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Card of the Day
 
2015年7月9日(木)

「荒れ野の本質」

今週は「カラフル・ウィーク」をお届けしている当コラム。皆さんがカラフルと聞いてまず思い浮かべるマジックのアーティストって誰だろうか?おそらくもっとも票を集めるのはTerese Nielsenじゃなかろうか。彼女の描くファンタジー世界は、キラキラした何かに満たされているのが特徴だ。

全てが色とりどりの光で輝いている、独自のファンタジー世界に心を奪われたファンは数知れず。今回は赤と緑が目にも鮮やかな《荒れ野の本質》をご紹介。このイラストはカードからだけでなく、WotC公式にも壁紙サイズのものが上がっているので是非大きなイラストでも確認して欲しい。

おでこにカエデの紅葉をつけているのがなんとも素敵な、クリスマスカラーな森の神様的ルックスであるが…父親のように優しげで、同時に得も言われぬ威圧感を放っている。その性能を見てみよう。

 《荒れ野の本質》は、暗黒に満ちた中世ヨーロッパ風の世界が舞台の『イニストラード』の神話レア。6マナ6/6と、かのタイタン達と同等のサイズを誇るが、彼らのように戦闘に関する能力は持っていない。

その能力は、後続のバックアップ…と言って良いのだろうか、なんとも独自の能力過ぎて従来のジャンルに分別できないというのが正直なところだが…自身が戦場に出てから、後に続くクリーチャーを全て己のコピーにしてしまう、という能力だ。一言、「強烈」。強いとか弱いとかのレベルで論じる前に、めちゃくちゃ強烈。皆自分にしてしまうって、あんたエゴ強すぎるよ荒れ野様。

「荒れ野の奥に行き過ぎると、荒れ野がお前をさらっていく。」
このフレイバーテキストからわかる通り、さらって自身の分身に造り替えてしまうのだ。自然の化身的存在あるあるだが、なんと恐ろしい能力か。

 リミテッドではなかなか強力な1枚。後続のクリーチャーが何であれ全て6/6になるというのは悪くない、むしろ強かったりする。《深夜の出没》みたいなトークンを生み出すカードとの相性は特筆すべきもの。

僕は一度《蜘蛛の発生》から6/6を6体並べられてミンチにされた経験があるので、このカードには必要以上の恐怖心を抱いている、ということを除いても、どんなカードでも6/6になるという状況は素晴らしい。

 構築では…タイミングが悪かった、そんな気がしないでもない。緑のトリプルシンボルということで、信心デッキとの相性は良さそうである。後半不要なマナクリーチャーや《炎樹族の使者》のような軽くて信心を稼ぐカードが6/6という戦力になるのは悪くなさそうで…コピーになった連中もトリプルシンボルを受け継ぐので、《ニクスの神殿、ニクソス》でガツンとマナを増やして、そのマナで《狩猟の神、ナイレア》でパンプしまくって…トランプルもナイレア様から貰えるし、面白い!惜しむらくは『テーロス』の登場と共にスタンダードを去ったこと。

さすがにモダン環境でわざわざやるような動きでもないしなぁと。デッキビルダー達が荒れ野の奥に踏み入るのを、今か今かと待ち続けているのかもしれない。


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2015/7/8 「彩色の灯篭」



一色で我慢しなさい。マジックプレイヤーにこう説き伏せようとしても、なかなかに難しい。勿論、単色至上主義な方々もいらっしゃるが、それと同数の5色ラバーズがいて、そして大多数のプレイヤーは2,3色デッキが好き、そんな風に見える。

新旧ラヴニカ・ブロックやアラーラ・ブロック、『タルキール覇王譚』、もっと遡ってインベイジョン・ブロック…皆、多色が好きなのだ。

こんな僕らに対して「簡単には使わせないよ?」「ほら、待望のマナサポートさ」と飴と鞭を取り混ぜた環境を創り上げる開発陣はやり手だ。多色化が厳し過ぎてもデッキの多様性がなくつまらないし、かと言ってなんでもありになってしまうとそれはそれでマジックには何のために色が5色あるのかという話になる。

一色で我慢出来ないプレイヤーを優しく照らす光が射したのは『ラヴニカへの回帰』でのこと。《彩色の灯篭》は、これまで登場した5色マナを生み出すカードの中でも最も効果範囲が広くその恩恵が大きいカードである、と言っても良いだろう。

3マナで好きな色マナ1つを生み出すアーティファクト、《マナリス》相当の能力を持ち、これに加えて全ての土地にも自身と同じ能力を付与する。全ての土地が、5色土地となるのだ。

しかもデメリットなし。ここが凄い。全ての土地が実質5色土地になる《虹色の前兆》というカードが既に登場していたが、それが無色になり1マナ追加するだけで自身もマナを生み出すようになる…ちょっとした革命ではないかこれは。

《極楽鳥》を初めとするマナクリーチャーと土地サーチカードを擁する緑が、これまでの5色デッキの中核を担っていたが…このカードが登場したことで、特に緑じゃなくても割と簡単に5色デッキを運用できる!

特にリミテッドで、マナサポートを苦手とする色…というか緑以外の色を中心でデッキを組む際に、このカードは非常に重宝する。青白のデッキで、でも赤の除去と黒のボム使いたい…みたいなおねだりを1枚で叶えてくれるのだからもはや崇拝の対象と見ても良いレベルだ。

実際に僕も、『ドラゴンの迷路』参入後のリミテッドのGPでこれを引いて、プールにあったレアを全部ぶち込んだ(どれも強力無比なものだった)デッキを作ったものだ(気持ちよく3-0して、そこからコロコロっと負けた)。

英語名ではLantern、即ち「ランタン」であり、日本語名の「灯籠」が今一つピンとこない…かもしれない。



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2015/7/7 「ウーナの寵愛」


本日は七夕。さあ、空は晴れているか。晴れていてほしいね。「カラフル・ウィーク」で七夕、ということで本日はそれっぽい1枚《ウーナの寵愛》。なんとなく七夕っぽいでしょ、夜に美しき女性に色鮮やかな葉っぱ(笹の葉サラサラ的な)…幻想的で、大変美しいイラストであるがそれもそのはず、皆大好きRebecca Guay作品。

彼女の熱烈なファンでなくても、『イーブンタイド』のパックを剥いていて「お、綺麗なコモンがあるな」と思った方は少なくないはずだ。

カードとしては『イーブンタイド』にて登場した“回顧”というギミックを搭載した1枚。3マナインスタントで1ドローと、これだけでは《熟慮》のフラッシュバック部分と同じという非常に効率の悪いドローで、しかも1枚使って1枚引くだけなので一般的な“サイクリング”能力よりも劣ると、相当弱い呪文だ。

同じコモンの《目録》も手札は増えないが2枚引いて1枚捨てるという面で、まだ掘り進むことが出来ている。

ここまでこき下ろしたが、これは前述した“回顧”を褒めるための前フリだと思って欲しい。そのカードが墓地にある時に、マナコストやその他コストに追加して手札から土地を捨てることで、墓地から唱えることが出来るインスタントとソーサリー群。これが回顧持ちだ。

その名の通り、何度も何度も思い出しちゃって唱えちゃってOK!その代わり1度きりの呪文として見た場合、まあまあ弱い。そういった呪文群の青のコモンが、この割高サイクリングなのだ。

この能力、マスクス・ブロックのリミテッドで輝いていたスペルシェイパーの系譜だと個人的には思っている。手札の不要牌=余剰の土地を呪文に交換していける、土地を引きすぎるお友達もこれで安心。

元々回顧は、土地でなく色が合うカードを回顧持ち呪文のコピーとして唱えられる能力として作っていたようだが、恐らくそれはとてつもなくややこしいものだったのだろう。

後半引いた土地を3マナで別のカードに変換できるインスタント、と聞くと、先ほどより印象は大きく変わる。デッキに複数搭載することはしんどいが、1,2枚程度長期戦を見据えて搭載するのは悪くないだろう。

上手く機能すれば軽い《ミューズの囁き》のような…いやそれは言い過ぎか。まあPauper(コモン限定構築)の青単パーミッションなんかで使えばいい仕事をしてくれるんじゃないかな。ウーナ様への忠誠を示せば、彼女の夢を分け与えていただけるかもしれないね。



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2015/7/6 「極楽のマントル」



雨の季節が終わった…かな、もうボチボチ終わっていただきたい。とりあえず7月ということで、ここでは終わったことにしよう。毎年七夕の夜は雨が降っているような気もしなくもないが…。七夕で思い出したが、今でも幼稚園・保育園の子ども達がかわいい七夕飾りを作るという行事、行われているのだろうか。かつては僕も笹に自分が作ったカラフルな飾りをつけるのが毎年の楽しみだった_そして、皆で作ったそれらが園の入り口付近に飾られると、それはもう様々な色の洪水とでも言おうか、とにかくそういうのを見るのが好きだった。また、この時期は虹や夕焼けも綺麗なものだ。よし、今週は「カラフル・ウィーク」これで決まりだ。

何をするかというと別に特別な物でもなく、カラフルなイラストのカードを紹介して行くだけの話。先頭バッターは《極楽のマントル》、ご覧の通り極彩色の葉や羽毛のようなもので作られた装備品だ。マジックで言う「極楽」というのはあるものを指すキーワード…そう、《極楽鳥》だ。5色のマナを生み出すこの鳥を想起させる単語、そして色とりどりの羽毛らしきもの…ここから安易にイメージできる、クリーチャーを「極楽鳥化」させる装備品だろう、という読みは全くもってその通り。

これ自身は0マナ、1マナ支払ってクリーチャーに装備させ、これを装備したクリーチャーは好きな色のマナを生み出すタップ能力を得る。戦闘に関する能力は何一つ得られず、ただそれだけである。つまりは装備品としてはカウントしない方が良い。これはクリーチャーを必要とするマナ加速アーティファクトなのだ。そう考えると《バネ葉の太鼓》によく似ている。バネ葉との大きな違いは、クリーチャーが召喚酔い状態だと使用できないこと。このため、1ターン目に《メムナイト》などの0マナクリーチャーからマナを生み出して更なる展開、ということが出来ない。故に能力自体は似ているのに「親和」に採用されることはない。

しかしだからと言って、このカードが劣るという訳では全くない。装備品でありクリーチャーの能力でマナを出すという点が生きることケースもあるのだ。例えば、“警戒”を持つクリーチャーはこれを装備して攻撃しながらマナを出すことが出来る。アーティファクトの起動型能力を封じられても、これはクリーチャーに能力を与えているのでマナを生み出すことが出来る(勿論、先に装備させておく必要はあるので後出しの場合は泣こう)。中でも、クリーチャーをアンタップすれば再度マナを生み出すことが出来る点は特筆すべきものだ。《膨れコイルの奇魔》との組み合わせは、ひたすら軽いキャントリップ(1ドロー付き)呪文を連打することを可能にする。これを利用したデッキも登場しており、後になってから評価されたカードの典型例である。



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2015/7/4 「静刃の鬼」




「サイレント・ウィーク」もこれにて幕引き。トリを飾るは、Silentをその名に冠するカードの中で個人的に最高にカッコイイと思っている《静刃の鬼》を。英名、《Silent-Blade Oni》。たまらんでしょうこれは…鬼で忍者ってね、日本人じゃ思いつかないジャパニーズワールドを生み出してくれたセンスに感謝したい。その忍者装束もクール極まりないもので、忍者って良いなぁ…って。ちょっとモータルコンバットっぽいのがまた良い。

 カードとしては、クリーチャータイプがデーモン・忍者とこの時点で優勝なのだが、まあ冷静に見ていこう。忍者ということは、“忍術”を持っている。この鬼の場合、素出しすれば青青黒黒を要求する7マナだが、忍術で戦場に出す場合は青黒の6マナと、ほんの少しではあるが出しやすさが変化する。まあ忍術の真の目的というのはそこではなく、肝心なのは奇襲性。なんでもないクリーチャーの攻撃を許しブロックをしなかった場合、これがドロンと化けていきなり6/5に。予想外のダメージが叩き込まれる、これはこれで価値があるか、これまた真価はそこじゃない。マジックの忍者たちは、戦闘ダメージを与えることで誘発する能力、かつて“サボタージュ能力”と呼ばれたものを持っている。最も使われた《深き刻の忍者》以外にも、個性的な能力を持った面々がいるのだ。最新の忍者であるサイレントブレードさんが持つその能力は、ダメージを与えたプレイヤーの手札から、好きな呪文を唱えても良いというもの。しかもマナの支払いは不要だ。これ、相手の手札が1枚減りながらこちらは1枚分得しているわけで、実に青黒らしい能力である。この能力で奪った呪文が強力であればあるほど美味しい思いが出来る。《時を越えた探索》とか見えるとウハウハだし、何かの間違いで《エメリアの盾、イオナ》や《全知》、《引き裂かれし永劫、エムラクール》なんかが飛び出した暁にはゲーム終了。

 故に、このオニが狙う獲物は、重くて強力なカードを抱えるタイプの相手に限られてくる。それも、クリーチャーに対応するのが苦手であればあるほど良い。「Omnitell」なんかを相手取って狙い撃ちしてみたいものだ。このカードのポテンシャルを思いっきり堪能したい、骨までしゃぶりつくしたいという方には《精神破壊者、ネクサル》をジェネラルに据えた統率者戦での使用をオススメする。相手の手札に強力なカードがなければ生きてこない能力であるが故に、ネクサルや《吠えたける鉱山》でゴリゴリにドローさせてしまえば良い。手札をしこたま抱えた相手に飛び込めば、そこにはオイシイ何かがあるはずだ。相手にアドバンテージを与えてしまうネクサルを、忍術で一端引込めることも出来て相性は良い。というより、その2体が並んでいる図を見たいという、それだけの理由に他ならない。

 イラストの鳥伏間…と呼んでいいのかわからないが、屋根の装飾品から立ち上る青い霊気を、個人的にリスポーン地点と呼んでいる。マジでどうでもいい。超カッコイイ1枚の紹介でした。



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2015/7/3 「静寂宣告」




「皆が静かになるまでに5分かかりました」って言われた経験、ないだろうか。主に校長先生がね、朝礼でね。全校生徒が多ければ多いほど、この時間は長くなるだろう。いつも心の中で「こんな嫌味を言われるから僕らは静かにならんのや!おもろい話したら黙って聞くがな!」なんて生意気なことを思っていたものだ。

今思えば、校長先生は何故、待っていたのだろうか。あれは待つという、優しさだったんだろうか。力でねじ伏せても意味はない、と僕らに教えようとしてくれていたのだろうか。個人的には、時にはガツンと暗黒面を見せるような先生でも良いと思う。「静かにせんかァァァッッ!」

…これが良いか悪いかは別として、マジックには強制的に黙らせるカードというものが確かに存在する。

 《静寂宣告》もそうした呪文の1つである。名前がね、もう強い。アゾリウス評議会ってのはラヴニカの青白ギルド、法を作成し秩序を維持することを目的としているが、僕から見れば結構怖い人たちで…。

自身が作成した法を振りかざしてくるなんて、恐ろしいったらありゃしない。静かに片田舎で暮らしていたら「違法や違法!」ってそりゃないよな…。そんなアゾリウスが秩序のために執行する魔法がこの《静寂宣告》。フレイバーを読むに、呪文を押収することでそれを唱えられなくするというメカニズムのようだ。

カードとしても、呪文を唱えられなくするもので。しかしそれはサブプランとでも言おうか、メインの効果は呪文の打消しである。カウンター+αなカードの常として、副次作用を得るにはそもそも相手が動いてくる必要があり、自分のタイミングで唱えられないのが難点だったりする。

このカードの場合、そのオマケの部分はこのターン、対戦相手は呪文を唱えられなくなるというもの。これは古くより、自身のターンに用いてコンボの邪魔を未然に防いだり、連打することでロック状態に持ち込むといった能動的なアクションとして用いられてきた。それらと比べると、相手の呪文をカウンターしてから得られるこの効果は、その旨味をフルに活かせるわけではない。

攻めの能力を守りで用いている訳だ。相手の後続を1ターン完全に防ぐ、というのは悪くはないが、そこまで素晴らしい訳でもない。そもそも、相手が1ターンに何度もアクションしてくるデッキでなかった場合はこれは使いにくい《取り消し》に過ぎない。

 むしろこのカウンターは、先にあげた同様の効果を持つ攻めのカード達に対して非常に効果的だ。《沈黙》なんかはこれが通ればコンボが決まる、通らなくてもカウンターを1枚使わせるおとりになる、という点で強力なのだが、この呪文でそれらのおとりを打ち消せば、本命もろとも抑え込むことが出来るという塩梅。目には目を、静寂には静寂を。



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2015/7/2 「音無しの暗殺者」




サイレントに価値を見出す__ミュージシャンは音を生み出すことで人を喜ばせ、それを生業としている。その真逆、無音であることを売りにする職業なんてあるのだろうか?…個人的には、現実世界ではあってほしくないと思う職業だが、思い当たるものがある。暗殺者、殺し屋だ。

果たして、現実世界に殺し屋稼業を営んでいる者などいるのだろうか。願わくば、いないことを願うが…不思議なもので、創作世界に登場するそれはカッコ良く描かれていたりして…まあ、ともかく。

暗殺を行う者にとって、肝心要なのは自身が暗殺を行ったという事実がその場で露呈しない事。正面からズカズカつっこんでターゲット殺害完了、なんてそれはもう暗殺とは呼べないし自分も無事で済むはずがない。夜中、一人になったのを見計らってターゲットの自室に潜入。そこでターゲットにみつかり、大騒ぎされて…なんてのは論外。殺し屋は、音もなく殺す。《音無しの暗殺者》も、メルカディアに住まうそんな稼業を営む者の一人だ。

2マナ2/1と、クリーチャーとしてこれだけはあってほしいというサイズはクリア。ダブルシンボルなのでタフネスも2にしてほしいところだが、1/2よりは2/1の方が有難いのでそこは気にせず。こういうクリーチャーにはレアであるが所以の能力を期待したいが…音無しさんの場合、それはなかなかにレアの能力だ。

ブロックしているクリーチャー1体を対象とし、それを戦闘終了時に破壊する、という、恒久的に使える除去マシーン。これは、除去能力として相手のクリーチャーをバンバン撃ち抜いていく、というよりは、この能力がちらつくせいで不用意なブロックが出来ない、という状況を作り出す。そんなカードだ。

これは、攻撃クリーチャーに接死を付与する能力、と見ることも出来る。4マナでサイズの差もなく確実に相討ちになる。なんだったら、再生や破壊不能を持っていたりすれば、そのクリーチャーを対戦相手がブロックするということはないだろう。

何もせずとも立っているだけで仕事を成し遂げる名暗殺者…いや、暗殺者はターゲットを始末しなきゃ仕事にならないな。このカードの弱点はそこで、ただ突っ立っているだけの2/1となってしまいかねないという部分。特に守勢の時は、他の暗殺者連中に顔向けできないお荷物と化してしまう。

クリーチャータイプは、初出は傭兵。そこからながらくは傭兵一本でやっていたが、2007年に人間のタイプを得ると同時に、本来持っているべきだった暗殺者のタイプも得ることに。傭兵であるという点を活かして、《カテラン組合の粗暴者》あたりからサーチしてこれるのが強みである。個人的に傭兵は好きな部族なので、もっと増えて欲しいものだ。



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2015/7/1 「静かな旅立ち」



家が静かすぎると、怖いと感じませんかね。僕は何かしらの微かなサウンドがあったりする方が落ち着くというか…多分、完全な無音の空間っていうのはなかなかないと思う。そういう場面にたまたま出くわすと、五感が1つ機能していないわけだから不安になるのも当然…かもしれない。ホラー映画、ホラーゲームで、広間みたいな場所にスッと出てBGMピタっと止まってサイレントになった時のゾクゾク感はたまらない。演出家の思うツボだが、くるものはくるからしょうがない。その後のBGMがまた恐怖を倍加させたりする。ホラーにとってサイレントは的確に使えば最高のスパイスとなるのだ。

「サイレント・ウィーク」をお届けしているこの一週間、3枚目となるカードはコチラ《静かな旅立ち》。何故ホラーな前振りをしたかって?このカードがさり気なくホラーな1枚だからである。よく視て欲しい。カードの中央に描かれている、ぼんやりとしたもの。これ、幽霊である。洋館の広間に出て、こんな感じで幽霊が静かに佇んでいたら…恐怖極まる。これは降霊術を応用したもので、同じ手法で霊を送り返す呪文である。…まあ、帰っていただけるのであればありがたい…。

《静かな旅立ち》はその設定どおり、霊魂のみならずクリーチャーにお帰りいただく呪文である。クリーチャーを手札に戻す、所謂バウンス呪文。その最古で、最も基本的な性能を持つのが《送還》。この《静かな旅立ち》は《送還》と同じく1マナバウンスだが、ソーサリーとなっている分、本家より弱体化している。自身のターンに使って相手のクリーチャーをどかして殴る、そういった点では何も問題はないが、《送還》はインスタントであるため、相手の攻撃クリーチャーを弾く・《巨大化》などのインスタントに対応してバウンス・相手のアクションに対して自身のクリーチャーを護るのに使用…などなど応用が効くのだが、ソーサリーとあってはこれらのトリッキーな運用は出来ない。このバウンスは、緊急事態回避というよりは、ダメージレースを征するのに用いる、攻撃特化な1枚である。

リミテッドでは除去/疑似除去の枚数は文字通り限られたものであり、気軽に扱うことは出来ない。特にバウンスは、疑似除去とも言われるように撃てば脅威とおさらば、というわけではなく再度展開されてしまう。カード1枚を使って、相手側はカードが減らない…そのため、運用が難しいものだ。ただこのカードに限っては、割と何も考えずに使っちゃって問題なかった。何故なら、“フラッシュバック”という魔法の言葉が書かれているから。序盤にダメージを通すために適当に投げて、後半最後の一押しをフラッシュバックでねじ込む…かなり強いコモンで、僕もこれのおかげで『イニストラード』ドラフトを心行くまで楽しむことが出来たものだ。特に同環境では、“変身”クリーチャーやトークンなど、そのバウンス先に困ることはなかった。良い環境だったなぁ。



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2015/6/30 「沈黙の調停者」



 沈黙は金、雄弁は銀。皆さんご存知の言葉である。そもそもはイギリスの思想家トーマス・カーライルが「衣装哲学」に記した「Speech is silver, silence is golden.」を和訳したもので書籍における初出はこれとされるが、即ちこれが語源とは言い切れない。東洋には元から似たような言い回しがあって、人類全体が古来から抱いていた感覚のようだ。「当時は銀本位制で実は雄弁の方が上なんだよ」という説もあるがこれは間違い。そもそも、19世紀には銀が大量に取れ、金の価値がそれまでよりも高まっている。故に、沈黙_これはいつでも黙っているというわけではなく、黙るべき時を知っているという意味_は金なのである。

 マジックでも雄弁よりも沈黙の方が大事であると主張する1枚が存在する。《沈黙の調停者》がそれだ。調停というのは「紛争当事者双方の間に第三者が介入して紛争の解決を図ること。」であり、即ち調停者とは立会人のようなもの…という認識で良いんだろう。この調停者は沈黙を重んじる。沈黙=静かなる戦闘、攻撃にもブロックにも1体のクリーチャーしか参加できない。集団で殴りかかることや、大型クリーチャーを大軍でブロックなんてことも出来ない。静かに、1対1の攻防が行われる。

 この調停者、メインとなる使い方は集団の攻撃を防ぐことだ。ゴブリン、エルフ、マーフォーク…古より、部族デッキとは同族を並べて互いを強化し合い、集団の攻撃により圧殺するというもの。こういった部族デッキや、トークンなど軽量クリーチャーを大量展開して強化して殴るデッキに対して劇的に効く1枚なのである。《ゴブリンの群集追い》なんてコイツを前にすりゃただただ無力だ。単騎でアタックしようにも、1/5というボディが大抵のクリーチャーを受け止めてしまう。

 登場した頃よりも、現在の方がその能力の価値が高まっている。その理由は、プレインズウォーカーという存在がこのゲームに加わったことだ。複数のクリーチャーと向き合うのを不得手とする彼らをガッチリ警護する、頼もしい壁役なのだ。他のクリーチャー妨害も絡めればなおよし。

 家庭用ゲームでは、バグによりこのカードの肝心なアタッカー制限が働かずに複数のクリーチャーに殴られてしまう悲惨な仕様であった。イラストに描かれているのは、「正義をなさしめる何者か」によって作られた、感情を持ってい無さそうなロボット。スケッチ段階では、この調停者の前で1対1の決闘を行うモリオックとヴァルショク(いずれもミラディン人)の姿もあった。




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2015/6/29 「沈黙の死霊」



 雨の音。サーっという空気を裂くような音、バチバチと地面で雨粒が弾ける音。雨の季節は、音の季節だ。蛙や虫が鳴き声をあげたり、様々なサウンドが僕らを取り巻く。今頃の季節で、僕が好きな現象が1つある。様々な音を生み出す雨がピタリと止んだその瞬間、訪れる静寂。綺麗にシーンッ……と静まり返るあのタイミングが好きなんですわ。自然が生み出す沈黙・サイレント…不思議と、何もないのに満たされている感がある。というわけで、今週は「サイレント・ウィーク」。マジックにおける静けさの力を感じ取ってもらえたら…。

 今日の1枚は《沈黙の死霊》。最近、改めてマジックのスペクターってかっこいいなぁと思う次第で。初期の面々はデザインの統一が為されていないのでとりあえず置いといて、最近のスペクターにも継承されている、翼の生えた怪物に乗ったフードの人物スタイル。あれが好きで…まさしく、死神といったあの雰囲気。中二心をくすぐる、ザ・ファンタジークリーチャー。そんなスペクターの中から、サイレントというお題に合致するこのカードを紹介していこう。

 6マナ4/4飛行と、実はスペクターの中でも最大のサイズを誇る《沈黙の死霊》、イラストでも他のスペクターを圧倒するような禍々しさを放つドラゴン…あるいはドレイクに跨って杖を掲げる姿は、高い戦闘力を有していることが伝わる。ボスキャラ感のあるこのレアカードは『オンスロート』の看板メカニズム“変異”を持っている。6マナ4/4か、あるいはとりあえず3マナ2/2として運用するか。選択肢があるカードはそれだけで素晴らしい。5ターン目にパワー4の飛行が殴りに行けるのであれば、リミテッドでは十分に強力。同じく変異に溢れた『タルキール覇王譚』でも、これほどまでのスペックの1枚はなかったことを見てもそれは明らかだろう。さすがはレアといったところ。

 さて、スペクターに求められているのは戦闘ダメージを与えたことにより誘発する手札破壊能力だ。攻撃をしながら相手の反撃の目を摘む、正しく攻撃は最大の防御を体現した能力だ。この《沈黙の死霊》のそれは、驚異の2枚ハンデス。こちらの出費0で対戦相手は借金2。これは破格で、是非ともこの能力を誘発させたいところ…なのだが、6マナのクリーチャーが殴りだす頃には対戦相手の手札は消費されていて…他の軽量スペクターに比べると、重量級ならではの悩みを有する1枚なのだ。

 このカードを上手く活かしたデッキの1つが、日本で生まれた「リアニメイト」、特に「エンドレスリアニメイト」と呼ばれるものだ。《憤怒》により速攻を持った死霊を釣り上げれば、勝利は目前。ところで、カード名がなんかセガール映画みたいやね。セガール道場、何度か目にしたことあります。




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2015/6/27 「血糊の雨」



 雨は素敵なものであるとは思うが、あまり振り続けるのも鬱陶しい。「雨ウィーク」を書きだしたものの、人類に対してネガティヴな雨しか紹介していないことに気付く。最後も最後で、このカードをご紹介。《血糊の雨》。浴びたくなさすぎる。そもそも、《刃の雨》の時も書いたが、振ってきようがないものが降り注ぐ恐怖ったらないと思う。イラストも最悪の光景だ。ラクドスの悪意を総動員した魔術なのだろうが、赤黒い雲に覆われた空から血液が降り注ぐなんて、ホラー以外の何物でもない。現実にこんなことが起きて冷静でいられる人間なんて、いるのだろうか。イラストでもアゾリウス評議会の関係者達が血塗れになって発狂している様が描かれている。こんな中で、フレイバーに登場する“タイタンの樽”なる酒場の主人ベルコさんが冷静なのが面白い。ホラー映画あるある、謎に落ち着き払った太ったヒゲ親父といったところか。

