TOP Bigweb MTGショッピングページ
Card of the Day
 
2014年11月10日(月)


「かじりつくゾンビ」

 ハロウィンの騒動が過ぎ去ってからひと段落。ツイッターなどの浸透により、日本でも仮装して夜の街に繰り出し、その様を共有することが恒例行事となった感がある。楽しむのは大歓迎!でも、マナーは守って楽しみたいなというところ。ゴミなどを放置しない、交通迷惑とならないようにする、その他いろいろ楽しむための地盤をしっかりと築くことをおろそかにしちゃいけない。

 しかしもはやオバケもヘッタクレもない何でもありの仮装祭りである。ここはあえてオーソドックスなモンスタースタイルの方が目立つんじゃないかな。完璧にゾンビになりきるとか…ゾンビの仮装とくれば、マイケル・ジャクソンの「スリラー」を完璧に踊ることが出来れば最高のパフォーマンスとなることだろう。そんな訳で、書いていてゾンビ愛に火が点いたので今週は「ゾンビ・ウィーク」だ。ゾンビオタクでもある僕の、真っ直ぐな愛情を込めてお届けしたいと思う。

 2マナ1/3、骨と腐肉とで出来ているゾンビにしちゃやけに硬いボディを持っているのがなんとも珍しい。まあ、これだけでは正直言って何の役にも立たないレベルではある。同マナ域の2/2、所謂「熊」を受け止めることが出来るくらいの仕事しかしてくれない。そんな仕事マナ域を上げれば他のクリーチャーが副業も副業、小遣い稼ぎ感覚で担当してくれることだろう。

勿論、この熊除けがこのゾンビの本業では決してない。彼はなかなかに捨て置けない起動型能力を有している。2マナとクリーチャー1体を生け贄に捧げることで、相手のライフを1点吸い取ることが出来る。所謂「ドレイン」能力である。クリーチャー1体で1点は、費用対効果が悪くないか?と思われることもあるだろう。しかし、例えば相手のデカブツをブロックして死ぬ定めにある雑兵を、最後の一滴・骨の髄までしゃぶって活用できると考えれば・そしてそのクリーチャーが量産したトークンやら何度でも蘇ってくる不死なる存在であったら…このゾンビは、そういったシナジーを形成してナンボなのである。「基本セット2014」のドラフトでも、僕はこういった生け贄エンジンを有する黒赤をよく組んだものだ。最後の数点を1枚で削り取ってくれる《かじりつくゾンビ》には本当に世話になった。

 このゾンビ、ゾンビというだけでもう愛してはいるのだけど、その特徴的な姿もまた目を引くものである。一見、普通のありふれたゾンビに見えることだろう。しかし、マジックというファンタジー世界を舞台とするゲームにおいて、我々の世界に酷似したシャツにジーンズといった服装で革靴らしきものまで履いているこの「普通なゾンビ」の浮きっぷり。多元宇宙にもいろいろあるだろうから、こういう僕らの地球に限りなく近い世界観の次元も何処かにあることだろう。

アーカイブ
2014/11/08 「哀しげなゾンビ」


 個人的なマジック界のアンニュイofアンニュイ、「アンニュイ・ウィーク」のトリに相応しいイラストだ。初めて見たのは「アポカリプス」発売日、中3だったか高1だったかな、パックを剥いたら出てきたコモンの1つがこれ。そのイラストが放つインパクトはなかなかに凄まじく、どことなく某ゾンビ映画を思い出してしまうような魅力にあふれていたのだが、それは後述するとしよう。

 クリーチャーとしては3マナ2/1、強くない。能力は…飛行などの基本的な能力なし、辛い。起動型能力あり、Wとタップで1点回復。1点…辛い。この能力を与えられたことに悲嘆している姿が哀しげに見えるのかと思ってしまいそうになる。そもそも何故にこのようなカードが生まれたのか、その背景を探ってみよう。時は遡り「インベイジョン」、「ウルザ・マスクスと多色のカードを含まないブロックが続いた後に登場したのは、多色最高!と言わんばかりのマルチカラーまみれのセット、続く「プレーンシフト」も同じく多色推進、~の戦闘魔道士といった、本来単色だが他の色マナを捻出できればその強さが増すというカードも多数登場、そしてトリを飾るは「アポカリプス」。この黙示録的最終セットでは、多色の枠を更に広げ「敵対色」と言われる色の組み合わせを推奨。《破滅的な行為》《名誉回復》といった今まで意図的にあまり作られていなかった色の組み合わせで超強力なカードを大量に収録し、大いに話題になった。

ここで、ちょっとした問題が発生する。「インベイジョン」「プレーンシフト」と、リミテッドではカードのベクトルが同じ方向=友好色プッシュだった中に、最後の3パック目で真逆のベクトル=対抗色の流れがドドッと押し寄せてくるのである。これ、カードの収録バランスなどをしくじると大変なことになるのは想像が容易につく。「最後の3パック目は使わないカードばっかり」なんて、ゲームとして酷いなんてもんじゃない。ということで、しっかりと使いたくなるカード・多色を推すコモンが作られた訳だ。ただ、それらがあまりにも強力すぎると今度は逆の現象が起こってしまう。そこで「ほどほど」なカードも多数含まれている…そういう解釈で良いんではないだろうか。長々と書いてきたが、「ブレーキベタ踏み」感が否めない1枚ということだ。

 「死霊のえじき」というゾンビ映画がある。人類がゾンビに敗北し、地表は歩く死体に覆い尽くされてしまった世界で、地下にこもった僅かな生存者。そこでは科学者がゾンビを飼い慣らし、ゾンビも博士になついて人間と共存できるかのように思わせる。しかし博士は不信を買い、仲間に射殺される。この人間に復讐するために、人らしく銃を手に取ったゾンビの姿が、この《哀しげなゾンビ》と重なって見えるような気がするのだ。いちゾンビおたくの戯言でございました。



閉じる
2014/11/07 「グルールのギルド魔道士」


ギャップにグッとくることは多々ある。「能ある鷹は爪を隠す」というわけでもないが、普段見せない一面というものは即ち魅力へと繋がりやすい。

あの悪役レスラーが難病の少年と面会し励ましていたなんて!大人しそうに見えたバイトの子がギターを手に取ればあんなに激しい演奏をするだなんて!ライオンもボールをあげると猫のようにじゃれるなんて!こんな具合に、思いもしなかった二つが線で結ばれる、その構図を人は美しい・良いと評価する傾向にあるように思う。見てくれは悪いが白身で美味い魚とか、最高でしょ。

 マジックでギャップというと、個人的には「グルール」かなと。次元ラヴニカに住む、野性味あふれる氏族の集まりであるグルール一族。

人間・ゴブリン・ヴィーアシーノ・オーガ・サイクロプス・トロール・巨人・そして野生動物、これら多種族が結成するいくつかの○○族を偉大なる戦士・腹音鳴らしが腕力で束ねるギルドだ。カードでも、まさに蛮族といった出で立ちの面々が破壊の限りを尽くしているシーンが多いため、そういった原始的な生活を送る無法者といった印象が根付いていることだろう。

事実、その要素は色濃く持っているが、それはあくまでこのギルドの一面に過ぎない。何せ、元々は高貴なギルドであったのだ。彼らは、都市部を拡大し続けるラヴニカという次元の在り方に疑問を持ち、貴重な自然環境が失われてゆくことを憂いた。

グルールの元々の仕事は、これらの自然環境と野生動物の保護である。この地球にも似た組織があるね。

そんなグルール、ギルドパクト締結前はそういった活動を行っていたが…シミックは、自分達は生命・自然の進化をもってこれを管理する存在であるとアピール。

これを受けて、セレズニアはじゃあ現状の自然は自分らが大事にするよと囲い込む。

職を失ってしまったグルールを、アゾリウスは蛮族であるとして評議会から爪弾き、ボロスは彼らを無法者だと取り締まる。職を失い、都市からも追いやられた彼らは、オルゾフに奴隷としてこき使われたりした…うっ、涙が。

 この歴史を踏まえて、《グルールのギルド魔道士》のイラストを見て欲しい。何かこう、物憂い・アンニュイな表情が際立って見えてこないだろうか。

能力の1つは《狩猟の神、ナイレア》と同じパンプアップ。このシャーマンが睨みを利かせている限りは、あいても迂闊な接触戦闘は禁物である。

もう1つの能力は、土地を2点火力にしてプレイヤーを直火焼きするというもの。どちらの能力も、マナが伸びた後半では鬼神の如き働きを見せる。リミテッドではどちらか一方のみ色があっているだけでもピックすべきクラスのカードだ。自分達を追いやった9つのギルドに、野性の力を教えてやろう。



閉じる
2014/11/06 「もの悲しい詩人」


 儚げなイラストのカードは目に留まるものだ。トーナメントシーンでは、ドラゴンやゾンビや墓場喰ってデカくなる謎の生物、鎧を着こんだ重騎士に果ては悪魔の支配者や触手まみれのクラゲ大王、そんな連中が跋扈する世界において、アンニュイな表情で佇む美しき女性がいたりすると、自己主張激しいモンスターどもよりもかえって存在感を放つものである。そんなわけで今週お届けしている「アンニュイ・ウィーク」、今日の1枚は美しき女性にフィーチャーして《もの悲しい詩人》をお届けしよう。

カードとしては1マナ1/1、か弱き女性に見えるが、死に際に立たされるとゴブリンや猟犬などと相討ちにまでもつれ込むことが出来るのは、なんかリアルだね。詩人と言えども魔法で呼び出されている戦力である以上、戦ってくれるのだ。それはさておき、彼女の真の力はやはり詩を読むことで発揮される。彼女を生け贄に捧げることで、墓地にあるエンチャントを回収することが出来る。エンチャントは、「詠唱」という言葉もあるくらいで歌・詩に例えられることが多い。ある詩人が命を賭して書き、歌い上げた詩が太古に失われた秘術を蘇らせる…実にドラマティックな能力を持った1枚である。

これが収録された「ウルザズ・レガシー」は、実はエンチャントを強化するために作られたセットの1つである。「エターナル・エンチャント」や「休眠カード」といったそれまでと一線を画するエンチャントの姿を見ることが出来る。《仕組まれた疫病》や《怨恨》といった、今でも一線級のカードが数多く収録されており説得力も高い(しかし、アーティファクトがそれを上回ってヤバかったことは置いておくとしよう)。そんなセットのエンチャントを拾うために作られた1枚だが、今では「テーロス」のおかげでクリーチャーでもあるエンチャントも多く増え、その能力の幅は大いに増した。《太陽の神、エルズペス》に祈りを捧げて散る詩人なんて、美し過ぎるではないか。その対象を変更されてゼナゴスなんかが還ってきたらそれはそれで悲劇な感じがしてGood。

憂いを帯びた、美しい女性を描いたのはQuinton Hoover氏。いつか会いたい・GPにお招きしたいアーティストの一人だった。しかしまことに残念ながら、Hoover氏は2013年4月20日、49歳という若さでこの世を去った。数々の美麗イラストのカード達、コレクションとして持っている方は是非大事に持っていてあげてください。



閉じる
2014/11/05 「懐古」

 寒くなってくると、物思いにふけりたくなることもあるだろう。キャラを作るとかじゃなく、なんとなくそういう機能が人間の心にあるんだと思う。たぶん、原始時代のご先祖様たちは「こうも寒いと、もうすぐマンモスも移動を初めちまうなぁ…この寝床ともここらでお別れだな」なんてことをパチパチ音を立てる焚き火を見つめながら考えていたのではないだろうか。というわけで、前回の《憂鬱》から始まる今週は「アンニュイ・ウィーク」だ。

 物憂い感じという意味のアンニュイ。良い意味の言葉ではないのだが、アンニュイな表情は時に魅力的に映る。マジックで物憂い表情と言えば、やはりこの方、Rebecca Guay大先生にご登場願おう。数多ある、儚さと美しさに満ちたファンタジーワールドから、アンニュイな表情そのものにフィーチャーした1枚である《懐古》を今回は選んでみた。もう見ての通りの美しさで、言葉にすることがむしろマイナスになってしまいそうなレベルである。…しかし、はいこれって提示して黙っている訳にもいかないので(最初はここまで書くコラムと考えていなかったんだけどなぁ)、恐れ多くも語らせていただきたく。

 カードとしては、実はリメイク物。かつて、《ドルイドの誓い》とのコンビネーションで名を馳せた、墓地対策用カード《ガイアの祝福》。これはコンボパーツ的に用いられたカードではあるが、その本来の役割は墓地を掃除する・あるいは再利用することにある。2マナインスタント・1ドロー付きで3枚ライブラリーに戻すこのカードをリメイクした《懐古》は、1マナソーサリーで4枚戻すという形になった。スレッショルドやフラッシュバックといった墓地活用が基本戦術であった当時のスタンダードに「トーメント」と共に登場。たしかに、そのような環境ならば1枚でも多く邪魔なカードを掃除できた方が有効ではある。

しかし、これが有用かと言うと「うーん」というのが正直なところ。やっぱり、先代のインスタントであることや1ドロー付き(通称キャントリップ)であることは大きな武器であったということだ。さらに続く「ジャッジメント」では《クローサ流再利用》という同系列でインスタントであるカードが登場し、緑の墓地対策の役目は完全に食われてしまうこととなった。

 しかし、大事なのはそこではない。《ガイアの祝福》の後継と名乗るには理由がある。ガイアは、その儚くも美しいイラストでも大人気の1枚だった…そう、Rebecca Guayを代表する1枚である。カードとして相似効果を持つ《懐古》のイラストをRebeccaが担当しているのは、明らかな意図があってのことだ。そしてこのイラストも、彼女のキャリアの中でトップクラスの輝きを放つ、素晴らしい作品である。カード名の《懐古》も素晴らしく、1つの作品としての完成度は、マジックというゲームの中でもトップクラスだと個人的には信じているのだ。

閉じる
2014/11/04 「憂鬱」

  11月である。早いもので。あな恐ろしや、もう2014年の終わりが目の前に。時の流れを早く感じれば感じるほど、なんというか歳を重ねたというか、経たというか…そう思う度に、景色がだんだんと寂しくなっていくのと合わさってか少々憂鬱な気分になってしまうことがある。ただ、決してネガティブ一辺倒というか、駄目な憂鬱でもないと思うんよね。四季が巡る国に生きていることの証明であるというか…。

 マジックで憂鬱と言えば、まさに《憂鬱》というカードが存在する。その直球なネーミングはまさに最初期という感じがする。「アルファ」より存在する、最初の色対策カードの1つとして登場した《憂鬱》。イラストも肌寒そうな暗がりを顔色のすぐれない人物が、アンニュイな表情をして歩んでいる、これぞ《憂鬱》なものに仕上がっている。発注の経緯とか、気になるものだ。「ファンタジーを題材としたゲームのイラストを依頼されたぞ!やったぜ、その依頼内容は…『憂鬱なイメージを描いてください』って…おぉ…」実際に憂鬱な気分になってしまいそうだ。「火を吹く長大なドラゴンを描いてください」ってのとはわけが違うもんなぁ。

