中心になるドラフト戦での怪物的デッキは緑が主で離されて赤。
なので緑青、緑黒、緑赤といった組み合わせになりやすいです。

 緑赤の怪物は赤の除去から怪物へとつなげる形、
緑黒はマルチカラークリーチャーと墓地回収といった強みがありますがあまりお勧めはできませんね。
 前者は除去の点数が高すぎて組みづらく、後者は動きが環境に対して遅くなりがち。

 逆に青緑は組みやすさ、強さともに積極的に狙いに行きたい組み合わせですね。
 怪物的をコンセプトにデッキを組むとこういう形になりますが、
青緑の場合は強いデッキのひな形が何種類もあるのが大きな強みです。

 まあ、例えばこんな環境のコンセプトを全部無視して、飛行+壁という基本セオリーのみで誤魔化したデッキでも3-0できるのですから。

中村修平
グランプリ香港決勝ドラフト・3-0(優勝)
17land
7 《森/Forest》
8 《島/Island》
1 《山/Mountain》
1 《未知の岸/Unknown Shores》

15creature
1 《彼方の工作員/Agent of Horizons》
1 《海岸線のキマイラ/Coastline Chimera》
2 《はじけるトリトン/Crackling Triton》
1 《メレティスの守護者/Guardians of Meletis》
1 《地平線のキマイラ/Horizon Chimera》
2 《葉冠のドライアド/Leafcrown Dryad》
1 《フィーリーズ団のケンタウルス/Pheres-Band Centaurs》
3 《先見のキマイラ/Prescient Chimera》
1 《菅草の蠍/Sedge Scorpion》
1 《旅するサテュロス/Voyaging Satyr》
1 《波濤砕きのトリトン/Wavecrash Triton》

8spell

2 《残忍な発動/Feral Invocation》
1 《捕海/Griptide》
1 《稲妻の一撃/Lightning Strike》
1 《ナイレアの存在/Nylea's Presence》
1 《阻まれた希望/Stymied Hopes》
1 《トリトンの戦術/Triton Tactics》
1 《航海の終わり/Voyage's End》
18sideboard
1 《悪意の幻霊/Baleful Eidolon》
1 《落岩/Boulderfall》
1 《水跳ねの海馬/Breaching Hippocamp》
1 《洞窟のランパード/Cavern Lampad》
1 《ヘリオッドの選抜/Chosen by Heliod》
1 《破砕/Demolish》
1 《ヘリオッドの福音者/Evangel of Heliod》
1 《予記された運命/Fate Foretold》
1 《悪魔の皮のミノタウルス/Felhide Minotaur》
1 《反論/Gainsay》
2 《ケイラメトラの侍祭/Karametra's Acolyte》
1 《迷宮での迷子/Lost in a Labyrinth》
1 《蘇りし者の行進/March of the Returned》
1 《死の国からの救出/Rescue from the Underworld》
1 《難破船の歌い手/Shipwreck Singer》
1 《ヘリオッドの槍/Spear of Heliod》
1 《鋤引きの雄牛/Yoked Ox》
 さて、ここまでは環境の一方の雄、怪物的クリーチャーをメインに話を進めてきましたが…

 ただアスプを入れれば良いというのであれば記事にするまでもないですし、何よりも品がなさすぎますね。

 しかもなんでそんなに素晴らしいクリーチャーであるところのアスプがギリギリ初手クラス程度。
同じ緑という枠内で《旅するサテュロス/Voyaging Satyr》はわかるにしても
《葉冠のドライアド/Leafcrown Dryad》にすら席を譲って3番手でしかないんだ?



 はい、そのとおりです

 という事で第二の大きなクリーチャー製造方法。次回は英雄的への道と続く訳です。
 こちらの方はアスプみたいにお手軽簡単という訳にはいきません。

 英雄的が付いてるカードはほんの一部のぶっ壊れを除けば極めて普通のスペック。2マナ2/2であったり、それに1マナ増えると飛行が付いてるであったりする極めてリミテッドっぽいサイズ。

 これを色々な手管を使って大きくしていってようやく怪物的な生物と肩を並べられる。
 その為にはどのような方法があるのか、ようやく記事っぽい玄人風な要素が出てくる訳です。




 それでは次回、私流の英雄の作り方といきましょうか。


 
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