 カードとしては、明確に1つのアクションをメタった、これでもかと言わんばかりな1枚。ライフを得る、という行動に対して正面からナカユビ突き立てる強烈なアンチカードだ。赤と黒、アグレッシヴ過ぎる色の組み合わせ。攻撃こそ全てである彼らが最も嫌う防御一辺倒の行為、ライフゲイン。これを全て、本来得るはずだったライフの分だけそれを失わせるという真逆の効果に置換してしまう、恐怖のエンチャント。《治癒の軟膏》がセルフ《稲妻》になってしまう。《台所の嫌がらせ屋》や《魂の管理人》はデメリット持ちだ。

 ライフを回復されて一番こたえるデッキは、やはりバーン。せっかく手札を投げつけて後1枚の射程圏内に追い込んだと思ったら《スラーグ牙》1枚で逃げられるとか、辛すぎるものだ。近年は《頭蓋割り》のようなそのターン中の回復を許さない火力も登場しているが、常にそれを構えて叩き込めるかといえばなかなか難しい。そこで、《血糊の雨》を2ターン目にセットしておけば、後は最大効率で火力呪文を使用して行けばOK。それこそ先に紹介した《魂の管理人》《魂の従者》を擁する「ソウルシスターズ」なんかにはブチ効き。白系でサイド後《コーの火歩き》をただの2/2に出来るのもありがたい。

 レガシーで活躍する《硫黄の渦》と違い、これ1枚では何も出来ない点には注意。回復対策を山盛り積んでしまったせいで手数が足りない、なんてことになったら本末転倒だ。モダンのトーナメントで使用する際には、“戦闘ダメージによる絆魂での回復”に対しては効き目がないことに要注意。戦闘ダメージよる回復は、呪文や能力によりライフが回復している訳ではないのだ。覚えておこう。




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2015/6/26 「汚物の雨」



 汚物?ちょっと、いくらなんでもハードコア過ぎないか?読んで字の如く汚い物。一体何が降り注いでいるのか考えたくもないが…ウルザ曰く「ベトベトに油っぽいよだれのようなもの」とのこと。想像するだけで、汚ったねぇぇぇぇ。ファイレクシアの禍々しさを知ることが出来る、非常にわかりやすい秀逸なフレイバーだ。

 カードとしては、これが結構面白い/独自性に溢れた1枚。《暗黒の儀式》が代表する、マナを生み出すカードの系譜に名を連ねているのだけど…カードタイプが“マナ・ソース”じゃない点に注目。このカードが収録されている『ウルザズ・サーガ』の時点ではまだ、マナを生み出すカードはマナ・ソースという独自のタイプを持っていた。この《汚物の雨》もマナを生み出すカードなのだが、そのタイプはインスタントである。これはこのカード自身がマナを増やすわけではないため。マナを生み出す能力を、あなたがコントロールするすべての土地にターン終了時まで与えるという、実にユニークな1枚なのだ。

 これを唱えれば、あなたの土地は生け贄に捧げることで黒マナを1つ生み出すという能力を得る。使い捨てにすることで、この土地1枚が2マナを生み出すようになるのだ。これ自身を唱えるのに1マナ必要だが、その1マナを捻出した土地を生け贄に捧げれば1マナ生み出すことが出来るため、ちょっとしたフリースペルのようなものだ。かつて猛威を振るった《資源の浪費》のインスタント版と言って良い。

 面白い点は、例えばそれ自身がマナ能力を持っていない土地・フェッチランドなんかをマナとして用いられる点だ。レガシーではよくライフの問題や対戦相手の妨害によりフェッチを起動できないという状況に遭遇するが、そんな状況でも最低限土地1枚分の仕事を与えられるのは悪くない。タップインの土地にも同じことが言える。

 レガシーでは「ANT」というコンボデッキで1枚挿しされていたりするシブい1枚。土地を生け贄に捧げるという問題も、そのターンの内に勝負を決めてしまうコンボデッキには関係ない。墓地を肥やせるため、同デッキに積まれている《陰謀団の儀式》のスレッショルドをサポートできるのも見逃せない。

 個人的には『ウルザズ・サーガ』スターターデッキを購入した時に封入されていた、長い付き合いになる1枚。当時は《黒死病》コントロールにこれを積んで、最後のダメ押しと10マナぐらい生み出して一気に勝負を決めたりしたのも良い思い出だ。めちゃくちゃ強い訳ではないが、なんとなく使っていて「テクいな」と感じられるのが良かった。イラストに描かれている、ファイレクシア特有の長い口吻を持った犬がカワイイ。




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2015/6/25 「Acid Rain」



 酸性雨。おそらくはほとんどのマジックプレイヤーが幼少時、工場から出る煙が原因で雨が酸性になっており深刻な環境問題を引き起こしている、という事実を学校で習ったことかと思う。あれって、今はどうなっているのだろう。各種規制やあるいは不景気により工場の稼働が減った今、前ほど騒がれなくなってるんじゃないか。そう思って調べてみた。欧米や東南アジア、中国では以前より強烈な酸性雨が降り続けている。日本も、実は欧米諸国並みの酸性雨が降ったり、大陸由来の汚染物質流入があるのだが、それが人体や生態系に影響を及ぼすには至っていない。そんな状況らしい。というか、酸性雨は何かに直ちに影響のあるものではないので、まだまだどうなるかはわからないし調査は続行しなければならないらしい。

 いきなり重いスタートになったが、マジックにもこの酸性雨を呼び起こすカードは存在する。その名もストレートに《Acid Rain》。この酸性雨、魔術で造りだすものだけあって我々の世界のそれよりもかなり強力…というか、もう酸性どころか酸そのものが降ってるんじゃないか?青のカードにして「すべての森を破壊する。」という強烈なランデスという珍しい1枚。酸、といえばマジックでは緑がその存在を担当しているイメージが強いが、この雨に関してはその緑に対して青が降らせるという、逆転現象な1枚である。とは言っても、明らかに青いカードだろという《津波》が緑のカードで、これが全ての島を破壊するものなのだから、おあいこと言うか。最近では青と緑なんてすっかり仲の良い組み合わせであるが、この頃はまだまだ対抗色に対しては敵意剥き出しが当たり前だったので、こういうお互いを全否定する1枚はザラだった。

 緑はマナクリーチャーが居たりするので、他の色よりも土地破壊への耐性がある色だと言える。それでも、いきなり森を根絶やしされればダメージは無視できない。このカードが登場した『レジェンド』当時、基本でない土地はまだほとんど存在しておらず、撃てば相手だけ《ハルマゲドン》と同義だったのだ。やっぱりこんなもの、青には過ぎたるものだ。ということで、これまで一度も再録されることなく再録禁止リスト入りし、そこから21年。未来永劫印刷されることがないと決定しているので、少しでも気になったのならば早めに購入しておこう。現行のエターナル環境では役に立たないが、世の中何があるかもう高騰するのかもうわからないわけで…。




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2015/6/24 「空民の雨刻み」



影薄部族筆頭、ムーンフォーク。神河ブロックのストーリー上重要なポジションであり、青の主要部族を任され、枚数もそれなり・固有のメカニズムを与えられた。構築でも《曇り鏡のメロク》という、一時代を築いた最強フィニッシャーや《上位の空民、エラヨウ》というユニークな人気カードを有する。しかも『アヴァシンの帰還』では《月の賢者タミヨウ》がプレインズウォーカーというマジックの主人公ポジションに選出される。割とプッシュされているのだ。…のだが、知名度は全然。神河ブロック以降、全く登場していないというのもあるが…個人的に、呼び名は「空民」なのに部族としてはムーンフォークという差異が生じているのが問題なのかなと思う。《空民の助言》なんて複数再録されているので、空民という言葉自体の認知度はかなり」あるんだと思う。ムーンフォーク、本当に影が薄い。

 ムーンフォーク共通の能力は飛行・そして、土地を手札に戻すというコストで起動する各種能力を持っている。今週は「雨ウィーク」なので、《空民の雨刻み》を紹介しよう。彼女は3マナ2/1飛行、《風のドレイク》よりやや落ちるスペックに付随する能力は自軍のクリーチャーに被覆を付与するというもの。3マナ+土地1枚というのは決して安いコストではないが、それでも除去耐性を与えるという能力はリミテッドでは貴重なもので。飛行を止められない構成のデッキ相手には、自身を延々守り続けて勝利ということもあったことだろう。コモンでこれだけ頑張れるのであれば文句をつけるのは野暮ってなもんだ。

 『神河救済』にて、手札の枚数が多ければボーナスを得られる、通称“知恵カード”が登場すると、土地を手札に戻すことで手札の枚数を任意のタイミングで増やすことが出来る空民の能力に更なる付加価値がついた。除去を避けつつ、《翁神社の夜警》がデカくなるなんてたまらない。

 フレイバー的には雨刻みという名の通り、天候・特に雨を操ることが出来るのだろう。クリーチャーと呪文の間に豪雨を降らせてシャットアウトといった感じだろうか。日本風の次元・神河の住人ということで日本人アーティスト・一徳氏がそのカードイラストを担当。彼女のみならず、この空民という種族のコンセプトアートを担当している、言わば生みの親なのだ。素敵な部族だけに、ボチボチ影薄を脱却できるような何かが…新顔登場とか、ないものかね。



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2015/6/23 「刃の雨」



マジックの世界はその名の通り、魔法の世界。何を今さら、されど今さら。大抵の現象は魔法という言葉でどうにかなってしまう…その割に、荒唐無稽な現象が頻発している訳でもない。炎を操ったり、竜巻を起こしたり。そういった魔法は、変な表現だがリアルではないか。

自然界に存在するものなので、それらを構成する元素…即ちマナを操作すれば起きうる現象だ。同じマジックでも「手品」の方のそれでは、それこそ帽子から鳩が出たりペンが2本に増えたりと、起こりえないこと・生み出しえないものを成し遂げることが多い。

 ともすれば現実の魔術よりもリアルな魔法の世界であるマジックの多元宇宙にも、時折「奇術ショー」とでも言うべき超現象を起こしているカードがある。本日の1枚、《刃の雨》もその1つ。文字通り刃が雨の如く降り注ぐ、恐ろしいこと極まりない魔法だ。

同じ雨でも、《石の雨》ならばその辺の岩石を射出するのでわからなくはない。この《刃の雨》の刃も、その辺にあるものなのだろうか?あるいは、マナの結晶体的な…いずれにせよ、見た目としては石が降ってくるよりも遥かに恐ろしい光景だろう。

《剣の壁》と言い、白は剣を創りだし宙に浮かせる魔法が得意の様だ。何を言っているかわからないと思うが、大丈夫。僕もわからない。とりあえず、思っていたよりも白の魔法は怖いという事だ。

 1マナで攻撃クリーチャー全体に1点ダメージを与える、防御専用除去呪文だ。マナの軽さとカードパワーが絶妙なバランスの1枚であり、『スカージ』以降2度再録されているあたり、デザイン側もこのカードを気に入っているのではないだろうか。白にはこういった、交戦状態のクリーチャーに対して処罰を与える除去呪文が多数存在する。

 このカード自体は、『アラビアンナイト』が初出の《砂嵐》のリメイク…というか色変更版だ。《砂嵐》は緑だったが、緑で直接ダメージを与える呪文、というのは時代が進むにつれ色の役割に合わなくなっていった。

『オンスロート』以降、色の役割が改めて定義されそれに基づいたカードが多数登場したのだ。この《刃の雨》もそんな時代の潮流を表わすカードの1つなのだ。

 攻撃クリーチャー全体にとは言え1点ダメージ程度では…とがっかりする必要はない。当時幅を利かせていたビートダウンとは、即ちゴブリン。《神の怒り》がないブロック構築では、ワラワラ群がってくる赤いチビ共の頭上に、正義の刃を降らせたものだ。


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2015/6/22 「腐食の雨」



6月も終盤。6月と言えば梅雨ですね。布団を干せないのが僕としては致命的な季節で…あと祝日が1つもないというのもね。いかがなものかと。これは梅雨、関係なかったね。子どもの頃は紫陽花の美しさに感動し、その葉の上を歩くカタツムリに興奮を隠せなかった。今でも、僕が少年時代を過ごしたあの場所には彼らがいるのだろうか。そういうことを考えながら歩くのならば、雨の中を行くのも悪くはない。

 今週は「雨ウィーク」。雨にまつわるカードをピックアップして紹介する一週間だ。2年間やってきて、こういうシンプルなお題を残していた自分を褒めてやりたい。
いきなり一発目に《腐食の雨》なんてヘヴィな1枚を持ってきた感覚も褒めてあげたい。ともかく、レビュー開始。

 《腐食の雨》のテキストはシンプルなものだ。土地1枚を追放する。『ギルドパクト』という、マジックの歴史で言えば中期に作られた1枚ながら、ここまでシンプルな効果がよくぞ残っていたなと。

最近ではそうでもないが、黒は土地破壊という役目を与えられた色の1つである。最近ではそもそもが土地破壊というカードが作られていないので、若いプレイヤーが知らなかったとしても無理はない。

《Sinkhole》から始まり、以降ちょくちょくと土地に触れる黒のソーサリーやクリーチャーは作られていった。その中でも、《腐食の雨》は他と異彩を放つ。破壊ではなく、追放であるということ。それがこのカードのアイデンティティである。

こういうシンプルながら他との差をつける、ニッチなカードというのは素敵なものだ。正直な話、土地破壊カードが欲しいなら3マナの《涙の雨》を選ぶべきだし(これも雨カードじゃないか)、同じ4マナで土地を攻めるにしても《汚れ》を採用した方がクリーチャーにも対処できて柔軟である。

破壊では対処が難しい土地…《トロウケアの敷石》《産卵池》
土地破壊に対するアンチカード…《土地の聖別》《聖なる場》《永遠の土》
墓地の土地を拾う手段…《壌土からの生命》《世界のるつぼ》

これらランデス全否定カード達に抗えるという点では、他の土地破壊に勝っている。ニッチなカードというのは、普通に使う分には役に立たないもので当然。限定された状況で活きてこそなのだ。

 フレイバーにはラヴニカの環境破壊を嘆くセレズニアの者の声が書かれている。ラクドスの製鉄所やボロスの鋳造所がガンガン吐き出した黒煙が、酸性の雨となって降り注ぐ…土地が腐食し使い物にならなくなるレベルとは恐ろしいな。


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2015/6/20 「鉄の処女」



「Metal Week Vol.3」も遂に最終日。2年間頑張ったということで、ただただ好きなものを書くということが出来る一週間を勝ち取った(と、自分で勝手に設定しているだけでなんてことはない、毎回自由だ)。メタルの話をする上で、避けられないカードを今週のラストに持ってこさせてもらった。《鉄の処女》。英名で行ってみよう。アイアン・メイデン。アイアン・メイデンだ。ヘビーメタルの象徴である。メタルが分からない人でも、その語感の良さと印象深いアルバム・アートワークを目にしたことがあるだろう。Tシャツも人気やね。

そんな世界的バンドと同名のこのカード、そもそもアイアン・メイデン/鉄の処女とは何なのか。その正体は、イラストに描かれているこの物体…中世の拷問器具…と、言われているものである。実際にこれが使用されたかどうかは、実は怪しいと言われているのだ。ともかく、どういう道具かというと、金属製の人が1人入るくらいの大きさの聖母マリアを象った人形、みたいなものである。前面部がイラストのようにパカッと開いて、内側には刃がズラリ。この中に人を押しこみ、蓋を閉めると…ダラリダラリと血が滴ってくるわけだ。この刃は一刺しで絶命するようなものではなく、動くと身を斬られる、そんな具合に調整されているらしい。この中に入れられたいのか!と囚人を脅すのにはなかなか効果的なビジュアルではないか。

そんな拷問・あるいは処刑なんかに使われたという伝説が残る《鉄の処女》。マジックの世界では、拷問器具はプレイヤーに直接ダメージを与えるアーティファクトとしてカード化されている。この1枚も御多分に漏れず、対戦相手を痛めつける恐怖のアイテム…なのだが、ややマイルドなデザインになっている。各対戦相手のアップキープの開始時に、彼らの手札-4点のダメージを与える。つまり、これは手札をワンサカ抱えるタイプのデッキに対しての対抗手段。常に上限いっぱい7枚握っていたいとドローを連打するデッキには、毎ターン3点喰らってもらうよというお咎めマシーン。逆に、相手の手札が4枚以下になればダメージは発生せず。ほとんどのデッキに対して、効果があるのは最序盤のみということになる。しかし、3マナという決して軽くはないマナコストのため、これを設置した返しには相手の手札は4枚を切ってるんじゃないかと。そのため、使われることはほぼなかった。

このカードは、拷問器具シリーズの元祖にして最強最悪の名をほしいままにした《黒の万力》のリメイクである。万力は1マナという軽さで先手1ターン目に置けば3点確定の破壊兵器であった。《鉄の処女》はその射程を対戦相手全員に拡げたかわりに、3マナという危険性の薄れたマナに設定された。「万力は本当にすまなかった」という、懺悔的意味合いのある1枚、なのかもしれない。

Metal Weekのトリ、ヘッドライナーを飾るのに相応しい1枚だった。ちなみに僕が好きなメイデンの曲は「誇り高き戦い」「撃墜王の孤独」です。Stay Metal!


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2015/6/19 「Living Wall」



メタルはグロだ。血液・内臓・謎の汁。蛆虫・死体・ゾンビの群れ…全部が全部そうじゃない、全く関係なく美しい愛を歌う曲もある。ただ逆に、こっち系の曲はとことんこっち系。薬にもならず毒でしかない歌詞とサウンド。めちゃくちゃ爽やかな歌声と疾走感溢れるかっこいいサウンドなのに、アルバムジャケットがただただグロテスクということも多々ある。

最近では割とスタイリッシュな方向でまとまってきているが、時代に逆行してエゲツなく汚らわしいアートワークにこだわるバンドもあって、それらを眺めているだけでも面白い。マジックのアートワークは…近年、プレイヤー人口が大いに増えたため、多くの人に受け入れられるよう、カード達も何れもスタイリッシュなイラストを持つようになった。

POPSというやつだ。その黎明期には、確実にHard RockでHeavy Metalなイラストが存在していたというのに…。

 数あるメタラー向けグロイラストの中でも、群を抜いている1枚がこの《Living Wall》。いろいろと、よくわからん。肉片がドゥルルルっと、見れば見るほど気持ち悪く、汚い。これほどまでに肉で、名前も「生ける壁」なのに、純粋なアーティファクトって?どう見ても黒だろうよこれは。

 4マナ0/6防衛、そして1マナで再生。ディフェンス馬鹿一代、そんな後ろ寄りの1枚である。『アルファ』で登場した際には、実はこれを排除する手段はほとんどなかった。《恐怖》で死ぬことの無いこの壁が、飛行という能力の価値を高めていた、と言っても良い(かもしれない)。

クリーチャーインフレが進む昨今、黎明期のクリーチャーはとてもじゃないが使い物にならないものが圧倒的多数ではあるが、この壁は今存在してもリミテッドならばそこそこ役に立ちそうに見える。まあそれでも、壁よりは殴りに行けるものを優先するべきだが。

 とにかく悪趣味グロテスクなイラスト、フレイバーテキストには…これまた、まるでデスメタルやブラックメタルの歌詞かのような、暗黒の魔術をについてつづられたその内容は悍ましいとしか言いようのないものだ。

「Some fiendish mage had created a horrifying wall of living flesh, patched together from a jumble of still-recognizable body parts. As we sought to hew our way through it, some unknown power healed the gaping wounds we cut, denying us passage.」

このあまりにもグロテスクに傾倒したカードが、おそらくこのカードゲームを国際化して行くうえで足を引っ張る存在になる、との判断で『第4版』には収録されず。当然と言えば当然だが、残念ではある。再録禁止という訳ではないので、ある日ひょっこりと新枠で還ってくる可能性もある。パックを剥いてこれが出たら一瞬時が止まってしまいそうだ。


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2015/6/18 「Misfortune」



メタルのアルバムジャケットあるある、「何が起きてるのかわからない」。部分部分はわかるけど、結局何が起きているのかよくわからないカオスなシーンを切り取ったアートの数々。それらが集まることで、CDショップの一角に異様なコーナーが出来上がっていることは皆さんもご存知なことかと思う。

あれはもう、一種の聖域。結界的な何かだ。特に輸入もののマイナーバンドのグロテスクで混沌としたジャケが並ぶワゴンがある店なんかは心が躍る。カードショップでも、『アイスエイジ』やオールドエキスパンションのシングルが雑多に並んだストレージが集められた…
所謂「漁り場」があると思わず足を止めてしまうプレイヤーは少なくないだろう。古き良きイラストのカード達をかき分け掘り出し物を探す時間、愉悦である。メタル=マジックの方式がここでも成立してしまった。

数あるメタル感溢れるマジックのカードイラストの中でも、やはり御大・Ron Spencer氏の作品は格別だ。氏の作品は肉・血・死で溢れ、そして状況が分からない。なんかが暴れて誰かが死んで、それはわかるけどだからここは何処で何をしてるのか、そういう疑問というか、イメージの拡散を促す。最高である。

正直「Metal Week」なんて全部氏のカードを紹介してれば終わったりする。今回はブレーキベタ踏みで、とりあえず1枚。特に80年代ジャケっぽさが溢れる《Misfortune》。原画がどれほどの色鮮やかさかは不明だが、『アライアンス』特有のくすんだ・粗めの印刷をされているのが、メタル感を加速させている。

結果、いい味になっていたりする。ただ、『コールドスナップ』構築済み発売時に新規印刷されたカードはどれも鮮やかな姿を披露しており、言うなればHDリマスター。なので、このカードのイラストも綺麗なのが見たいな…って、悲しいことに再録禁止カードなんだなこれが。ショック極まる。

カードとしては、もう直球で言ってしまえば非常に使いにくい。『アライアンス』の2つのサイクルに属している。1つは、ご覧の通り3色のレアサイクル。そしてもう1つは、2つのモードから対戦相手が選んだ効果を発揮する呪文のサイクルだ。

もう、お分かりの通り。3色という高いハードルを_当時は『アイスエイジ』で登場したダメージランドくらいしか特殊土地がないからなおさら_クリアして、ようやく唱えた呪文のモードを相手が選ぶ…しかも、そのモードが

・あなたの全クリーチャーに+1/+1カウンターを1個置き、あなたは4点回復
・対戦相手の全クリーチャー-1/-1カウンターを1個置き、対戦相手に4点ダメージ

これね。効果が対局なのは良い、デザインとして面白い。ただ…対戦相手の戦場にクリーチャーがおらず、ライフに余裕があれば後者を選ばれるだろう。こちらの戦場にクリーチャーがいないなら、迷わず前者だ。

結局、これを有効に用いるには、「対戦相手の残りライフが4点以下で、こちらに複数のクリーチャーが並んでいる」というお膳立てをしなければならない。いくらなんでも酷い!「対戦相手に選択肢があるカードは弱い」を地で行く弱さだ。このカードの名前は、「不運」。呪文の効果と言うよりは、このカードの境遇を表わしているように思うぞ。でも、イラストは最高だ。


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2015/6/17 「死者の墳墓」



死・死体・死者・死神・死の王…メタルとは死を歌うジャンルである。人類にとっての最大の恐怖・存在の終了である死。これと向き合い、理解を深める。1つの信仰であると言って過言ではない。皆の誤解を解きたいので書くが、メタルとはポジティヴなジャンルだ。

死だ哀しみだ憎しみだ殺戮だを歌ったりする曲が多いが、いずれもエネルギーは前向きのものだ。本気で悪魔の王を呼んで地平の向こうまで死を運んでほしいなんて思っていない。これはマジックにも通ずるところがある。

クリーチャーをバンバン生け贄に捧げ、血と破壊と死に彩られたゲームをプレイヤーに楽しむために黒のカードはデザインされているが、何も本気で友人を生け贄に捧げて好きなものを手に入れろ!と啓蒙している訳ではない。

両者に共通するところは、遠くて近い存在である死を親しみ楽しむ、ということ。何の話をしてるかって?今週は「Metal Week Vol.3」。独断と偏見で選ぶメタルなカードをご紹介!

《死者の墳墓》は、もう名前がたまらなくメタル。《Lich’s Tomb》ですぜ。リッチ(Lich)というのは、元々単に死体を指す古い英単語であった。これをかの「ダンジョンズ&ドラゴンズ」がファンタジー用語として広めたのだ。やはりすさまじい影響力があるんだね。

自らに不死の魔法・呪いをかけることで、ゾンビとして生きながらえている高位の魔法使い、転じて死者の王などをリッチと呼ぶ。往々にして、他の能無しゾンビ共を操っていたりする。この不死なる存在の、墓。不死ゆえに、本来墓は必要としていないはずだ。

矛盾した存在…ただそれだけでカッコイイ。イラストとカードの効果からイメージを膨らますと、これはある種の生命維持装置ではないだろうか。吐き出される瘴気、したたる血…不死を願いし者達が生み出した、悪魔の発明だ。

《Lich》という『アルファ』のカードのリメイクである。ライフが0点以下になっても敗北しなくなる、ルール破壊カードの1つである。本家が黒のクァドラプルシンボルで破壊されるだけでゲームに敗北などの辛口仕様だったのを、どの色でも使えるようにして効果もマイルドにした、そんなアーティファクトだ。ライフを失う度にパーマネントの生け贄を要求される。このカードは、4マナであなたのパーマネントの数だけ追加のライフを得る、そんなカードであると捉えて問題はない。

扱うのは簡単ではなく、恒久的にパーマネントを生み出すカードや、生け贄に捧げて美味しいカードと組み合わせなければその力を発揮することはないだろう。

僕は実際に、キューブドラフトでたまたま友人がこれと《キイェルドーの王、ダリアン》を組み合わせたデッキを組んで地獄を見たことがある。

ダリアンはあなたがダメージを受ける度に兵士を生み出す。この兵士を墳墓の生け贄に捧げていれば、ダメージを完封してしまえるのだ。

これで時間を稼がれている間に他のカードでダリアンと墳墓に対処することが不可能になり、敗北。脳内には重厚なギターのリフが流れていたのだった。このコンボと名前が被る「Lich King」っていうバンドも実在したりする(2000年代のバンドとは思えないサウンド。褒め言葉ね)。



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2015/6/16 「墓所の天使」



僕たちは、堕天使大好き。ダークエンジェル大好き。聖なる者が邪悪に染まる、これほど高揚するシチュエーションがあるだろうか。神の使いが魔物を操り首を刎ねる。

漆黒の翼…これらの存在を賛美するメタルソングが一体何曲あるのかも検討がつかない。マジックにも存在する黒い天使達。僕が特に熱いなと思うのは…やっぱり《墓所の天使》だなと。このメタル感はヤバいよ。Slayer的サウンドが聴こえてきそうな…。

カードとしてはこれがなんとめちゃめちゃ使いやすかった。5マナ3/3は構築で使うにはちょっとサイズが小ぶりに見えるが、飛行があるのでアタッカーとして腐りづらい。

更にはプロテクション(白)があるので《名誉回復》で落とされず《追放するものドロマー》《探索するフェルダグリフ》を受け止めすり抜けるという地味ながらも着実な強さを発揮したものだ。

また、戦場に出た時に誘発する青か赤のクリーチャーを墓地から手札に回収。制限付き《グレイブディガー》と言ってしまうとやたら弱く思えるが、《グレイブディガー》に1マナ足したらこのスペックに変貌するってのもヤバすぎる。

この友好色限定ディガーは妥当な能力である。黒が拾えないことに不満の声もあるだろうが、これ2枚でクルクル回りだすことをケアしたんだろうなと思う。

さて、この能力が生きるには、そもそも青か赤のクリーチャーをデッキに採用していないと始まらない。同じ時代に活躍していたそれらの色のクリーチャーをザッと挙げてみよう(いずれもマルチカラーを含む)。

青:《衝撃のマーフォーク》《ヴォーディリアのゾンビ》《洞窟のハーピー》《終末の死霊》

赤:《火炎舌のカヴー》《スキジック》《燃え立つ死霊》《火葬のゾンビ》

どいつもこいつも、この時代を彩った名カード揃いだ。特に赤の《火炎舌のカヴー》を使い回すのはアドバンテージを複数稼ぎ出す。4ターン目なんとなく投げつけた《スキジック》を回収するのも相手からすればこの上なくシンドイ攻めである。

黒赤ビートダウン「マシーンヘッド」では、これらを回収しつつマナカーブのトップに君臨するカードとして活躍、世界選手権2001にてオランダのTom van de Logtが優勝するのに大いに貢献することとなった。

しかし墓に天使って素晴らしい組み合わせじゃないか。是非とも再録して、墓所に降り立った姿・墓から赤と黒のクリーチャーの死体を掘り起こす姿の新イラストなんかも見てみたい。This is Metal!