 それはさておき、カードとしてはなかなかに強力な色対策である。黒の敵対色であり永遠に相いれない存在である(最近ではかなりそうでもなくなってきたが)、白という色。彼らの力の源である、陽の光を断って木枯らしを吹かせれば、白き魔法を唱えるのには追加で3マナが必要になってしまう。かの《サバンナ・ライオン》ですら③Wというマナコストに…これは白の良さである、軽いクリーチャーを並べるという戦略を封殺しにかかっている。極めて具体的な妨害手段である。ただし、あくまで妨害手段に過ぎないという点も忘れてはならない。4マナになったからといって、マナさえ払えばライオンは飛び出してくる。それに殴り切られたなんてのは笑えない話だ。《白騎士》なんてもっての外。となると、これで足止めしている間にさっさと勝負を決めるか、あるいは黒のお家芸である《暗黒の儀式》からの1ターン目設置を狙うのが良いだろう。特に1ターン目設置してからの2ターン目《Sinkhole》は限界投了ものだ。

 その能力は、すでに場に出ているエンチャントさえも蝕む。起動が能力のコストに追加で3マナの要求をするのだ。特に効くカードの代表としては各種「防御円」。因みに、これのアンリミテッドまでのテキストにはなんと「防御円の起動には追加で3マナ必要」と名指しで書かれている。なるほど、起動型能力を持つエンチャントが防御円しかなかったからか!いやいやいや、《祝福》とか思いっきりあるんですが。何にせよ、防御円ピンポイント対策にならずに済んで何よりである。《太陽の神、ヘリオッド》すら憂鬱な気分には勝てないのだ。

閉じる
2014/11/01 「念動の結合」

 今週は、連想ゲーム的に《Jumbo Imp》から連想されるカード名を順々に追ってきた、「連想ウィーク」という仕様でお届けしてきた。《Jumbo Imp》→《秩序》+《混沌》→《混沌のグー》→《ムンドゥングー》と来て、本日は《念動の結合》。何故かって?「ムンドゥン」と「念動」がなんか近いなあと。強引にしか見えなくても、まあまあ勘弁してほしい。AからBを連想する人もいれば、ωや卍を思い浮かべる人もいるということだよ。謎の釈明をしつつ、僕が大好きな《念動の結合》について語っていきたいと思う。

 このカードは、明らかにあるカードを意識して作られている。マジック史上、最も「アウト」と言われたデッキ。かの有名な「MoMa」の、名前の元にもなっている鬼神が如きエンチャント《精神力》。そのシンプルな名前を冠した1枚は、これまたシンプルに手札1枚をタップorアンタップに変換するという能力も有する。一見、割高に見えたこの能力が、いとも簡単に瞬殺チェーンコンボを生み出したのだ。所謂クァドラプルシンボルの6マナと、厳しい調整はなされていたが同世代の相方などにも恵まれ非常事態を引き起こした。結果、スタンダード・エクステンデッドでは禁止に、ヴィンテージでは制限となり、レガシーでは創設時から禁止カードとなった(3年後に解除)。

 そんな問題児の調整版として、しばらく後に登場したのがこの《念動の結合》だ。トリプルシンボルの5マナとコスト自体は軽くなってはいるが、その能力は起動型能力から誘発型へと大きく変貌している。以前は手札1枚を切って起動する能力だったが、その後継者は手札が1枚「切られた」ことに「便乗」する能力へと生まれ変わったのだ。

また、以前は手札を切るだけだったコストも、新型では誘発時に①Uを支払うという設定が施されており「MoMaの悲劇は繰り返さない」という意地を垣間見ることが出来る。Uを含む3マナ以上を生み出すパーマネントと組み合わされば、かなり複雑なシステムを構築することで無限コンボも狙えそうではある。しかし本体で5マナ・起動で2マナと非常に重たいので、そう易々と狙えるものではない。逆に、その手堅過ぎる調整のため「これはさすがに」と見向きもされずに「ジャッジメント」発売から今に至る。恒久的なタップ手段は最強であると言えるリミテッドでさえ、少々扱いにくいという体たらく。

 そんな《念動の結合》だが、その迫力あるイラストは愛すべきものだろう。ツノダシのような姿の熱帯魚を追いかけるのは、アンコウとサメのハイブリッドのような超大型肉食魚。そして、その横で泡のフィールドに包まれながら両者に干渉する魔道士が1人。彼の泡からは魔力的導線が伸びてこの両者と結びついているのだが、これは何を狙って行っているのだろうか?もしかして、この小魚を食べさせるために?なんというダイナミックで大袈裟な餌やりなのだろう。というか、ほっといても自力で食ってるように見えるんだが。

閉じる
2014/10/31 「ムンドゥングー」

 前回の《混沌のグー》を書いて、思い浮かんだのは「グー」を含むこの1枚、《ムンドゥングー》だ。響きがもう、こびりつく。ムンドゥンときてグー。マジックのカードってこういう、リズミカルな独自サウンドに溢れていて素晴らしいと思うわけですよ。最近だと「オレスコス」とか、口に出して言いたいものの1つかな。「ジェディット・オジャネン」を頂点としたこの心地よいサウンド界は̠(強制終了)

 そんな素敵な名前の持ち主、さぞかし風変わりな見た目の種族なのかと思いきや、なんと人間である。これは固有名詞ではなく、「アクー」という浮遊している都市に住まう魔道士のことであるそうな。そのアクーには青い「造物師」と黒い「祭影師」の2つのギルドに属する魔道士がおり、この《ムンドゥングー》もその色は青と黒、おそらくはこれらのギルドと何らかの繋がりがあり、その魔力を持ってこのアクーに影響を及ぼしている存在であると考えられる。「墓所に眠る我らが王たち」とフレーバーで語っていることから、所謂「墓守」的な任務を主とする魔道士なのかもしれない。因みに、これを語るのは「トゥウィール」という、これまた声に出して読みたいカタカナである(カードにはこう印刷されているが、正式なキャラクター名はトゥィールのようだ)。

 《ムンドゥングー》はマルチカラーの3マナ1/1と、戦闘では全く役に立たない非力な人間である(一度、モミールベーシックでコイツが出てガッカリしていたら次の4マナ起動が《エレンドラ谷のしもべ》で「ハイパーアマームンドゥングー」が誕生・活躍したことはある。それでも3/3に過ぎないが)。

彼の真骨頂はその起動型能力。彼は《Vodalian Mage》より始まる「不確定カウンター」をその身に宿したクリーチャーの系譜である。タップすると対象の呪文のコントローラーに1マナと1点のライフの支払いを要求する。これを支払わなかったら打消しと相成る。まあ、たった1マナなので相手もケアしながら動いてくることになるが、相手のマナの自由を奪っている時点でそこそこに働いている方だ。オマケで1点ずつちまちま削ってくれるのならば、まあまあ意味のあることだとは思う。…頑張って褒めてみたがあんまり強い能力じゃないことは確かだ。それでも使うのならば、青と黒の土地を攻めるタイプのデッキで用いれば相手をロック状態にハメることが出来るんじゃないかな。

 しかしイラストを見てもどっちがムンドゥングーさんなのかが確証が持てない。いや、かなり右っぽいよ。というか右だと思う。でも、左のカマールっぽいおっちゃんも別に負けている訳じゃないし、見方によっちゃ念動波的な物を放出しているように見えるし。まあ、右の結構キマっちゃってるおじさん一人だけのイラストでも物足りないし、両者合わせて《ムンドゥングー》のイラストであるということで。

閉じる
2014/10/30 「混沌のグー」

 前回は《秩序》+《混沌》について書いたが、「混沌」というフレーズを見て思い出さずにはいられないのがこの《混沌のグー》。名前、かわいい。一度聴くと忘れられない響きである。僕以外にも、こやつを愛でている方は多いことだろう。実際、テンペストのカードリスト見てると目立つのよこの名前。今日はそんなグーちゃんについて書こうと思う。

みんなー!自己紹介がてら赤いカードってどんなお友達か教えてくれるかなー?

軍族童A「かりょくー!」

軍族童B「どらごーん!」

軍族童C「はやいー!」

いいね、その通りだよ。他には何かあるかな?

オーグ「まえのめりー」

オック「いみふめいなデメリットー」

あ、うん。確かにそうだね。

シャーマンの恍惚「何がしたいのか分からないカード群」

岩滓のワーム「競技性と縁遠い我々のようなコイン系集団」

ごめんなさいね。変なこと聴いてごめんなさい。そういえばグーちゃんもダイス系集団の一員だったね。

グー「グー!」

グーちゃんは+1/+1カウンターが3個乗った状態で戦場に出る。その後はアップキープが来るたびに、コインを投げてもOK。投げた場合、裏ならカウンターが1個減、表なら1個増。4マナ4/4になればとりあえず赤には珍しい性能だから、1回勝てば良いっていうのは悪くないね。

グー「グーグー!」

除去耐性がないのはまあしょうがない。回避がないのもまあまあ…ただレアなんだよね、今の水準で考えると威嚇くらいは持ってても良かったね。レアなんだし。

グー「グ!」

ごめんごめん。ただ、レアなんだよね?うん、レアなんだよ。

グー「グー?」

いや、何も過去に気合入れて買ったブースターから君が飛び出してきたことを責めてるわけじゃないんだ。うん、ちっとも。これっぽっちも。全く。全然。

グー「グー…」

「グー」とかいう可愛らしい名前は、固有名詞というわけではない。「Goo」とは、「ねばつくもの」や「べとべとしたもの」という意味がある。それは物理的のみならず、べとつくような視線や甘い言葉に対しても用いられる。「Goo-Goo Eyes」で「色目」という意味になる。グーちゃんを使う時に、色仕掛けをしてコイン投げをオマケしてもらえってことかな(不正は駄目です)。

閉じる
2014/10/29 「秩序+混沌」

 前回の《Jumbo Imp》を書いた時に、そう言えばまだ「分割カード」ってレビューしてなかったか!と気付いたのだった。前回は矛盾した言葉の組み合わせについて話したのだが、この分割カードという連中はそのカード名に相反する単語が使われているものもあったりする。今日はそんな中から、特に印象に残る「相反しっぷり」が魅力の《秩序》と《混沌》の両者を紹介しよう。

 まず「秩序」とは「物事の正しい順序」や「社会・集団などが望ましい状態・調和を保っている状態。およびそれを維持するためのきまり」といった意味で用いられる。この《秩序》が意味するのは後者で、世の中が平和な状態=あなたが攻撃されていない状態を作り出す。20点のライフという秩序を乱そうとする者は、この世界から追放してしまうのだ。ちょっと重い&システム・クリーチャーは除去できないが、細かい効果範囲などもなく、まあまあに便利な除去である。

 そして「混沌」とは「天地万物が形成される前の、すべてが入り混じった状態」を指す。転じて、「様々なもの・状況が入り混じって区別がつかない様」を混沌と表現するようになった。なかなかにスケールの大きい言葉だが、要するにグチャグチャの状態であれば混沌と呼んで差支えない。ゴミと物が散乱する部屋、クラブやサークルなどでの人間模様…うん、いい意味で絶対使わないね。《混沌》は、敵味方入り乱れる戦場を生み出す。クリーチャーではブロック不可となり、全ての攻撃が対戦相手へと突き抜けて行くことになる。リミテッドでは十分にフィニッシャーとして活躍するレベルのカードである。この手のブロック制限カード、多くの亜種が存在するがここまでシンプルなテキストなのはこの《混沌》くらいのものだ。それらすべての上位種と言って良いだろう。インスタントなため、相手が瞬速持ちでブロックしようとするなどのトリックを用いてきても対応できるのは100点。

 しかしまあ、えらくベクトルが異なるカードが1つになったものだ。両者共に、全ての局面で使用できるカードではない。そんな2枚が1つに合わさることで「ここを凌ぎたい」と「押せ押せ!」の両極端な場面でトップしても腐らないカードが誕生した。カードとしてはリミテッドの域を出ることは難しく思えるが、デザイン自体は非常に素晴らしい1枚。キューブドラフトに仕込むなどして使ってあげよう。

閉じる
2014/10/28 「Jumbo Imp」

 「撞着語法」って聞いたことあるかな?英語では「Oxymoron」と言ったりするのだけど。oxyとはギリシア語で「鋭い・はっきり」などの意味を持ち、moron(moros)は「鈍い・ぼんやり」といった意味で使われる。つまりOxymoronとは「鋭く鈍い」「はっきりとぼんやり」みたいな意味になって…つまりは「矛盾」しているのだ。

一見意味が通じないこれらの矛盾、パッと見ではただ誤った使い方をしているだけに見えるかもしれない。しかし、状況によっては複雑すぎる内容を、簡潔に一言で表現するに適していることもある。例えば、某野球漫画のエースは「小さな巨人」と実況されていた。これは典型的な、非常にわかりやすい撞着語法だ。「身長・体格では小柄ではあるもののその球威は長身の選手に劣らず、勝負度胸では他を圧倒する大きな存在感を放つ投手」とか、テンポが悪すぎてセリフを読んでいる間に寝てしまう。こういった情報を読み手・聞き手に一発で理解させる、矛盾した言葉の組み合わせは便利なものだ。「フルーティな激辛カレー」とか言ったりするでしょ。

 マジックにおいて、この撞着語法を冠するカードの代表格が《Jumbo Imp》だ。Jumboは、大型旅客機や鶴田でご存知の通り巨大なものを形容する言葉である(ジャンボというサーカスで大人気だった象の名前が語源である)。そしてImp、こちらはマジックでもお馴染みの種族だが小鬼や小悪魔など、小さくて邪悪な存在の名称である。この2つが合わさることで「巨大小悪魔」という、一見矛盾した名前になっている。しかしまあ、ニュアンスは伝わるものだ。デーモンとインプでは越えられない壁があり、例え体型だけでもデーモン級に膨れ上がったインプがいたとしても、それはインプであって決してデーモンではない。逆もまたしかりだ。

 《Jumbo Imp》は3マナで飛行持ちのクリーチャーだ。そのサイズは、戦場に出る際に、ダイスで決められる。3以上のサイズになれば、上出来ではないか。しかしデメリット能力を持っていて、ターン終了時には同じくダイスを振ってその出目分縮んでしまう。つまりは最初のダイスロールで1を出すと、何もせずに退場することが決定している。というか、概ね死亡することになるだろう。これだけのリスクを持ってはいるが、しかし無事にアップキープを迎えればこれが化ける。またまたダイスロール、出目分+1/+1カウンターgetである。6が出れば最低でも7/7だ。こうなればドラゴンでもなんでも打ちのめす小悪魔の誕生である。

 まさに「アングルード」性能といった1枚ではあるが、なんかうまく調整すれば通常のカードとして許されるような気もしてくる。ちなみに、カード名は英語圏で撞着語法の一例として紹介される「Jumbo Shrimp」にかけたものだ。「でかい小エビ」、これはわかりやすい。10年ぐらい前、「小海老のから揚げ」の小エビがデカいと友人間で話題の店、よく行ってたなぁ。


閉じる
2014/10/21 「溶岩操作」

 悪役の定番台詞「○○するか、死ぬか。選ばせてやる」。結局主人公が頑張ってどっちの選択もとらずに終わることがほとんど。観ている方もわかっているので、これはもう様式美だ。

その台詞を放った者を絶対的なクソ野郎と定義するにはこの上ない演出である。こういう類のことを言って本当に主要人物が殺されたりすると、それはそれで定石外しの面白さがある。結局、どっちに転んでも物語がしっかりさえしていればいいのだ。

これがことマジックとなると、話が変わってくる。何せこれは、ゲームなのだ。自分がいくつもの選択肢の中からベストなものを選択し、相手の選択肢を奪ってゆく。これがマジックというゲームの1つの理想である。