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2015/6/15 「終末の死霊」



はい、2年経ちました。おおよそね。このコラムも3年目に突入。レビュー総数は500を超えているっぽい、数えるのが非常に面倒な領域に突入していた。これからも、一人でも多くの人に1枚でも多くのカードを知ってもらうために精進あるのみ。今週は2年間頑張った自分へのご褒美ということで、久しぶりの「メタル・ウィーク」。モチベーションを保つには、やっぱり書きたいこと書かなきゃね!「Metal Week Vol.3」Here we go again MTG players!

《終末の死霊》。うん、名前だけでもメタルしてる。バンド名・アルバム名・曲名・フェス名、いずれにも見ることが出来る「Doomsday/終末」という単語の強さ。世界最後の日を意味する単語をその名に冠するこの死霊、4マナ2/3飛行という、同じスペクターである《深淵の死霊》と同サイズ・《吹雪の死霊》に関してはマナコストまで瓜二つだ。これが1つのスペクター・スタンダードなのかもしれない。そしてその能力は手札破壊…なのは勿論のこと。この死霊は終末を謳うだけあって、他よりも強力な手札破壊・内容を見て相手が捨てるカードをこちらが選ぶことが出来るそれを持つ。数ある死霊の中でも最強のハンデス能力を所持している。一度攻撃が通ってしまえば、相手の手札を確認しながら後続を削っていけるので勝ったも同然、と言っても決して言い過ぎではない。青と黒ということは、後はカウンターと除去を構えて相手のトップからのアクションを弾き続けるのみ。バウンスと除去を有する色の組み合わせなので、最初の一撃をねじ込むのも容易いはずだ。

ただし、時としてデメリットになるもう1つの能力が足を引っ張る。戦場に出た時に、自身がコントロールする青か黒のクリーチャー1体を手札に戻さなければならない“開門”クリーチャーなのだ。開門とは、『プレーンシフト』で登場した自身と同じ色のクリーチャーをバウンスしてしまうマルチカラーのクリーチャーの能力の総称である。ファイレクシアとの戦争で疲弊した次元・ドミナリアのマナで戦闘力の高いクリーチャーを召喚するのが困難になったがために、あらかじめ呼び出しておいた軽量クリーチャーをポータル(門)として、それらを経由してクリーチャーを召喚するというSFっぽい設定を元に作られた能力だ。つまりこれ1枚では戦場に出ることが出来ないクリーチャー達であり、同サイクルの《シヴのワーム》はこのデメリットを背負うことでマナコストに対して余りある巨体を手に入れている。《終末の死霊》の場合はそれが強烈な手札破壊能力だったというわけだ。

このデメリットがなければ、青黒のクロックパーミッションやコントロールで大活躍したことだろう…と多くのプレイヤーが嘆いたものだが、このデメリットを逆手にとって、アドバンテージの獲得に繋げた「ディガー」という激シブデッキで採用されたりもしたものだ。《貪欲なネズミ》《ファイレクシアの憤怒鬼》《グレイブディガー》らを回収すれば、確かにオイシイ。

とりあえずイラストのメタル感は満点あげられるレベル。イラスト上部と右下にスペースがあるのも、バンドロゴとアルバムタイトル載せるのに丁度良い。Rhapsody of FireやGAMMA RAYのジャケでこういうのを見た記憶があるぞ。



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2015/6/13 「Gaea's Avenger」


「アベンジャーズ・ウィーク」も本日の1枚にて終了。トリを飾るのは、The 1st Avenger/マジックの歴史上最初に登場した報復者である《Gaea's Avenger》。『アンティキティ』の再録禁止カードであるため、流通量も少なくなかなかお目にかかる機会はない。このコラムが初見だという方もいるだろう。こういうマイナーなカードを掘り起こして紹介して行くのが当コラムの務めだ。

 3マナで、そのサイズは対戦相手のコントロールするアーティファクトに1を加えたもの。それ以外の能力は持っておらず、完全なるアンチ・アーティファクトデッキな1枚としてデザインされている。緑はマジックの歴史を通じて、アーティファクトが嫌いな色である。自然・野生の色であるから、人工物と相容れないのは当然とも言える。とにかく、割る。掌握したり、クレームつけたり、ウータンに殴らせたり。直接的に排除する手段に長けている中で、この報復者は他とは違うアプローチでアゲインストする。そっちが大量に並べてくるのであれば、こっちはそれを上回るパワーで迎え撃てば良い。これもまた緑らしい選択だと言えよう。マジックあるある、「サイド後にアンチカードばっかりで戦えるカードが減ってしまう」に当てはまらないのも評価できるポイントだ。

 ただやっぱり、その解決策はいささか脳筋というか…。アーティファクトは、それが機能しだすとコンボが決まってもはや戦闘は関係なくなったり、あるいは装備品として戦闘を圧倒的に有利にするものだったりするので、デカいバニラ(能力なし)が着地したところで結局解決策にならなかったりする。むちゃくちゃデカいこの報復者の頭上を、《羽ばたき飛行機械》が《頭蓋囲い》被って通過して行く…こちらの懸命のアタックも、チャンプブロックした《金属ガエル》を《電結の荒廃者》が食べて…そんなのは辛い。やっぱり、大人しく破壊呪文を積んでおこう。統率者戦なんかだと対戦相手が3人もいるのでパワー20とかも目指せるかもしれない。くれぐれもトランプルなどの回避手段を与えるのを忘れずに。《マイコシンスの格子》で逆恨みハルクタイム突入も楽しいかもしれない。

 かつては唯一のクリーチャータイプ「Gaea's Avenger」だったが、どう見てもツリーフォークなので後に変更。謎に「Gaea's-Avenger」という微々たる変更を受けていた時期もある。ウルザとミシュラの兄弟戦争は、資源が豊富なアルゴス島を中心に展開されるようになる。巻き込まれた島民達は、地母神ガイアの加護の元、決起。機械の大軍を前にしても怯まず薙ぎ払う報復者の後ろ姿は頼もしかったことだろう。しかし、後に《サルディアの巨像》との対決に敗れ、散る。島民の精神的支柱となっていた彼の敗北は、全希望の消滅、だったことだろう。



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2015/6/12 「報復するものオロス」


「Avenger」という単語が「報復するもの」と訳されている唯一の例がこのオロス様。《Oros, the Avenger》という英名の響きはイカスぜなんてもんじゃ効かず、和名も「報復者、オロス」が良かったなんて思ってしまうが…これは、伝統があるからしょうがない。

「~るもの、~」というカード名で統一されている伝説の3色ドラゴンサイクルに属しているため、これ1枚のためにフォーマットを崩すわけにはいかなかったのだ。

そらしゃーない。様式美、というものもそれで染め上げれば美しいものだ。10体からなるこのサイクル、オロス様は『次元の混乱』で登場した後期組、ある1色と対抗色2色…楔3色と呼ばれるカラーで彩られた異質なドラゴンの一頭である。

この白黒赤の3色、しばらくはオロスカラーと呼ばれ「オロスコントロール」などのデッキ名を定着させたりしたが…2014年、この3色の軍旗をかかげる“マルドゥ”にそのポジションを完全に奪われる。

同期のドラゴン全員がそうなんだが、オロスは一番覚えやすく、最も浸透していたためにダメージは最も大きかったことかと思われる。

 さて、オロスの能力解説に移ろう。3色の6マナ6/6飛行、これはサイクル共通のスペック。もう、これだけで十分強い。モミールベーシックなんかでは最後まで制空権を握ってくれることだろう。

さらに、このサイクルは対戦相手に戦闘ダメージを与えた際に、自身の中心となる色を含む3マナを支払うことでボーナスを得られるという能力を所持している。オロスの場合、白なので白っぽい能力を…あれ、直接ダメージ?そう思った方も少なくないだろう。

無理もない、元来白はダメージを与えることは苦手な色だ。ただ、このカードが収録されているセットは『次元の混乱』。色の役割が意図的にシャッフルされたセットで白が与えられたのは、自身の色以外に作用する除去。《太陽の槍》を見ればそれは明白。というより、オロスの能力がまんま《太陽の槍》で、おそらくこのドラゴンが陽光を射出している様を描いたカードだったのだろう。

勿論全体に3点ダメージは強力で、これのようなファッティが抱える、自身が戦場に出るまでに展開されたクリーチャーに押し負けるという弱点を克服している。

 イラストを担当したDaren Bader氏は通常版とプレリ版の両方を担当しており、お気に入りのようだ。

他のドラゴンのような鉤爪ではなく、四足草食獣のような蹄を有しているのがチャームポイント。自身の画集の表紙に使用し、さらに同じく担当した《憤怒の天使、アクローマ》と相対する神話の如き光景を描いている。

このまま戦うとプロテクションで一方的な展開になってしまうので、是非とも自制していただきたいところだ。



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2015/6/11 「ゼンディカーの報復者」


「アベンジャーズ・ウィーク」も残り半分。ノリノリで筆が進んでしょうがない。アメコミ大好きおじさんの血が騒いでいるのだろう。

ひらたくひらたーく言えば、ヒーロー達が一堂に集結したチーム/ユニットがアベンジャーズだ。マイティアベンジャーズとかダークアベンジャーズとか派生形もいろいろあって、この辺はマジックのデッキっぽさも感じられる。何にせよ、皆で巨悪に立ち向かう姿を描いた物語だ。

その点から見るに、《ゼンディカーの報復者》ほどアベンジャーズ感溢れるカードは他にないだろう。「Avenger/報復者」をその名に冠しているカードの中でも、トップクラスで使用された実績ある1枚であり、Best Avengers賞を個人的にも送りたい。

7マナ5/5と、マナには見合わないサイズながら、強烈な誘発型能力を2つ併せ持っている。戦場に出た時に、自身がコントロールする土地の数と同数の0/1植物トークンを呼び出す。

まさしく「Avengers Assemble!」、5/5のリーダーに点呼をかけられ、ワラワラと同胞が集まってくる。カード1枚でパーマネントを二桁枚数生み出せる可能性がある、というのはそれだけで素晴らしい。「でも、0/1なんでしょ?チャンプ要因だけじゃな~」と思うのは早合点。強烈な誘発型能力が、「2つ」あるからね。

第2の能力は、この親玉が居る状態で自身の戦場に土地が出ると、全ての植物に+1/+1カウンターが乗る、というもの。

自分で出したトークンを、自分で育てることが出来る。土地7枚揃えて唱え、次のターンにセットランドした場合…このカードの打撃力は7マナ12点ということになる。しかも、そのセットした土地がフェッチランドだったら…19点叩き込める。めちゃくちゃ優秀なフィニッシャーなのである。

対戦相手がこれを出してターンを返してきたならば、何はともあれまずは植物を根ごと焼き払った方が良い。この共生関係にある2種を引き離すことが何より求められる。ここで、本体のエレメンタルを除去した場合、若干のリスクを背負うことになる。

2体目の報復者を叩きつけられた時、残るトークンがパンプアップして殴りかかってきてしまうのだ。もし《破滅の刃》《紅蓮地獄》と手札にありどちらかしか行動できないという制限がある状況では、焦土作戦がオススメ。とは言っても、こういう読みが裏目るのもまたマジックなんだが。

構築では「ヴァラクート」の定番フィニッシャーとして大活躍。「緑単エルドラージ」でもトークンを《エルドラージの碑》の維持コストにあてつつ、それらが飛行を持って殴ってくる光景はシュール極まって大好きだったものだ。最近ではMOのキューブドラフトで揺るがぬ地位を誇っている印象が強い。

一度経験したのは…対戦相手の戦場に《パーフォロスの槌》が出ている状態でこの報復者が着地、まだまだライフに余裕があった僕は返しのターンでの勝利を確信。すると、《欠片の双子》がこの報復者に貼り付けられ、さらにフェッチランドをセット→起動と動かれて12体ほどの4/5に襲い掛かられて粗挽きミンチになった時は、思わずお布団に入って静かに目を閉じたものだ。



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2015/6/10 「宝石の手の報復者」



良い時代になったもんだなと思う。ネットの普及。欲しい情報は一瞬で手に入る。マジックが今これだけ流行っているのも、ネットのおかげだと断言してしまえる。魅力的なセットをしっかりとプロモートできて、面白い試合をリアルタイム中継で観られる、そしてそれらの感想を簡単に共有できる。本当に良い時代だ。僕が中学・高校生だった頃はまだ…。

最新セットが発売される日は把握していたので、友人と二人で喜び勇んで発売日にショップに駆け込んだ(余談だが、当社の旧店舗ね)『オンスロート』に続くセットの名は『レギオン』ということは把握していた。

当時は高校生活とバイトで忙しく、また国内のマジックの情報源が乏しい状況。プレリリースにも参加していなかった僕は、新セットのインフォメーションが何一つない状態でこのセットを2ボックスを購入したのだった。今じゃ考えられん話だ。発売の2週間前には全貌が判明していて、それをスマホポチポチいじれば簡単に見ることが出来るなんて…。

で、そのボックスをビリビリしながら友人とシールドで遊ぶことにした。そして、二人ともおったまげた。「呪文入ってないやん!」剥けども剥けども出てくるのクリーチャーのみ、これでシールドって、一体どうなるというのか?お互い毎ターン肉を射出する謎ゲーではないか!…まあ、とりあえず組んでみることにした。

そして、このカードに目が留まったというわけ。呪文はここにあったのか、と。長い前置きになったが《宝石の手の報復者》との出会いは今でもありありと思い出せる。サイクリングコストが重ために設定されているが、ただの1ドローではなく大きなオマケがついてくる「宝石の手」サイクル。いずれも強力であったが、とりわけコモンの報復者はパックから飛び出まくった。

普通に唱えると6マナ3/5、ケツはデカいが、正直戦力と呼ぶにはパンチが足りなさすぎる。しかし、サイクリングで使えば全兵士に+1/+1修正と先制攻撃を付与する使い勝手の良いコンバットトリックとなる。また、逆に考えればクリーチャーが尽きている時に引いてもしょうがないコンバットトリックが最低限度の戦力として運用できる。

こういうカード、めちゃくちゃ好きや!と気付かされてからは3/5のボディも愛しいもので。シールドもお互いクリーチャーしか入っていないデッキながら、案外に面白かったものだ。最初は自分達の無知を悔やんだものだが、マジックは結局、マジックなんだよなと。いつだっておもろい。

シールドが終わっても、同セットの相性抜群な1枚《冷静なチャンピオン》と組み合わせて「サイクリング・ソルジャーズ」なんて粋がった名前をつけたデッキを構築。

はっきりいって弱いデッキではあったが、たまーにお互い手が尽きた状態からコイツを素出しして殴り始める時は、本当に楽しかった。マジックにおいて、自分が触っていて楽しいカードというのは、どんな強力な神話レアよりも、骨董品的価値を持つ希少なコレクターアイテムよりも、あなたにとって大事な1枚になることだろう。





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2015/6/9 「ジョダーの報復者」





「報復」と「復讐」って、結局何が違うのか?この2つをそれぞれ入れ替えて使っても、そんなに意味は変わらない気もする…が、根っこは意外と異なる。スパッと言っちゃうと、復讐は自身にされたことを仕返しすること。報復は、自身と他者も含めた大きな枠組みに対して行われたことに仕返しすることである。

メジャーリーグなんかで「報復死球」というのを見るが、あれはピッチャー自身が自分にデッドボール当てられて怒ってるわけじゃないよね。これを「復讐死球」と書くと、ピッチャー自身の怨念がムチャクチャこもってそうだ。多分、皆共感してくれてると思うのでこのまま話を進める。

マジックにおいて、「Avenger」が復讐者ではなく報復者と訳されているのは、別にこのクリーチャー自身が対戦相手に何かされたことを恨んでいる訳ではない、からだと思っている。自身を召喚・創造したプレインズウォーカーに対して危害を加えようとする別のプレインズウォーカーに報いを与える者、そんなところだろう。

ちなみに10枚を超える「報復者」カードに対して、「復讐者」を名に冠するカードはたったの1枚しか存在しない。マジックの世界ではクリーチャー達は赤の他人である我々のために戦ってくれている、そんな彼らの献身がこれだけの情報から感じ取れるようになったらあなたも立派なマジックホリック。

《ジョダーの報復者》も、一体そもそもコイツはどういう種族なのかもわからないのに、プレイヤーのために報復してくれる義憤に溢れたやつだ。言葉が通じる見た目には思えないが、「私のために6マナも払ってくれた」とか感謝してくれているのかもしれない。

スペックは6マナ4/4、青のアンコモンならばこれぐらいが平均値か。この多相の戦士、実は《ウルザの報復者》というカードのリメイクである。本家と同様に0マナでサイズダウンしながら、各種戦闘関係の能力を得る6マナ4/4という共通点を持っている。

ジョダーとは、ウルザの血縁の子孫である。なるほど、じいさんの時代の発明を、今風にイカす姿にモデルチェンジしたわけだ。元がアーティファクトだったのに対し、色付きのクリーチャーになったのも「時代は遺伝子操作による生物兵器だぜ」ってことなのかもしれない。

さて、得られる能力の方をザッと見てみると、これがなかなか強いじゃないか。大概の場面では、能力を2回使用してシャドーと二段攻撃を得て4点刻んでいく。青単色で二段攻撃を有するクリーチャーなんて、他には《もっとすごい変異種》しか存在しない(つまりはこのカードしか存在しないということ)。警戒を与えて防御的に振る舞い、赤に対して絶望を与える。モミールベーシックにおいて6マナ起動でこれが飛び出すと、割と勝った気持ちになれちゃう1枚である。




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2015/6/8 「Righteous Avengers」



モダンマスターズ・ウィークエンドも無事に終了し、帰国。落ち着いたので、ボチボチこのコラムも復帰。しかしベガスは楽しかった。真夜中まで映画館が空いているのも嬉しかったもので、そこで思わず、日本未公開の某ヒーロー映画を…たまたまね。いや、ベガス行きが決まった段階で絶対に観てきてやると思ってたとか、そんなことは…うん。というわけで、すっかり火が点いてしまった僕が今週書き連ねていくのは「アベンジャーズ・ウィーク」!「Avenger」をその名に冠するカードをレビューしていこう。

アベンジャー界でも古参である《Righteous Avengers》が一番手に名乗りをあげてきた。日本語に訳するならば「正義の報復者」となるだろう。なかなか直球な名前で、清々しいほどに白のカードだ。イラストも正義…バーバリアン感も溢れているが、これは正しく義憤に駆られた正義の報復者の姿だ。違いない。

古代ローマの民衆っぽい彼らが正義のための怒りに立ち上がり、武器を手に取る。その結果、何故か同色である白に対して牙を剥くカードとなってしまった。5マナ3/1と、サイズ自体は良くはない。今現在よりも遥かに色ごとのクリーチャー格差が強く出ていたマジック黎明期においては、白くてパワー3というのは稀有な存在であったのだ。今なら少なくとも3/3、3/4か4/3は欲しくなってしまう。まあ勿論、能力はこれだけではなく…非常に貴重な、“平地渡り”を有するクリーチャーの1つだ。

平地渡り…おそらく世界中の多くのプレイヤーが、マジックを始めたばかりの頃「何故平地渡り持ちのクリーチャーだけパックから出てこないのか」そう思ったことだろう。最近始めたプレイヤーには馴染みがない渡り能力だが、かつては基本セットにコモンからレアまで多数存在していたものだ。そんな中、白にだけそれにあたる存在が1枚もない。これを不思議と言わずしてなんとやら。マジック・エンサイクロペディアというカラーのカードリストブックを手に入れた中学生の僕は、喜びに満ち溢れ毎日毎日そのページを捲り、目に留まった・気になったカードを英和辞書片手に翻訳チャレンジ、そんなことをやっていた。そしてある日、遂にこのカードを見つけ、平地渡りと出会うことに成功したのだった。その時の謎の感動は今でも覚えている。

マジックの歴史上初・そしてしばらくの間唯一の平地渡り持ちだったこの報復者達。平地なんて山や沼に比べれば、簡単に渡れそうなものだが…数がいないのが不思議だ。あまりにも広大過ぎるのだろうか。馬にでも乗らなきゃ…って、このカードはどう見ても徒歩。なるほどわからん。




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2015/5/30 「墨蛾の生息地」



セルフパロディってのは意外に難しい。作品的お約束をただ踏襲する、それだけのことだと「前にも見たじゃん」となるし、そもそも元ネタを知らない人に「???」と思われては作品としてどうなのか、と思う。過剰に気合いを入れて挑んで、ダダズベリで従来のファンが離れることもある。映画・音楽・漫画と、ジャンルを問わず存在するセルフパロディは、とっても難しいのだ。それはマジックも別ではなく。過去に存在したカードを、オールドファン向けに「これ懐かしいでしょ」と今風アレンジを加えて作られたというカードは多くある。その全てが、成功したか?と問われると難しいクエスチョンだが…成功したものもしっかりと存在する。

 その1つが、今週一週間お届けした「モダマスでカムバックならずウィーク」のシメを担当する《墨蛾の生息地》だ。このカードには『ミラディンの包囲戦』で帰ってきたこのカードには、皆さんご存知の元ネタが存在する。《ちらつき蛾の生息地》だ。両者の英名は「Inkmoth」と「Blinkmoth」と語感もほぼ同一と徹底した似せっぷりだ。ミラディンを舞台にしたブロックの第2セットで登場と、デザイン以外の面でも共通点は多数存在する。

 起動すると1/1飛行のアーティファクト・クリーチャーとなる《ちらつき蛾の生息地》。これを踏襲している《墨蛾の生息地》は、ちらつき蛾のようなもう1つの起動型能力は持たないが、“感染”持ちであることがアイデンティティだ。

 ミラディンがファイレクシアに浸食される様を描いた感染という能力。10個貯まると敗北となる毒カウンターをパワー分与えてくる感染持ちは、実質額面の2倍のパワーを持っていると考えてよい。墨蛾も、土地が1マナで2/1飛行になるようなものだ。それだけでもう、強力だと分かる。

 「感染」デッキを組むのならば、必要不可欠な土地である。墨蛾なくして感染なし。デッキの一番強い部分と言っても良いかもしれない。打ち消されず、ソーサリー除去で落ちない、最後の隙を狙って構え続けるスナイパーのような土地である。

 それ以外のデッキでも、「鍛えられた鋼」ではこれのみが感染持ちであっても第2の勝ち筋として、また地味ながら金属術支援としても機能するために使用されていた。「ケッシグ」でも《原始のタイタン》で引っ張ってこれて《ケッシグの狼の地》で文字通り一撃必殺に成長させることが出来る、裏フィニッシャーとして大活躍。そして時を越えて、モダンの「親和」にて元ネタであるちらつき蛾と夢の共演。クリーチャーだけでなく、2種類の土地からのプレッシャーは他のデッキには見られないものだ。初登場時と同様のノリで、『モダンマスターズ』のちらつき蛾に対して『モダンマスターズ2015年版』再録待ったなし!…と思われていたが、まさかのちらつき蛾再々録。どうも感染という軸がずれた能力が、再録を困難にさせているらしい



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2015/5/29 「ストロームガルドの災い魔、ハーコン」



ハーコンは還って来なかった。いや、カードとしては常に還ってくるものなんだけども、僕らの元に還ってくることはなかったのだ。いやだから…禅問答はオシマイ。どこに還って来なかったのか=『モダンマスターズ2015年版』に。常に還ってくるのは何処か=戦場に。本日は生と死をグルグル回るおじさんについて書くとしよう。

 なんと身の丈3メートル。その手にしたるは倍の6メートルはあろうかという長刀使い…とのことだがイラストで手にしている刀は普通に足元に向けているので、設定にあるものとは別の呼びの刀を手にしているのだろう。ゴリラっぽい顔だが、ゾンビであり騎士である。ストロームガルド騎士団の将軍で、アンデッドの大軍を率いているお偉いさんだ。

 カードとしては、アンデッドであること・そして騎士団長であるというフレイバーを完全に再現し、なおかつカードとして強力でもあり、そして今後見ることもない強烈なアクを放つ…完璧なデザインを施された1枚だと個人的には思っている。

 まず、手札から唱えることが出来ない!この強烈なデメリットをどう見るか、この時点であなたの“ハーコン愛”がもうすでに試されている。3マナ3/3という戦闘向きのサイズながら、どう扱って良いものか…というこのデメリット。だが安心して欲しい。墓地からなら、何の問題もなく唱えることが出来る。ゾンビの将軍ならば、生きた状態で戦場に降ってくるのではなく、墓から蘇ってナンボだろ!という熱い主張を感じずにはいられない。幸い、黒には墓地にカードを落とす手段などいくらでもある。そこは安心して、この能力のメリットな面を見て欲しい。一度戦場に出れば、後は何度死亡しても墓地から唱え続けることが出来る。まさしく、不死身の大将軍なのだ。

 さらに墓地から起き上がってくるのは自身のみではない。将軍が戦場に立つと、その命を受ける騎士達もまた蘇ってくる。騎士であるカードも墓地から唱えることが出来るようになる。これまた強烈で、ハーコンが戦場か墓地にいる限り、終わらない騎士の大軍を生み出し続けることが出来る。《宮廷の軽騎兵》との相性は良いなんてもんじゃなく、わざとこれをグルグル回してドローを掘り進めることが出来た。また、《名も無き転置》との組み合わせは全クリーチャーデッキにとっての悪夢だ。騎士クリーチャーとは書かれていないのがこのカードの運命を大きく変えた。「ネームレス・ハーコン」という「名前あるがな!」とツッコミたくなるデッキ名も素敵で、マジックの歴史に確かにその名を刻んだのだった。

 最近は、各種統率者系フォーマットで度々ネタにされている。統率領域にあるこのカードを墓地へと移動させる手段は黒単色では存在せず…不可能を可能にするカードの登場を、全黒民が待っている。



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2015/5/28 「罪/罰」



「罪と罰」は誰しも一度は耳にしたことがあるタイトルだと思うが、実際にそれを手に取ってじっくり読んでみた、という方はその内の数パーセントに過ぎないだろう。

ロシアの後記五大長編小説の1つであり、この前置きだけでずっしり来て我々のような初心者には…と敬遠してしまうものだ。ドストエフスキーの、普遍的かつ哲学的な題材を描いた、実存主義的考えが垣間見えるたらなんたら…難しい!僕にはこの小説の内容は語れないけど、マジックの《罪》と《罰》についてなら書けるよ!