自分だけ展開するか除去するかという状況で、相手は特定の一手しか打てないとなると、こらもう勝ちだわ。そういうものを理想とする中で、相手に選択肢を与えるとはどういうことか。「○○か、××か、好きな方を選ばせてやる」。

これが10点のライフを失うか、パーマネントを5つ吹き飛ばされるか…みたいな選択肢だと大いに悩むことになるだろう。というか、どっちを選んでも苦しい。しかし、マジックで相手に選択肢を突き付けるカードは、基本的にそこまでハードじゃない。

《溶岩操作》は、そんな選択肢を迫る「懲罰者」と呼ばれるカード群の代表的レアである。押し付ける2択はストレートなもので「X点ダメージを受けるか、さもなくば(相手にとって不利益なこと)をしろ」というもの。これらのカードは、いずれも本来のマナコストでは得られないような恩恵を与えてくれるか、あるいは非常に効率に優れたダメージを弾き出してくれる。

この《溶岩操作》に至っては、2マナ4点火力か対象の呪文を打ち消すかどっちか選べという、本来赤には与えられていない役割をこなす器用な1枚だ。

こう書くと妙に強そうに見えるから困るが、実際はそうもオイシイものじゃ決してない。対戦相手が唱えた呪文に対してこれを撃ちこんだ場合、相手が大した呪文じゃないと思っていれば打ち消されるし、通せば勝てると思っているならば4点ぐらい受け止められてしまう。つまり、打消し呪文として考えると絶対にうまくいかないという訳だ。

なのでここは2マナ4点火力であるという点に注目して扱いたいが…そもそも、相手のライフが低い状況で相手の呪文に対してこれを撃ちこめば、4点のダメージを受けてくれる訳がない。たしかに1:1交換ではあるのだが、そもそもそういうカードがバーン系のデッキに必要なのか?と問われると…。

というわけで使うならばファンデッキになってくるわけだが、ここはもういっそ「オール懲罰者総進撃」と題して全ての選択肢を相手に委ねてみるというのも面白いんじゃないかな。


閉じる
2014/10/20 「Drop of Honey」

 マジックには「この色がこんなことを?」と違和感を覚えるカードが、特にその最初期のセットにはいくつか含まれていた。これは、まだどの色が何の役割を与えられるべきかが定まりきっていなかったが故にデザインにもある程度の「自由」が許されていたのだ。赤い打消し、青い土地破壊、そして緑のクリーチャー破壊…今日はその緑の1枚についてのお話。

《Drop of Honey》は緑のエンチャントでありながら、直接的にクリーチャー破壊を行うという、現在のマジック観から見ると「不可解」な1枚である。1マナという超軽量なこの1枚は、あなたのアップキープの開始時に戦場で最もパワーの低いクリーチャーを破壊する。2/2と1/1がいるならば、1/1がその被害に遭う。その後、その2/2よりもパワーが低いクリーチャーが出てこなければ犠牲となるのはソイツに決定。こうやって、延々と破壊を繰り返して行き、戦場からクリーチャーが去るとこのエンチャントも破棄され、蜂蜜の滴が落ちることは二度となくなる。

除去呪文と考えると、少々緩慢である。1匹くらいが犠牲になってもどうとでも良いという考えのウィニー系を相手取り、それを食い止めるほどの強さを発揮するわけではない。かといって、クリーチャーがいなければ維持できない特性上1ターン目に設置してロック完成というわけにもいかないというのが何と言うか痛し痒し。そもそも、自身がクリーチャーを運用するデッキではデメリットになりかねない。というわけで使いにくい1枚ではあるはずのだが、しかし高額なカードの1つである。最初のエキスパンション「アラビアン・ナイト」のカードだから?それだけが理由ではない。

このカードは驚くべきことに、「対象」を取らない。クリーチャーはあくまで「選ぶ」という形で破壊の的となるので、被覆や呪禁を持った連中を難なく破壊することが出来るのだ。実は1994年から2006年までの実に12年間は、テキストが「対象の」に変更されていたため、マジックの歴史の中でその本来の挙動を行える状態であった期間がズバ抜けて短いカードでもある。永い幽閉を経て、2006年からはエターナル環境で《敏捷なマングース》などの対策カードとして頑張っていたりしたものだ。

このカードは、タイの民話をベースとして作られたものだ。「え、アラビアン…?」というツッコミは、飲み込んでいただきたい。「A little drop of honey」というお話。ある日、王様は食事に出た蜂蜜を一滴、床にこぼしてしまった。家来はお拭きしましょうかと尋ねるも「あー、まあ、いいよ大丈夫。誰かがやってくれるから。それよりさっきの話だけど…」とおしゃべりに夢中でスルー。

この蜂蜜を舐めに、虫が飛来してきた。この虫を、今度はトカゲが食べにやって来た。虫を喰らったトカゲに好奇心をそそられたのは猫である。これを捕らえようと飛び掛かった猫だが、その猫は犬に噛みつかれることとなった。さあ、ここで出てくるのは猫と犬、それぞれの飼い主。お前の犬が悪いいやお前の猫だとあーだこーだの言い争い。これがなんと国中に拡散し、どちらの飼い主側に着くかで国は真っ二つとなり、この勢力の小競り合いは戦争にまで発展。最初は何の話だと傍観を決め込んでいた王様も、元をたどれば自分の蜂蜜が招いた混乱であり「私が何とかしなければいけなかった」と気付いた時にはもう、国が亡ぶ直前でしたとさ。そんなお話。うまくカード化出来てるよなぁ。


閉じる
2014/10/18 「飢えたるもの、卑堕硫」


 「食欲ウィーク」、殿におわすはその二つ名も「飢えたるもの」。これぞ食欲の権化と呼ぶに相応しかろう、《飢えたるもの、卑堕硫》だ。英語名も《He Who Hungers》と腹ペコアピールが凄まじい(直訳すれば「腹が減る者」)。この名前のどこにも「卑堕硫」という言葉は見当たらず、日本語名はどういうことなのか?と思われた方も少なくないだろう。その解説は後に回すとして、この飢餓の化身とも呼ぶべき伝説のスピリットの能力についてまずは語ろう。

 5マナ3/2飛行と、まずまず標準的なサイズ。そして「転生」持ちである。卑堕硫は転生4を持っており、これはこのクリーチャーが死亡した時に墓地にある点数で見たマナコストが4以下のスピリット1枚を手札に戻しても良いというもの。あらかじめ墓地に該当するカードが落ちている場合、対戦相手はこれを除去した時点でアドバンテージを失ってしまうことになる。神河ブロックにて登場した数多くのスピリットがこれを持っており、彼らは本来与えられるよりもワンサイズ小さく設定されたパワー・タフネスでありながらもしぶといクリーチャーであるというアイデンティティを持っている。卑堕硫も同じレアリティ・マナコストの《センギアの吸血鬼》に比べると心許ないサイズではあるが、《神の怒り》などへの耐性は勝っていると言えよう。

 そして卑堕硫のキーとも言える能力がもう1つ。スピリットを生け贄に捧げることでの手札破壊能力だ。飢えたるものの称号の通りに、仲間であるスピリットを喰らい、怨敵の記憶・知識も喰らってしまうのだ。この能力はソーサリータイミング限定とはいえ、その捨てさせるカードに特定の範囲が設定されていないのも特徴である。こういったカードには往々にして「土地でない」と書かれているものだが、この能力はさに非ず。《強要》と同じく何でもOKなので、相手が土地が必要そうな状況ならば容赦なく捨てさせてやろう。ブラフで土地だけしか握ってなかったという時も、まあ損をするわけではないのは良いことだ。この能力は、先述の転生持ちを生け贄に捧げることでこちらのカードは減らさずに、一方的にリソースを奪っていくことが出来るのが魅力である。飢え過ぎて自身をも喰らうことも可能だ。これがインスタントタイミングで使用できたならばバケモノとなっていたのかもしれない。

 さて、「卑堕硫」という言葉がどこから来たのかという、このカードのモデルである日本の神・悪霊の1つであると言い伝えられている「ヒダル神」からだ。ヒダル神は山道などを歩く旅人に憑りつく。これに憑かれると、突然異常なまでの空腹感に襲われ、身体も痺れて行動不能に陥ってしまい、ケースによってはそのまま死んでしまうこともあるそうだ。これは餓死・変死を迎えるも山道などで気付かれず供養されなかった人々の霊とも、あるいは山や川の神の仕業とも言われている。ちなみに「ダルい」という言葉は、このヒダル神の地方名である「ダリ」「ダル」が語源ではないかという話もある。神河のデザイナー、渋いところに目を付けたなぁ。

閉じる
2014/10/17 「海溝喰らい」


 「食欲ウィーク」をお届けしている一週間なわけだが、どう考えても「ハングリー・ウィーク」にするべきだったと気付く。まあ、もう遅いのでめげずに続けていこう…。

食欲や飢えといったものに関するカードを紹介している一週間。この○○ウィークというスタイル、お題を決定してから使えそうなカードをザッとリストアップすることが最初に行う作業である。

それらはまずストレートに浮かんでくるもの・そもそも○○ウィークを書くきっかけとなったカード・単語検索でヒットしたもの・そして僕の「無差別コレクション・ストレージ」を漁っていて出てきたものなどがリストアップされる。

無差別~というのは、ただ整理してないだけのコレクターにあるまじき雑さで管理されたカード群なのだが、なかなかどうしてそのランダムさがこういう時に役に立ったりするものだ。

それはさておき、候補として挙がったカード達の中から、コラムとして面白い文章を書けるか否かというふるいにかけられ(なんとなく)残った6枚ないし5枚のカードについて実際に文章を書いていくというスタイルをとっている。

初めて舞台裏について話したように思うが、なぜ突然こんな話をするのか?というと、食欲に関係するカードというものは黒・緑・ちょっとだけ赤…この3色がそのほとんどを占め、とりわけ白にはこれに該当するカードがあまりにも少ない(むしろ食欲が減退するような発光性のとろろのようなものを飲んでいるカードなんかはある)。

そして青だ。青も白に次いで、野生動物や残忍な捕食活動とは縁遠い色である。しかし時折登場する、「喰う」という本能に満ち溢れた海洋生物がいる分、なんとかお題に合致するものを探すことが出来た。今日の1枚は《海溝喰らい》。

 「ゴジラ」や「パシフィック・リム」なんかの怪獣映画にでも出てきそうな、棘感のある表皮に血まみれのような真っ赤な大口、質量を感じさせるゴツいボディと、その見た目で「大喰らい怪獣」であろうことは伝わってくるカードである。

タブラという怪獣によく似た顔をしている。その怪獣も人間をムシャムシャ食べる恐ろしい存在だったのだが、この大怪獣のエモノは更にスケールがでかく、なんと海溝そのものらしい。海溝とは文字通り、海の底に出来た帯状の溝である。海底の裂け目とでも言おうか、地球に入ったその亀裂は1万メートルもの深さにまで達するものもあるという。

この海溝を「喰らう」というのはどういうことだろうか。この巨大な恐ろしい口で、海底を掃除機の様に飲み込んでいき海溝を作り上げるのかもしれない。

 能力は、その喰らった地面=土地によりこの怪物が災厄の如き大怪獣へと成長する姿を描いている。戦場に出た時点で6/6だが、ライブラリーから好きなだけ土地を取り除くことでその枚数に等しいサイズへと成長する。逆を言うと6枚以下を取り除いただけでは意味がない能力であり、これを使うならばなるべくありったけの土地を食わせて肥えさせなくちゃね。

 ただ普通のデッキでそんなに食わせる土地もないのも事実である。…活躍する場があるじゃないか。デッキが全て基本土地で構成された「モミール・ベーシック」。この怪獣のために用意された舞台ではないか。これだから8マナ起動はやめられん。

閉じる
2014/10/16 「饗宴か飢餓か」


 こういうカードを知っていたら真のマニアと言えるだろう。事実、僕の友人や各種ショップのスタッフも「今回の先行収録に渋いカードあるね」といった話をしていたのを覚えている。その度に「Wait,wait wait!再録だよ」とツッコミを入れて回ったものだ。

しかし知らないのも無理はない。「Duel Deckイゼットvsゴルガリ」に収録されるまでは日本語名すら持たないイラストだけはインパクトがあるけども地味~な1枚だったのだから。というわけで、今日の1枚は《饗宴か飢餓か》。

マジックでは特定の状況下で使い道のない、所謂「腐る」「死に牌」「実質1マリ」といったカードのデッキへの採用枚数はなるべく抑えた方が良いとされる。最終的にはメタゲームしっかり読めという結論に達するのだが、それでもあらゆる状況で活躍するカードってのは良いもんである。

「タルキール覇王譚」でもモードを複数持つ「チャーム」サイクルが活躍している。あれらはクリーチャー除去であると同時に手札破壊であったりするので、その都度必要なモードで打ち分けることで大方のゲームでカードとして機能させることが可能なのが強みだ。

このモード持ちの呪文、最も古いものは《青霊破》《赤霊破》の2つと、マジック創成期から存在する古い血筋である。このモード呪文が複数登場したのが、かつて最強エキスパンションと謳われた「アライアンス」である。

これは黒のアンコモン3という変則的なレアリティで登場したインスタントである。効果は《恐怖》or《スケイズ・ゾンビ》。それぞれ2マナのインスタントと3マナのクリーチャーである。これらを合わせて1つにし、ゾンビをトークンとして瞬速持ちのように出せるという調整を行った結果、そのマナコストは4に膨れ上がった。4。4だ。重いよ!

確かに、これらのモード呪文はその本来の役目を持った呪文よりは若干重く設計されている。同じマナコストだったりマナ拘束だったりすると、通常の呪文の立つ瀬がないからね。そこを把握した上で、それでも便利だねというのが採用の決め手になるのだが…

このカードはちょーっと重すぎる。フィニッシャーとして4マナ2/2は物足りないし、4マナの除去ならもっとアドバンテージが取れるものがあるぞ。

でも、イラストが素敵だという理由で中学当時の僕は愛用していた。こんなカード使いこなすとテクってる感じでカッコイイぞ!…ただの重い《恐怖》と気付くには時間がかかったものだ。ちなみに元祖ゾンビトークン生成カード。

閉じる
2014/10/15 「野生の飢え」


「飽食の時代」なんて言われていても、常に腹が満たされているわけじゃなくどうしても腹ペコペコになる時だってあるのだ。仕事をこなせば飯が食える、それが分かっていても…否、わかっているからこそ人は苦しむことになる。しかし現代社会で生きる人間でこれなら、厳しい自然環境に身を置く野生動物なんてどんなレベルなのだろうか。というわけで本日は《野生の飢え》。

このカードは3マナインスタントで+3/+1の修正とトランプルを与える。額面だけ見れば、より軽い《捕食者の一撃》や《巨大化》に劣るため良い呪文だと手放しには褒められない。そう、マナ効率の面ではね。この呪文の真価は「フラッシュバック」呪文であること、これに尽きる。

「闇の隆盛」にて登場した友好色のフラッシュバック・コストを持つインスタントのサイクルである。更に言うと、「イニストラード」にも同様のフラッシュバック呪文が5種存在するため、これらを合わせて1つのサイクルと見るのが良いかもしれない。マジックには「カラー・ホイール」という概念がある。カードの裏側に描かれた、5つの色の粒が形成する円がそれだ。「イニストラード」の面々は、このカラー・ホイールを時計回りで回っていく。白の呪文は青のフラッシュバック、青の呪文は黒のフラッシュバック…といった具合に。そして「闇の隆盛」のサイクルに属するこのカードを含む面々は反時計回りとなっている。このカードのコストは赤マナを要求する形になっている。

例え効率が悪い呪文でも、フラッシュバックで2度用いることが出来るのならば評価は大きく変わることがある。《野生の飢え》は、カード1枚で+3/+1を2回行える。極々単純に考えるならば、これはカード1枚で6点のダメージを叩きだすことを意味している。こうなるとどうあっても3点ダメージにしかならない《巨大化》と比べると勝っている点も確かにあるということが証明された。まあ使い勝手で言えば、《巨大化》に完敗だが…タフネスが1しか上がらないのは除去に対応して使う分にはかなり心許ない。

Magic Online上で「闇の隆盛」発売期間中に開催されていた同セット×3のドラフトでは、必殺の武器であった。2マナのクリーチャーとこれをかき集めて、とにかくパンプして殴る殴る殴る!クリーチャーでない呪文6枚は全部これ!というような尖ったピックは本当に強かったのを覚えている。


閉じる
2014/10/14 「悪魔の食欲」


 いつも通りのことをしているはずなのに、いつもよりやけに腹が減る。不思議な話だけど、「食欲の秋」って実際にあるよね。これには日照時間と日射量および気温の変化への対応であるとかなんとか。あと美味しいものが純粋に多い。様々な自然界の食べ物が旬になる、味覚の秋。熊なんかにとってはこの秋が生命線で、1年分のカロリーを蓄える大事な時期である。人間も同じということにしようではないか、春先にちょっと食事量を減らせばいいのさ!というわけで今週は「食欲ウィーク」!