 《罪》は《ゾンビ化》などのリアニメイト呪文の超変化球版。対戦相手の墓地限定という、リアニ呪文のメインの使い道である自分の墓地に強力クリーチャーを埋めて釣り上げるというムーブは出来ないが、その代わりにクリーチャーでなくエンチャントまで奪うことが出来るという対象範囲を広げた1枚となっている。

手札破壊、あるいは除去で相手のクリーチャー・エンチャントを落としてからの使用が前提になっているが、これは白黒のデッキなら容易く行えるので簡単にお膳立てすることが出来るだろう。他者の墓から利得を得る、これほどの罪深いソーサリーがあろうか。

 《罰》は《破滅的な行為》の亜種だ。厳密に言うと、《火薬樽》《仕組まれた爆薬》がソーサリーになった、というところだろう。Xマナのエンチャント・アーティファクト・クリーチャーを破壊。

リセット、とまで言うには範囲が狭められているので力不足に感じるが、優秀な全体除去の1つである。特に、トークンやアーティファクト土地などを緑黒2マナのみで薙ぎ払えるのは悪くない。同一のマナコストのパーマネントを複数並べてきた、という相手の行為を罰する、無慈悲なソーサリーだ。

 そしてこれらのカードは、1枚の紙面に共存する。そこが最大のポイントやね。それぞれが独立したカードとしての仕事をこなせるものでありながら、所謂“モード呪文”としてそれぞれの場面にあった起用が出来ると。ただ、マナコストがマルチカラーでかつ重めである点には注意が必要だ。

悪用されないように、なかなか絶妙な調整が為されているのも、これらの“マルチ分割呪文”サイクルの良い点だ。このサイクルは、全て繋げると1つの慣用句になる英単語のカード名を与えられているのだが、この《罪/罰》のみ、実在する作品名が充てられている。というわけで、やっぱりこのカードのデザインとかを語る上では「罪と罰」、読んだ方が良かったりするのかなぁ気が重いなぁ…。



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2015/5/27 「威圧のタリスマン」



サクっと再録していそうなものほど、案外そうでもないというのがマジックあるある。ルールやフレイバーにそれほど独自性がなく、決して強すぎず、その上で需要は確かにある。でも、初出以来その顔を見せることがない…そんなカードがゴマンとある。

マジックのセットのデザインとは、そう簡単なものではないのだ。再録は、一から新しいカードを生み出すよりも難しい、そう言ってしまっても良い…側面もあるだろう。内部事情は知らないので、断言できないチキンな文体をどうか許してやってほしい。

今週はそういった、再録されそうでされなかった…『モダンマスターズ2015年版』にはそのスロットが割かれなかったカードを紹介する一週間。その中でも、僕が勝手に「来るだろ」と思い込んでいてこなかった『ミラディン』のタリスマン・サイクルから1枚を代表として紹介しよう。

そもそも、「タリスマン」って何?ザックリ言うと、「お守り」である。金属で出来た円形のもので、紐を通して首からぶら下げるのが主な使い方のようだ。それぞれに属性が与えられており、聖なる護符の模様が彫られていたりする。健康祈願・恋愛成就は勿論のこと、“不可視のタリスマン”なんてものもある。ファンタジー映画なんかでもこれを握りしめて祈りを捧げるシーンを目にすることは多い。

次元ミラディンで作られたタリスマンは、我々プレインズウォーカーの「マナが欲しい」という祈りに応えてくれるアーティファクトだ。2マナで1マナを生み出す、というのは効率がズバ抜けていることはないが、タップインなどのデメリットもなく即座に使用できることは大きな長所である。

無色マナならば無条件に得られて、友好色2色の色マナも1点のダメージと引き換えに得ることが出来る。これはまんま、“ペインランド”ではないか。《アダーカー荒原》など10種類の、ダメージを受ける代わりに色マナを生み出してくれる特殊土地がアーティファクトになったものがこれらタリスマン・サイクルである。

実は『インベイジョン』以降、全てのブロックに2色以上のマナを生み出す5種類(多くて10種類だったり、3色生み出したり)の土地、というサイクルが存在している。

唯一つ、ミラディン・ブロックを除いてだ。アーティファクトを主軸としたこのセットで、2色土地という存在は導入しづらかったのだろう。コモンでもアーティファクト・土地のサイクルが存在しており、スロットがなかったのかもしれない。2色生み出せるアーティファクト土地なんてやり過ぎ以外の何物でもないし。

ということで、このブロックだけは例外的にタリスマン・サイクルに土地の代役を担わせたのだろう。

非常に使いやすいカードで、統率者戦などのカジュアルフォーマットは勿論のこと、当時スタンダードでは「ブルード親和」で、モダンでも「青トロン」で使用されている。青黒という組み合わせは至高のコンビネーション、それは10年経とうが20年経とうが変わらないマジックの伝統だ。



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2015/5/26 「活発な野生林」



「モダンマスターズ・ウィークエンド」というお祭りに向けて今週スタートした「モダマス帰ってこなかった組ウィーク」。ここで取り上げるカード達、再録されなかったことに僕はネガティヴな感情を抱いている訳では全くない。

前回の《飢餓の声、ヴォリンクレックス》、そして今回の《活発な野生林》に関して、どこかでまた会えるという希望を抱いている。モダマスにはモダマスの世界がある。ならば、還ってこなかった者達にも彼らの世界があるのだ。この一週間のお題には、そんな思いが込められている。

さて、《活発な野生林》。“マンランド”“ミシュラランド”と呼ばれる、クリーチャー化する土地の1つである。『ワールドウェイク』で登場したこの野生林含むサイクルは、デュアルランドの亜種の1つでもあり、タップインながら友好色2色の組み合わせを生み出すという、プレイヤーが土地に求めているものを2つ併せ持った贅沢な存在である。野生林はこの中で緑と白を担当している。

緑と白と言えば、近年ではクリーチャーが強力な2大カラーといったところ。軽くて打点の高い連中が揃っている。そのため、この野生林は登場時にはあまり注目されなかった。

タップインでテンポ良い展開を阻害してしまうのは無視できないデメリット。そして同サイクルの他の連中に比べると、パンチ力に欠けるというか…いずれも回避能力や、高い打点を生み出すアグレッシブな能力を持っている中、野生林のみが“到達”というブロックに関する能力を持っている、というのもイメージダウンに繋がっていたように思う。

最近のマジックに多い、他のカードの派手なパワーに目が行きがちで、地味シブカードを見落としてしまうというアレですわ。環境理解・メタゲームが進んでいくと、野生林の良さが見直されるようになる。タフネス4が《稲妻》飛び交う世界では信頼に値するボディで、それを獲得するには僅か3マナ払えばよいという格安さ。

よくよく考えれば、クリーチャーで言うマナレシオにあたる起動コスト:サイズの値は野生林がサイクル中ナンバー1ではないか、と。更に言えば緑と白を中心にしたビートダウンが有力なデッキとしてメタゲーム上で地位を確保しだしたというのも大きい。「キブラーバント」「ボス・ナヤ」など、時代を彩ったデッキでいぶし銀の活躍を見せたものだ。

更に最近では、《未練ある魂》などの飛行クリーチャーを足止めでき、《突然の衰微》で落とされないとして「アブザン・ジャンク」系のデッキでも活躍を見せている。本当に良いカードなんで…デュエルデックで帰ってきたりとかないかな。



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2015/5/25 「飢餓の声、ヴォリンクレックス」



ここ2週間に渡ってお届けしたのは、「やったぜ俺たちモダマス再録組」なカード達。ならば、今週お届けするのは…言うなれば正規軍に対する反選手会同盟、モダマス2015にお誘いの声がかからなかった連中だ。

「俺はそう簡単に再録されないってぇ!悔しかったら古いパック剥いてみやがれコノヤロー!」と言わんばかりの無頼の徒、一匹狼達。どれもこれもシブいカードになってしまうが、最後までお付き合いいただければ…。

本日は切り込み隊長、《飢餓の声、ヴォリンクレックス》が堂々登場だ。新ファイレクシアの5色それぞれの派閥のお偉いさん、法務官。決して仲が良い訳でもなく、足並みが揃わない個性的な彼らは、それぞれがキャラが立っていてとても魅力的な存在である。そのサイクル中の1体、緑の派閥「悪意の大群」を率いるのがこのヴォリンクレックス。仲間内からは脳筋扱いされているが、グリッサを「完成」させ腹心としている手腕は大したものである。

カードとしては、ヘビー級揃いの法務官サイクル中、マナコスト2位・サイズ1位の8マナ7/6という巨躯の持ち主。緑のファッティお家芸のトランプルもしっかり搭載している。ただ、それだけじゃあ遥かに上回るアタッカーはいくらでもいるもので、とてもじゃないがこれだけでは派閥の長とは言えないスペックだ。

なので、オマケとは言えないレベルの能力をしっかりと所持している。そもそも法務官サイクルは、それぞれ自分にとって有益・相手にとって有害な対となる能力を2つ有している連中だ。ヴォリンク様も強烈な能力をお持ちの様で。

有益能力:マナブースト。自身の土地が生み出すマナが倍に(厳密に言うと1マナ追加で生み出す)。ヴォリンク様が戦場にいらっしゃるということは、マナクリーチャーがいたとしても少なくとも5枚は土地が並んでいるだろう。

次のターンが無事に返ってくれば、溢れ出るマナでなんでも出来るぞ。僕は「ケッシグ」という土地を伸ばしまくるデッキにこのお方をなんとなく積んでいたことがあったが、《ケッシグの狼の地》1枚でパワー+20とか普通にやってて吹いたもんだ。

有害能力:マナロック。対戦相手の土地がマナを出すために寝かされるたびに、その土地は次のアンタップで起きなくなるという呪いをかける。

これを出した返しで相手がアクションを起こす・例えばヴォリンク様を除去しても、そのために寝かせた土地は1ターン起きることがない。うまくハマれば、相手の1ターンを丸々奪うことが出来、さながら《Time Walk》。

攻防一体だが大味すぎるこの能力が最大限に生きるのは「モミール・ベーシック」という純粋なる闘争力が試される戦地。8マナ起動でこのお方が登場すれば、続くターンに15マナでマジックの歴史上最大最強のあやつで空を覆うことが出来るだろう。…まあハズレのワームが出ても、マナが止まってしまう相手には十分な脅威じゃて。



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2015/5/23 「野生の末裔」



 生きるということは、何かを過去にしていくこと。朝日と共に目覚めることで、今日だった日を昨日にする。命あるものを肉塊とし、それを噛み砕き己の血肉へと変える。子どもだった自身を、子の親へと変えていく。知らなかったこと知り、届かなかったものを手に入れる。大袈裟に言えば進化、一歩一歩進んでいく。全ては過去。

マジックだってそうだ。このゲームは、概念的生命体、生きている。日々、うつりゆくメタゲーム、規模が拡がりゆくプレイ人口・トーナメント。そして___カードデザイン。

《野生の末裔》は『モダンマスターズ2015年版』に再録された際に、レアリティが降格されたことで話題となった。それも、二段階だ。レアがアンコモンに・神話レアがレアに、そんなことは今までもザラにあった。一部の構築ではパッとしないカードにとっては、再録されるということはそういうことでもある。レアだった今日が二度と帰れない遥か彼方の昨日となる。それが、この《野生の末裔》の場合、レアリティ最下層まで真っ逆さまだ。こんな例は、なかなか見られない。過去になり過ぎ。

そもそも、このカードには前身がいる。《狩りの統率者》という『メルカディアン・マスクス』のレアカードだ。末裔と同じく緑の3マナで、シングルシンボル。クリーチャータイプを選んで、戦場にいるそれの数だけのパワー/タフネスを持つ。これは対戦相手の戦場もカウントするが、対戦相手とデッキの主軸の部族が被る確率って一体どんなもんよ。というわけで、純粋に自軍のクリーチャーの数だけのサイズを誇る末裔の方が、往々にして上回っているのだ。また、色は変わるが《ケルドの大将軍》も同様の能力を持っていたが、3マナである(大将軍は4マナ)・壁もカウントする(大将軍は壁をカウントしない)・何よりクリーチャーを並べるのが得意な緑という色、これらの理由で大きく上回っている。という訳で、彼も誰かを過去にして生きてきたのである。

そして『基本セット2013』で、遂に自分にお鉢が回ってくるのである。《オドリックの十字軍》という、アンコモンに差をつけられてしまう。全く同じ能力を持つクリーチャーが自身よりも格下のレアリティで登場。向こうは白であるが、シングルシンボルだ。そして、白は当時トークン生成に長けていたため、実は緑よりもこの能力を活かせる、ときたものである。ただ、当時は全くネタにならなかった。何故なら、《オドリックの十字軍》自体も構築では活躍することはなかったし、そもそも皆、末裔の存在を忘れているかそもそも知らなかったのだ。

彼にとって、『モダンマスターズ2015年版』という目立つ舞台で降格を晒されるのは悲劇だったのかというと、僕は全くそうは思わない。この出来事で皆がこのカードの存在を思い出し、あるいは知ることになった。よく出るレアリティになったというのも、リミテッド観点で言えば素晴らしいことだ。おそらくは3か所同時GPでは大暴れすることになるだろう。皆の手元に、過去から蘇りし野生の魂が訪れんことを。


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2015/5/22 「オパールのモックス」


「モックス/Mox」とは、何か。この辞書に載っていない単語は、マジックの生みの親Richard Garfield博士その人の言葉によると、「Moxie」というスラングが語源らしい。

Moxie Sodaという飲料が元ネタで、活力やガッツがあるということを意味する言葉だそうな。マナという活力を生み出すエメラルド、そんなニュアンスで捉えれば良いのだろう。

マジックの5色と噛み合う宝石がキチンと存在したことも運命的ではないか。ダイアモンドが5色を生み出すのもよくわかる、金属…は、英名のクロムが素材と合わさり色を変化させるものなのでこれもわかる。では、オパールは?

 今日の1枚は、『モダンマスターズ2015年版』発売を祝して、この宝石を掲げよう。オパールとは、宝石の中で唯一水分を含む(10%ほど)ものである。これを保存する際には湿度を保たなければならないらしいが、加工する際に天日に干して乾燥させてから切り出すそうだ。

この乾燥に耐えられたオパールこそが本物である…というか、乾燥に耐えられるものが少ない故に希少な存在なのだろう。乳白色を筆頭に様々な色の物が存在するが、中でも遊色反応(見る角度によって色が変わる)を見せるものは高値で取引され、多くの人に愛される。

なんだか聞いていて、《オパールのモックス》っぽさを感じないだろうか?扱いが難しく、希少で、様々な輝きを見せる…金属術を達成しなければただの置き物・伝説のアーティファクト・全ての色を生み出すことが出来る…絶妙なチョイスではないか。

 カードとしては、『ミラディンの傷痕』発売からしばらくは、活躍の舞台がなかった。プロツアー名古屋2011でのブロック構築で、遂にそのポテンシャルを世界に見せつけることになる。アーティファクトを中心に組まれた白ウィニー「鍛えられた鋼」で、初速に全力投球な同デッキにて色マナの安定・マナブーストとしての役割を与えられ、一躍注目されることに。手札にダブついても仕方がないカードながら、3・4枚採用されるという点でも多くのプレイヤーを驚かせたのだった。

 さて、このカードが真に力を発揮したのは、今は失われた姿となってしまった旧ミラディンの面々と組み合わせた…モダンの「親和」デッキにおいてだ。

無色デッキでありながら、サイドボードも考慮して少なくとも2色の色マナは用いたい・そんな我儘なデッキである「親和」の動きを安定させるカードとしてはうってつけだったのだ。何せ、金属術を達成できない状況の方が極めて珍しい。4枚放り込んで、ダブついても《電結の荒廃者》の餌にすれば良いんだという絶対的免罪符により、このカードのポジティブな面だけをそっくりいただくことが出来る。

 さらには『マジック2014』においてレジェンド・ルールが変更、複数枚手札に来ても「Aをキャスト→Aからマナを出す→Bをキャスト→Aを破棄し、Bからマナを出す」という、ダブついても何も問題にならない・むしろ以前よりも効率よくマナを生み出せるようになると、その地位は揺るがぬものとなった。

 本日(5/23)発売の『モダンマスターズ2015年版』で再録されるのも、当然のチョイスといったところ。こういう場でしか再録されないテキストを持ったカードをしっかり蘇らせてくれたことには、感謝の言葉しかないね。


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2015/5/21 「炉火のホブゴブリン」


さて、長々やってきたモダマス2015好きなカードランキングも遂に終了。我ながら、「アレ」な好みだなぁと。そして1位が…いやいやいやと冷静な僕がツッコミをする。ただ、ここは例え自分の意見であろうが譲れない。《炉火のホブゴブリン》は最高の1枚だ。引き下がらんよ、これが1位!

 このカードはローウィン4部作の後編『シャドウムーア』『イーブンタイド』の2セットにまたがるサイクルである、ハイブリッド・トリプルシンボル3マナカードサイクルの1つだ。まさか同サイクルから2枚のカードがランクインするとは、自身でも予想外であった(過去記事をご覧ください)。

3マナ2/2二段攻撃、それ以上でも以下でもないが、かえってこういうカードの方が額面通りの仕事をするので頼りになったりするものだ。え?《ミラディンの十字軍》?ハッハッハッ、レアリティというものを忘れてもらっちゃ困るなボーイ。向こうはレア、こっちはアンコモン。そりゃ多少の差はあるってものだ。

ただ、向こうがダブルシンボルに対してこちらはトリプルシンボルというのはレアリティを差し引いても劣っていると言わざるを得ない…普通の場合は。このカードはトリプルシンボルなのも当然で、何故ならそのマナがハイブリッドであるからだ。

このカードは白単で使えて、赤白でも使えて、そして赤単でも使える。その点は《ミラディンの十字軍》も勝てない長所である。赤単のデッキで使うか?ではなく、使うことが出来るという事実に価値があるのだ。

 色々言った所で、リミテッドでは戦力になっても構築で用いるカードのスペックではない、という事実は変わらない。勿論、使うのは自由だ。

僕も『赤単信心』なんかに入れたいなとは思ったりする(実行はしない)だからこそ、何故僕がこのカードを好きなのかをしっかり書いておこう…と思ったけど、言わずもがなじゃないですかね。

この顔、この服装。ヨーロッパの山村を歩いていたら、突然こんなやつが飛び出してきた、なワンシーンを切り取ったイラストは絶妙だ。煌々と明かりがたかれる家屋から飛び出してきた、この小さなヤツは両手に野良仕事の道具を持っている。

これを必要以上に鋭く研いでいるということは、これで襲い掛かってくるのだろう。こえぇぇぇぇ。閉ざした山の村、というシチュエーションは独特の恐怖がある。我々の世界の常識とかが通じそうな外見と、それを真っ向から否定するソレの行動。

いやぁ、これもまたホラーの神髄だ。白と赤、正義のボロス軍カラーではあるが、僕はこのカードに傑作「悪魔のいけにえ」的ホラーを感じずにはいられない。ファンタジーとマジなヤバさが同居する、個人的マスターピースなのだ。


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2015/5/20 「不敬の命令」


前回、《神秘の蛇》より続き。僕らプレイヤーは皆、贅沢だ。カードにカード2枚分の働きを求める。まあ、当然と言えば当然だ。3枚分の働きを求めないのは、それがあまりにも現実離れしているからだ。2枚分くらいなら許してもらえるし、1.5枚くらいならちょくちょくあるのが現実。スタンダードのデッキなんかは、そういうカードの集合体と言っても良いだろう。

それとは逆に…あるケースではカード1枚分の働きもせずに腐ってしまう、そういうカードはあまり好まれない傾向にある。サイドボードという存在があるのに、メインから《霧裂きのハイドラ》は尖り過ぎだとか、そういう話。もっと言えばクリーチャー対策20枚ぶっこんだデッキなんてなしだろうと。

メインは「丸い」カードがこのまれる傾向にある。どんな状況でも、カードとして機能してくれる1枚だ。マジックでは、テキスト自体が状況によって様々に解釈できたりする漫画のようなことはないので、そもそも呪文に複数の効果を与えてその中から1つを選ぶ、という“モード呪文”でこのニーズに応えている。“魔除け”が最も数が多くて有名だろう。大抵は3つの中から1つを選ぶ、という選択肢を提案してくる。大方のプレインズウォーカーもモード呪文の一種と言えるだろう。

このモード呪文の親玉が、突如として『ローウィン』にて登場した。4つのモードから2つを選ぶ、まさかの丸くて2枚分の働きをするカードが登場だ。その名も“命令”。今回はその中から黒の《不敬の命令》を紹介しよう。何を隠そう、モダマス2015に再録された中で好きなランキング2位なのである。

この命令サイクルは、珍しくコストに統一性が全くない。そもそもインスタントとソーサリーにもわかれているしね。そして中でも《不敬の命令》は唯一のX呪文である。こういう、カッチリとした枠に囚われていないサイクルというのも良いものだ。

過去には『レジェンド』のエルダードラゴンのように全種類同一のマナコスト、というのがサイクルの基本ではあったが、より柔軟に、カードにあったコスト・効果が設定されているというのが現代のサイクルだと思う。

選べるモードはXライフルーズ、-X/-X、マナコストX以下リアニ、X体に畏怖、の4つから2つ。同じカードなのに、モードの組み合わせで超攻撃的になったり鉄壁の防御を誇ったりする。3点ルーズ3体畏怖は15点ぐらいのライフなんざ一撃で屠ってしまえるだろうし、-2/-2で《傲慢な完全者》を除去しつつ《レンの地の克服者》を釣り上げるなんて護身完成じゃないか。

当時のリミテッドでは最強のカードとして、よく挙げられていたものだ。除去呪文だけども隙あらば勝負を決めてくるなんて…ということで、構築でも「緑黒エルフ」のフィニッシュを担当していたものだ。

モダマス2015はマナブーストがコモンに多数用意されている。相手が黒い場合、これが入っていることを想定して戦わざるを得ない状況もあるだろう。まあ、往々にしてわかっていてもよけられないんだけどね。必殺とはまさにこのカードのためにある言葉よ。


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2015/5/19 「神秘の蛇」


余裕があればカツカレー。コロッケでもいいね。余裕がなくてもカレーうどん。焼き飯にカレーをかけたインディアンっていうメニューもあったな。懐かしき学食の思い出。上品なレストランにはない、抱き合わせメニューが魅力だ。

ラーメン屋の半チャーハンとかね、ワンコインでシンプルな中華そばと半チャーハンのお昼とか。最高やん。最近こういうお店、減りましたな。一体何の話をしているのか。

要するに、僕らはセットが好きなんですよ。コストは抑えたいとか言ってるのに、味がワンパターンだと飽きるとか。真の意味で贅沢なんですよ。

マジックプレイヤーは、本当に贅沢で貪欲なのだ。カードがカード1枚の役割を果たしていなくて怒るのは、ごもっとも。ここで恐ろしいのが、1枚分の役割を果たしていても怒る。「さすがに」の一言と共に、2枚分欲しくなってしまうのだ。

でも、気持ちはわかる。わかるからこそ、僕らはマジックプレイヤー。2枚分の働きをして、懐事情が弱い僕らにも優しい(即ちマナコストの安い)カードなんて…ねぇ?欲しいっす。カレーの上にサクサクした物体置きたいっす。

そんな願いが通じたのだろう、超絶パワーカード山盛りセット(当時の基準で)である『アポカリプス』にて、遂にカウンターでありクリーチャーであるカードが現れた!《神秘の蛇》だ。このカード、本当に好きでね。というわけでモダマス2015再録カードの中で好きなカード第3位は、シューシューいう声のあいつだ。

①GUUの4マナ2/2瞬速、戦場に出た時に呪文を1つ打ち消す。これは当時、革命だったな。《灰色熊》と《対抗呪文》がコストをそのままに、1枚のカードになった。ただそれだけのことだが、それが如何に偉大な発明だったのか。

当時の青いデッキは《対抗呪文》を初めとしたカウンターだけでデッキが組めてしまえるくらいにコントロール要素は充実していたが、クリーチャーが本当に弱かった。というか、勝利に向かうのにクリーチャーが必要なのに、適役が不在だったとも言える。

そんな中登場したのは、4マナのカウンターとして相手の攻め手を弾きながら隙なく着地させることの出来るこの蛇だ。皆目の色を変えて、この蛇を使おうとしていたのを覚えている。その最初の完成形が、かの八十岡翔太氏がFinals01で使用した「カウンターモンガー」だ。

その後、岡本尋氏の手によって生み出された「狩猟場」も良いデッキだったなぁ。シャシャっと飛び出す蛇のロックは地獄を生み出せた。小室修氏がFinals07で使っていたバントカラーの「ブリンク」でもシューシュー言わせてたもんだ。時代が移り変わっても、良い仕事をしていた素晴らしいカード。現行のモダンでも、シューシューしてくれねぇかなぁ。


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2015/5/18 「シミックの信徒」


 今週も先週から引き続き、当コラム担当の僕が『モダンマスターズ2015年版』に再録されるカードで好きなものをチョイスしたランキングで、モダマス発売日までカウントダウンしていこうというシリーズを継続して行く。

本日は第4位、TOP4ともなればさぞや華やかで強力な…って、何、コイツ?1マナ1/1、“移植”?その気になれば一行どころか10文字以内でレビュー出来そうなカードが、並み居る神話レアを押しのけて4位?…好きなものはしょうがない、僕にとっては輝く1枚なんです。

 さっきも書いたけども、1マナ1/1移植。スペックに関しては、以上ッ。とりあえず、移植と呼ばれるメカニズムについて書いていこう。さすれば道(文章量)は開かれん。

 改めてみると、移植とは常在型能力と誘発型能力の複合能力なのだということがわかる。「移植x」と書かれたカードは、その数字の数だけ+1/+1カウンターが乗った状態で戦場に出る。

今のところ、12体の0/0クリーチャー(と1枚の土地)がこの能力を持っている。彼らはいずれも、移植ありきの生命というわけだ。そして、その自らの身体を構成する「細胞質」というものを、文字通り他者の身体に「移植」してしまうのがこれらの能力。

戦場にクリーチャーが出るに際して、これら移植持ちのカウンターをそのクリーチャーに移し替えてOKという誘発型能力だ。移植持ち連中は後続のサイズアップに貢献しつつ、+1/+1カウンターが乗っているクリーチャーになんらかの影響を与える能力を併せ持っている。

自身がその能力を持っているクリーチャーとして振る舞っても良いし、後続でより強化したいクリーチャーがいるならそれらに移植しても良いという、ただクリーチャーを展開するだけのことに戦術を上乗せしてくれる、素晴らしい能力となっている。

えらく褒めるが、これはモミール・ベーシックで彼らに助けられた経験からだ。《ヘリウム噴射獣》君、いつもありがとう!

 さて、《シミックの信徒》について書かずとも終われそうだが、そういうわけにもいくまい。このカードは移植1以外の能力を持っていない。

信徒という名が示す通り、まだ何にもなれていない、最下級の存在であると言える。彼らはここからさらなる細胞質の調整・操作を経て一人前のミュータントと化すのだろう。そして、フレイバーに目を通していただきたい。

「シミックの信徒の訓練は、実験体となることから始まる。失敗作は下水に流される。」
サラっと怖いこと言うなよ、って思う前に、気になるワードが…「実験体」…。同じ1マナで、+1/+1カウンターに関する能力…《実験体》……って、実は英語だと「Experimental Subject」って表記されてて《実験体/Experiment One》とは異なるんだけどもね。日本人限定でワクワクしちゃったお話、ということで。



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2015/5/16 「迫撃鞘」



1点の重み。どんな競技でもそうだが、1点でも差があるということは、即ち勝負が着いたということ。たかが1点、されど1点。僕らはその1点のせめぎ合いが観たくて、スポーツ観戦をする。マジックだって、同じことだ。

ライフ20点と19点ではその1点の差がどうということもないかもしれない。これが1点と0点だったら?前者と後者の差は同じく1点差。序盤に受ける必要のなかった1点を受けてしまいライフが20対19になり、そのままズルズルといって相手の方が1点ライフが多くて負け。こんな経験、したことはないだろうか。たかが1点のミスが、勝敗を分けるのだ。

そんなシビアな勝負の世界、マジックというゲームにおいて、継続してダメージを弾き出すカードが重用されるのは皆さんご存知の通り。今日の1枚、モダマス2015再録カードの中で僕が好きなカード第5位。《迫撃鞘》の登場だ。

僕はクリーチャーを生け贄に捧げるカードが好きだ。マナを払い、手札を消費してわざわざ召喚したクリーチャーを自らの手で墓地へと置く。この犠牲により得られる対価を元手に戦う戦略が大好きなのだ。つまりは、《迫撃鞘》も大好きも大好き、大大好き。全ての装備品の中でも最高の物かもしれないね。

この装備品は生体武器で、戦場には0/0のこれを装備しているトークンと共に出現する。この装備品の効果でタフネスが1だけ上がって0/1。まあ、ありとあらゆるデッキでお呼びでないサイズだ。だがこの弱小の菌類、生け贄に捧げれば対象のクリーチャーかプレイヤーに1点のダメージを与えることが出来る。こうなってくると話は別だ。

タフネス1のクリーチャーなんぞごまんといるわけで、それらを葬り去ることが出来る――その後に、同様の能力を後続に与える装備品が戦場に残るのである。最初にこのカードに触ったのは『ミラディン包囲戦』プレリリースの場。このプレリは陣営を選んで参加する、非常に楽しいものであった。勿論、ファイレクシア陣営を選んだ僕はファイレクシア・パックからこの装備品を引き当てたのだった。

『ミラディンの傷痕』では《金のマイア》ら、2マナ1/1のマナを生み出すマイア達が重要なカードであった。まずこれを除去できるのだから、また後述の戦略が実行できるプールであったのもあって、この装備品が腐るケースは100%存在しないなと確信して投入。

思った通りの強カードで、気持ちよく勝利を重ねることが出来た。対戦した友人たちは「クリーチャー1体で1点てしょぼくない?」と言ったりもしていたが…これを“感染”持ちのクリーチャーに装備させて立たせている、ただそれだけのことが脅威であり、彼らはゲーム後に「強いっすね」と認識を改めていた。

どれだけ強力なクリーチャーで攻撃しようとも、これを装備した感染持ちでブロック→戦闘ダメージを与えあう前に生け贄にして本体へ1点、とやっているだけでダメージレースは圧倒的に有利に進めることが出来た。たかが1点…されど、それが「毒」だったら?既に毒を5、6個対戦相手が受けているのならば、もはや感染クリーチャーで攻撃しにいく必要はなく。引いてきた彼らを投げる続けるだけで、ゲームはいとも簡単に終わってしまうのだった。

スタンダードでは《石鍛冶の神秘家》から持ってくることが出来る除去呪文として、《水蓮のコブラ》や《狡猾な火花魔道士》といったタフネス1の強力なクリーチャーをプチプチ潰す大活躍な1枚だったりしたものだ。




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2015/5/15 「ゴブリンの投火師」



「ティム」というマジック用語が存在する。…が、最近はこれにあたるものがセットに収録されることが無くなってきたので、特にここ1、2年でマジックを始めた方には馴染みのない言葉だろう。

ティムというのは、「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」というコメディ映画に登場する妖術師ティムが語源である。ティムは、指差した先を爆発させる魔法を用いる。このティムの風貌が、《放蕩魔術師》に似ていること・そして同カードの能力が狙った所に1点を飛ばすものということで、この映画のティムを髣髴とさせる=ティムという愛称が広まり、その後同様にタップすることで対象にダメージを与えるカードの類をティムと呼ぶようになったのだ。

ちなみに、個人的には映画のティムと《放蕩魔術師》は「別に似てもいない」と思うのだが、細かいことはよしとしよう。

ティムは『アルファ』からしばらくは青の能力であったが、マジックのデザインが洗練され、それぞれの色の役割が明確になってくるに従って本来直接ダメージを与える色である赤へと受け継がれることとなった。これはプレイヤーにとっても暗黙の了解であったが、『次元の混乱』にて遂に赤い《放蕩魔術師》こと《放蕩紅蓮術士》が登場し、正式にバトンタッチが行われた。

ただ、赤に引き継がれて以降、それまでコモンにちょくちょく存在していたティムはアンコモンに昇格したり、そもそも収録されないエキスパンションがあったりとひっそりとその数を減らしている。

これは、グランプリやプロツアーなどの競技イベントでリミテッドがプレイされる機会が増え、これまで以上に環境に配慮してカードが作られているからだろう。コモンで1点を飛ばすクリーチャーがいるならば、その他のタフネス1のクリーチャーの存在価値というものがほぼなくなってしまうからだ。

ティムの説明だけで800文字近く書いてしまったが、本題に入ろう。《ゴブリンの投火師》はモダマス再録カードの中で僕が好きなものランキング第6位!これは本当に良いカードだ。

1マナ1/1のゴブリンで、タップするとプレイヤー本体へ1点ダメージを飛ばすことの出来る起動型能力を有している。これは所謂ティムの亜種だ。1マナという最軽量にして、対戦相手にどれだけブロッカーがいようとも己に与えられた使命「1点のダメージを与える」という仕事をきっちりと全うする。

このカードを初めて見た時の感想は「プロフェッショナルだな」と。そしてリミテッドで使ってみて、「ほんまもんのプロフェッショナルだな」と。1ターン目に出てきて、堅実にヒットを打っていく様。また、自身のヒットで“狂喜”持ちに確実に繋げることが出来、デッキの1番バッターとして素晴らしい働きを見せたものだ。

リミテッドのみならず、当時のスタンダードでもゴブリンデッキの一番手として堅実な働きを見せていたのを覚えている。フレイバーは、決勝ラウンドまで頑張って勝ち上がってきたのに、赤単にブン回られて負け、そんな経験をしたことがあるプレイヤーには納得の一言である。


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2015/5/14 「テゼレットの計略」





マジックは、マナという限られたリソースを元に行動するゲームである。故に、1ターンの間にとれる行動はそれほど多い訳ではない。幾つかある選択肢から、多くて2つ3つの呪文を唱えたり能力を起動してターン終了、というのがもっぱらだろう。

この束縛を突き抜けて異常なまでの行動回数を誇るコンボデッキが強いのも当然。道理から外れたことをやっている訳だ。

このマナ=行動数を前提に考えると、マナをブーストするカードがそう簡単なものにはデザインされてはいけないし、事実されていないということがよくわかる。次いで、ドロー呪文というものも慎重に設計しなければならないんだなということも納得してもらえるだろう。ドロー呪文が軽ければ、限られたマナの中でもドロー→引いてきたものを使用、ということが簡単になってしまう。

《Ancestral Recall》はやはり許されざる存在なのだ。例え手札が増えないタイプのドローであっても、それが軽量ならばそれだけで強烈な存在となることは、モダンで《思案》《定業》が禁止であるという事実が物語っている。近年、基本セットなどでは3マナ2枚ドローのソーサリーである《予言》が採用され、ドロー呪文の基本的なものとして設定されている。3マナ2ドローくらいが、許される限界というところか。

3マナ2ドローと言えば…僕の好きな1枚が、『モダンマスターズ2015年版』にも収録されているじゃないか。というわけで、今週頭から行っているランキング第7位《テゼレットの計略》について紹介させていただこう。

厳密に言うと、このカードは3マナ2ドロー、ではない。歴とした4マナのカードである。ただし、3マナでも唱えることが出来る。それは、4マナ目にあたる青マナシンボルが、“ファイレクシア・マナ”で描かれているから…このマナシンボルは、通常のマナの支払い以外に2点のライフを支払うという方法で代用することが可能。

つまりは4マナ2ドローか、あるいは3マナ2ドロー2点ルーズかの2つのモードを持っている。これだけ聞くと《予言》よりランクが落ちるように聞こえるかもしれないが…青マナをライフで払えるということは《島》などが入っていないデッキでもこれを用いることが出来るということ。手札の消費が激しい赤単にドロー呪文を仕込めるということだ。本来そういったカードを有していない色のデッキに、他の色の特性を持ちこめることの意味は大きい。

さて、肝心なのは《テゼレットの計略》はただのドローだけではないオマケ付な点だ。これがこの呪文の基本的なコストを4に引き上げている要因だ(逆に、このオマケが無かったら全色で使える《血の署名》になっていた可能性もある)。

そのオマケとは“増殖”。戦場のカードとプレイヤーの上に置かれている全てのカウンターの数を1つ増やしても良い、というもの。-1/-1・+1/+1カウンター、蓄積カウンターに忠誠カウンター、プレイヤーを蝕む毒カウンターに《メルカディアの昇降機》独自のウィンチカウンターまで、なんだって1つ増やすことが出来る。

“感染”持ちや蓄積カウンターに溢れた『ミラディンの傷痕』ブロックのドラフトでは、手札を減らさずに相手の弱ったクリーチャーを除去しながら毒を増やしていく、無茶苦茶強い1枚だったのだ。『モダンマスターズ2015年版』では…“移植”“狂喜”“委縮”“頑強”その他の+1/+1カウンター系のカードが山盛り。どういった挙動を見せるのか、今からカバレージや配信が楽しみだ。



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2015/5/13 「アッシェンムーアの抉り出し」




僕らが常に求めるのは3マナのアタッカーだということを知ったのは、まだ学生だった頃である。『ローウィン』では《レンの地の克服者》《メドウグレインの騎士》というこれまでとは一線を画す2マナのアタッカーが登場し、皆これらのカードパワーに酔いしれることとなった。『モーニングタイド』の《苦花》も2マナのアタッカーと呼べるかもしれない。

勿論、流行り物を使いつつも抗いたい気持ちが僕の中には湧き起った。なんというか、昔から3マナのクリーチャーが好きで…《ファイレクシアの抹殺者》がその趣向の起源であることは確かだ。1ターン目、ハンデス。2ターン目相手のクリーチャーを除去orハンデス。3ターン目にこちらもクロック設置…至高の流れだ。

そして『シャドウムーア』にて、遂に期待に応えてくれる1枚が登場した。というわけで、「モダンマスターズ2015年版」発売日まで続く僕の個人的に好きなモダマス再録カードランキング、第8位は《アッシェンムーアの抉り出し》!名前、イラスト、デザイン…どれも琴線にピンピンピーンと響いてくる、素敵なカードだ。

前述のように、3マナでガシガシ殴っていけるクリーチャーを求めていた僕のようなプレイヤーには僥倖の1枚であった。3マナ4/4という秀でたマナレシオ。能力はブロックに参加できないというデメリットではあるが、そこは気にしない。前のめりに生きる姿勢にブロックは必要ない。黒単or赤単or赤黒でしか用いることのないカードであることは、赤黒ハイブリッドのトリプルシンボルから明白。これらの色のデッキならば、相手の攻め手を受ける必要は全くなく除去し続ければいいだけの話。

そんなわけで、3ターン目に出したコイツで5回殴って勝つ、という赤黒デッキを作ったりしたものだ。当時の基本的な除去だった《名も無き転置》や《火葬》単体では除去出来ず、上述の2マナのカード達に一方的に討ち取られることもなく(《レンの地の克服者》だけは接死で相討ち。除去ってね)、ボコボコ殴っていける素晴らしいカードだ。

相手の《炎渦竜巻》は効かないということは自身の《硫黄破》でも落ちずに更地を殴りに行けるということだ。黒であるために《恐怖》系の呪文すら手出しが出来ない…振り返ってみると、時代と噛み合い過ぎである。同期の桜(同セットのハイブリッド・トリプルシンボル3マナ生物サイクルを形成する仲間の意)であり、非常に多くのプレイヤーに愛された《台所の嫌がらせ屋》に対して人気では落ちるものの、ぶつかり合った場合は一方的に討ち取ることが出来る。本当に良いカードだ。

スタンダード落ちしてからしばらくは忘却の彼方へ旅立っていたが、最近のセットのカードとは相性が良い。『テーロス』の信心しかり、『タルキール覇王譚』の戦士シナジーしかり。いろいろと好条件が揃っている1枚なのだ。『モダンマスターズ』での《台所の嫌がらせ屋》と入れ替わりで登場した抉り出しは、果たして世界3か所同時GPで活躍できるのか?某寄生生物漫画のラスボスの「俺にとっては戦いこそが…!」というセリフを髣髴とさせるフレイバーも、男の子の心を熱くしてくれるものだ。


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2015/5/12 「タージ=ナールの剣鍛冶」



「モダマス再録カードの中から個人的にイイネなカードランキング」第9位!《タージ=ナールの剣鍛冶》!9位な理由は特にないが、10枚選べと言われたら外すことは出来ない1枚。

なんだったら1位でも良かったかもしれないが、なんとなく「こんなもんだろう」と。こんなもん、程度で済まされる1枚だが、僕はそんなもんが大好きなんだな。

 4マナ2/3とマナレシオは悪い。かつてこのサイズで活躍したクリーチャーといったら…稀有なものである。《アウグスティン四世大判事》くらいか。アウグスティンは能力が強烈だったが、マルチカラーのレアなんでそれぐらいでなきゃというところ。

白単色のアンコモンの剣鍛冶は、ならばランクを落とした能力を所持しているのが妥当。その能力とは…装備品をサーチして戦場に出す、という誘発型能力だ。あれ、強くないか?同じ鍛冶の後輩にあたる《石鍛冶の神秘家》の上位カードな可能性が!

 …ないんだな、これが。装備品をサーチしてくるには、それ自体のマナコストを支払わなければならない。大人気《殴打頭蓋》を持ってこようと思ったら、実に5マナが必要だ。本体の4マナと併せて、実に9マナ!「コストパフォーマンスが悪い」カードが構築で活躍できない要因第1位とも言われる、ごもっともな理由で、剣鍛冶がバリバリ活躍するということはなかった。

《殴打頭蓋》などの“生体武器”が登場する以前は、装備品は装備コストを支払ってやっと使い物になるので、例えば《骨断ちの矛槍》を用いる場合も4マナ+能力で1マナ+装備コストに1マナの計6マナ支払ってようやく4/3のクリーチャーを準備できる。ちょっと重いよなぁ。

 だが、悪いカードでは決してない。それこそ、6マナ4/3として用意して速除去されてしまっても、後続が《骨断ちの矛槍》の恩恵をえることが出来る。なんだったら先だって戦場にいたクリーチャーに装備させて攻撃しても良いじゃないか。「シブくないか」そう思った僕は、「エクイップ」と呼ばれる装備品偏重デッキでこのレオニンを用いたものだ。

 後に《火と氷の剣》《光と影の剣》そして《梅澤の十手》といった史上最強クラスの装備品が姿を現すと、その活躍の機会は増えた。《石鍛冶の神秘家》のようなメチャ強からは程遠いが、6ターン目に十手と2/3を同時に戦線投下とかは、悪くなかったのだ。


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2015/5/11 「コジレックの職工」



『モダンマスターズ2015年版』が来る。5/11現在、もう目の前まで発売が迫っている。せっかくなので、カウントダウン形式でいってみよう。個人的に好きなカードを1日1枚紹介して、10枚紹介すれば発売日に辿り着ける計算だ(当コラムは、日曜日はお休みだからね)。早速行ってみよう!

というわけで、第10位。《コジレックの職工》。都合がいいことにパワーも10なので、10位のカードとして紹介するのに丁度良い。…雑な理由かもしれないが、パッと思いつくラインでね、コイツかなと。

9マナ10/9、無色。この時点でまあまあ強くないかな、《リバイアサン》なんかに比べるとどぎつい色マナを要求されるわけでもないし維持費も不要。勿論純粋な完全上位互換だと叫ぶつもりはない…が、ほぼそうである。特別な理由がない限り、青単でもそれ以外の色でもパワー10のクリーチャーが欲しいならこの職工を使って欲しい。

サイズだけでも脅威だが、“滅殺2”という無慈悲な能力がパーマネントを奪ってゆく。パワー10の怪物に殴られながら、パーマネントを2枚削られる…勿論、ブロックしないとライフの半分を持っていかれるので防がざるを得ない。

これの攻撃を許している時点で除去はないので(あれば即座に使っている)、殴っている側からすると以降のプレイングも強気に出られるのはエルドラージ全般に言える利点だ。例えコンバットトリックや《強打》で討ち取られても、1:3交換なら悪くないどころかお釣りがくる。複数ブロックなんて、喜んでされてやろう。

戦場に出てからの戦闘力だけでもここまで評価できるが、この職工は着地以前にも一仕事やってのけるからたまらない。これを唱えた時、墓地からクリーチャーを1体戦場に出すことが出来るという、《ゾンビ化》がオマケとしてついてくるのだ。

9マナで墓地に落ちている《ペラッカのワーム》を釣り上げながら10/9滅殺2が降臨…カロリーが高すぎるアクションだ。ドラフトでこのサイズのクリーチャーを…実は結構簡単に出せる環境(勿論、それを狙ったピックをしなければならないが)であり、僕はパックの中にこのバケモノを発見すると心中しても構わんという意志でピックしていた。

もし流れが大量のマナを揃えることが出来る緑を中心とした色が取れるものにならなくても、「対戦相手に使われなかっただけ良かった」と思えるじゃないか。まあ、ほとんどの場合強引に緑やって、叩きつける側だったというのが事実である。

とにかく、リミテッドでの出せた時の感動と破壊力はこの上ない。今回のモダマスだったら…《霊気撃ち》なんか合わせて使いたいなぁ。

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2015/5/9 「スゥルタイの隆盛」




青と黒と緑。所謂「楔3色」。この組み合わせの場合、緑とその対抗色である青と黒が組み合わさっている。非常に珍しい…ものだった。過去形なのは皆さんもご存知の通り、今では何の違和感もない色の組み合わせとなっているからだ。『タルキール覇王譚』にて登場した氏族の1つ、「スゥルタイ」は、黒を中心とした青と緑からなる勢力で“探査”とそれに関わる墓地利用をテーマとしている。

確かに、この3色が墓地利用というのはすごくしっくりくる組み合わせだ。思えば最初の墓地推しセット『オデッセイ』でもこの3色はちゃんと墓地を使い、強い色だったように覚えている。

この3色、実は墓地以外にも得意な点が…得意っていうほどかな、ちょっと疑問はあるが…まあこの《スゥルタイの隆盛》を見て欲しい。3マナ3色エンチャントサイクルの1つであり、この墓地を主戦場とする氏族のカードは…アップキープに誘発し、ライブラリーの上から2枚見て、墓地に置くもよしトップにそのままもよしな、ドロー操作兼墓地肥やしというエンチャントだ。

青は勿論、黒も追加ドロー呪文などは多く持っている。そして緑…実はドローはそこそこ得意で《森の知恵》や《ミリーの悪知恵》みたいな操作エンチャントもしっかりある、ということで3色の得意なものが1つになった、というわけだ。うーんやっぱり苦しいか?いや気にしない!

2枚見て並べ替えるか墓地に落とすか。なかなかの速度でライブラリーを掘り進むことが出来る。探査呪文との相性は悪くない。

…しかし、サイクルの他のカードに比べるとどうしても見劣りしてしまう。何故か?それはこのカードの能力が実質的に1つしかないからだ。ご存知の通り、隆盛サイクルは全てが2つの能力を持っている。それら2つの能力はそれぞれが別個に働き、あるいは同時に機能することでプレイヤーに恩恵をもたらす。

その中で、《スゥルタイの隆盛》だけがライブラリー操作能力ただ1つだけしか持っていない。これでは、気持ち見劣りしてしまうのもしょうがない。《ジェスカイの隆盛》が天下にその名を轟かせたのは、あの2つの能力合ってこそで、どちらかがオマケなどというわけではない。

《スゥルタイの隆盛》も悪くはない。悪くはないが、今の押せ押せ環境ではこれを貼ること自体がそもそもロスなのだ。なんらかの防御的な常在型能力なんかが付随していれば、あるいは天下に届いたのはこの氏族だったのやもしれぬ。

青黒緑の3色のエンチャントとしては史上初の1枚である。もうちょっと派手にしてやって欲しかったが、あるいはこの地味さが色の組み合わせ的には丁度良いのかもしれない。『運命再編』対戦キットに絵違いが収録されているのは意外と知られていない。



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2015/5/8 「野生の意志、マラス」



連休はやっぱり皆マジック漬け?この趣味の凄い所は、常日頃遊んでいるプレイヤーが連休などに改めてどっぷり浸るという現実である。平日レガシー行って、FNM出て、土日はPPTQ、さあゴールデンウィークだー皆俺ん家こいよーずっとドラフトやろうぜーみたいなね。明らかな中毒者を生み出している、このゲームは脳内物質の分泌量をすごいことにさせるからねーしょうがない。

さて、休みに友人らと集まって遊ぶのに適しているフォーマットと言えばやはりEDH・統率者戦だろう。これまた、マジック中毒者を増やした要因であるとも言える。カジュアルで、重いカードにも市民権があって、普段は味わえない未知の戦場がゲームごとに待っている…カジュアルにマジックを楽しんでいるプレイヤー達がハマらない訳もなく。今回はそんなパーティーゲームの自キャラ=統率者にオススメな1枚を紹介しよう。《野生の意志、マラス》だ。

そもそも統率者戦とは、自身が選んだ伝説のクリーチャーを主軸としてデッキを組む。これが除去されてしまうと辛い。故に救済として、死亡したり追放された統率者は統率領域に置いてOK!その代わり、次に唱える時は前回よりも2マナ重くなるよ!というルールの下で遊ばれている。例え4マナ4/4の扱いやすい統率者でも、一度死亡すれば6マナ、その次は8マナと重くなっていく。ジワジワとカードパワーが下がっていくのだ。10マナ払ってやっとのこと呼び出して4/4とか、悲しいものだ(ここまで除去されているのも問題だが)。『統率者2013』の看板カードとなった連中は、こうした悲しみに終止符を打つべく、新機軸の能力を携えて現れた。《野生の意志、マラス》は唱える際に支払われたマナの数だけサイズを上げていく。3マナ3/3、5マナ5/5、7マナ7/7…悪くない。一回戦場を離れたという事実をポジティブに受け止めることが出来そうではないか。

さらにマラスは、そうやって上がっていくサイズ=+1/+1カウンターを消費する能力を備えている。これはその個数が増えた方が起動機会・威力共に上昇するものなので、大いに越したことはない。その身を犠牲にする度により強くなって還ってくる、まさしく野生の具現化。3つの能力はいずれも強力だが、個人的にはエレメンタルを生み出す能力がイカすなと。これ、《倍増の季節》と絡めると本当に訳のわからないことになるのでめちゃくちゃオススメ。

実は発売当日にオラクルを受けてルールテキストに変更を受けている。「X=0では起動できない」ということになっている。0マナで0/0を無限に生み出したり、0点を無限射出したりは許されないのだ…《鍛冶の神、パーフォロス》や《硫黄の蒸気》で夢が見れると思ったんだけどなぁ。


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2015/5/7 「熱の陽炎」



 あっちゅう間に5月。2015年の4月は寒く、雨も多かった。5月は…これを書いている段階では一気に7月の前半のような気候だ。そこそこ過ごしやすいではないか。ちょっと運動をすると、ダラダラと汗が流れてくる…夏感はある。これからますます暑くなっていくのだろう。アスファルトに覆われた僕らの住む街は、日光の恩恵の受け方を間違えて、照り返す地獄を生み出す。道路の向こうに陽炎が見えるようになるのも、もう少しなんだろう。陽炎と言えば…いやぁ、今回は入りが無理がありまくりですなぁ。

 《熱の陽炎》はマジックでよく見る、「過去のカードの能力を1枚のソーサリーやインスタントに切り出したよと言わんばかりなカード」の系譜に名を連ねる。系譜名が長すぎるとかは言わないでほしい。とにかく、マジックにはもう山ほどカードがあるのだから「あーこれなんかのカードで見たな」ってなものがいくつあってもおかしくはない。これはネタ切れ、というよりは再利用・セルフパロディと言った方が正しい。パック剥いて「あ~これ○○と同じなのか、懐かしい」となってくれる人がいたりしたら、ガッツポーズものだと思う。この《熱の陽炎》はさしずめ《鏡割りのキキジキ》のそれであろうか。

 ただ、純粋な焼き増しというわけではなく、少々変更点もある。キキジキは自身がコントロールする伝説でないクリーチャー限定であったが、《熱の陽炎》は対象にさえ取れればなんでもコピーできる。即ち、『ローウィン』にて登場した当時は伝説のクリーチャーを問答無用で除去れる1枚だったというわけだ。赤にしてはなかなか凄いよね。勿論、これはレジェンドルールが変更となった現在では為しえない挙動ではあるが、むしろ強力なレジェンドのコピーで殴りに行けるから良いじゃないかと思っておこう。

 相手の最も強力なクリーチャーをコピーして使い捨てのアタッカーとする、どことなく《脅しつけ》っぽくもあり、リミテッドでは勿論有用。ただ、相手の駒が減る《脅しつけ》と比べるとこれは純粋にこちらの駒が1つ増えるだけ。そこは注意して運用したい。

 どちらかと言うと、自身のクリーチャーで水増ししたい高い打点を持つアタッカー・戦場に出た時に誘発する能力を持つ連中と組み合わせてコピーする=勝ちみたいなカードとして設定してやりたい。最初にこのカードを見た時《ボール・ライトニング》8枚体制や!と思った僕はアホだったが、《憤怒の鍛冶工》8枚体制や!と思った時はやるやんと自分を褒めたものである。まあ、オーバーキル以外の何物でもなかったけどね。



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2015/4/25 「ボーラスの工作員、テゼレット」



 ひっさしぶりのプレインズウォーカーの紹介である。《野生語りのガラク》以来だろうか。というかまだ2枚目か!割と意図的に避けてきたんだけど、避けすぎた説もある。まあ、そろそろ頃合いということで。「ダークブルー・ウィーク」のラストを飾るには愛好家・信者も多い、《ボーラスの工作員、テゼレット》をいってみよう!

 青黒のプレインズウォーカー、それだけでこちとらテンションあがってしまうというもの。《求道者テゼレット》がボーラスの配下に加わり、すったもんだの末改造人間的アプローチで元気になって、ちょいとファイレクシア化が進むミラディンへおつかいに来た、そんな状態のテゼレットさんをカード化。道を求めるあまり、悪に堕ちたもの証として黒を含む姿となってしまったが、全国の青黒好きからすればむしろ歓迎だったようだ。

 その能力は、テゼレットなので勿論アーティファクトにまつわるものオンリー。順を追って見ていこう。

 +1能力はライブラリーの上から5枚を捲って、その中からアーティファクトを1枚手札に加えてよいという、シンプルにアドバンテージを取りに行ける能力。当時、《精神を刻む者、ジェイス》の味を知り始めていたプレイヤー達には少々物足りなさを感じる部分もあっただろうが、冷静に考えて5枚の中から1枚探せる、というだけで十二分に強力なドローソースやからね。

 -1能力、これがこのテゼレットのセールスポイントとでも言おうか。アーティファクトを、5/5というフィニッシャークラスの巨大ロボに生まれ変わらせることが出来る。自身が以前持っていた大-能力に似ているが、全体ではなくなった代わりに効果が永続という変更を迎えている。これが強力で、自身を護るブロッカーにしても良いし、《墨蛾の生息地》がいきなり毒を5個乗っけてくるなんていう奇襲も狙える。相手のアーティファクトに使って、除去呪文で壊せるようにしてしまうというのも手だ。プレインズウォーカーの命題である、自己防衛を割と簡単に成し遂げてしまうこの能力は無視できないものだ。

 -4能力、自身のアーティファクトの数×2点のライフドレイン。まさしく奥義と呼ぶにふさわしい、インパクトと破壊力に溢れた能力。これの良い所は、出した次のターンに使えるというラグの少なさ。とりあえず5枚見て忠誠値を増やしつつ、次のターンのドレイン量を増やすアーティファクトを補充。次のターンにはスコーンと10点くらい吸い取ってしまえば勝利など容易い。

 青黒とアーティファクト依存という、一見クセの塊のような条件を持っているが能力自体はストレート極まりなく、扱いやすい良いカードだ。同じくボーラス配下に所属となっていた《狂乱のサルカン》と、3つの能力がいずれも同ベクトルなのは面白い。そして、格差があるのも…。



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2015/4/24 「蝕み」



 かつてワシらが憧れておったカードがあったんじゃ。シングルカードなど、とてもじゃないけど買えるほどお小遣いもなかった中学生の頃の話じゃ。『インベイジョン』で登場したレアカード達は、ワシらのメルマス主体のデッキにはないパワーと華々しさを見せつけてくれたんじゃ…欲しい!でも買えない!だから、パックをコツコツ剥いて、仲間内でトレードするしかなかったんじゃ。今思い返せば、あれはあれで素敵な時代じゃな。

 そんなワシらの間で、高嶺の花であり、人気を二分していたサイクルがあったんじゃ。それが《吸収》《蝕み》の《対抗呪文》+α呪文達じゃな。攻めっ気の溢れる連中が多かったこと、またワシらがまだまだ初心者でライフを削られることを嫌っていたということもあって、どちらかと言えば《蝕み》が崇拝されていたように思うんじゃ。

 《蝕み》は《対抗呪文》に黒マナ1つを上乗せするだけで、3点ライフルーズという本体限定火力がくっついてくる呪文じゃ。確かに黒には、プレイヤーのライフを失わせる役割も与えられておったが…1マナで3点も失わせるような呪文は、当時なかったんじゃ。確定カウンターっていうだけでも強いのに、相手のライフが減るんじゃよ?というわけで、多くのデッキでとりあえず感覚で使われておったのう。今冷静に考えれば、ずっしりどっしり構えるコントロールでチョンッと3点削ってもそれほど意味がないようにも思うんじゃが…いやいや、カッコ良かったから良いんじゃのう。トップメタだった「ネザー・ゴー」も、2点ずつチマチマ削っていきよるデッキじゃからこの3点はゲームを進めるのに役立ってくれたっちゃくれたのう。

 『アポカリプス』では同様にコントロール色が強めながらアグレッシヴさを併せ持つカードが増えて、活躍する場も増えたわい。《予言の稲妻》と《蝕み》だけを勝ち手段にしたようなデッキさえ登場したもんじゃ。同じく《対抗呪文》チョイ足しサイクルである《神秘の蛇》との打ち消しながら攻めに行くマナカーブも素晴らしかったのう。