 マジックにだって「食す」ことに関するカードは数多く存在する。《カーノファージ》は食うことしか知らない奴らだったりするし、ヴォリンクレックスは「飢餓の声」なんて二つ名で常に腹ペコなのをアピール。クリーチャー達だってみんな生きている訳で(「死んでる」ヤツも多い)食わなきゃ生きていけないのだ。そんな訳で今日の1枚は、世界中の大食漢にエンチャントされている疑いの強いオーラ《悪魔の食欲》をご紹介しよう。僕もやね…

 1マナのオーラで+3/+3修正!?驚異のサイズアップである。色の役割として、本来それをメインの役割として与えられた緑には、古より存在する定番呪文《巨大化》が同じ効率を誇るが、それはあくまでターン終了時まで。この《悪魔の食欲》は永続的にクリーチャーを巨大にしてくれる、夢のオーラ呪文なのです!

 こういう謳い文句の商品には裏があるのが当然。そして、それが結構致命的だったりする。このカードは、悪魔=デーモンの持つ食欲をクリーチャーに移植する。マジックでデーモンで食欲…連想されるのは、この上なく巨大で、しかし維持費が馬鹿高いファッティ達《奈落の王》《貪り食うストロサス》そういった連中だ。コイツらはアップキープに餌となるクリーチャーを要求し、それをムシャムシャと食べてしまう。

最近はこういう連中を見かけなくなったが、かつては黒の宿命的レア枠だったのだ。その能力をそのまんま受け継がせるこのオーラ、即ちクリーチャーを少量しかコントロールしていない状況で用いればジリ貧…というか文字通り悪魔が飢え死にしそうになった余りに自分を食って終了という「怖い話」になりかねない。使う場合は餌となる肉塊をたっぷり用意しておこう。

収録された「エルドラージ覚醒」では、「落とし子」トークンを生み出すカードが多数あったため、それらをばら撒きつつ回避能力持ちに貼り付けてクロックを大幅に強める戦略をとることが出来る。禍々しき落とし子を恐れずにかぶりつくデーモン、おそろしや。僕についてるこのカード、早く《解呪》してくれ!


閉じる
2014/10/11 「弧炎撒き」


 パワー4のクリーチャーを考えながら各種仕事をしていた時のこと。その時に日本人初のプロツアー王者である黒田正城さんに関する話が出てくる。いつも各種イベントで黒田さんにはお世話になっているのだけど、それでパッと思いついたパワー4のクリーチャーがいた。というわけで「Power4ウィーク」のトリを務めるのは《弧炎撒き》!これで決まりだ。

 何故黒田さんでコイツが浮かび上がるのかというと、このパワー4の怪物をフィニッシャーに据えたデッキ「ビッグ・レッド」で黒田さんがPT神戸04にて悲願の日本人初のPT王者に輝いたという経歴があるからだ。「ミラディン」と「ダークスティール」によるブロック構築は、各種「親和」が蔓延る世界だったが、その頂点に立ったのは「アンチ親和」の筆頭格の「ビッグ・レッド」であり、同デッキの顔と言えば《弧炎撒き》だ。

 この5マナ4/5のビーストは、まずその数字だけでもドラゴンを除くと大型生物を苦手とする赤という色の中では巨大で目立つ体格である。まあバニラとかならそこそこ居たりするんだけど、この体躯に強力な能力という組み合わせは特筆ものだ。赤1マナとライブラリーを「10枚」追放することで《ショック》を撃ちこむことが出来る起動型能力を持っている。まずこの10枚という派手なコストが目を引き、登場時から話題の1枚ではあった。特に、初心者には「ただただ馬鹿でかいデメリット」にしか見えないカードの典型である。一見、莫大なリソースを失っているように見えるからだ。

 しかし冷静に考えてみると、これを出したターンから10枚もカードを引くのか=10ターンもゲームが続くのかというところ。いや、引かないね。せいぜい、長引いて4ターンくらいじゃないかな?ということは、理論上4枚以上カードが山札にあっても引かない=意味がないという理論に行きつくことになる。引くことが出来ないカードは「死に牌」だ。それらをリソースとして使用し、2点火力に置き換えることが出来るとしたら?そう、強いんである。これに気付ければ、初心者はちょっと脱却したと言っても良いだろう。

《弧炎撒き》は「ビッグ・レッド」において戦場に着地したら次のターンにはその尻尾と背中の突起をフル稼働させて、ライブラリー40枚くらいを餌にして放電しまくることになるだろう。それだけで8点、自身のパワーで4点、ここだけで12点もある。残り8点くらい、これが出てくるまでの間に削っているに決まっているのど、戦場に出て無事にターンが返ってくればゲームエンド、というのは決して言い過ぎではないのだ。

 「弧炎」と訳されてはいるが、どう見ても炎ではなく電気を放出させている。これは「Arc」に「弧炎」というテンプレ翻訳が為されていたためだが、このカード以降のカードでは明らかに電気のことを意味する「Arc」をカード名に持つものが出てき始めた。そのため、以降は「電弧」という新しいテンプレが追加され、それが用いられている。このカードももしかしたら「電弧撒き」となっていたのかもしれない。デンコマキ、なんかかわいいじゃないか。


閉じる
2014/10/10 「武芸の達人、呂布」


呂布奉先。その出生は不詳。現在の内モンゴル自治区である并州という地にて、丁原建陽に登用されているためおそらくはその辺りの出身なのだろう。丁原は呂布の勇猛さ・その武芸の腕前に惚れ込み、非常に重用したという。おそらくは、この男の腕を持って天下を取る野望を抱いていたことだろう。

 時の皇帝、霊帝が崩御したのがこの時代の1つの始まりと言って良いだろう。これを契機に、朝廷を影で支配する宦官(去勢した男が務める、皇帝の側役)を一掃するという目的で大将軍である何進と丁原は手を組んだ。しかし、間もなく何進はこの宦官達の手によって暗殺される。さらにはこの宦官達を、別の英雄が成敗してしまう。呂布はその武を振るうタイミングを逃す形となった。

 この呂布の元に表れたのが、かの悪名高き董卓仲穎だ。董卓は、皇帝の死により起きた混乱に乗じて当時の首都に入城。そこで丁原の軍勢を奪い、中華を手にする叛乱を企てる。そこで、呂布に接近。うまく言いくるめて自らの主である丁原を殺害させる。親愛を注いでくれた丁原をその手にかけた呂布は、董卓と父子の契りを結んだ。敵の多い董卓は、この天下無双の男に自身の身辺警護をさせたのだった。

 その武力はまさしく桁外れであり、腕力のみならず馬術に弓術にと優れていたため「飛将」と呼ばれた。董卓の暴虐非道ぶりに反旗を翻す各諸侯の連合軍も、この男にその道を阻まれることとなる。かの名将・関羽雲長と張飛益徳、劉備玄徳ら3人を同時に相手して互角とも言われた怪物であったが…最終的には董卓を裏切り殺害。またしても、自分を可愛がり重用してくれた人物を殺めるという行いから、忠誠心の欠片もない人物であるとして「狼虎」と呼ばれ忌み嫌われた。その董卓を殺めて手に入れた天下もものの数日で失い、各地を転戦した末に新たな時代を築く者・曹操孟徳の軍略を前にして、皮肉にも部下に裏切られて敗れ、その生涯を終える。

 「ざっくりかいつまみ三国志」でスタートしたが、もはや知らない人の方が少ないであろう、各種作品で最強キャラの一人として設定されまくる、呂布をカード化したものだ。天下無双の猛将であるとされる呂布だが、「ポータル三国志」においては最強の1枚であるとは言い難い性能である。パワーが4の「馬術」持ちは呂布を含めて6体もおり、打撃力最強という訳では決してない。そしてタフネスが3しかないため、15体もいるパワー3馬術持ちとも相討ちとなってしまう。《蜀の近衛部隊》と衝突して戦死する呂布など、想像もしたくないのだが…

 あくまで既存の「ポータル」系のカードに三国志の人物を当てはめて調節したものが「ポータル三国志」のカードであるということを思い知らされる1枚。しかし参照元が《火山のドラゴン》じゃなくて《硫黄のドラゴン》だったら…と思わざるを得ない。


閉じる
2014/10/09 「ヴィーアシーノの砂漠の狩人」


 パワーが4のクリーチャーでトーナメントシーンで暴れた経歴のあるものを集合させると、いずれも非常に個性的な面々で見ているだけでも面白いものだ。ただ、今週の「Power 4 ウィーク」はあくまでキーワード能力「獰猛」を満たすカードを集めたいという思いの元書いているので、「ティムール」に属する3色のみをその対象とさせていただくことにする。そうやってトーナメント級の連中の色を絞った時に、真っ先に目についたのがこの《ヴィーアシーノの砂漠の狩人》だった。

 「砂漠の狩人」という二つ名がカッコイイこのトカゲ型ヒューマノイドは、赤のダブルシンボルを含む3マナでパワー4・速攻というこの上なく前のめりのスペックが素晴らしい。しかしながら、偉大なる先代《ボール・ライトニング》のように何もデメリットをもたずしてそのような鋭い打撃は許されず、ターン終了時にはオーナーの手札へと帰陣するという、一所に留まれぬというマイナス面を持っている。

 先述の先代とその後継者達、俗に言う「歩く火力」の血筋を引く1枚であるが、この孤高の狩人はそのいずれもが瞬間的な爆発力を発揮した後に死亡するのに対して、手札に戻る分、少々デメリットが抑え目であるという見方もできる。そのため、同族の連中に比べるとトランプルを持っていなかったり、そもそも打撃力が4と低かったり(同じマナコストのクリーチャーの中では高い方だけどね)する。調整の末に造りだされた、デザインの結晶とも言える素晴らしい1枚に仕上がっている。

 自分のターンのみしか戦場に存在できないのも、考えようによってはメリットでもある。どうせこんなクリーチャー、ブロックに回すことはないのだから、ソーサリー・タイミングの除去を回避できると考えればこの能力が利点でしかない相手も少なからずいることがわかっていただけるだろう。さらに手札に戻るという点も素晴らしい。赤い・あるいはクリーチャー呪文を唱えることでボーナスを得られるカードと併せればアドバンテージを生むことだろう。《鍛冶の神、パーフォロス》との組み合わせも悪夢的だ。

 フレーバーからは、蜃気楼や砂嵐のようなもので自身の姿を感知させない・まるで幻かのように現れ消えていく危険な捕食者として生活していることが伝わってくる。日本の妖怪でいう「鎌鼬」みたいなものかな。


閉じる
2014/10/08 「棘茨の精霊」


考えてみれば、パワー4というのは絶妙な数字である。対戦相手のライフを20から0に減らすゲームであるため(基本的には、ね)、パワー4のクリーチャー1体で勝利するのに必要な攻撃回数は5回。そのクリーチャーが速攻でも持たない限りは、そいつが戦場に姿を現してから対戦相手には5ターンの猶予が与えられることになる。5回チャンスをもらえれば、なんとかなりそうなものだ。

ただそれが《セラの天使》だったりすると、リミテッドの場合は本当になんともならないこともある。強力だけど、極端に致命的というわけでもない。良い塩梅、というやつだろう。リミテッドでは、どんな環境であれこのサイズが数体はデッキに欲しいところだ。一種のボーダーラインでもある。

《棘茨の精霊》もそういったリミテッドの主力級であり、色が合えばピックしたいカードの1枚である。5マナ4/4という戦力としてカウント出来るサイズだけでも、クリーチャーが貧弱な色に対して十分に脅威ではあるが、その能力が機能しだすと更に厄介になるときたもんだ。

この《棘茨の精霊》にオーラが1枚つけられると、この茨は魔力を吸って成長でもするのだろう、その枝を分化させて1/1の苗木トークンを2体生み出すのだ。攻撃に行く大型が、その留守を任せるチャンプブロッカーを生み出せるというのは素晴らしい。盤面で押していれば1/1でも攻めの要因にはなるし、「ラヴニカ:ギルドの都」には《圧倒》のような所謂オーバーラン系であったり「召集」呪文だったりが存在するのでトークンの使い道に困ることはまずない。

このクリーチャーはオーラの持つ「1:2交換を取られる」というイメージを払拭するために作られたカードの1つである。同エキスパンションには各色に戦場に出ただけでなんらかのアドバンテージをもたらすオーラが用意されており、他にもアンコモンやレアにも強力なものが用意されたりと、あきらかな「オーラ推し」セットだったのだ。このアンコモンでもおかしくない能力を持つカードがコモンだというのもそれを裏付ける。さもそういうアーキタイプのデッキを組んでくれ!と言わんばかりの1枚であり、事実リミテッドでは頼もしいこと・鬱陶しいことこの上ない1枚だったのを覚えている。

ちなみに除去自体もオーラで行うことが多かったこのブロックでは、それらを貼り付けて封じようとすると最後の抵抗とばかりに苗木を吐き出してくるのがまた最高に鬱陶しいものだ。勿論、褒め言葉である。

ここ数年でさり気なくルールテキストが繰り返し変更された1枚。2010年に行われた総合ルール変更で、一度は能力が機能しなくなる。

カードが「~の状態になった場合」という誘発型能力は、その条件を満たした状態のままでカードが領域を移動することでは誘発しなくなったのだ。オーラは「何かについている状態」で戦場に出るため、「つけられた状態」になった時に誘発するこのカードの能力が機能しなくなったのである。字面では非常にややこしく申し訳ないが、「そういうこと」にしてほしい。このままではマズい、ということで能力が従来のものに1つ追加されたのだった。