 されど時は流れて…『オデッセイ』にて《サイカトグ》がワンパンチで勝負を決めるコントロールが幅を利かせるようになってのう。この《蝕み》は、3点の価値がほぼなく3マナのカウンター、言わば《取り消し》と同じような扱いになったんじゃ。あんなに強かったのに、徐々にデッキに入らなくなっていって…寂しかったのう。

 どんなカードでも、時代には勝てないんじゃ。ワシらはそれを学んだ。ただ、このカードのように一度でも天下に届いたのであれば…ワシはそれだけで十分だと思うし、事実今でも皆の記憶に《蝕み》は息づいておるのう。



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2015/4/23 「リム=ドゥールの櫃」



 青と黒の組み合わせは、正義じゃない。「俺にとってのジャスティス」とかそういうのは抜きにして(抜きにしてね)、世界観的にはあまり正義の側に立つ組み合わせではないのだ。『ラヴニカ:ギルドの都』の頃は、青黒のギルド・ディミーアが事件を起こした。『運命再編』でも同色の龍、シルムガルがカン達を襲撃し彼らの歴史を終わらせた。裏切りのアンデッドの王、ドラルヌ卿も青黒。《プレインズウォーカー、ニコル・ボーラス》もこの2色を持ち、彼の工作員も青黒のプレインズウォーカーだ。狡猾で邪悪なる、知的な悪役。青黒に与えられた役割である。めちゃくちゃ納得できる。色だけ見ても、クールでダークなカラーの組み合わせ。主人公側でないのは一目瞭然ではないか。
 リム=ドゥールもそうしたマジック界の悪役の一人だ。彼は黒と赤の要素を強く持っているがため「屍術師」となったそうだが、彼の名を聞くと真っ先に思い浮かぶこの《リム=ドゥールの櫃》が、どうしても彼を青黒メインのキャラクターだと思わせる。それだけ、このカードは印象が強い存在なのである。

 青黒の2マナのインスタントで、ライブラリーを上から5枚見て並べ替えることが出来る。手札は増えない。これだけだと、ハッキリ言って相当に弱い。勿論、マルチカラーのカードがこれで終わるようでは問題だ。そこはしっかりと、更なる効果が付随している。捲った5枚が気に入らない…土地が無かったり、むしろ土地オンリーだったり。そんな時は1点のライフを支払って、この5枚を無かったことにしてOK。これらをボトムに送って、トップからお気に入りの5枚の組み合わせがみつかるまでは同じ動作を繰り返してOK!そこまで大きなライフを支払わずとも、ライブラリーを全部見てしまうことも可能なのだ。お気に入りの5枚が決まったら、それ以外はシャッフルして、この5枚を望む順番でトップに置く。

 《吸血の教示者》の複数枚バージョンと捉えることも出来るだろう。4点以内の支払いで欲しい2枚を好きな順で積むことが出来れば相当にお得感がある。というわけで、2枚以上のパーツを要求するコンボのサポートなんかにはピッタリな1枚だ。相手の2ターン目エンド時に《入念な研究》《グリセルブランド》《動く死体》《Force of Will》《目くらまし》みたいな5枚を積み込みできればもう勝ちでしょ。

 プレイヤーをまあまあ試してくる1枚でもある。君はどこまで割り切れるか?どこまでも貪欲になれるのか?実に青黒らしい1枚だよまったく。



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2015/4/22 「苦悶のねじれ」



 コモンの除去カードのデザインって、ものすごく難しいものの1つだと思う。ここでのさじ加減1つで、ゲームがムチャクチャしんどいものになったり、ぬる過ぎてダレたものになってしまう可能性がある。除去は強すぎても、弱すぎても駄目だ。適度に優秀で、堅実にカード1枚分の仕事を果たしてほしい。その昔は、コモン除去が強すぎたイメージがある。《稲妻》と《破滅の刃》の両方がコモンだった「基本セット2010」「2011」はシビアな世界だった記憶がある(その分、《戦隊の鷹》なんかもいて生物もまあまあ強かった記憶も)。

 基本セットならまだしも、各々の色を放つエキスパンションでのコモン除去も、本当に扱いが難しいだろう。くどい程にセットの持つメカニズムを押し出してしまうと、コストがかさばったり癖が強くなりすぎて使い物にならなくなることも少なくない。たしかに、僕らは長くこのゲームに携わって多くのカードを見てきた。故に、ありふれたテキストよりも新たな刺激を求めてしまう。求めるが、それが自分に扱いこなせない暴れ馬だった場合には文句を言う。マジックプレイヤーとは、贅沢言いなのだ。

 そんな難しい注文にも応えることが出来るカードが時折姿を現す。そんな時って気持ちがいいものだ。《苦悶のねじれ》なんかは、そんな強すぎず最低限度以上の働きをし、使いやすくてセットのメカニズムも盛り込んである、という完璧超人とも言える1枚。ほめ過ぎにも見えるが、褒めていいでしょこのカードは。

 青黒の2マナのインスタント、この色の組み合わせは『アラーラの断片』の舞台およびメカニズムの1つである青黒赤のマナからなる「グリクシス」に属するカードにして、同じく青と黒を扱える白青黒の断片「エスパー」でも用いることが出来る便利なコンビネーションだ。これが赤青のカードだったりしたら、グリクシスでしか扱えないものとなっていた。絶妙に使いやすい色の組み合わせにしつつも、1つの世界観を強く主張する。良いデザインだね!このインスタントは、―3/―3修正を分割して与えることが出来る。パワーとタフネス、それぞれを-3させる独立した効果を持っている。これを合わせて1体のクリーチャーを―3/―3しても良し、2体のクリーチャーによる攻撃を1体はタフネス修正で除去、もう1体はパワー修正でノーダメージ、なんて具合に捌いても良い。この分割修正に、こちらのブロッカーが絡んだりすると1枚のカードで2体のクリーチャーを捌けたりするんだから、こりゃ強いよ。特に「フェアリー」にて、《苦花》トークンとあわせた日にはお手軽盤面お掃除マシーンだったものだ。

 勿論、サイズが大きなクリーチャーには確定除去として力不足だったり、2色故にプロテクションに引っかかりやすかったりと、程よい弱点も用意されている。これぐらいのカードがコモンにあると、嬉しいねェ。



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2015/4/21 「概念泥棒」



 青と黒のみを語る「ダークブルー・ウィーク」。青と黒の組み合わせってのは皆が大好きな2色であることは相場が証明している。青…ドロー 黒…ハンデス、両者ともアプローチの仕方が違うとはいえ、手札に関するアドバンテージの獲得を得意とする色だ。「光と闇が合わさり最強に見える」なんて言うが、ドローとハンデスが合わされば究極の呪文になったりするんじゃないだろうか。《稲妻のらせん》は火力と回復が合わさり、実際に無茶苦茶強い。青と黒にもそんな呪文があるべきだ!

 …と言う声が響いたかどうかはわからないが、それらしい能力を持ったクリーチャーが『ドラゴンの迷路』にて登場した。その名も《概念泥棒》。4マナ3/1、実に青黒らしいサイズに併せ持つは瞬速。青黒と言えば、やはり構えたい色。カウンター、除去、ドロー…いずれも、インスタントであるからこそ効果があるもの(特にカウンターはね)。故に、この色の生物で瞬速を持っているのはそれだけで価値が跳ね上がる。

さて、この泥棒は3というパワーを活かしてアタッカーになる訳でも、瞬速で疑似除去となることも出来るが、それがこのカードの真価では全くない。大事なのはその常在型能力。古のドロー抑制エンチャント《Chains of Mephistopheles》が持っていた、通常ドロー以外のドローをシャットアウトするイカツイ能力を模したかのような、相手のドロー封印+統率者戦などカジュアルフォーマットで人気な、相手のドローをそっくりいただく《盗用》を合体させたような能力を持っている。相手の通常ドロー以外を、全て自分が代わりに引くことが出来る。コイツぁたしかに泥棒だ。



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2015/4/20 「目覚めし深海、レクシャル」



 先週は「突進ウィーク」をお届けしたんだけども、見事にナヤカラー(赤白緑)で固められていた。青くて突進っぽいカードって、そもそもないしね。黒で《死体の突進》は考えたけども、それで1000文字書くテンションではなかったのでスルーした。青と黒のカードも紹介して!という声が聞こえてきそうだし、事実僕自身もその色のカードを書きたくなったのでお題を考えてみた。…アカーン!貧困な発想力では何も思い浮かばんぞ…ということで、いっそ開き直ることにした。「ダークブルー・ウィーク」だ。今週は、青黒のマルチカラーのカードのみを紹介する一週間だ。これぐらいの偏り、許されるよね?マジックでも「至高の組み合わせ」としての地位を確保してるし…《Underground Sea》の値段が全ての証明。

 先頭バッターからして青と黒らしくない、ファッティ(大型クリーチャー)を紹介するのもどうかとは思うが、気分がそうだったんだからしょうがない。《目覚めし深海、レクシャル》のお出ましだ。青の方が濃い6マナで5/8という、他に類を見ないボディ。調べたところ、レクシャルを含めてたったの2種類しか存在しないレアなサイズであった。いくらお尻が大きいとは言え、このレクシャルは防御用のカードでは微塵もない。島渡り&沼渡り、自身が有する色に対する強烈な回避能力を有しているのだ。こうなるとパワーとタフネスを逆にしてほしかったところだが、召喚酔い中は地上をガッチリ受け止め、酔いが解けたら一転構成レクシャルパンチ、と考えれば悪くない。というか青と黒でパワー8は駄目だわな。

 レクシャルの攻撃は、さらにアドバンテージすらもたらす。触手の塊である左腕でド突いたプレイヤーの墓地から、インスタントかソーサリーを掘り起しそれをマナを払わずに唱えることが出来るのだ。リミテッドなんかでは序盤に用いた除去をそっくりいただくことで、攻勢をかけながら相手の反撃の芽を摘む、攻防一体の能力を持ち合わせている。構築で考えると…やはり少々重いうえに除去耐性が皆無なのがなんとも言えないが(火力で落ちることはまずないだろうが)、ドロースペルなんかをペロリといけちゃったりすると勝負アリ。そう考えると、統率者戦では大いに活躍してくれるのかも知れない。3人のうち、全員が除去を持っているわけではない。握っていない者は、なかなかソーサリーとインスタントを使い辛くなってしまうことだろう。あるいは、政治的駆け引きの材料となるかも。「俺を殴れ!俺の墓地の《剣を鍬に》でアイツのジェネラル刈ってくれ!」なんて展開、熱いね。『統率者』に収録されているのも納得だ。

 カードではわかりにくいが、完全な人型ではなく下半身はイカタコなルックス。大きなイラストで見ればよくわかるだろう。人のシルエットを持つイカタコ触手怪物、ということでクトゥルフ神話っぽさを覚えた人も少なからずいたことだろう。まさか、これが次期セット『エルドラージ覚醒』の「マジック的クトゥルフ・ワールド」への布石だったとはなぁ…「セクシャル」と語感がほぼ一緒の名前を公式にいじられたりと、影は薄いが存在感はある。



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2015/4/18 「ワームの突進」



 「クラッシュ」と一口に言っても、実は2種類ある。「Clash」と「Crush」だ。「Clash」の方が我々にはなじみ深いかもしれない。「衝突する」という意味で、実際に衝突事故なんかは「クラッシュした」ということが多いだろう。では「Crush」は?というと、実は我々日本人には「Clash」から想定される光景と大差なく思えるものを意味していたりする。「Crush」は押しつぶす・壊滅させるという、物理的な破壊を意味する(同時に心をくじくなど、精神的な破壊も意味したりする)。これ、結構ややこしいよね。衝突により壊滅させたときなんかは、どちらを表記したりするのだろうか?まだまだわからないことばかりである。

 さて、「突進ウィーク」のラストを飾るのは、突進を名に冠するカードの中でも最大級の衝撃を放つ、僕がめちゃくちゃ好きな1枚でもある《ワームの突進》だ。イラストが大迫力で良いよね。この1枚で、完全にChristopher Moellerファンになってしまったものだ。上に乗られているワームがムギュっという表情をしているのが実にカワイイ。

 カードとしては、イラストを見たまんまワーム・トークンを3体出すというもの。そのサイズは6/6!つまりカード1枚で18点分のダメージソースを生み出せるという訳だ。さらに、フラッシュバックも可能。こんなもん、オーバーキル以外の何物でもない。このカード1枚で、一気に36点もの打線を作ることが出来る。1番から6番まで、長距離バッターを揃えてみましたってなもんである。

 勿論、そんな大規模なチームを運営するにはオカネがかかるわけで、このカードのマナコストはトリプルシンボルの9!フラッシュバックに至っては、同じくトリプルの12!普通のデッキではキャストできるわけもなく。フラッシュバックにより本来のコストよりも安く手軽に運用出来た《ワームの咆哮》とは決定的に異なるカードである。重かろう強かろう、という潔いデザインだ。しかしリミテッドでも重すぎるような常軌を逸したカードを、どんなデッキが用いることが出来るというのか。

 それが、あったのだ。まず1つは、このカードと同じ『ジャッジメント』に収録された《ミラーリの目覚め》でマナを倍加させる「ウェイク」。このデッキならば苦にせず運用できるだろう。そしてもう1つは、エクステンデッドで《呪文織りのらせん》とコンボでキャストする「クラッシュウィーバー」。軽いフラッシュバック持ちとこれをらせんに刻印してキャストするという、壮大な物語のようなデッキだ。

 このカードが出た頃は、友人らと「《ワームの突進》選手権」というトーナメントを開いた。くじを引いて青・白・黒・赤の4色から当たった色+緑の2色デッキを構築して対戦。ただし《ワームの突進》は4枚採用すること、こんなルールだったな。「バーンクラッシュ」「レベルワーム」「突進パーミッション」…いやぁ無茶苦茶懐かしい。



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2015/4/17 「戦場での猛進」



 もしかしたら、『基本セット2015』以降に導入された所謂「新・新枠」のカードについてこのコラムで書くのは初めてのことか。どれだけ自分が古いカードを愛して優先的に書いているのかがよくわかった。そろそろ新顔だった連中たちもドラマを残してきているので、何かしら書くことも出来るだろう。

 「突進ウィーク」であるが、まあ猛進も似たようなものでしょう。「猪突猛進」が示すように、力強く進むさまを表す言葉であり、新生活に挑む皆にはこれを貫いてほしいと思っている。エネルギーのいることだが、このカードのような心のソーサリーを見つけて欲しい。

 『タルキール覇王譚』ドラフトは久々にそれなりの数をプレイした環境だった。一番成功したと感じたアーキタイプは、個人的にはアブザンの戦士ビートだった。次いで、マルドゥの同じく戦士ビート。読んで字の如く、戦士を中心としたクリーチャーでビートダウンしていく、シンプルな戦略だ。白と黒には軽くて戦力になる戦士が複数おり、それらを緑か赤でサポートする、というのが大好きな戦略だった。その戦略を支えるのが、コモンの「バーラン」こと《戦場での猛進》だ。バーランとは、《踏み荒らし》の英名「Overrun」から出来た俗語。自身のクリーチャーを殴りに行かせるために全体強化するソーサリーの類をこう呼ぶ。

《戦場での猛進》は全体に+2/+1修正と、本家バーランにはかなわない。まあ、コモンでシングルシンボルの白のカードに、あまり完璧なものを求めても酷と言うものだし、そうなるとドラフトが「酷いゲーム」になってしまいかねない。トランプルが着く訳ではないので、よりクリーチャーを並べることが重要となるカードだ。それらに飛行なんかが着いていれば尚良い。

 このカードは、どんなクリーチャーでも強化することが出来るが、一応は部族サポート呪文であり、真の効果を得られるのは戦士のみ。戦士であれば、サイズアップに加えて絆魂が付与される。これが、これがつえーんだわ。リミテッドというものは、基本的にダメージで決着をつけるゲームだ。構築に比べると除去も優秀なクリーチャーも限られてくるため、無駄遣いは出来ない。可能な限りは、相手のアタックを自らの肉体で受けるもの。5点を嫌がりチャンプ・ブロックをすれば手駒は減る。しかし5点を受けるのが痛いのもまた事実だ。そんな時、この絆魂が本当にありがたい。これが2枚ほど取れているデッキでは、もうライフは気にせず自身の戦場に1体でも多くの戦士を出すことを優先して行く。徐にこれを唱えて、サイズアップした戦士で攻撃。これで対戦相手を討ち取れなくても、ライフを13点回復、なんてやっちゃうとダメージレースにならなくなる。いやー、昨年秋はホンマにお世話になりました。



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2015/4/16 「無謀突進のサイクロプス」



 キュクロプスとは、天空神ウラノスと大地母神ガイアの息子3兄弟である。彼らはいずれも、「単眼の巨人」であった。彼らは兄弟族である複数の腕を持った巨人・ヘカトンケイル達と共に父であるウラノスに嫌われ、奈落へと落とされた。そこで久しく拘禁されていたが、後にゼウスらによって解放される。キュクロプス兄弟はいずれも雷に基づいた名前を与えられており、雷の精であったともされている。彼らは鍛冶としての能力も有しており、ゼウスらにお礼として装備品を造ったり雷を与えたりしたのだった。その後もゼウスの息子の元で鍛冶に励んだが、ゼウスの稲妻により息子を失ったアポロンの報復により虐殺されてしまったという。

 「オデュッセイア」にて登場するキュクロプスは、単眼の巨人ではあるが上述のような神ではなくただのバケモノ。人を襲って食べる怪物だ。ポセイドンの子、ポリュペーモスが代表的な存在だ。彼らは喋ったり酒を飲んだりもする人間らしい一面も持っている。

 某ヒーローコミックの影響もあって、「サイクロプス」という単語は日本では広く知れ渡っている方だ。そんな単眼の巨人にも、このように2つの側面が存在する。ではマジックにおけるサイクロプスはと言うと、皆さんご存知のように後者だ。それも、多くは骨格からして人類とは大きく異なったフォルムを持っている。

 サイクロプスは現時点で19体存在し、そのうち17体が赤い。ミノタウルスや巨人と同様に、赤の中型~大型クリーチャーの役割を与えられている。いずれも粗暴な、筋肉質の巨体を誇る蛮族的出で立ちで描かれている(《ニヴィックスのサイクロプス》は特殊)。その中でも一際目立つ存在が、唯一の3色サイクロプス《無謀突進のサイクロプス》だ。

 4マナ3/4、3色ならパワー4欲しいと思ってしまうが、能力が強力なので我儘は言えない。全ての自軍クリーチャーに速攻を付与、《熱情》内臓というわけだ。《熱情》のマナコストを考えると、緑か黒の1マナで3/4クリーチャーを出している計算となる。お得感満載、《熱情》がそもそもコスパ悪いとか言わないように。

 イラストにも見て取れるように粗そうで悪そう。ジャンドという、ドラゴンを頂点に据えた弱肉強食の世界で生きている怪物だ。凶暴かつ残忍なことだろう…が、味方に速攻つけるってなんか優しいな。速攻というのも稲妻を想起させ、どことなく神話に描かれたサイクロプス感を漂わせているのがなんとも好きなんだよなぁ。



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2015/4/15 「霊気の突進」



 やっぱり攻めの姿勢ってのは大事なもんよ。第一印象が8割とかなんとか書いている本も多数あるが、最初に自分を植え付けないと「負けちゃう」と個人的には思う。新しい環境、新しい人たちの中で生きていくには、自分という存在を刻み付けた方がいろいろと有利になれる。今週の「突進ウィーク」はそんな思いをこめて、攻めの姿勢全開のカードしか紹介しない。これも僕なりの突進で、初めましての方にもこれを機にこのコラムの存在を認知してもらう・させてやるって思いで書いている。

 攻めの姿勢ばかりのカードの中でも、特に尖りまくっているのはこの《霊気の突進》だ。赤いエンチャント・5マナ。嫌な予感しかしないやつ。あるいは、大好物でしかないやつ。僕は大好物側!このエンチャントは、あなたの戦場にビーストが出る度に4点ダメージの砲撃を行うことが出来る。4点と言えば、スタートライフの1/5。《溶岩の斧》が5マナで5点与えることを考えると、1度誘発しただけでは割高であるが、2度目の誘発以降はかなり割の良いダメージであると言える。8点、12点と突進をブチかませばライフを削り切ることは簡単だ。

 ビーストが条件になっているのは、狭い範囲を指しているように見えるかもしれない。だが、『オンスロート』ではビーストは赤・緑を中心に黒・青の一部と広く存在し、全者の2色では主要部族として他にも様々なサポートカードが用意されている。どうしてもビースト=大型クリーチャーというイメージがあるが、同セットには《疑い深い濃霧獣》や《貪欲なベイロス》といった、軽くて扱いやすいビーストがそこそこいたため、無理なく運用出来たものだ。また、同時期スタンダードには何度も戦場に出たり入ったりしてダメージを飛ばす《藪跳ねアヌーリッド》や、《貪欲なベイロス》との組み合わせて一瞬で16点ダメージを叩き込む《新緑の連続》といった素晴らしい相性を誇るカードが存在したのだ。これらをまとめあげた「3カラー・ビースト」、良いデッキだったなぁ。

 今なら各種ガラクと組み合わせれば、瞬く間にゲームが終わることだろう。あーええな、デッキ組みたい!



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2015/4/14 「ゴブリンの突撃」



 ゴブリンほど貫いている部族もないだろう。Pete Venters氏がそのルックスとファニーなキャラクターを確立してからは、この部族はあらゆるセット・あらゆる次元において「ゴブリンらしさ」を貫いている(メルカディアのヤツらでさえ、偉そうにしている感が実にゴブリンらしかった)。マヌケでアホで狡猾で、粗暴でクレイジー。どこか愛嬌がある、そんな素敵なゴブリン達は、僕のように長年親しんでいるオールド・プレイヤーにも、最新セットからデビューしたというルーキー・プレイヤーにも等しくそのキャラクターを全開にして向かってくる。『タルキール龍紀伝』のストーリーなんかを見ていても、ゴブリンは初対面でもガンガン話しかけてくるようで、4月から新生活の始まった人達もその姿勢は見習った方が良いのかもしれない。姿勢だけ、ね。

 そんなゴブリンのグイグイ来る感じを表現しきった1枚が本日紹介する《ゴブリンの突撃》。出た当初、このカードは多くのプレイヤーに「赤い《苦花》きた!」と評価されていたものだ。僕も、見たまんまそうだと思った…。《苦花》より重い3マナであるが、飛行を持たない代わりに速攻持ちのゴブリントークンをライフルーズなしで生産する。かなり良さそうに見える…でしょ?しかしながら《苦花》との決定的な差は、これがどう使っても防御用のカードとしての役目を果たさない事、完全攻撃特化型な1枚であるという点だ。

 何せ、全てのゴブリンに攻撃強制というデメリットが付随している。完全に前のめりなデッキならばこれは些細なことだろうが、そうでないデッキではこれは扱いにくい1枚となってしまうことだろう。毎ターン、2/2が突っ立っているだけで完封されてしまう3マナのエンチャントって、流石にお荷物だ。使うならば、そうならないように火力などの除去をしっかり積んだり、ゴブリンであることを活かした構築で臨みたい。

 このカードが登場して6年後、大方のプレイヤーがその存在も忘れた頃…これと同じ能力を持つクリーチャーが登場した。皆さんご存知、《ゴブリンの熟練扇動者》だ。《ゴブリンの突撃》とほぼ同じ能力に加えて、自身がクリーチャーであるという点も除去耐性は落ちているが、攻撃しているゴブリン1体につきパワーが1上昇するという打撃力の高さでカバー…というか完全に上回ってるってぇ!使われまくって高騰する…使われるとは思っていたが、「環境のスター」となるとはさすがに読めなかった。《ゴブリンの突撃》が果たせなかった分の活躍を加えても、まだまだお釣りが出るレベルじゃないか。



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2015/4/13 「無謀なる突進」



 4月。新学期、新生活。安直な発想だけども、許してほしい。しばらくそういったものとは無縁で、職業的にも10月なんかの方が「新環境が始まるな」なんて思ったりするんだけども、この春から進学したり就職して新環境に飛び込んでいく方もおられることでしょう。あるいは、転勤で地方に飛んで、全く初見のコミュニティでFNMを遊ばなければならなくなったり…いろいろ大変だ。この時期の皆さんを応援する意味も込めて、今週は突っ走る!猛進する!突進する!そんな果敢な姿勢を体現するカード達をご紹介。「突進ウィーク」の始まりだ。

 「突進」を名に冠するカードの中でも、特に使いやすく強力な印象が強く残っているのが今日の1枚《無謀なる突進》。新環境で頑張ろうという話をしておいてこんな名前の1枚を紹介するのもどうかと思うが、それも一つのオチということで。このカード自体も無謀と謳ってはいるが、実はそうでもなくまあまあ堅実な1枚だったりする。

 赤の1マナソーサリー、対象のクリーチャーに速攻を与えてパワーを+3。赤という色の役割でもある、速攻とパワーだけのサイズアップ。それらが合わさった、すごくシンプルな1枚であり、運用としては疑似的な火力である。インスタントならコンバットトリックにもなるが、ソーサリーなので開き直ってただただ打点を高めることに利用するのみ。1マナで《稲妻》相当の3点ダメージを与えることが出来ると考えれば…そこに、速攻で殴りにいくクリーチャー自身のパワーも合わせれば、なかなかに優秀な1枚だとわかる。

 さらに嬉しいことに、これにはフラッシュバックまでついている。3マナと少し重たくはなるが、こういうカードを用いるデッキ=クリーチャーを用いた赤の速いデッキは息切れしやすい。その弱点をカバーするのに、後続のクリーチャーにも速攻とパワー修正を与えるこれは100点とは言わないが65~70点くらいの良い仕事をするのだ。

 フラッシュバック・コストを考えると、クリーチャーは1マナが理想・限界で2マナというところか。《野生のナカティル》《ステップのオオヤマネコ》と絡めた、所謂「ナヤバーン」なんてもしかしたら良いかもしれないぞ。後は《荒廃の工作員》が速攻で毒4個乗せてくるのも、イカツイ。良いカードだ!



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2015/4/11 「深い眠りのタイタン」



土曜の夜は深い。一週間分の疲れをその身に背負い床に伏せる。寝る時間自体は遅かったりするが、その分ぐっすりと眠る。

自分のペースで起きたら良いのだから、これほどありがたいことはない。何せ翌日は日曜日!ただ眠るということがこんなに幸せだなんて、学生の頃は気付けなかったな…。

というわけで、僕の一週間の心身をイメージした(あくまでイメージ)「ウィーク・ウィーク」の最後を飾るのは《深い眠りのタイタン》。もう読んで字の如く、とりあえず寝ているヤローだ。

戦場に出る段階からタップイン、文字通り寝ておる。主がブロッカーになって欲しいと呼び出しても知らん顔だ。4マナ7/7という破格のサイズを持っていようが、緊急時に寝ていては役に立ちようもない。

さらには、通常のクリーチャー達がアンタップする・つまりは起床するアンタップ・ステップでもこの巨人は目覚めない。ただただタップ状態で寝続けている。こんなサイズのヤローが熟睡してかくイビキなんて、さぞやうるさいことだろう。周りのそういうのもお構いなしで、巨人は今日も眠り続ける。いつ起きるんだコノヤロー!と叫んでもその耳には届かない。

ただ、あまりのだらしなさにあなたがイラついてタイタンをスコンと蹴ったとする。もしその蹴りのダメージが1点でもあるのならば…タイタンはイビキを止め、むくりとその身を持ち上げる。

この巨人をアンタップする方法は唯1つ、ダメージを与えればよい。寝るために存在するような生き物だが、生き物である以上自身へ害をもたらそうとするものからはその身を護るのが当たり前。

そして、もし1度起きてしまえば…再度眠りにつくことはなかなかないだろう。なんらかの方法で起こしたなら、そのサイズを活かしてアタッカーに割り当てるのが普通だろう。ドスドスと敵陣に踏み込んでいくタイタン。それを止めんと、《ラノワールのエルフ》が立ちはだかった。まあ、ワンパンでKOなわけだが、エルフも一方的にやられる訳ではなく、たった1点にすぎないが、ダメージを与える。タイタンはこれをうけて、ブチギレる。眠気も吹き飛びアンタップだ。

そう、このチャンプブロック強制モードに突入すると、タイタンはまるで警戒でも持っているかのように振る舞い、アンタップ不可というデメリットも意味を為さなくなってくる。対戦相手も不用意に7点を受けるわけにはいかないだろうから、チャンプせざるを得ない。こうなりゃ勝利は目前だ。ただ、対戦相手のライフに余裕がある場合は、7点だけ削ってお布団に帰って行くのはご愛嬌。

運用するには《紅蓮炎血》や《硫黄破》を相方にすると良いだろう。戦士なので《血顎の狂信者》にカタパルトしてもらう、なんてのも面白いかもしれない。



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2015/4/10 「安らぎ」



「花の金曜日」、というのをあまり実感したことはない。概ね土曜も何かしているからだろうな。金曜日は「居酒屋ですか?」と声をかけてくるニイチャンネエチャンが多くてたまらない。ちゃんと日本語で話しかけろっちゅうねん!「もしかして今お探しなのは居酒屋ではありませんか?」とかね。僕は居酒屋ではない。Hell No。とりあえず、法律違反なんでしょ?しっかりとりしまり頼むわ~。

まあまあ、そうカッカしても仕方がない。明日の予定がどうであれ、我々マジック愛好家にとって金曜日とは約束された時間____FNM!FNMは救いだ。何がどうあっても、金曜以外の日に逃げることはない。そこへ行けば、同じくマジックを愛する者同士で、ガチガチではないカジュアル気味の空気でマジックを楽しむことが出来るはずだ。大会に出たことがない、という方はまずはFNMを経験してみよう。常連に溶け込めるか…なんて気にしてたら始まらない!既にFNMに毎週参加してます、という方にとってはこの時間こそが《安らぎ》なのだろう。今日の1枚は《安らぎ》!