「オーラが1つ、これにつけられた状態で戦場に出る度」…ややこしいわい。初心者にはなんのこっちゃ1ミリも理解できないのがまた面白い。この能力は後に、上述の総合ルールがナシになったことで不要となり、削除された元の状態へと戻ることとなった。簡単に見えて、ややこしいカードだったんだなぁ。


閉じる
2014/10/07 「獣の襲撃」


 今週は「Power 4ウィーク」をお届けしているが…冷静に考えたところサイズが4/4もあれば、武装したオジサン達の4倍も強いことになったりする。

さらにはヒグマ2頭を相手にして互角の戦闘力でもあるわけだ。そんなむちゃくちゃ強い生物、今現在地球にいるのだろうか?シベリアトラやホッキョクグマの最大級のものでもなかなか厳しい条件じゃないだろうか。それだけ強い生物が、マジックの世界にはまあまあ生息している。その代表種と言えるのが「ビースト」。

 ビーストはすっかりマジックの便利部族となっている感があるが、野性の象・猫・熊・大鹿などを除いた哺乳類がこれに当てはまることが多い。

また、爬虫類の要素を色濃く持つもの(各種アヌーリッドなど)や、巨大なナメクジタイプ(《腐食ナメクジ》のこと)、はては人間に類似する要素を持ったハーピーまで(《洞窟のハーピー》などなど)、さらには不定形の液状生物(《アクアミーバ》。今日は参照祭りだ)まで抱える大所帯だ。ビースト=野獣=野生動物、というわけでそこまで違和感がある訳ではない。

 これらに属する、野性の名も無き獣を呼び出す呪文が《獣の襲撃》だ。緑のトリプルシンボルだが、5マナで4/4トークンをインスタント・タイミングで出せるのは奇襲性も高く優秀だ。そして、これが通常のコストと同じマナコストで「フラッシュバック」出来るのだ。

アドバンテージも稼ぐこの呪文、普通に使ってもなかなかに優秀なのだが…やはりトリプルシンボルというのもあってか、より使いやすい《獣群の呼び声》の方が広く使われる形となった。

 とは言っても、あちらが象ならこちらはビースト。ビーストを主軸にした部族デッキならば、断然こちらの方が優先度が高い。《ワイアウッドの蛮人》とのタッグは、カード1枚の消費で4/4トークン2体と2枚ドローという「バグった」恩恵をもたらしてくれることだろう。

 サイズでは象を上回るこの獣、カードイラストでは装飾品を身にまとっているのが印象的だ。知性があるのか、飼いならしている部族の趣味なのか。デカい掌に比べて小さくかわいらしい脚部から推察すると、この前腕をフルに使って移動する四足獣・ナックルウォーカーであろうことが推察される。

ちなみにこれから呼び出されるトークンはビーストというよりデーモンに近い風貌で非常に恐ろしく独特なものだ。



参照:プロモアーカイブ 第4回 プレイヤー褒賞プログラム・プロモその1


閉じる
2014/10/06 「大気の精霊」


 「獰猛」。「タルキール覇王譚」にて、ティムールに割り振られた能力語である。この青赤緑の氏族は、野性の獣の力を絶対のものとする。

パワー4を超えるクリーチャーをコントロールしていることで真の実力を発揮する戦士達、古の魔法。逆に言えば、これら獰猛カードをうまく使うには、パワー4以上のクリーチャーをデッキに入れることが最低条件である。今週は獰猛カードと相性の良いカードを紹介してゆくことにしよう。「Power 4ウィーク」の始まりだ。

トップバッター《大気の精霊》。この上なく基本的な1枚である。事実、出自はマジックの始まりにして基本の「アルファ」から。ダブルシンボルの5マナ4/4飛行。同一レアリティ、同一マナコストの《セラの天使》より警戒がない分・そして《センギアの吸血鬼》より吸血能力がない分性能は劣るものの、クリーチャーが弱めの当時の青にしては十二分に強力なエースアタッカーである。

能力が1つ少ないとは言っても、何のサポートもない状態でぶつかり合えば上記の2枚とも相討ちすることが可能である。下手なレアより強力なことはおそらくマジックを初めて触る人にもすぐに理解できることだろう。レアリティ=カードパワーというわけでは必ずしもないのだよということを優しく教えてくれる、先生のようなカードだ。

その基本中の基本にしてアンコモンというレアリティなのも相まって、「アルファ」から「第10版」までの旧基本セットで皆勤賞。「基本セット2010」にも再録され、これからも青の航空戦力としてプレイヤーを支え続けることになるのかと思われたが、翌年「基本セット2011」にてクリーチャー・インフレの流れの中《大気の召使い》にその役目を託し、卒業して行った。

去るまでの間、「ポータル・セカンドエイジ」や「スターター」、はてはMagic Online限定セット「Masters Edition 4」に再録された時も変わらずアンコモンであり続けた、稀有な1枚である。

《大地の精霊》《水の精霊》《炎の精霊》と「四大元素」を元にしたサイクルを形成している。古代ギリシアの自然哲学者アナクシメネスは万物の根源・「アルケー」は空気であると説いた。彼がマジックをプレイするならば「ビッグ・ブルー」のようなデッキを用いるに違いない。


閉じる
2014/10/04 「Farmstead」


 マジックというゲームが作られた時にタイムスリップして立ち会ってみたいものだ。我らが偉大なる父祖、リチャード・ガーフィールド博士は「20点」という絶妙な数字を奪い合うという神がかったバランスのゲームを生み出した。1993年の時点で、テレビゲームではライフを奪い合う対戦方式は既に存在し広く浸透していた。それを非電源のカードゲームに持ち込み、ブラウン管にドットや目盛りで描かれていたものを「20」という具体的な数字に表したことはエポックメイキングなことだった。

この20という数字を巡る攻防が面白いのは、お互いに唯々数字を減らしあうだけが勝利する手段ではないところだ。裏ワザとまではいかないが、ライフを「回復」させる手段があれば、相手よりも純粋に打たれ強くなる。それが恒常的なものなら尚のことだ。こうして、ファンタジー世界につきものの回復魔法もマジックにはしっかり導入されるが、初期のそれは対戦相手との格差を広げる強力すぎるものになりかねないという懸念から、かなり慎重にデザインされたカードばかりとなっている。

その典型・象徴とも言えるのが「風情ウィーク」のトリを飾る《Farmstead》だ。白白白、堂々たるトリプルシンボルにして土地へのオーラであるという挑戦的な設計。はたしてその能力は…

「あなたのアップキープの開始時に、あなたは(白)(白)を支払ってもよい。そうした場合、あなたは1点のライフを得る。」

待ちたまえ。弱すぎる、弱すぎるんだけども、まあ落ち着きたまえ。前述のように、ライフ20を削り合うゲームにおいて、回復手段というものは強すぎると酷いゲーム(マイルドな表現にしてみました)を引き起こす可能性がある・恒常性のあるものならなおさらである、という懸念がこんな謎のカードを作り上げてしまったのだ。

まずそもそも、土地のタップなどを必要としないのにこれが土地オーラである必要性があるのかという話。これはフレーバーを重視して、土地を開墾して農場(farmstead=農場)に…ということなのだろう。なるほど、納得だ。白白というのは…作物を育て、収穫するには太陽(白マナ)が必要不可欠だろう。なるほど、まあ2つもいらない気もしますが。そして収穫により1点回復!1点か…

もしかしたら、3点や2点では強すぎたのかもしれない。まだまだクリーチャーが弱くてしょうがなかった時代の話だ。今ではマナもいらずオートで回復し続ける《アジャニのマントラ》とかいう数段上のカードがあるが、これですら実用レベルには程遠い。ライフは、そんなにチマチマ回復するものではなくなった。いくなら《スフィンクスの啓示》でドカンと、そんな時代である。

はっきり言ってこのカードをゲームで見ることはまずないだろう。そんな1枚だが、イラストはのどかな農村の、風情に満ちた風景を描いている。僕はそれだけで、それだけで良いと心から思うのだ。


閉じる
2014/10/03 「氷山」


長い年月が作り上げるもの。悠久の時の流れを感じることが出来るものを、人は美しいと認識するのだろう。自分で為すことが出来ないから、それを偉大だと思うのだ。自然の所業を前にして、一人間のなんと無力なことか。

そういう思いを想起させてくれるであろう光景の1つに、流氷や氷山がある。巨大な氷の塊はちょっとやそっとで生まれたものじゃない。それこそ、見ている自分が生まれる前から凍り続けていることなんてザラだろう。

マジックでもその名も《氷山》という、渋―いイラストの1枚が存在する。まずこのイラストから風情が溢れ返っている。こういうのはやっぱり「アイスエイジ」出身者だね。

同エキスパンションの氷河期の世界、その海で見られるワンシーンが絵本の様なタッチで描かれている。こういうの、最近見ないからね。普通の風景が魔道士の対決に用いられる魔法っていう、マジックだからこその世界観が大好き。まあそんな話は置いといて。

《氷山》非常に珍しい青のマナサポート・エンチャントだ。X個「氷カウンター」が置かれた状態で戦場に出て(このカウンターはこのカードが初出で、後に「コールドスナップ」で再登場するよ!)、それらのカウンターを取り除けば無色マナが1つ手に入る。これが使い捨てではなく、3マナ払えば氷カウンターをチャージ出来るというのがポイントになる。

つまりは青青だけ支払って2ターン目にさっさと置いてしまうことも可能なのだ。以降はカウンターを構えて、相手が何かアクションを起こせば打ち消す・なければ氷を貯めるという動きを行って行けば何もしなかった=マナを使わなかった自分のターンが無駄になることが僅かだが軽減できる。

こうやって貯めたマナは《天才のひらめき》のようなXドローや、《霊異種》のようなマナを要求するフィニッシャーの運用を隙なく行うことに使用することが可能だ。

…結構ポジティブに書いてきたが、弱いな~これ。後発の《宝石の陳列》どんだけ優秀なんだよと。まあ、カードの価値は強さだけじゃない。デッキに入らないような(リミテッドも含めてね)

カードにだって、価値はあるんだ。「コールドスナップ」構築済みデッキ再録時に新枠&日本語化。この1枚は海外のカードマニアからすれば「お、珍品!」となること請け合いなのだ。


閉じる
2014/10/02 「低木林地」


 この「風情ウィーク」、書いてきて風情を感じる瞬間は歩いている時と見つけたり。特定のロケーションに囲まれている方がより風情を感じられるはずだ(勿論、ふと窓から見えた木々に秋の色を見つけたりということもあるよ)。

マジックのイラストで、僕が歩いてみたいなと思う風景は「第7版」にて登場した3つ目の《低木林地》のそれかな。

サボテンがポツンポツンと点在し、自然が作り上げた岩のオブジェと小石によって作られた小道。陽はまさに夕暮れ時。ふと足元を見ればモロクトカゲっぽいかわいいのがいるではないか。和風では全くないのに、どこか「ワビサビ」を感じさせる、なんとも風情のある風景だと個人的には思っている。


カードとしては、当コラム始まって以来の初めての「ダメージランド」の取り上げになるか。2色土地の定番中の定番として、「第5版」から「第10版」まで、間で1度の鋼板を経験しながらも非常に長い期間、プレイヤー達の基本であり続けた、古参プレイヤーは足を向けて寝れないサイクルの1つである。

その初出は「アイスエイジ」。「リバイズド」に続く基本セットとして、一部のカードを降板・再録することで構築シーンにしっかりとしたゲームバランスをもたらすために登場した「第4版」。そこに、それまでの定番であった「デュアルランド」達の姿はなかった。

始まりにして至高の土地であったこれらのカードは、プレイヤー達を甘えさせるのに疲れたのだろう。続けざまに登場した「アイスエイジ」にて、その後輩でありながら先輩たちよりも遥かに厳しいこの「ダメージランド」または「ペインランド」が多色デッキを組みたいプレイヤー達を待っていたのだった。


無色マナ1つか、1ダメージを受けながらの友好2色いずれかのマナを1つ。この調整はなんとも絶妙なものだ。《真鍮の都》ほど痛くなく、《Savannah》より劣る。色を複数組み合わせることは至難の業なんだよとプレイヤー達に教えてくれたものだ。

初心者の頃は「なんでこんな自分にとってマイナスのカードを使う必要があるのか」と思ったものだが、平地と森だけのデッキを回して事故をしこたま経験して、これらのありがたい土地のお力が借りたくなったら脱初心者と言っても良いだろう。ライフは常に20点をキープしなきゃいけないもんでもないっていうのは、最初はなかなかわからないよね。


とにかくこのカードは「第7版」のものが至高なんである。僕が旧枠信者だからというのもあるだろう。Foilは本当に美しく、使う訳でもないのに集めたくなる魅力にあふれている。


閉じる
2014/10/01 「グルールの印鑑」


 レンガや石造りの建物が居並ぶ通りなんかを歩くのは気持ちが良い。横浜や札幌、ヨーロッパの国々…人を歩きたくさせる風景である。

古くからある、自然の素材で作られた造形物であるが故だろうか、無機質なコンクリートと金属の世界と違って、温かみがあって落ち着く空間だ。

ところどころに、年月・風雨によって削り取られた箇所なんかがあるとなお味わい深い。夜になって、窓からもれるオレンジの光でうっすらと照らされた様も、なんとも風情があって良い。人工物であっても、昔からあるものには風情を見つけることが出来るのだ。


そんなレンガや石の壁を、ふと見るとこんなシンボルが刻まれていたりして。今日の1枚は《グルールの印鑑》だ。

「印鑑」は旧ラヴニカ・ブロックにて登場したアーティファクトのサイクルだ。いずれも無色2マナで設置し、1マナとタップを支払うことで該当のギルドに属する2色のマナを生み出すマナ能力を持っている。

2色が揃うことが前提のリミテッドでは勿論のこと、マナブースト・またフィルターとして優秀であるため構築でも愛されたサイクルものの大成功例であると言える。


そんなサイクルの中にあって、この《グルールの印鑑》は、やや他の印鑑より評価が落ちる1枚である。別に弱いことは全くない、他の印鑑と同じ性能だ。

しかし、この赤と緑の2色は自らの力でマナを伸ばすことの出来る色の組み合わせである。各種マナクリーチャーや、爆発的にマナを増やすインスタントなど、より特化した性能を元来持っている色なので、それらの特性を持ち合わせていない《アゾリウスの印鑑》なんかに比べるとその強みはやや落ちることになる。

そもそも、当時のグルールカラーのデッキと言えば《密林の猿人》や《巨大ヒヨケムシ》をバンバン展開して殴っていく速攻デッキであったため、印鑑のようなマナブーストがそもそも必要ないということも大きかった。


それから時が経ち。統率者戦(EDH)がムーブメントを巻き起こすと印鑑カードは「とりあえず入れとけ」カードの代表として広く再評価されるようになった。

前述の通りブーストが元来得意な赤緑と言えども、ハイランダー(同名カード1枚制限)の元では話が変わってくる。こうして、壁に刻まれたグルールの縄張りの証も、風化せずに陽の目を浴びることとなった訳だ。めでたしめでたし。


閉じる
2014/09/30 「ワイアウッドの番小屋」


「風情ウィーク」ということで、ここでは《ひなびた小村》を…と思ったらもう書いていた。こういうこともある。もう当コラムでも相当な枚数を取り扱ってきたからね…

こうやって、時の流れを噛みしめることの出来る体験がそれ自体「風情のある」ものなのかもしれない。

ということで、田舎の風景について書くことは叶わなかったので、村から少し歩いた雑木林について書こうと思う。《ワイアウッドの番小屋》だ。

シラカバのような見た目のしっかりした樹が立ち並ぶこの空間は、エルフ達自身がその手で切り拓いたのだろうか。林の中にそれらの樹木をカーブさせて作った、かまくらやイグルーといったものを想起させるドーム状の「番小屋」がひっそりと佇んでいる。番小屋というのはその名の通り見張り番が過ごす小屋である(同名の江戸の風習はおそらく1㎎も関係がない)。

ワイアウッドに住まうエルフ達は、この見張り小屋から侵入者や巨大なるビーストの動向を伺い、静かに事を進めているのだろう。イラストに描かれたシラカバ風樹木が節くれだっており、全体的に苔むしたような雰囲気があり、なんとも風情のある1枚に仕上がっている。旧枠というのもそれを助長しているのだろう。

カードとしては実質2マナでエルフを1体アンタップするという、土地らしからぬ部族支援を行う能力を持っている。エルフでタップといえば、やはりマナ能力。《ラノワールの使者、ロフェロス》や《ティタニアの僧侶》と併せれば、一体何マナ出るのか想像もつかない。

他にも同ブロックには《森林守りのエルフ》《幸運を祈る者》といったエルフが存在したため、リミテッドなんかでこれらが使いまわされると手の付けられない事態を引き起こしたものである。《アルゴスの古老》と複数緑マナが出る土地で簡単に無限マナを生み出すことが出来るため、今後もエルフ中心の統率者デッキには必須パーツとして登用され続けることかと思う。

心休まる郷愁的な風景。そこで一息ついたエルフは「よし、もういっちょやってくるか」と番小屋から去っていくのだろう。いやほんと、風情がある光景。僕らも都会から離れて山々を観た時に思うものだね。


閉じる
2014/09/29 「繁茂」


 すっかり、秋だねェ。秋はちょっとしたことに風情を感じる季節、ただ歩くことが楽しくなる。風情、という言葉は日本古来より存在する美意識の1つである。時間により変化してゆくものの中に美しさをみつけ、またそれを感じることで自己の内面を省みる…四季がある日本らしい感覚で、こういうのを常に意識しながら行きたいものだなと。

というわけで、今週は僕が独断と偏見で選んだ「風情のある」カード達を集めた「風情ウィーク」をやってみようじゃないか。

風情が年月の経過を体現するものから感じられるのであれば、マジックのカードで言うならばこの「アイスエイジ」版の《繁茂》がまさにそれにあたる。食肉目であろう動物の頭骨、それもかなり年月が経ち風雨に晒されることで朽ちた色となったものがその地にあとから芽生え茂った茨に持ち上げられるという、生命のドラマを思い起こさせるイラストとなっている。

カードとしては、マジックの誕生と共に登場し、今日までそのポジションを保持し続ける強い存在感を放つ1枚。土地に貼り付けることでその土地に緑を文字通り繁茂させ、生み出すことが出来るマナを緑1つ分増やすというもの。名前とカードから得られる恩恵とがこれほどダイレクトに結びつく1枚もなかなかない。

単純な1マナ圏のマナブーストとして作られたが、しばらくはその評価が《ラノワールのエルフ》に勝ることはなかった。クリーチャーであることの利点の方がオーラであることのそれよりも大きかったのだ。このカードは土地をアンタップすることの出来るカードと組み合わせてのコンボの種としては比較的広く知られていたが、それほど積極的に用いたいカードでもなかった。

「ウルザズサーガ」にて《アルゴスの女魔術師》が登場した時、このカードはその生きるべき道を手に入れた。「アデプトグリーン」と呼ばれるこの女魔術師のドロー能力をフルに活かすデッキでは、ドローを誘発させマナを増やすというガソリンとして大活躍。以後、レガシーなどで愛され続ける「エンチャントレス」の屋台骨として今日もその根を張り巡らせ、歯を生い茂らせている1枚だ。

それにしても良いイラストだね。最近はこういうタッチのイラストが世界観に合わないのもあってかなかなか見られない。僕らはこういうのを見て感性を磨き風情を感じられるようになってきたといっても過言ではないので、今の風潮は少し勿体なく感じる部分もあるんよね。


閉じる
2014/09/27 「Chicken a la King」


 『かのチキン革命の間、他の者が首を落とされたかのように周囲を走り回る中____王はなんとか冷静さを保つことが出来た。』

 マジック偉人(偉ヒューマノイド)伝にも記された有名なフレーバーテキストの主として、小学校の社会の授業でもお馴染みの《Chicken a la King》。彼が偉大な王だったことは今さら言うまでもないだろう。卵の頃から頭脳明晰で知られた彼は、国民が等しく穀物を得るべきだというモットーの元に行動し、歴代の王達が皆でっぷりと太った食肉用種であったのを覆すスマートな体型を維持し続けた王としても有名だ。引き締まった体に、食肉種には真似できない真紅の立派な鶏冠は威厳に満ちている。前述のチキン革命の際にも常に冷静な対処で国民の不満を受け止め、最終的には和解への道を歩んだ名君である。後にも先にも彼のような王の中の王は出てこないことだろう。

 訳の分からん妄想ヒストリアは一端置いといて、本日は「キング・ウィーク」最終日。その「トリ」に相応しい、《Chicken a la King》を恐れ多くもご紹介させていただこう。

彼は「アングルード」にて登場した部族「ニワトリ」の王だ。王とは言っても、ニワトリであるクリーチャーは4枚しか登場せず関連カードも2枚と少ない&5色にまたがっている。彼らの間には別段シナジーは形成されておらず、この1枚のロードがその役目を一身に担っている。ロード、即ち全体強化を行う…と言っても、「運」の要素が多分に絡んだ能力である。サイコロを振った時に、もし6の目が出れば全ての(対戦相手のも)ニワトリに+1/+1カウンターを一個置くというものだ。…1/6は厳しくないかな?もうちょっとゆるくても良かったのでは…。

しかし、自身のニワトリを寝かせることでサイコロを振るというアクションを行えるため、6を目指して何度でも何度でも挑戦し続けることが可能だ。すんなり6が出れば国民は歓喜するだろうが、なかなか出ないと国政に不満を覚えた彼らが第二次チキン革命を起こすのも時間の問題だ。

 「ポータル三国志」にて《黄道の雄鶏》が登場。やったーニワトリだ!新顔の登場に国を挙げての大歓喜!…のはずだった。よくよく見れば、英語では「Chicken」ではなく「Rooster」。日本語でも…「雄鶏」ではないか。なんという、すれ違い。あぁぁぁぁぁ。後に雄鶏も普通の「鳥」に併合された。銀枠世界にしか存在しない「ニワトリ」は「多相」連中も持っておらず、クリーチャータイプ変換呪文でも指定できない。小国は、滅びゆく定めなのか…。

 ちなみにカード名になっている「Chicken a la King」で検索してみて欲しい。腹が減るはずだ。フランス語と英語のミックスであるこの言葉、ストレートに英語表現すれば「King-style Chicken」。1880年代に有名なホテルのシェフが作ったチキンのクリームソース煮に、その後援人であるキングさんの名前を付けたのが始まりだそうな。


閉じる
2014/09/26 「King Suleiman」


 変幻自在・大小自由。特異な能力を持った悪魔達がいた。彼らはその魔力・凶悪さによってマリード、イフリート、ジャイターン、ジン、ジャーンと格付けされていた。

これらの悪魔…もとい妖精や魔法の生き物、人ならざる者にして人と同等の思考能力を持つ者をまとめて「ジン」と呼ぶ。このジン達の魔力をもってしても、抗えない一人の人間がいた。

「旧約聖書」の「列王記」に登場する古代イスラエル第3代の王、ソロモンである。彼はユダヤ教、キリスト教の他にイスラム教においても預言者であるとされている。イスラム社会において、彼は優れた魔力の持ち主であり、前述の通りジンやイフリートといった連中を力をもって支配していた。ソロモンの絶大な魔力にはジン達も平伏し、この悪魔達を用いて彼は神殿を建てたそうだ。彼の名は、イスラム圏では「スレイマン」と呼ばれた。


「千夜一夜物語」にてジンやイフリートを封印する存在として登場したスレイマン。彼をカード化したのがこの《King Suleiman》だ。能力も2マナ1/1とサイズ自体は普通の人間ではあるが、その魔力を用いてジンとイフリートを破壊する能力を持つ。非常に狭い範囲にしか効果がない能力ではあるが…「アラビアン・ナイト」発売時点で《マハモティ・ジン》《Serendib Efreet》《Juzam Djinn》といった強力クリーチャーが軒を連ねる種族であるため活躍する場は多かった。

活躍する場、と言ってもスタンダードとかがあったわけじゃないので、あくまで《Juzam Djinn》大好きな友達に対抗するためのカードであったわけだが。


カード名はそのままソロモン王、ということでクリーチャータイプは…なんと伝説ではない。登場当初持っていたのは独自タイプの「King」。これは後に人間へと変更されることになったが、それでも伝説ではなかった。

これについては(後付)設定があって、この「アラビアン・ナイト」の舞台となる次元ラバイア(アラビアのアナグラム)は、1001個の平行世界を持っている。それぞれの世界に、1001人の同一人物が存在するのだ。故に、このスレイマンも他に1000人存在するわけで…彼らの中の一人が、カードとなっているわけだ。《闇の腹心》も1000人もいないだろうな…と考えると、納得させられる設定だ。


閉じる
2014/09/25 「王を葬る鎌、アンサイズ」


 「Killer of Kings」…王とは、常にその命を狙われるもの。王になるには(世襲は除いて)、数多くの血を流しその道を阻む者を切り伏せて勝利せねばならない。そうやって王になったらば、今度はこちらが狙われる番だ。

寝首を掻こうとする者、正面切ってクーデタを仕掛けるもの、そういった連中に殺められてしまうのも王たる者の宿命であるように思える。そんな王達の首を切り落としてきたのかは知らないが、「王の死因」をその名に冠するのがこの《王を葬る鎌、アンサイズ》だ。


グリクシスに属する装備品であるこの鎌は、装備したクリーチャーに+3/+3修正と先制攻撃を付与する。戦闘力を豪快にアップさせたクリーチャーは守りに立たせても良いが、ここは暴虐の限り攻めに攻めたいところ。

こうしたサイズアップ系装備品の常として、トランプルを付与しないことでチャンプブロックを許し、すれ違いで攻撃してくる相手のクリーチャーに攻めきられてダメージレースに負けてしまうという側面がある。

しかしこの「王を葬る鎌」という異名は伊達ではなく、そういったチャンプブロックも「タダ」では済ませない。先制攻撃で一方的にブロッカーを死亡させ、墓地へと落とすと能力が誘発。屍肉を用いて2/2のゾンビを従僕として作り上げるのだ。

このゾンビがブロッカーに回ってくれるため、ダメージレースでの敗北の可能性は(地上戦に限定するならば)グッと抑えられることになるだろう。アタッカーからこのゾンビに鎌を持ちかえさせるだけで、タフネス5以下のクリーチャーでの攻撃は牽制されることになる。


犠牲者の遺骸を用いてゾンビを生み出すフレーバーは、死亡したクリーチャーを追放することからもよくわかる。これにより、各種墓地利用を防ぐことが出来るのは大きなオマケだ。ダメージを与えたクリーチャーが死亡しさえすれば問題なく、何かとの合わせ技であったり、そもそも戦闘ダメージでなくても構わない。《イゼットの静電術士》でタフネス1の連中を焼き払ってゾンビを増やしまくるのも面白い。


どこからどう見てもグリクシスのカードなのだが、その効果は同断片の王である《裏切り者の王、セドリス》に対して致命的に効果があるものとなっている。このカードが指す「Kings」の筆頭はもしかしてセドリスのことを指すのか?と勘ぐってしまう。

そもそも、色付きのアーティファクト・装備品という時点で、本来はエスパーが担当する枠であるような気もするが…次元衝合の影響だと考えて良いのかな。《スラクジムンダール》にこれを装備させれば、血が紅く染まること請け合い。Diiiiiie!!!!


閉じる
2014/09/24 「キング・チータ」



 「キング・ウィーク」、祝日を挟んで二日目に登場するのはその名もまさにキングな《キング・チータ》だ。マジックではチーターのことをチータと表記する傾向がある。かつては独立したクリーチャータイプだったが、当然のように今では猫に吸収される形となった。

《キング・チータ》は4マナ3/2瞬速持ちである。以上。これでは身もふたもないので、もう少し頑張ろう。瞬速がキーワード能力となるずっとずっと昔の「ヴィジョンズ」にて、《キング・チータ》はマジック初の瞬速持ち(勿論当時はインスタントを唱えられるならいつでも唱えてよいと長々と書かれていた)として登場。

対戦相手の小粒クリーチャーの攻撃をいきなり飛び出て捕らえる姿は、まさしく狩猟豹と呼ばれていたチーターの雄姿そのものである。アフリカをイメージ源とするジャムーラ大陸にもマッチして、フレーバーと能力が美しく調和する1枚として人々の記憶に残った。

そして時が過ぎ、瞬速は限られたもののみが持つ能力ではなく、以前よりも遥かにその能力を持つカードが登場するようになる。同じ緑でも2マナ2/2瞬速持ちなどが登場し、それに比べればタフネスが2であることなど、かなり見劣りするスペックへと相対的にダウンしてしまった。悲しいが、これはマジックでは「初代あるある」なので仕方ないことではある。

カードとしての性能がダウンしても、フレイバーテキストは絶品。ブラックジョークというやつだろう、日本語版では表記が抜け落ちてしまっているが「スークアタの知恵」という出典元がいい味を出している。何が何でも生き抜くという、鉄のサバイバル魂を感じる。皆も《キング・チータ》に追われることがあったら参考にしよう。

ちなみに、実在の動物である。チーターは1属1種、近縁種がいない孤高の存在である。

このチーターの特徴である斑点模様が、色彩変異によりベルト状に繋がった個体がごく稀に登場する。これは別種ではなく、ネコ科動物が持つ劣性遺伝の1つである(イエネコも同様の突然変異を起こす)。これらの個体を「キング・チーター」と呼ぶのだ。家族の中で圧倒的存在感を誇るその姿は、キングと呼びたくなるのも頷ける。


閉じる
2014/09/22 「南蛮王 孟獲」



「タルキール覇王譚」が遂に発売される。「覇王」という響き、グッとこないわけがない。カンと呼ばれる各氏族の王たちが覇を競う、アジアをモデルとした世界観…いやたまらんやろこんなん!ということで、今週は王達の登場に合わせて「キング・ウィーク」だ。

舞台はアジア風、そして王ということで、既存のカードでまず思いついたのがこの《南蛮王 孟獲》だ。

南蛮、あるいは蛮とは四夷の1つである。四夷(夷狄)とは、古代中国において、中華の支配に抗い朝廷に帰順しない異民族の総称である。四夷はその名の通り四方に存在し、我が国日本は東夷と呼ばれた。同様に、南方に住んでいた異民族を南蛮と呼び、これが日本にもそのまま言葉として伝わった(日本では後に西洋人に対して用いられ、その意味は大きく変わった)。