2マナのエンチャントで、手札1枚をライフに変換する。マジックのセオリーとして、「ライフを得るだけのカードは弱い」というのがある。何か付随してライフゲインが出来るから強いのであって、それ単体ではマナを払いカード1枚消費するというのは勿体ない。どうせまた殴られたら減ってしまうのだ。10点ゲイン、とかならまだしも…。

それでいけば《安らぎ》は弱いカードになるはずなのだが、これがなかなかどうして良い仕事をするのだ。『エクソダス』でのデビューから1年後、『ウルザズ・ディスティニー』でエンチャント推しブロックの最終兵器《オパール色の輝き》《補充》が登場。これらを用いたコンボデッキが作製されるようになる。このデッキの完成形は後の『ネメシス』登場をもって成されるが、この頃も様々なリストが見られた。それらの中に、この《安らぎ》を散見することが出来る。早いデッキが仕掛けてくるダメージを回復させながら、墓地にコンボに必須なカードを落としていける《安らぎ》は、シブい仕事をしていたのだ。

また、このカードがスタンダードに存在するタイミングで、同期にライフを手札に変換する黒いカード達が存在したのも無視できない。《ネクロポーテンス》《ヨーグモスの取り引き》《ファイレクシアの闘技場》…1点のライフで引き込んだ手札を、3点のライフに変換し、それをもって更なる手札を…恐ろしい話である。

フレイバーが示す「王様」というのは、ラースの王…というか管理者であるエヴィンカーを指しているのだろうか。たしかに、ダヴォールさんは誕生日ですら「軍隊動かしてねー」ってテレパシー指示を受けていたなぁ。



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2015/4/9 「疲労困憊」



一週間の疲れのピークはここにくる、木曜日。魂が試される日。おそらく世界中の多くの方が、木曜日にパワー/タフネスにマイナス修正を受けてるんじゃないかな。土日が休みの人は、金曜日に安らぎが訪れる。これを乗り切れば…ってなもんである。だからこそ、木曜日は難敵なのだ。大抵のゲームで、ラスボスよりもその直前くらいが苦痛なように…昔のゲームってステージ2のボスがやたら強いことなかった?まあ、脱線しちゃうので今度酒でも飲みながら話そう。

《疲労困憊》ド直球なカード名。僕はこのカードのお蔭で困憊という漢字を覚えることが出来た(書いたことはない)。カード名とその効果が直結するカードは強いカードが多いと個人的には思っていて、このカードもその例に漏れない。文字通り、対戦相手のクリーチャーとそれを取り巻く自然環境=土地が疲弊してアンタップしなくなる、というソーサリーである。クリーチャーと土地がまとめて封じられるということは、攻撃やマナを用いた展開が出来なくなってしまう。マジックで自ターンで行うアクションと言えば、基本的にはこの2つだ。これを封じられる…ということは、1ターン飛ばされたのと同義のデッキも多く…というか、ほとんどのデッキがそうだ。1マナで十分に動けたりそもそも構えて何もしてこないデッキには効果がないが、リミテッドなんかだと勝負を決める1枚足り得る。

3マナの《Timewalk》亜種、と言っても、このカード自身に土地とクリーチャーをタップするという効果は全くないので、既にそれらがタップしている状況をお膳立てしてやる必要がある。まあ、緑や赤なんかが相手だと往々にして全力投球をしてくるものなので、それを1ターン封じることが出来るだけでも悪くない。《転換》などがあれば、そういった相手以外にも効果を発揮し、《疲労困憊》を回収して連打すればロック状態に持ち込むことが出来てしまうのだ。これを狙ったデッキが「エターナルブルー」ロック呪文や追加ターン呪文を撃ちまくって、相手にターンをくれてやらない。邪悪そのものなデッキでんな。

初登場は『ポータル』。ここでは、日本語訳が現在と異なっており〈消耗〉と書かれていた。『ウルザズ・サーガ』再録時は《疲労困憊》と書かれており、ここに日本語版だけを見ると効果が同じな「同型再版」なカードが誕生してしまったわけだ。当時はポータル系のカードと通常のエキスパンション・セットがクロスオーバーすることなどまずなかったのだが、問題なのはスタンダードとか、そういう概念にとらわれない形でマジックを楽しんでいた、全国の僕らのような少年に起きていた(と、思う)。当時から《蠢く骸骨》と《卑しき死者》のように、カード名が違うだけで全く同じテキストを持つ同型再版の概念を理解していた僕らは、これらが別の物であると理解した。友人は、シングルが中学生でも買えるくらい安かったこともあって、8枚体制にしたそれこそ「エターナルブルー」のようなデッキを作製。これはビートダウン・ユーザーである我々に対する挑戦であった…《疲労困憊》!《消耗》!《疲労困憊》!《復習》!《疲労困憊》!地獄やん…。ただ、ある日マジック・エンサイクロペディアを眺めていてにっくき〈消耗〉の英名が《疲労困憊》と同一のものであると気付いた。これは、我々非青デッキが立ち上がるための革命的発見であった…完。


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2015/4/8 「疲れ切った反応」



水曜日。早くも疲労もが蓄積され、いろいろと「アカン」状態である。夜中までゲームとかやっちゃって睡眠時間を削りだすのもこの辺りだ。疲れているなら寝ろ?スッと寝れないんだな、これが。このコラムを書くのもなかなか体力のいることだったんだなと、もうすぐ3年目突入という今頃に気付く。そんな状態で書くのにおあつらえ向きの1枚を本日は紹介しよう。

《疲れ切った反応》。このカード名の一周回っての清々しさよ。「落ち着きなさい、みなさん。前にもあったことですよ。」というシッセイさんの台詞からわかるように、ウェザーライト号のクルーは、その戦いに彩られた旅路において何度も緊急事態を経験してきたわけで…ドカーン!バリバリ!…この程度の騒音では、シッセイさんは何度も「ええリアクション」してられないと。はいはいまた敵襲ですね、ターンガースさん他戦闘員の皆、オネガーイってなもんなんだろう。襲われることが当たり前、そんな日常で形成された、良くも悪くも落ち着き払ったクルーの対処法を描いた光景なのだろう。英名に含まれる「Jaded」には疲れ切ったの他に、飽き飽きしたという意味もある。毎日襲撃されてたら、感覚も鈍麻するってもんですよ。

カードとしては、特定状況限定で機能する打消し呪文である。シングルシンボルで2マナで使える、呪文タイプを問わずヒットする確定カウンター呪文、となると超強力なものだ。このカードがそれにあたるわけで、純粋に《対抗呪文》の完全上位互換として、青をタッチしたデッキには入れ得呪文!…なんてわけにはいかない。前述したように、特定の状況ではそのように機能するよ、な1枚である。

その状況というのが、打ち消したい呪文と同じ色のクリーチャーをあなたがコントロールしている場合、というもの。簡単なようで、難しい。青単なら、ほとんどの呪文を打ち消せない(偏ったメタゲームなどは別にして)。これを活用したいなら、3色以上のクリーチャーを採用するのが最低限度の準備。《ギルド渡りの急使》を採用しているデッキには、無条件で搭載しても良いんじゃないかな。逆に、そういったデッキじゃなかったら《否認》《霊魂放逐》とかを大人しく使おう。

このカードで相手のキーカードを打ち消す…のにスタックで、《ギルド渡りの急使》を除去されると、リアル《疲れ切った反応》をしてしまうことだろう。こういうテキストは解決時にその状況であることを求めてくる。撃ったら安心、なんてことは世の中ないのだ。


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2015/4/7 「金属疲労」



いきなり疲れている。それが火曜日だ。月曜がハードであればあるほど、あるいは月曜が祝日だったりしたら、それはもうハードコアな疲労を背負ってえっちらおっちら生きている。火曜日に元気だったらその週は強キャラでいられる、そんな気がする曜日なのである。

マジックで疲れを表すカードと言えばいろいろとあるが、ダイレクトに「疲労」と書かれているカードは意外に少ない。今日はそんなカード群から1枚、《金属疲労》をご紹介。

カードとしてはシンプル極まりない。3マナインスタントで、全てのアーティファクトをタップする。ただそれだけのシンプルなテキスト。「すべて」と書かれ、テキストが短くシンプル、マナコストも軽い。強カードの条件は満たしているが、こいつは全くそんなことはない。

アーティファクトを全てタップ出来るということが、どれだけの意味を持つかというところだが…まあ、狭すぎる。登場した『ダークスティール』込のリミテッドなら、《濃霧》として防御的に使っても良いし、最後の一撃を叩き込むためにブロッカーを全部寝かせても良い。なかなか便利ではあるが、大事なのは自分のアーティファクトも巻き込まれるという事。アタッカーが軒並みアーティファクトクリーチャーだった場合、喜び勇んでトップしたこれを叩きつけると自滅するだけである。というわけで、メインから入れるデッキもそうない…というか、入れずに済むデッキを目指したい。

構築でもなおのことで、直接破壊する呪文を入れた方が良いに決まっている。このカードのようにタップさせたいのであれば《停止スイッチ》を用いるのをオススメしよう。

ネガティブなことを連ねてきたが、結構好きなカードだったりする。なにせイラストが良い。Arnie Swekel氏が描いてきた次元ミラディンに生息する、機械仕掛けの生命体達が波のようなものに飲まれてドンブラコしている。何とも、「雑コラ」な光景に思わず笑ったプレイヤーも少なくないはずだ。《機械仕掛けのドラゴン》《機械仕掛けのクワガタ》《錆胞子の羊》《錆の精霊》、そして中央にいるのが謎のクリーチャー。このイラストのカードが『フィフス・ドーン』で登場すると思っていたんだが、そんなこともなく…いやぁ、何なのか気になるってぇ!


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2015/4/6 「大いなる恐慌」



多忙である。やれることが増えれば、やることが増える。これまでやらなかったことが、やらなくちゃいけないこととなる。一週間もあっという間に過ぎて行く。「今日の1枚:Card of the Day」を書くのも遅れがちで、待ってくださっている方がもしいるのであれば申し訳ない限り。遅れてしまってもしっかり書くことで、償いとしたい。今日は飛ばすぜ。 しかしまあ、前までが暇だったなんてことは絶対にないんだけども、一週間の流れは着実に変わったなと思う。そんな最近の一週間の僕の状況を、カードに準えるのを今週のテーマとしよう。今週のテーマは「ウィーク・ウィーク」!うまく言ったつもりだが何でもない、あなた疲れてるのよ。

月曜日は基本的に忙しい。週末にスタックに積まれた仕事を片付ける必要があるからだ。これがなかなかたまる週と、そうでない週で別れるのだが…今週月曜はストーム10の《苦悶の触手に》襲われた気分だったな。パニックとまではいかないが、MO複数面同時打ちってこんな感じなのだろうと思った。僕は下手だし集中力もないので、他面打ちなんてとてもじゃないけど無理だ。2面打ちで両方テンパイな初手でノリノリ状態なら、あるいは…いや、相手が何らかのアクションを起こして2択なんか迫ってきたら、一瞬で恐慌状態に陥るだろう。

恐慌にまつわるカードなら、マジックの世界にもそこそこの種類が取り揃えてある。いつになく無理がある導入だが許してほしい。恐慌の名を冠するカードでも新顔で、かつマイナーな1枚であるのが今日の1枚:《大いなる恐慌》。『統率者2013』に含まれる赤のレア枠の1枚である。こういうネガティブな単語を含んだ赤のカード、それもエンチャントなんてのは基本的にロクでもないカードなもんだが、例に漏れずこれもロクでもない。プレイヤーがライブラリーを自身の手によってシャッフルする度に、その手札を1枚トップに乗せることを義務付けられる。ある種の手札破壊のような妨害カードで、混沌を担当する赤でも非常に珍しい効果を見せる。

これが貼られている状況だと、サーチすること自体がアドバンテージの喪失になる。手札がなければ、というものではない。例えば手札が《冥府の教示者》や《石鍛冶の神秘家》1枚だけという状況だと、これらは機能不全に陥る。なかなかイヤらしいアンチカードである。

ただし、アンチするところが狭すぎるのが弱点でもある。同じ統率者シリーズ赤レアの先輩である《締め付け》との差は明確だ。これがこちらから相手にシャッフルさせてもOKだったりしたら《Soldier of Fortune》で面白いことが出来たんだけどなぁ。


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2015/4/4 「嵐の息吹のドラゴン」



「息吹ウィーク」のトリを飾るのは、息吹をその名に冠するカードの中でも文句なしの「最強」の1枚。《嵐の息吹のドラゴン》の登場だ。皆大好きでしょ、違いない。え、憎いって?使われる側のお客様ですね…。

かつて《雷口のヘルカイト》というドラゴンがこの世界の空を支配していた。同時期に《未練ある魂》《ファルケンラスの貴種》《修復の天使》が覇を競い合うライバルとして存在したが、そのいずれも力でねじ伏せ、制空権を掌握したのはヘルカイトであった。この竜は次なる戦場を求め空を去ったが、我々が冒険する新たな空・古代ギリシア世界の空には同じ色・マナコスト・ドラゴンであるこの《嵐の息吹のドラゴン》が待ち構えていたのだった。というわけで、前任のスーパーパワーカードに続いて登場したのは、除去耐性の増したこの1枚。サイズは4/4と落ち着いたものの、5マナで飛行速攻に加えてプロテクション(白)と隙のないモデルチェンジ。《アゾリウスの魔除け》《拘留の宝球》が通用しないという事実は、全世界の青白コントロール愛好家を震え上がらせたことだろう。正直なところ、これだけで神話レアのスペックであるが、ここに更にもう1つ、段階を上げてくるのが『テーロス』のすごいところ。

7マナと非常に重いコストを支払うことで起動できる能力は“怪物化”。4/4から7/7へと成長することで、ヘルカイトよりもサイズを大きくすることが可能になる。さらには、怪物化を経て“怪物的”へと達した時に誘発する能力まで持っている。もうなんでもアリだ。この能力は、全ての対戦相手に彼らの手札の枚数に等しいダメージを叩き込むというもの。それこそ、「嵐の息吹」を吐きかけるのだろう。同じ効果を持つ《突然の衝撃》が4マナであるという点から考えても、この怪物化コストはかなり安く設定されていることがよくわかる。ゲームをしていると、これを起動出来れば概ね勝ちで、その逆もまた然り。MOやってると、土地引け!土地引くな!と度々祈らされたもんである。

このカードのデザインの根本は、ギリシアの神々も恐れた最強最大の大怪物にして、ケルベロスといった怪物達の父祖であるテュポーンだ。「全ての怪物の父祖、テュポーン」という仮名で開発されたこのカード、最初は6マナ3/3飛行・XRRRで起動できる怪物化Xと、怪物化時に《連続突撃》の効果が得られるドラゴンであった。そこから様々な調整が入り、6マナ5/5で怪物化してアタックすると全体に3点ダメージを与えるものになり、そして今ある形に落ち着いた…が、最初は各対戦相手ではなく、対象のプレイヤーに手札の2倍のダメージを与えるというより激しい誘発型能力を所持していた。これは《スフィンクスの啓示》コントロールに対しての抑止力になるようにということで施された調整だったが、2倍はやり過ぎだったのだろう。さらに《波使い》《霧裂きのハイドラ》と共にプロテクションを有する強力クリーチャーとして5色にまたがるサイクルを形成していたのだが…調整の末、2枚のカードがこれか弾かれることとなったそうな。彼らに関しては、またいつか。

イラストに描かれたドラゴンが他に類を見ない、身体が細長くうねったものになっているのはテュポーンがモデルであるからだ。蛇の下半身を持ち巨大な翼を持つテュポーンは、その両手を広げると世界の東から西へと届いたという。このドラゴンも、洋の東西を問わず最強の航空戦力として暴れ回っており、まさに神話の世界から飛び出した現代のテュポーンであると言ってしまって良いだろう。


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2015/4/3 「生命の息吹」



息吹というものは生命あるものが吐き出したもの…まあマジックの世界ではそうとも限らないけども。ただ息を吐くという事、それだけのことに、生命を感じる。素敵な話ではないか。生きるとは、息をすること。なんかヨガとか空気清浄器の謳い文句のようになってしまったが、今日も1枚についてつづろう。《生命の息吹》だ。

カードとしては《ゾンビ化》である。4マナで自身の墓地にあるクリーチャーカードを戦場に出すことが出来る。シンプル極まりない効果だが、強力であることは昨今のこの手の呪文の弱体化と比べれば一目瞭然。これは『アルファ』の時点で既に登場していた《蘇生》よりシンボルが少なくなっている分、上位互換と言える。

このようなカードが『ポータル』で登場しているのも面白い。前述の《ゾンビ化》の登場はずっと先である。なのに、《ゾンビ化》に比べれば認知度はダンチの差である。何故なのか。

《ゾンビ化》は黒かった。これに尽きるのではないだろうか。黒は元々墓地を有効活用する色である。《納墓》のような、そのお膳立てをする呪文も数多く揃っており、《ゾンビ化》はそのパワーをフルに活かして「リアニメイト」デッキで暴れ回った。

これに比べて白は、自ら能動的に墓地を肥やしていくというアクションが決して得意ではない。他の色の手助けを借りる必要が大いにある。ここで黒と組ませる、となるとなんかもう本末転倒である。

一応は、青に支えて貰ってこのカードを活かすというデッキは存在した。「青白レイヤ」だ。《マーフォークの物あさり》などで墓地を肥やして、《黎明をもたらす者レイヤ》を《生命の息吹》で釣り上げる。青白というカラーで墓地を中心とした、非常に珍しいデッキだった。

ただ、活躍したかと言えば…そういうわけでもなかった。「ファイヤーズ」に対しては効果的なプランを構えていたりしたのだが、それが功を奏して大きな結果を残す、とまでは至らなかった。

それからまた時代が流れて、トリコロール(ジェスカイと言った方が良いか)カラーのリアニメイト系デッキである「昇竜拳」が誕生。釣竿は『時のらせん』で帰ってきた《蘇生》。その頃このカードは、『第7版』を最後に静かに眠っていた…。

当時の基本セットに収録されていれば、もっと陽の目を浴びて《ゾンビ化》を超える活躍を見せたのかもしれない。

ルビがふられていないが「生命」の読みは「いのち」。後の《生命散らしのゾンビ》にも見られる読み方だ。『ポータル』『ポータル・セカンドエイジ』ではコモンだったというから驚きである。


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2015/4/2 「産卵の息」



呼吸を無意識のうちに、全自動で行っている人間・および他の生物のシステムって本当にすごい。生命活動を維持するのに最も重要なものの1つを、我々は意識を注がずに行えている。



これが常に「息を吸わなきゃ、息を吐かなきゃ」という思考が必要だったらと思うとゾッとする。今日における繁栄は有り得なかっただろう。というか、飯も食えやしない。

そんな呼吸の中で、意識的に行うもの・自らの思考で気体を吐き出すことを「息吹」というのだろう。「息吹(Breath)ウィーク」。今日の1枚は、お待たせしましたというか、ブレスと言えばやっぱり火力でしょ、というファンタジーな思考に応える1枚…の中でも、ちょっと変化球なカードだ。


『エルドラージ覚醒』はそのセットの雰囲気、カードパワー共に申し分のない優良エキスパンションであった。エルドラージという初登場の(伏線はあったが)、未知なる存在をゼンディカー・ワールド、ひいてはマジックの世界にデビューさせ、それを違和感なくプレイヤーに受け入れさせ、不可欠な存在として浸透させることに成功した。


カードのデザインも1枚1枚が素晴らしく、そしてそれは特にリミテッド…ドラフトにおいて、顕著であった。この環境が面白かったというのは何度も話していて、耳にコジレックが出来るかもしれないが、たまに話す程度なのでどうかお付き合いいただきたい。

 《産卵の息》はどう見ても貧弱な1枚だ。2マナ1点火力。これでは落とせるクリーチャーも極々少数だ。0/1トークンを生み出す。これも2マナでカード1枚使ってまですることかと、問われると、NO。

では、これらが合わさったら…?一躍強くなったりするのだが、実はこれが「そうでもない」。どちらの効果も盤面に与える影響力が弱すぎるからだ。この環境のドラフトでは、タフネス1のクリーチャーは少ない。いても、焼くまでもなく、適当なカードで沈黙する連中だ。

ただ、1種類だけよく見る存在がある。それが、このカード自身も生み出す「落とし子」トークンだ。多くのカードにオマケ要素として添えられているこのトークン、チャンプブロックor大物のためのマナブーストという仕事を与えられているこのトークンを、このカードでは除去することが出来る。これがどれだけ、ゲームを動かすのか。大事なところはそこだ。

もっと強い除去を入れたいし、ブーストとしてももっと良いカードがある。しかし、このカードにしか出来ない芸当・相手のエルドラージ着地を1ターン遅延させ、こちらが1ターン早くそれを出す、ということも出来たりする。そんな最大限の効力を発揮させることが出来た時、「やっぱこの環境おもしれぇぇぇ」となるんだな。…勿論、これを握りしめてタフネス2の群れに撲殺されることもあったさ。


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2015/4/1 「Breath of Dreams」



「息吹ウィーク」と書いたが、英語にすれば「Breath Week」。だから、カード自身に「息吹」と書かれていなくても「Breath」と書かれていれば本質的には同じものである。という言い訳をしながらの本日の1枚は《Breath of Dreams》。こういうパンチの効いたヤツは久々な気がするね。

「夢の息吹」とでも訳されるのだろうか。まず目を引くのはイラスト。これこれ、これがファンタジーワールドですよね。

ご存知Phil Foglio氏の絵本風のイラスト。青白い女性、人間であるような、ちょっと多種族感もあるような…高貴な衣装と豪壮な髪飾り、中華のテイストを感じる謎の人物が主役だ。

…『アイスエイジ』っすよね?「ポータル北伐史」とかじゃないよね。不思議な世界観だが、彼女の背景に描かれているものは更に深い世界を生み出している。うっすらと霧のカーテンのようなもの、そしてその向こう側には、ひしめき合う魑魅魍魎…さあ、このシチュエーションをカードの能力から解読してみよう。


《Breath of Dreams》はこう見えても色対策カードである。今では色対策はアンコモンのお仕事だったりするが、この時代はこういうレアで露骨に1色をいじめるというカードが多数存在したもんだ。

この4マナのエンチャントは“累加アップキープ”を持っているため、維持するのは簡単ではない。そしてその効果は、同じく累加アップキープを緑のクリーチャーに付与するというもの。全ての緑のクリーチャーはそれを維持するために、アップキープに①×経年カウンター分のマナを支払うことを要求してくるようになる。

対戦相手のマナを封じ、後続を展開させることを困難にする。最終的には、どう足掻いても払えないマナを要求してくる獣やエルフを1体、また1体と破棄することになる。間接的な除去呪文である。


緑のクリーチャー全てに効果が及ぶのは優秀っちゃ優秀だが、ちょっと緩慢すぎる。別にこれを貼ったからといって、盤面に既にいるクリーチャーに殴られることを防げるわけではない。

ライフが危ない!って時に引いても、状況が打開される訳ではない。昔の色対策って、本当にこういうカードが多かった。お手本のような1枚。《プロパガンダ》や《Acid Rain》と組み合わせて使うのが、このカードの持ち味を引き出せるだろう。


さて、効果を読むにやはりこの霧のようなものが夢の息吹で、それが魑魅魍魎を立ち止まらせている…と考えるのが自然なのだが、フレイバーではジャーケルド将軍が自身の軍勢に対して檄を飛ばしていたりする。この女性の息吹が悪霊という幻覚を見せて、兵士を怯えさせている可能性も出てきたじゃないか…。


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2015/3/31 「憤怒の息吹」



息吹って、何でしょう?呼吸です。まあ、それは皆さんご存知アタリマエの話だとは思うんですが、じゃあ息吹ってしたことあります?実は、ただ普通の呼吸ってわけでもないのである。もともと、空手道の特定の流派が行う呼吸の事を「息吹」というのである。息を深く、丹田まで吸い込み…同じく丹田から、一気に吐き出す。丹田というのはおへその下・下腹部にあたる場所で人体の重心であるとされている。勿論、こんなところに空気を吸い込む器官などなく、あくまでイメージだ。要するに腹式呼吸である。これの効果や起源なんかは諸説あるので、各自で調べていただきたい。流派によってサイトやブログの雰囲気が大きく異なっており、観ているだけでもなかなか面白い。

コォォォという音を立てて息を吐く姿を、なんらかのメディアで見たことがある人もいるだろう。マジックでも、そんな息吹を吐く姿が多数カード化されている。今日の1枚は《憤怒の息吹》。ボロスの兵隊たちの口から立ち上る赤い煙のようなものこそ、その息吹である。これはもうただの気体と言うよりは、その身体を満たす具現化された憤怒とでも言おうか。そんな状態にある者が正常であるはずもなく。これはそんな異常事態にクリーチャーを変貌させる、危険なオーラである。

赤のお家芸、というより赤だけに許された特権。追加の戦闘フェイズを得る類の呪文の1つでありながら、オーラという独特の形態を取るカードである。これがつけられたクリーチャーが対戦相手に戦闘ダメージを与えた場合、それを生け贄に捧げてこのオーラを別のクリーチャーに貼り付ける。その後、全てのクリーチャーをアンタップして追加の戦闘フェイズを得る、というもの。これ1枚であなたがコントロールするクリーチャーの数だけ殴れる!と言っても過言ではない。ルール上ややこしく、また本来のデザインと違う目的で利用されてしまいかねないので、自身のクリーチャーにしかつけることは出来ない。

なんらかの手段で、速攻持ちのクリーチャーを永久的に生み出す方法を作り出し、そのクリーチャーがブロックされないという状況を作り出せれば無限にアタックするコンボが完成する。書いていて、否、書く前からわかっていたけど、そんな状況って意図して造りだすことが出来るのか?そういうのを狙わずに普通に使おうにも、このオーラがついているクリーチャーが除去されたり普通にブロックされたりしてしまうと、全く機能しないのも悩みどころ。というか普通に使う分には攻撃が通る=回避能力を持っているであろうクリーチャーを失うことになるので、2度目以降の攻撃がそもそもどれだけ通るのか?という疑問もある。散々下げてきたが、このカードが機能している盤面に長いマジック人生でお目にかかったことがないからかもしれない。タッパーなんかとは相性が良いし、《手練れの戦術》とのコンボで無双とプレリで誰かが言っていたような記憶もある。誰かモダンで炸裂させてくださいよと、丸投げEND。


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2015/3/30 「祝福の息吹」



春、到来。「春の息吹を感じる」という言葉がある。息吹、って良い響きだよなと思う。季節が呼吸をしている、わけじゃないけどそんな風に感じる。この感覚って、不思議で、そして素敵だ。もしかしたら非生物・概念と思っている季節というものも、一個の生物なのかもしれない。そんなことを考えながら通勤するのが楽しいのだ。息吹、うーん良い響きだ。今週は「息吹ウィーク」としよう、そうしよう。「Breath」の名を冠するカードは少なくないぞ。