蛮には「虫」の字が使われ、これは当時の中華が異民族を人間とみなしていない為であり、この言葉は元々蔑称であったわけだ。

孟獲は本来、南蛮の王という訳ではない。彼は現在の雲南州やミャンマーの辺りを指す南中の豪族であり、蜀の諸葛亮がこの地を平定しようとするのに抗った。

元々は別の人物が起こした反乱を南中の豪族達に告げて回っていたが、最終的には彼がこの反乱の盟主となった。諸葛亮に7度捕らえられ7度釈放された末に、彼に心服して南中は蜀に帰順したというエピソードが有名だ。

お伽噺の要素が強い「三国志演義」ではこの孟獲を南蛮の王とし、怪しい術や未知の戦法を用いる原始的な異国の先住民と諸葛亮の智謀との戦いをコミカルに描かれることとなった。このエピソードがなければ、変換機能で一発で名前が出るほど有名な人とはならなかったことだろう。

話をマジックに戻そう。「ポータル三国志」は、当然ではあるが前述の三国志演技を基準としているため、孟獲もしっかりと南蛮の王として登場している。

南蛮や野生動物が割り当てられた緑の王だけあって、同色の他のクリーチャーのサイズをアップさせる色ロードである。緑はただでさえ打撃力の高い色であり、それがさらに+1/+1修正を受ければちょっとやそっとのクリーチャー陣では殴り合いに勝利することは出来ないだろう。ロードの割に本人も4/4とサイズは十分なのも嬉しい所だ。

僕が統率者戦やデュエルコマンダーで緑単色のデッキを組む際には、ストレージから取り出してテーブルの上に広げたカードの中で存在感を放ち、デッキが99枚になる様に選別してゆく際にはそのままストレージへ帰ってゆく。

まるで諸葛亮との七縱七禽ではないか、と思い楽しくなる。そういうためだけにコレクションに加えるカードがあっても、良いじゃないか。


閉じる
2014/09/20 「部族のゴーレム」


 この顔よ。一体どんな技師が作ったのか。そこにツッコミ入れるだけで今回は終わってしまいそうだが、「部族・ウィーク」の最後を飾る1枚について書いていこう。《部族のゴーレム》の登場だ。

6マナ4/4と、現代のクリーチャー事情に照らし合わせると物足りないスペックである。いや、当時でさえアンコモンの《黒曜石のゴーレム》にすら劣るサイズである。これは幾つか能力を持っていてほしい所だが…基本的には、何の能力も持っていない。所謂「バニラ」だ。いや、勿論「基本的には」であって能力自体は持っているよ。ただし厳密に言うと「能力を得ることが出来る能力」である。

こう書くとややこしいが、条件を満たせば「アンロック」という風に考えればしっくりくるではないか。日々生まれる新しい言葉(アンロックはテレビゲームでよく使われるね)、上手に使えば便利なものである。

このゴーレムのアビリティをアンロックするキーはトライバルである。横文字で書くと仰々しく見えるが、特定のクリーチャーが横に居れば能力が増えると言うだけの話である。

・ビースト(緑):トランプル
・ゴブリン(赤):速攻
・兵士(白):先制攻撃
・ウィザード(青):飛行
・ゾンビ(黒):黒マナ1つで再生

それぞれの「オンスロート」での主要部族が寄り添い立つことで秘められた力が解放される仏頂面ロボット1号。リミテッドで考えれば、能力が2つつけば十分に強力である。理想的なのはウィザード+α、ビーストはロボがトランプルを持ったところでもっと強いビーストがゴロゴロいるのであまりロボを使う必要がないため優先順位は下がる。

逆を言うと、ビーストらにサイズで圧倒される他の部族を救済する要素が大きいデザインに思われる。全て揃えばちょっとした《怒りの天使、アクローマ》みたいなものだ。《変わり谷》で楽々達成できるため、《銀のゴーレム、カーン》を統率者戦で使用する際に仕込んでみて笑いを取りに行くのがベストプレイか。

背中に装填されているパイプの中をそれぞれの色の液体?が満たしているのが少々不気味だ。ゴブリンから精製される赤いエキスだったりするのだろうか。ゴーレム自身のデザインと背景が少々「マジックらしくない」現代風のイラストであり、アメコミを想起させる。潜入先の秘密基地、コードネーム「Tribal」、厳重なハッチをオープンし噴き出す蒸気の中から現れたその姿は…なんちゅう顔だ。


閉じる
2014/09/19 「名も無き転置」


「部族」呪文は、何のタイプを割り振られるかによって強弱は大いに変化する。マジックのクリーチャータイプには、明らかに優劣が見られるケースがあるためだ。

「部族ソーサリー:アウフ」とか、ただ《タルモゴイフ》を大きくするだけに過ぎない。逆に、ゴブリンやゾンビ、フェアリーといった「推されている」タイプを戴冠するとそれは他の同効果の呪文に大きく勝る長所となる。

 《名も無き転置》は、「ローウィン」にて本格的に登場した部族呪文の中でも、最も使われた1枚である(続く「モーニングタイド」では皆大好き《苦花》が出ましたね)。

当時の除去呪文の事情を言うと、まだ黒が《恐怖》を標準的な除去と定めている時であり、黒をもって黒を征することは困難だった時代だ。そこに、相手が黒くても使用できるタフネス-3修正のインスタントが登場とあっては、「待ってました」と言わんばかりだ。

当時使用されたクリーチャーの大多数がタフネス3以下だったり、《恐怖》で除去できない《叫び大口》の存在、そして部族呪文であるため《タルモゴイフ》の餌に、と使用されるだけの下地は整っていた。


そして、冒頭で述べた「割り振られた部族」も「多相の戦士」という勝ち組っぷりを発揮している。多相の戦士自体には特段シナジーはないが、この「ローウィン」の多相の戦士は皆、「多相」の能力を有していた。

全てのクリーチャータイプを持つというこの能力を、このインスタント除去も備えていたのだ。《光葉の宮殿》や《レンの地の克服者》との相性は言うに及ばず、昨年(2013年)当コラムでもとりあげた《樹根スリヴァー》のようなカードとも類稀なシナジーを形成する。


それらのシナジーの中でも、群を抜いていた組み合わせが「ネームレス・ハーコン」と呼ばれた、《ストロームガルドの災い魔、ハーコン》との魔のコンビネーション。多相は墓地にあっても機能するため、ひたすら《名も無き転置》を打ち続けて対象にとれるクリーチャーは根絶やしにすることが可能だった。

デッキとしても黒単で、所謂「メガハンデス」だったため、多くの黒好きが憧れるデッキとなった。いやー良い時代だったなぁ。個人的には《傷刃の精鋭》と併せて、「殺す」という本能に溢れ返ったデッキを作成してGPに出たことがあるのだけど…開幕2戦連続、ノン・クリーチャーデッキに当たるとは……


カード名の「転置」はそのまま「置き換える」という意味。名も無き置き換え?なんのこっちゃという感じだが、「Inversion」には「逆」や「反転」といった意味もある。イラストも合わせて推察すると顔が裏返ったり(反転)肉体の部位も置き換わって、名も無い異形と化すということだろうか。恐ろしや。



閉じる
2014/09/18 「静寂の捕縛」


「オンスロート」以降、多くのプレイヤーはクリーチャータイプのことを「部族」と呼ぶようになった。『部族がマーフォークだったらもっと良かったんだけどなぁ』とか、そんな具合に。

たった3文字で伝えることが出来るのだから、便利なことこの上ない。これ、英語圏の方々は同様に「Tribal」って言ったりしてるのかな?今度GPで外人フレンズに会ったら聴いてみよう。

そうやって浸透した「部族」という言葉が、「未来予知」では突然新しいカードタイプとして登場したのだから驚いたったらなかった。「部族/Tribal」は、クリーチャーでないカードにもクリーチャータイプを持たせるために登場した、新カードタイプであった。その1枚がこの《静寂の捕縛》である。

このカード1枚では、実験的な(悪く言えばネタ要素の強い)カードばかりの「未来予知」の中に埋もれてしまったであろうカードタイプ・部族


だが、《タルモゴイフ》のテキストにて参照するカードタイプであることが明記され、今後増えていく可能性のあるタイプではないかと多くのプレイヤーに思わせることに成功した。この予想通り、続く「ローウィン」では多くの部族である呪文が登場し話題となったのももう遠い日々の事であり、この文章を打ちながらちょっと焦っております。ついこないだのことと思っていたのになぁ。


カードとしては、「レベル」のタイプを持つ《平和な心》である。

レベルであるということは、レベル達特有の「リクルート」能力によりライブラリーからサーチしてくることが可能である。

呪文がクリーチャータイプを持ってどうするんだという疑問を、一瞬で払拭してくれる良く出来た1枚だ。この1マナ重い《平和な心》、普通に使用すれば被覆や呪禁を持つクリーチャーにはつけることが出来ないが、リクルート能力でライブラリーから直接場に出される場合は、これらの能力を持つクリーチャーにも貼り付けて動きを封じることが可能だ。

オーラが「場に出る」時には、何かを対象にとる訳ではない。《補充》などで釣り上げた時にも同様に挙動を見ることが出来るが、このカードはそういった手間をかけずとも《レイモス教の副長》から簡単に引っ張ってきて《最後のトロール、スラーン》を隠居させることが可能だ。

例え破壊されても《果敢な勇士リン・シヴィー》で何度も使いまわすことが可能。ほら、こういうこと書いてたら久々に「リベリオン」回したくなってきた。傭兵との格差社会は広がる一方だってぇ!



閉じる
2014/09/17 「部族の腕力魔道士」

 
「オンスロート」のメインテーマは「部族」、ということで各種クリーチャータイプに関するカードが山盛り登場、マジックの歴史でそれまで軽視されていたクリーチャータイプという存在(これを証明するのが「岩ぞり隊」「イシュトヴァーンおじ」などのつける意味あるのか?というタイプ達。愛らしいけどね)が、ゲームにおいて重要な意味を持つようになった。

《部族の腕力魔道士》は、「レギオン」にて登場した、部族支援クリーチャーの1つだ。そして、同時に同ブロックの独自能力である「変異」持ちでもある。

普通にキャストすれば、2マナ1/1でしかない。エルフであること以上の褒める点は見当たらない。これが、変異でキャストしてから①Gを支払って表にすることで大いに化ける。選んだタイプのクリーチャー全てに+2/+2修正とトランプルを付与する、ちょっとした《踏み荒らし》を引き起こすことが出来る。

この手の「変異誘発型能力」持ちは多く存在したが、それらの中でもこのエルフは強力な方として評価された。緑マナ1つで《踏み荒らし》が使用できるということで、タッチでも使いやすいためリミテッドで高得点な1枚であり、構築でも各種エルフデッキのフィニッシャーとして使用されることがあった。


「腕力魔道士」と名のつくカードはこれまで5枚登場しており、何れも緑単色である。その全てが、クリーチャーのサイズアップに関する能力を持っている。

腕力と魔道士という、一見相反するものが合わさっているがその響きは妙に耳に残り、一度聴いたら忘れられない。ファンデッキとして「腕力魔道士単」を作ろうと思われた方は、何故かサイクルにおいて彼だけがシャーマンではなくウィザードなことに注意してほしい。こ、こんな仕打ちって…。


シャーマンになれなかったことに絶望し、袂を分かったのか…カードイラストでは彼は自らと明らかに異なった種族であろうエレメンタル・チックなかわいい魑魅魍魎を魔法で魅了しているようだ。

特に彼の足もとにいる、こちらを向いている子はマジックのクリーチャーイラストにおいてトップレベルのかわいさを誇るあどけない表情を見せている。この子を早くカード化してもらえないでしょうか。待ち続けるしかないか…



閉じる
2014/09/16 「部族の炎」


 「タルキール覇王譚」は5つの「氏族」が終わりなき戦乱を繰り広げる次元を舞台とする。「氏族(Clan)」という言葉は、ギルドなどの似た存在との区別をつけようというものだろう。「部族(Tribal)」を用いなかったのも、意図的なものだろう。マジックにおいては、この部族と言う言葉が既に浸透し、独自の意味合い・イメージをすでに確立しているためだ。そこで今回は、氏族を受け入れる前の「部族・ウィーク」としよう。それではまず1枚目、部族にまつわるカードで最もその名がしれわたっている《部族の炎》だ。

《部族の炎》は、「版図」カードである。「版図」とは、元々「インベイジョン」にて登場した、「所有地」カードのことを指す。自分がある特定の基本土地をコントロールしている・あるいはコントロールする基本土地の種類が増えれば増えるほど、恩恵を受けることが出来るというカードの総称が「所有地」であり、このうちの後者が「コンフラックス」にて帰ってくる際に「版図」という能力語として制定されたのである。

この《部族の炎》は、自身の基本土地の種類と同数のダメージを与える変動式の火力呪文である。3点与えることが出来ればカードとしてはひとまずの合格ラインといったところ。どうせ用いるならば、全種類並べて5点は飛ばしたいものだ。これは永らく難題ではあったが、「オンスロート」のフェッチランドと「ラヴニカ:ギルドの都」にて登場したギルドランドの組み合わせにより、3ターン目に難なくこれらを揃えられるようになった。

こうして登場したのが「アグロドメイン」。ドメインは版図の意。5色の良い所を《部族の炎》中心に集めたこのアグロデッキは、後に《野生のナカティル》らの参戦を迎えて「ドメインZoo」へと進化する。「時のらせん」にて再録されているため、モダンでも使用が可能なのはこのカードにとって幸運だったというか、こうなることを意図しての再録としか思えない。

最近ではMagic Online上のフォーマット「Pauper」(コモン限定構築)にてその強さを遺憾なく発揮している。1ターン目《野生のナカティル》、2ターン目《ナイレアの存在》、3ターン目《部族の炎》。これでもう11点のダメージ。笑いが止まらないね。

この後、カード名に冠する「部族」は、この版図カードとは全く別のベクトルへと進化してゆくこととなる。むしろ、このカードが初代にして「部族」浮きまくっているという見方が正しいか。各色=諸部族というイメージなのだろう。

閉じる
2014/09/13 「夜のスピリット」



 「ナイト・ウィーク」のトリを飾るのはこの存在しかあるまい。我らが《夜のスピリット》のお出ましだ。名前はそのまんま「夜」の「魂」であり、夜の持つ怪しさ・恐怖・暴力性を凝縮した「真っ黒」な1枚である。非常に多くの古参プレイヤーが、このカードのお世話になった。

 黒のトリプルシンボルを含む9マナという非常に重いマナコストながら、6/5飛行・速攻・トランプル・(攻撃時に)先制攻撃・プロテクション(黒)と能力盛り沢山。

超重量級のフィニッシャーとしてデザインされたこのスピリットは、そのマナを払われることはほとんどなく往々にして「リアニメイト」や各種「オース」といったデッキのフィニッシャーに設定され、コストを踏み倒されて呼ばれて飛び出て喉笛を掻き切る凶悪クリーチャーとして、原作中における暴虐の塊であるかのような強さを発揮していた。
一見、メリット能力に見えるプロテクション(黒)であるが、これは実は一種のデメリットとして設定されていた。そもそも黒いクリーチャーであるので、当時の基本的な除去であった《恐怖》はプロテクション以前に受け付けない。

この能力は、黒特有のクリーチャーサイズを上げるオーラや、《動く死体》のようなオーラとして運用するリアニメイト呪文などの恩恵を受けないように設計された(のだろう)。