一発目はやはり、春を祝うということで《祝福の息吹》。なんともめでたいカード名のこのカード、その効果も優しいものに仕上がっている。対象のクリーチャー1体にターン終了時まで任意の色へのプロテクションを与える、今となっては1ブロックに1枚はこういうカードがあるのが白の定番というか嗜み、常識となっている。これらに、そのブロック固有のメカニズムを絡めることで特色を出す、というのがデザインの基本になっているようだ。タルキールでも覇王譚と龍紀伝にてそれぞれ、セットの方向性が伝わるカードが登場しているのは皆さんもご存知の通り。そんな定番カードではあるが、1マナでプロテクション付与、というのはこのカードが登場するまで、実は存在していなかった。割と最近に登場したものなんだなと思うが、『神河物語』自体最近でも何でもなかった。恐ろしかぁ。

そんな、極小のエピックを成し遂げた1枚。これに既にブロック固有の能力を重ねてきているあたり、カードパワーは上がっていたんだなと今更ながらに思う。こうやって時を隔てることで、評価出来るものもあるのだろう。さて、その能力とは“連繋”。秘儀呪文を唱えるに際し、手札からこのカードを公開して(W)を払ってもよい。そうしたならば、プロテクション付与を秘儀呪文に乗っけることが出来る。例えば、相手の除去呪文にスタックで《崩老卑の囁き》を相手のクリーチャーに撃ちこみつつ、このカードを連携して除去から自軍を護る、ということが手札1枚の消費で行える。次のターン、また別の秘儀呪文を唱えながらこれを連繋させ、ブロックされない状態にしてアタック…なんて動きが出来れば上出来だ。アドバンテージを稼いだ、と言っても良いだろう。連繋呪文は割高な場合が多く、マナに余裕がなければ運用は難しかったりするのだが、このカードは唱えても連繋しても1マナである。なら、可能な限りそれを狙った方がお得なのは言うまでもないだろう。まあ、リミテッドだとそのままでも純粋に便利で強力なんだけどね。

イラストに描かれているのは《道を塞ぐ者、黄泉示》。死から生ある者を遠ざけるこの神らしい守護の呪文。『神河謀叛』でカード化されるより一足早く登場していたのだ。…イラストを見て特大げっぷとか言っちゃ駄目。


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2015/3/28 「ケルドの死滅都市」



無駄にならないカードは良いカード。当たり前のようなことを今さらという感じだが、初心に帰って振り返ってみよう。そもそも、マジックのゲーム中で「無駄になる」ってどういう状況だろう。対戦相手に純粋に効かないカード…例えば、除去がノン・クリーチャーデッキに対して何をするかと言えば何もしない。これは無駄だ。ゲーム終盤、お互いにマナが伸び手札が尽きた状況でトップする土地。こりゃダメだわ、無駄無駄。あと一押し、っていう時の防御的なカード。リミテッドではちょくちょくあるよね、これもビックリするくらい無駄だ。初手にある重めなカード…これは、しょうがない部分もある。土地が伸びればキャスト出来るのだから、将来的には無駄でなくなるのかもしれない。重ね引いた伝説のパーマネントやプレインズウォーカー、コンボパーツなんかも無駄と言えば無駄だ。

なんだ、全てのカードが無駄になる可能性を大いに秘めていやしないかい?全てが必要なもので、そして無駄だった。哲学的ENDに到達しそうだが、要するに「無駄になりにくい」・即ち、使い道が複数あるカードは優秀だということだ。

例えば、今日の1枚《ケルドの死滅都市》なんかはそんなカードの1つだと言える。土地でありながら、呪文のような能力を持っている。理想的じゃないか、土地としてもマナを供給し、必要とあらばその能力を起動する。マナ供給源としての性能は最低レベルの無色マナ1つを生み出すものだが、その最低限にさえ達していれば土地は土地だ。そもそも色マナシンボルが濃いカードに溢れたデッキでは使わなければ良い、それだけの話だ。

起動型能力のコストは重い。赤を含む5マナとタップ、そしてクリーチャーの生け贄を要求する。実質6マナ+生け贄1体で、何をするかと言えば好きなところに2点ダメージを飛ばすことが出来る。これだけ払ってそれだけかよ!と思われるかもしれない。それでも、恒久的なダメージ源であり、しかも赤が苦手とするプロテクション持ちに対処可能な無色であると言う点も考慮すれば、お値段に相当する働きであると言って良い。そして、忘れてはならないのが土地であるということ。デッキのスペースを圧迫せず、無理なく追加のダメージ源・保険的カードを投入できることは素晴らしい。こういうカードこそ、無駄にならないカード、ってやつだな。

カードとしては「メガ・メガサイクル」と呼ばれるものに属する名誉ある1枚でもあったりする。これは、『ミラージュ』で登場した《テフェリーの島》から始まった、「1ブロックに1枚、ある色に関係のある伝説の土地を収録する」という5年がかりの計画。そのトリを務めたのが、赤にまつわるこのカードだったのだ。


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2015/3/27 「炎の稲妻」



痒いところに手が届く、っていうのはものの評価としては「上々」を意味するものだと個人的には解釈している。「最高」ではないが、悪くない・対処できている。届かないものよりは、届いた方が絶対に良いに決まっているよね。最高のものは、そもそも痒くならない効果を持っていたりするのだろう。肩の関節が後ろ方向に対して硬すぎる(あるいは肘の問題か?)僕としては、背中が痒い時に指先がかすることすらできないことがあるので、「痒いところに手が届く」っていうのはかなりの信頼を感じさせてくれる言葉だ。

マジックでも、そもそも痒みを感じさせなかったり「痒いからどうした」といったカードが至高には違いないんだけど、ギリギリ手が届くっていうのも良いものだ。今日は個人的に、現在進行形で手を届かせていると思っている《炎の稲妻》を紹介。

「ソーサリーの《ショック》」という字面は、弱そうという印象を与えるかもしれない。人によっては、最低限の働きをしていると評価することもあるだろう。火力の中でも最もミニマムな1マナで、最低限のダメージである2点を与える。古くは『ストロングホールド』で《ショック》が登場して依頼、これがインスタントとして戦闘中やエンド前に使用できることは当たり前だった。また、同じソーサリーならば《Chain Lightning》が遥か昔に1マナ3点を成し遂げている。そして、マジック生誕時に既に《稲妻》が…と、ここでソーサリー2点火力であることを責めても仕方がない。その代償を払うことで、このカードは他のカードにはない長所を手に入れたのだ。

それは“フラッシュバック”。特定のコストを支払って、墓地から唱えることが出来るインスタント及びソーサリー、その1つがこの《炎の稲妻》だ。フラッシュバック用のコストは5マナで、少々重く感じるがこれさえ払えば2点オカワリ。赤いビートやバーン系のデッキでは、ちょうど手札が切れたり土地を引きすぎて手数が…となる頃に、最後の一押しとして機能するのは素晴らしい。上述した1マナ火力のライバルたちは、単体ではどうあがいても2点や3点しか与えることは出来ないが、このカードは6マナ費やすことで4点火力として使用することが出来る。見返すことが出来そうだ。

更に言えば、2回使えるということは、勿論のこと2つの対象を焼くことが出来るということ。《稲妻》でも取ることが出来ない「カード・アドバンテージ」を稼げるのだ。5マナかかるとは言え、そういうオプションが用意されていることは素晴らしい。

ここしばらくは、Magic Onlineでのコモン限定構築・Pauperにて使われるくらいのポジションに収まっていたが…レガシーにおいて《僧院の速槍》《死儀礼のシャーマン》《若き紅蓮術士》《秘密を掘り下げる者》らがやんちゃをしている今、これらに2度対処できる可能性を持っているということで注目されているカードである。《僧院の速槍》とは、一緒に使っても相性が良いため、特に同系に差をつける1枚として、それこそ痒いところをしっかり掻くのを手伝ってくれそうだ。


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2015/3/26 「Rocket Launcher」



やっぱり、生きていくのにロマンは必須だなと思う次第で。ロマンとは感情的・理想的に物事をとらえること、また夢や冒険に強い憧れを持つこと。感情をぶっ放してこその命。生きているのが現実の世界でも、生き方に非現実を求めるのは間違いじゃない。大事なのはそれを実現させる現実的な努力だったりするが、忘れておこう。皆もロマンコンボやロマンデッキで金曜の夜に繰り出したこと、一度はあるでしょう。

ロマンの塊的傑物と言えば「ロケラン」。ロケット・ランチャーだろう。高威力・ロケット(ミサイル)・デカくて無骨なその外見・重くて使いにくいが当たれば勝ち…様々なゲームでその姿を見て、心惹かれ、扱いの難しさに泣いたゲーマーも少なくはないだろう。勿論、僕らが大好きなマジックにも…勿論!?いや、意外かな。このファンタジーの世界にもロケランは登場する。その名もシンプルに、《Rocket Launcher》。

見た目も火を吹くロケラン以外の何物でもないこのアーティファクト、かついでいるのはコマンドー風にバンダナを巻いたゴブリン。このイラストが、中学生だった僕の心をとらえて離さなかった。ファンタジーの世界に、突如ロケラン!このインパクトは何物にも勝るよ。さて、そんなロケランの使い道は、勿論ダメージを与えること。2マナ支払えば、好きな標的に1点のダメージを飛ばすことが出来る。一発で特大ダメージ、な「ロケラン」の印象からは少し離れるが…マナを注げば注ぐほど、大ダメージを与えられるというのは良いことだ。

ただし、条件が2つある。上記の能力だけでは、無色のダメージソースとして有能過ぎる。カウンターを構えてエンド前に本体にドンドンドンとか、いくらなんでも。そのため、まず1つの条件は使用制限。このロケラン、一度トリガーを引いてしまえば、ターン終了時に破壊されるという能力が誘発してしまう。何発火を吹こうが、壊れるものは壊れる。なので、なるべく複数回起動できるターンにぶっ放したいものだ。このデメリットは、破壊不能を与えてやることで軽減出来てしまう。

もう1つの条件は、これが結構厄介で。この能力を起動できるのは、このアーティファクトをターンの開始時からコントロールしていた場合のみ、能力を起動できるというもの。クリーチャーにおける召喚酔いとタップ能力の関係と似たようなものだ。設置して、撃ちこむには次の自身のターンまで待たなければならない。無限マナコンボのフィニッシャーにしようと思ったら、事前に準備しておく必要がある。そして、こんなキナ臭い物体を眼前に差し出された対戦相手は、これに対して全力で対処してくることだろう。このあたりが、実にロマンの塊。リメイクである《ゴブリンの大砲》の下位互換であるが、見た目ってのが大事なこともあるのだよ。


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2015/3/25 「邪魔」



「No Change」___安堵の溜息か、あるいは絶望のそれか。これから新セットが発売されるたびに起きるイベントだ。「禁止改定」という、避けては通れぬ裁きの時。ひらたく言えば禁止カードに加わるカードがあるか・あるいはその逆で釈放されるものがあるか、リストが更新される日である。前回(『運命再編』発売時)は凄かったね、まさしくジャッジメント・デイ。宝物を積んだ船が沈む光景に、君は涙を流したか・あるいはほくそ笑んだのか。今回は禁止改定お約束の「No Change」祭りだった。あ、船がもう一隻沈没しましたね。まあMO限定マイナーフォーマットにおけるそれは、一般的なプレイヤーにはあまり関係のない話だ。

ただし、今回(『タルキール龍紀伝』発売時)はちょっとしたルールの変更が起きた。それはかつてはマイナーフォーマットだったが、今では公式でもそれ専用のセットが発売されるようになった…統率者戦だ。統率者・コマンダー・ジェネラル…そういった呼称で呼ばれるデッキの看板になる、統率領域に置かれる伝説のクリーチャー。これが墓地や追放領域に置かれる際に、代わりに統率領域に置いても良い、というのがこのゲームの基本ルールであった。「であった」ということは、ここが変わったということ。墓地・追放領域に加えて、手札・ライブラリーに移動するに際してもこの置換が適用されるようになったのだ。しかもそれが、統率者がどの領域にあろうともだ。

これにより、通常の禁止改定よりもこちらにショックを受けて涙を流したプレイヤーも少なくないだろう。墓地や追放領域に落ちてもコストが重くなるだけで再度出現する統率者を駆除するには、ライブラリーの中に放り込むのが一番…だったので、今回の変更を受けて、それが出来るがためにデッキに投入されていたカードは軒並みデッキから「クビ」になってしまうだろう。

その代表的1枚がこちらの《邪魔》。統率者が唱えられたところにサッと合せて打ち消しつつ、ライブラリーの底にご退場いただこう。さあ、君に彼(彼女を)奈落から助け出す方法はあるのかね?とつきつけるのが楽しい呪文。だった…。まあ、依然として墓地に落ちたら困る類のカードに対処したり、相手の苦し紛れの呪文をトップに置くことで1ターンドローが進まなくなったりするカードであることには変わりない。かつては、3マナの確定カウンターであり、上述のように相手をハメることも出来たので非常に多くのデッキで愛用されたカウンターであった。「8ヒッピー」「カウンターガジー」「アネックス・ワイルドファイア」…思い出話に花が咲いてしまうので、今日はここまで。


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2015/3/24 「抜目ないガーゴイル」



マジックがマジックであるために必要なもの。沢山あるとは思うが、僕はやっぱりフレイバーだと思っている。このゲームに初めて触れた時、そのイラストとフレイバーテキストに書かれた固有名詞や世界観に心を鷲掴みにされたという人は少なくないはずだ。第一次ブームとでも呼ぶべき「ウェザーライト・サーガ」の頃。僕らはウェザーライト号のクルーvsファイレクシア軍の戦争に心を焦がした。続くブームの訪れは、『ラヴニカへの回帰』からかな。非常に多くのプレイヤーが、彼らがかつて愛した次元の物語の続きに惹かれて帰ってきた。そこから続く現行スタンダードの2ブロックは全く新しい世界を描き、マジックの可能性を見せつけることとなった。物語の加速とともに、プレイヤー人口も伸びに伸びて「すごいこと」になっている。

ただ、いきなり「ライオンのヒューマノイドが兄貴を陰謀で殺されて、灯がBoom!気がつけば見たこともない巨獣が宙を舞う火山地帯に」とか話を切り出されても、困るっちゃ困る。その点、マジックのカードは素晴らしいもので。ほどよく興味を持ってくれるようなフレイバーを持ったカードが多数登場する。

特にクリーチャーにそれが顕著にみられる。《抜目ないガーゴイル》なんてのは良いサンプルだ。まず、名前。動く石像であるガーゴイルにも「抜目がない」とか、そういう性格レベルの個性があるのかという小さな驚きを与えてくれることだろう。そしてイラスト。めちゃくちゃ嬉しそうやん、こら抜目ないやつの顔ですわ。そしてフレイバーテキスト「雷雨にこれほど喜ぶのはガーゴイルくらいのものだ。-アミーカットの大臣、クハッティーブ」程よい、程よいね。情報量のバランスが程よい。ガーゴイルは雷雨が嬉しい。それを言っているのはアミーカットの大臣であるクハッティーブさん。「アミーカットって国かなんかの名前かな?クハッティーブさんはこうやって名前が出てくるくらいだから、何か作中で役割を与えられている人物なのだろう。」そういうことが、マジック知識が1つもなくてもわかる。

そして、そのカードデザインもいいね。3マナ2/2飛行だが、ガーゴイルらしく石となって0/4の壁役になることも出来る。この世界のガーゴイルは石像が動き出す、というよりは自由行動している生物が石像の如くな姿と化すことも出来る、っていうニュアンスなんだなぁと理解することが出来る。カードとしてそれ独自の機能を持ちつつ、ゲームの背景にある世界を伝える。このゲームは本当に奇跡的なバランスのとれたデザインなんだなとつくづく思う。

そして、このカードがレアというレアリティを与えられていることも…いや、それはあんまり関係ないか。『ミラージュ』当時初めて引いたレアがこれだった人に「レアは必ずしも強くない」という事実を教えた功績も持っていることだろうな。

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2015/3/23 「センギアの従臣」



フライングになるが、明日3/24に掲載予定の記事にてこのカードに関係するコメントを書いたので今日の1枚はこれだ。どこに書いたかわからない、そんな可能性もあるのでここで皆さんにこのカードを知ってもらおうという保険である。オールドファンなら勿論ご存知かとは思うが、最近始めた方には馴染みのないカードだろう。

《センギアの従臣》は4マナしにて4体のクリーチャーを戦線に投下出来るという驚きの1枚。内訳は2/2が1体に0/1のトークンが3体。さすがに打撃力は《包囲攻撃の司令官》や《錯乱した隠遁者》には遠く及ばない。が、そんな彼らよりも軽い4マナでパーマネントを増やせる、というのが彼のアイデンティティ。

ゴブリンやリスと違って、出てくるトークン「農奴」はこのカードが唯一生み出すことの出来るクリーチャータイプであるため、部族としての恩恵を受けることは全くない。ないのだが、これが「黒」であることが重要。黒は、同色を支援したり、生け贄を要求するカードが多数ある。《不吉の月》で戦闘力を与えるのは序の口。《暗黒の凱歌》ではそのコストを払いつつ、打点を増すことが出来てさながら2枚コンボ。《汚染》でマナをロックするためのコストにしたり、《ファイレクシアの疫病王》の餌にして相手のクリーチャーを根絶やしにしたり。

なかでも最愛の友、とでも言うべき相方は《デルレイッチ》。《暗黒の儀式》経由で2ターン目に従臣を着地させ、すかさず農奴を全員捧げものとしてこのホラーの傑物を顕現させる。「強襲デルレイッチ」と呼ばれたこの一連のムーブは、例え《デルレイッチ》がすぐさま除去されてしまったとしても(実はなかなか除去することは難しかったのだが)、最低限この従臣本体・2点クロックが残るというのも売りだった。《神の怒り》?撃たれるまでにもう16点叩き込めているし、ハンデスで落としちゃえばいい。『ホームランド』初出のこのカードが、時を超えて相方と巡り合ったというのは感慨深い。

「従臣」と訳されているが、英名「Autocrat」の本来の意味は「独裁者」。かのセンギア男爵の領地内で、農奴たちを支配する階級ということだろう。領主である男爵を差し置いて独裁者の地位につくのもどうかな、ということで彼の従臣としての名前を授けられたのだろう。日本語と英語のニュアンスの違いって面白いね。3度の再録を経験した歴史あるカードであり、2種類あるフレイバーテキストにはそれぞれ男爵とエロンという『ホームランド』の重要人物2名が登場している。

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2015/3/19 「Burnt Offering」



「好き」という感情とは不思議なものである。思いもよらぬ存在を大好きになってしまうことがある。

皆も、「何故かわからないけど好きなカード」ってあるでしょ?僕はそれが山ほどあって、そういうのをシブいシブいって称賛するのがこのコラムの存在意義と言えばそうなんだけど、その中でも格別好きな存在について書く時は嬉しくて嬉しくて、筆がザクザク進む…んだけど「あれ?なんで僕はこれが好きなんだろう?」とふと思ってしまう事がある。

その思いがスッキリせぬまま、その回をなかったことにして全部消してしまうこともある。

《Burnt Offering》も本当に大好きな1枚なのだが、これが何故かはちょっとわからない。何せ、ゲーム中に使ったことすらないのだ。特定の状況でニッチな効果がブッ刺さって「お、これ強いな」と思うも、その状況がマイノリティ過ぎて誰からも共感を得られずに…というカードは多々ある。

ただ、これはイラストと名前、その効果というファクターのみで好きなのである。冒頭でも聞いたけどあえてもう一度、皆もそんなカードあるんじゃないかな?

カードとしては、今は亡き(随分前に滅びた)「マナ・ソース」呪文である。かつては《暗黒の儀式》もこれに含まれ、たった5枚のカードで仲良く独自グループを形成していた。画像を見て貰えばわかる通り、このカードは元々「インタラプト」だった。

これまた滅びたカードタイプではないか。もしかしたら、そんな滅びゆくグループを転々とする様が、僕の心を打ったのかもしれない。戦国時代だと今川家とか好きですから…。まあそれはいいとして、マナ・ソースは読んで字の如くマナを生み出す呪文である。平たく言えば《暗黒の儀式》の派生・亜種だ。

この《Burnt Offering》はクリーチャーを生け贄に捧げ、それのマナコストに等しい黒or赤マナを生み出す。《Sacrifice》と同様の効果だが、このカードが収録された『アイスエイジ』では友好色がテーマの1つであり、このカードはその一環として赤マナを生み出せる上位互換となったわけだ。生け贄を燃やす、というかなりハードコアな手法でマナを生み出すのも、たぶん琴線に触れたんだろうね。ほんと、最高。

お察しの通り、普通に使えばたいした働きを見せることがない呪文だ。カードを2枚使ってマナを生み出す、しかもその一方は戦場に出しておくというお膳立てが必要だ。代替コストを持つクリーチャーと併せて使っても、そんな爆発的にマナが出るわけでもなし。こんなカードを上手く利用したデッキが「クラーケンバーン」。墓地から釣り上げた《Polar Kraken》で一発ド突いてから、これでマナに変換してX火力を投げるという「クレイジー・マックス」としか言いようがないデッキだ。誰か組んでみてよ。

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2015/3/18 「疾風衣の救済者」



季節の変わり目ってやつは、いろいろと安定しないもんで。「あったかぁ」と思って上着を着ずに家を出て、帰りには「さむぅ」となることが多くて困っちゃうのだ。予防線張って朝から着込んで行くと電車で汗だくになる。困ったものである。こう、軽くて風通し良いのにあたたかいみたいな羽織るもの、ないですか?

そんな装備かどうかは不明だが、見るからに軽くて通気性良さそうで+アルファな素材・織物がマジックの世界には存在する。さすが、魔法の世界だ。「疾風衣」。これ、昔『オンスロート』販売当時は日本語版のカード名にルビがふっていなかったこともあって、ずっと読みを「しっぷうい」「しっぷうごろも」だと思っていたが…「かぜごろも」と読むらしい。いやー、カッコイイね。疾風と書いて「はやて」と読むことは、某2頭身プラモデルシリーズのおかげで小学生のころから把握していたが、「かぜ」と読む発想はなかった。

この疾風衣を名に冠するカードは、いずれも共通の能力を持っている。それは「戦闘キャンセル」とでも言おうか、《偵察》というエンチャントが持っていた能力をクリーチャーに移植したものだ。とりあえず攻撃に参加させたクリーチャーを対戦相手がブロックする。何体かはスルーされ、何体かはブロックされる。本体に抜けたダメージは4点、されどブロックされたことで死亡するクリーチャーが2体…みたいな状況で何も考えずバンザイアタックをかましていては、どんどんクリーチャーが討ち取られていって気がつけば敗北していることだろう。

「マジックの戦闘は慎重に考えてから行う事」と教えられたこともあるかと思う。この難しい戦闘を、何のリスクもなく適当に行って都合の良い部分だけいただき!という手段があるのならば、欲しい!そんな夢をかなえにやって来たのが疾風衣持ち。彼らはブロックされてしまった場合「やっぱヤメヤメ」と戦闘から離脱することが可能なのである。その際にはアンタップ状態になるため、返しでの相手の攻撃にも備えられるときたもんだ。彼らのフレイバーを読んでいると、どうもこの疾風の魔法で出来たであろう衣を使うと「消える」ことが出来るようだ。衣が姿を隠してくれるのか、それともどこかへと短距離ワープみたいなことをしてくれるのだろうか。

そんな白のサイクルの親玉がこちら。救済者と銘打っているだけあって、疾風衣能力を自軍全てに与える(かのような)能力を持っている。このエイヴンさえ戦場に降り立てば、あとは「オートフルパン」で勝利まっしぐら!…ただ、ブロック宣言前にこれを除去されてしまって地獄を見る、なんてことも…。

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2015/3/17 「万の眠り」



眠い。どんだけ眠いんだこの季節は。我が家のカメなんかは目を覚ましてゴソゴソ動き出したのに比例して、こっちは眠たくてしょうがない。不思議だ。変温動物と恒温動物のすれ違いを感じながら、必死に布団から這い出る朝を迎えている。昼食後がまた眠い。これを書いている今がまさにそれで、贅沢を言えばあと1時間お昼寝休みをいただきたい。スペイン見習ってこ!

マジックでも眠り眠らされる呪文やクリーチャーは数多く存在する。それらを集めて眠りウィークでもやろうと思ったが、眠いのでまとまらないため諦めた。そんな経緯を暴露しながら、《万の眠り》の紹介いってみよう。

《万の眠り》という日本語名からしてすごいが、英語名《Gigadrowse》を直訳すれば「10億うとうと」となるので、これでもだいぶパワーダウンした方だ。実際に万も10億も関係なく、ただ大量に眠らせる呪文と考えて貰えれば良い。実際に10億も眠らせれば、インドや中国の国民で起きている人が2億3億程度になってしまう。いや、これ書いててすごい数の人が住んでるんだなって気付きました。

余談はさておき、《万の眠り》はかなりの強力呪文として名を馳せたものだ。青1マナで対象のパーマネントを1つタップする。これだけだと、《ぐるぐる》に劣るものとなるが、これが青マナを注げば注いだ分だけ対象を寝かせることが出来るとなると話は変わってくる。『ギルドパクト』にて「イゼット団」に割り振られた能力は”複製”。これは単体では小回りが利くが微弱な呪文だが、複製コストを支払うことで同様の効果を2倍、3倍…と膨らませていくことが出来るというもの。《万の眠り》はパーマネントをタップする、ということは、自身が精製できる青マナが対戦相手のパーマネント数を上回っている状況ならば、全てをタップさせた隙だらけの状況、所謂「タップアウト」状態に持っていけるというわけだ。

これがリミテッドでは攻防一体のフィニッシャーとなったのは勿論の事、構築シーンでもバリバリに活躍したのだ。青マナを大量に払うのが難点と思われたが、『時のらせん』で手に入れた「貯蔵ランド」こと《石灰の池》《戦慄艦の浅瀬》が全てを解決。ターン終了時に対戦相手のマナを縛り、安全な状態で迎えた自ターンでコンボを仕掛けるという動きが常道となった。これを防ぐために青いデッキが選択したカードが……これはまたの機会にとっておこう。


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2015/3/16 「Thorn Thallid」



花粉。許すまじ。僕の場合、外よりも電車の中や室内のような、空気の流れの弱いところで地獄を見る時がある。鼻が痒くなるのよ。この時期に、GPとかBMOのようなイベントがなくてちょっとホッとしている。まあ、何も感じずにケロっとしてる年もあったりでよくわからんのですが。今年はちょっとだけダメージがありますハイ。

そんなわけで、今日の1枚は花粉の時期になると思い出すこの1枚《Thorn Thallid》。ティヴァダールさんのいる「ソーン(Thorn)」があるテリシア大陸からは海を隔てたサーペイディア産であるため、このThornはテンプレ翻訳で「茨」で良いんじゃないかな。「茨のサリッド」。見た目は4種類あるが、僕が1番好きなのはこの「昭和ライダーの怪人」感溢れるイラスト。初めて買った『フォールン・エンパイア』からこれが出てきたというのも勿論ある。『ウルザズ・サーガ』のリアル路線に比べて、アンティークなデザイン・画風は中学生だった僕の心を強く打った。頑張って訳した結果、カードとしてはあまり強くもなさそうだが、緑には珍しい直接ダメージを与える能力がこれまた琴線に触れて使った思い出がある。

3マナ2/2、アップキープに胞子カウンターというサリッド固有のカウンターが1つ乗り、これを3つ取り除くと好きなところに1点ダメージ。今見ると、リミテッドではなかなかのやり手になりそうだ。まあフォールンを用いたリミテッドって見たことないけどね…そもそも1パック8枚入りだ。「モミール・ベーシック」では、緩慢だが着実に戦闘を推し進めてくれるなかなかのやり手…ではあるが、3マナは起動しないよと言われると「僕もです」としか返せない。活躍させてやることの出来るケースは極めて稀…

と、思っていたが。《ヘイヴンウッドのセロン》って、2マナじゃないか。これなら、今流行の兆しを見せている「タイニー・リーダーズ」でセロンをジェネラルにしたデッキを組むなら、入るんじゃないか?3ターンに1回という緩慢な射撃も、セロンでバックアップしてやれば除去として機能しそうだ。《胞子撒きのサリッド》でブースト!《スポロロスの古茸》で射撃じゃなくてトークン生成要員として使うサブプラン!…2枚とも4マナ以上じゃねーか。解散解散。


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