ただし墓地にあるクリーチャーはプロテクションが適用されることはないので、《再活性》などで釣り上げることには何の問題もなかった。

 この黒に対するプロテクション、当初はデメリットだったにも関わらず、時代を進めれば進めるほどメリットの方が大きくなってくる。《喉首狙い》《英雄の破滅》のように、近年の黒い除去呪文は、ゲームバランスも考慮したうえで黒のクリーチャーも難なく除去することが出来るようになってきた。

となれば、スピリット様の持つプロテクションは純粋な除去耐性であり、同じ夜の眷属である《吸血鬼の夜鷲》に道を阻まれることもない、夜を支配する能力として機能するのだ。

 「ナイト・ウィーク」の象徴であり、「mtg  夜」と打ちこめば一番にヒットしそうな1枚ではあるが、実は最初につけられていた名前は《Spirit of the Nightstalkers》。

《アーボーグの豹》の能力により、3種類の「夜魔(Nightstalker)」を生け贄に捧げることで戦場に降臨するため、この名前が予定されていたが、黒のトリプルシンボルがスペースを圧迫し、結果短くNightと表記されるだけに留まった。

結果オーライ、これにより、最高にクールな名前になったことは喜ばしい。それに例の「後付設定」も…ね。これについては別の機会に話そう。


閉じる
2014/09/12 「真夜中の決闘者」



「プロテクション」って何なんだろう。例えば色に対するプロテクション。これは「アルファ」より登場した、マジック最古にして基本的な能力の1つである。

《白騎士》《黒騎士》や《~の護法印》シリーズに見ることが出来るこれらの能力は、主に白が担当していることからも防護魔法・信仰による奇跡のような扱いであることがわかる。

後に登場した数え切れないほどのカード達も、イラストでは生まれつき耐性を備えている生物として描かれていたりして、フレーバーと合わさることでプレイヤー達を納得させてきた能力である。

しかし、そのフレーバーを重視すればするほど、少々納得のいかないことが多い部分もある能力だ。例えば《銀騎士》が《火葬》で焼けないのはその装備の雰囲気からよくわかる。しかし、《密林の猿人》を同様の装備で無傷で抑え込むことが出来るのはどうなんだろう。

《炎の精霊》は理屈が同じだからわかるんだけどね。ゴリラと炎、全く本質が異なるこれらのものに対峙し、同等に無敵に立ち回る。それほどまでに、このマジックの世界を形成するマナという存在は絶対なのか。


その点、ごく限られた範囲に対するプロテクションは体感的にわかりやすくて個人的には良いデザインだなと思っている。

例えば、特定のクリーチャータイプに対するプロテクション。この《真夜中の決闘者》は対吸血鬼に特化したヴァンパイアハンターである。彼のプロテクションは、そのイラストから察するに信仰や奇跡といった類のものではなく、純粋に「特化」した結果であるように見える。

吸血鬼達が用いる様々な幻術や、その人間離れした腕力から繰り出される純粋な暴力を、彼はその卓越した対吸血鬼戦術を用いて巧みに回避する。こういう、「戦闘ムービー」が脳内再生できるクリーチャーはそれだけで面白い存在だ。


ただし熟達の回避能力を誇る彼であっても、その腕力は完全に吸血鬼をねじ伏せるものではない。

《夜の子》のような最下級の吸血鬼であればその心臓に杭を突き立てることができるが、少しランクがあがるとその足止めをするのが精一杯となってしまう。

ここは各種装備品などで、彼の復讐を支援してあげたいところ。そのように装備を整え、より信仰の力を強く持った存在が《精鋭の審問官》だ。あぁ、イニストラードの世界観って、良いなぁ…。


閉じる
2014/09/11 「夜の土」



 思い出話編。マジックを始めたばかりの頃。僕とその仲間たちは、地域のキッズにとって定番となっていた商店街のおもちゃ屋さんでパックとスターター(もはやこの存在も懐かしい)や構築済みデッキを買って、何もわからないまま組んだデッキを持ち寄って友人宅で遊んでいた。

僕らは雑誌を買うようになり、フォーマットというもの・過去のエキスパンションセット・各種専門店の存在を知った。徐々に、各々のプレイスタイルが確立されていった。それと同時に、より多くのカードが欲しくなった。

そこで僕らは活動の範囲を広げ、噂に聞いたちょっと大きなゲーム屋さんへと通うようになった。そこではシングルカードや、見たこともない様々なセットのパックが売られており、それらと初めて遭遇した時の感動は今でも忘れられない。

そして、それらの中に1つ、妙に渋いパックがあることに気付いた。名を「フォールン・エンパイア」という。そのワインレッドのようなチョコレートのようなメインカラーと、クリーム色、そしてロゴによってのみ構成されたパックは、僕らが慣れ親しんだ「ウルザズ・サーガ」のような派手さはなかったが、しかし「激シブ」に見えた。

しかも値段を見て驚いた。250円!?サーガの半分の値段やん!とりあえず、買うことにした。

手に取ったパックがやたら薄く、少々の不安は覚えたがとりあえず剥いてみた。このクールなパッケージは、なんとなく保管しておいた。さあカードを見てみよう。思った通り、枚数は少ない。まあ安いんだからそれもそうだ。問題は中身である。

まるで別のカードゲームかのように材質の違うカード達、デザインがやや異なるマナシンボルやタップシンボル、そして全体的に暗く渋すぎるイラストたち。うーんやっぱり激シブだ。そして、英単語を調べながらのカードの能力チェック。うーん、あまり強そうに見えないもの、そもそも何を言ってるのかわからないカードなど、積極的に使おうと思うカードは少ない…それでも《Hymn to Tourach》は抜群に、そしてこの《Night Soil》は少々良さそうに見えた。

イラストはひたすらに不気味であり、カード名を調べてみると「夜の土」とのことだった。死んだクリーチャー達が夜の間に分解され、新しい生き物へと生まれ変わる。なるほど、「ペット・セメタリー」(※)とかそういう感じのカードねと思ったものだ。

それから10年は経っただろうか。このカードをよく目にする機会が訪れた。Elder Dragon Highlanderが浸透し、一大ブームを巻き起こした頃。緑でも使える墓地対策、ということで白羽の矢が立ったのだ。この激シブな1枚が大好きな僕には、このカードの認知度が上がり皆が購入していく様が嬉しい光景として映ったものだ。

その後、《漁る軟泥》といったカードの登場により、御役御免となったのか姿を見る機会は激減。一人残念に思っていると、「統率者2013」でまさかの新規イラストで再録。日本語名も出会った時に直訳した《夜の土》そのままで、何か「再会」のように感じたのを覚えている。皆にもこういう1枚、あるよね。

※1989年に公開されたスティーヴン・キング原作のホラー(色の強い)映画。派手さはないが、愛するが故の過ちを描いた悲しい物語。


閉じる
2014/09/10 「狙い澄ましの航海士」



 カード名に夜と書かれているわけではないが、そのイラストが夜更けを舞台にしているため、この「ナイト・ウィーク」で紹介することにした1枚。

半透明の(マントの部分が)スピリットが、船頭として舟を漕ぎ、夜更けの水面を進む。その小舟に乗せられた・あるいは自分の意志で乗ったのか、男は何処へ連れられて行くのだろうか…

日本で言う「船幽霊」のようなものなのだろうか。物語性が非常に強いイラストはそれだけで見ていて楽しいものだ。


クリーチャーとしては6マナ5/5と、青にしては戦闘力の高い体躯を誇る。しかし、このカードの真価はその特異な能力にある。

「アヴァシンの帰還」にて登場した「結魂」。これの青のレア担当であるこのスピリットは、自身とそのパートナーとに「明滅」能力を付与する。

明滅とは、自身のパーマネントのみを対象とした瞬間的な追放を行う能力の事である。それまで白に多く登場した、対戦相手のカードも追放することが出来るものよりは範囲が狭くなるが、追放領域から戻ってくるパーマネントは、そのオーナーではなく自分のコントロール下に帰ってくるのがそれの独自性を高めている能力だ。

《狙い澄ましの航海士》は起動型の明滅能力を共有する。これで、お互いが単体除去では沈むことがなくなる。また、より生き延びさせたいクリーチャーを後から展開した場合、航海士自身を明滅させてそのクリーチャーと結魂し直すことが出来るのも良い。

しかしまあ最大の利点・このカードの神髄は、「CiP」の連打にある。クリーチャーが戦場に出た時に誘発する能力を2マナにつき1回引き起こすことが出来る。

例えば《なだれ乗り》や《再利用の賢者》がいれば特定のパーマネントを根こそぎ持っていくことが出来る。《オーラの破片》《侵入警報》といった形の誘発型能力もトリガーをガチャガチャ引きまくって連射に次ぐ連射。この一連の誘発の中に、マナを生み出すエンジンを仕込むことが出来れば、無限マナを生み出すことも夢ではない。

《酸のスライム》《戦嵐のうねり》と相性の良いカードは枚挙にいとまがない。その中でも、特筆すべき相性を誇るのが「アヴァシンの帰還」の同期である《士気溢れる徴収兵》だ。彼女を明滅させることで対戦相手のパーマネントを奪うことが出来る。

これでもしクリーチャーを奪ったのならば、そのまま航海士も明滅させて奪ったクリーチャーと結魂、そして奪ったものを明滅させれば…それはあなたのものとして戦場へとやってくる。マナはかかるが根こそぎ奪い尽くすことが出来るのは恐ろしい。

そして何より、そのコンビに《金粉の水蓮》のような好きなマナを3つ以上生み出せるもの(と言っても他には《水蓮の谷間》くらいか)が加わると、それだけで無限マナ達成、即ち、対戦相手がコントロールする全てのパーマネントを1つ残らず、ペンペン草すら残らないレベルの空っぽにすることが出来る。勝ちだよ勝ち。統率者戦でも度々見る光景である。

名前がずっと不思議な1枚。何を「狙い澄まし」ているのだろうか。イラストにもそういった様子は見受けられず、能力からもそういったフレーバーは感じられない。英名の「Deadeye」は訳すると狙撃種=狙い澄ましともう1つ、「三つ目滑車」という意味がある。三つ目滑車…とは?帆船の部品であるらしい。余計に???となっただけである。うーんどういったニュアンスでのネーミングなのか、生みの親に聴きに行きたいぞ。


閉じる
2014/09/09 「薄暗がりを漂うもの」



夕方と夜の境目、あるいは夜と明け方の境目。その暗いんだけども真っ暗闇ではなく、視認できるんだけども光がさしている訳でもない。あの絶妙な、味わい深い時間帯。正式名称をなんというのかは知らないが、「暗がり」「薄暗がり」と表現するのが個人的には好きだ。

そんな薄暗がりの方が、深夜の真っ暗闇よりも恐怖心をあおられるのは僕だけだろうか。

何も見えないほどの暗さならば、瞬間的な恐怖はあるがなんというか、慣れというか諦めというか…見えないんだからどうしようもないなという境地に達するだろう。

しかし、中途半端にぼんやりと見えるということは恐ろしい。唯の人影を見るだけでも、何の変哲もないそれがバケモノのように見えてしまうものだ。過去に山道で薄暗がりに包まれ他時は本当に恐ろしかった。猿があたりをウロチョロしてたのが拍車をかけたね…

そんな異界と我々の世界の境目であるかのような時間帯に出没し、フワフワと彷徨う存在がこの《薄暗がりを漂うもの》だ。

このクリーチャー、いろいろ面白い。クリーチャータイプはゾンビ・ミニオンという特異な組み合わせ。調べたところを、これらを併せ持つのはマジックの長い歴史でもこれと《隠遁者》のみということが判明。

ミニオンとは、召使い・しもべ・下僕など、使役させられるものを指す言葉である。つまりこのフワフワと浮いているゾンビ君も誰かに仕えているのだ。

他にも誰かに操られているタイプのゾンビなんてまだまだいるように思うのだが、彼らがミニオンでないのは何故だろうか。

まあそれはさておき、イラストも面白いものだ。風呂敷のようなものをマントのようにまとって浮遊するゾンビ君、その布の柄がカワイイ。星柄ですよ、夜空柄。非常にハイウエストのジーンズのようなものをはき、ナイトキャップ風の帽子も被っている。これは可愛い。あとイラスト左上の人、頭をこちらに向けているが身体は一体どうなっているのか、一時にすると気になって仕方がない。

カード性能としては、珍しく飛行を持っているゾンビ(ゾンビ界で飛行持ちは1割に満たない)である。その大半もドレイクや鳥のゾンビとして飛行を持っているのであり、彼のような浮遊タイプは非常に珍しい。

そして「スレッショルド」を満たしている場合のみ、戦場に出た時に誘発する能力を持っている。黒以外のクリーチャーに-2/-2修正を与えるという、小型クリーチャーを薙ぎ払える全体除去である。自軍を巻き込まないため非常に使い勝手が良く、各種黒コントロールや「サイカトグ」で全体除去兼飛行クロックとして用いられたことがある。

昼と夜の境目、夢うつつの空間で覚めることのない夢を見せる使い魔は、北欧などの伝承に聴く妖精などを思い起こさせる。その正体がゾンビだというのも、なかなかにクールではないか。


閉じる
2014/09/08 「吸血鬼の夜鷲」



「秋の夜長」というフレーズ。言葉だけが一人歩きしていないか、と思う昨今。暗くなるのが早いから夜が長いとよく聞くが、なんだか納得がいくようないかないような…そんな疑問を払拭するべく少々調べ物をしてみたところ。

江戸時代では、季節によって昼に経過する一刻(いっとき。当時の時間の単位)と夜のそれとの時間が変化するそうだ。秋に入ると一刻が変化し、夏のそれよりも実質的な時間が長くなる。なるほど、これと日が沈む早さとが合わさって夜が長いというわけだね。

マジックを愛する人たちは、この夜長を如何に過ごすかを心得てているエキスパートかと思われる。デッキ調整、ドラフト、配信およびそれの視聴、背景世界の吟味…今週は「ナイト・ウィーク」で決まりだ。

夜を想起させるクリーチャーとして、この《吸血鬼の夜鷲》を最初に挙げる人も少なくないだろう。名前にも「夜(Night)」がしっかり入り、イラストも青白い満月が非常に印象的だ。

そして強力であるが故に、非常に多くのプレイヤーに使われた1枚。なんらかの形で夜鷲をプレイしたことがある人の方が、圧倒的多数であることは間違いない。プレイされた側も含めれば、現役マジックプレイヤーのほとんどをカバー出来るだろう。そういった意味で現在のアイコン(象徴)の1つであると言って良いだろう。

アンコモンではあるが、並のレアを圧倒的に凌駕するハイスペックという言葉も過ぎたるが如しクリーチャーである。飛行・絆魂・接死と、注釈文がなければたった1行、6文字で済むテキストの意味するところは、対航空戦力迎撃機にして補給艦というどんな軍隊でも喉から手が出るほど欲しい柔軟性の塊である夜の猛禽。

これだけの能力を備えた、①BB 2/3というボディも素晴らしい。サイズがこれより大きくとも、マナコストが重くなってしまっては恐らくここまでの活躍は見込めなかったであろう。3ターン目にスラッと出てきて相手の攻めをビタ止まりさせ、しかる後に一転構成・飛行クロックを刻み始めると主には2点のライフを献上し、ダメージレースの概念を踏みにじる。

こちらがサイズで勝る航空戦力を用意しても、だから?と言わんばかりの攻撃を繰り返す。例えそれが《グリセルブランド》のような完全にサイズで勝る相手であっても、接死は自らの命との強制ピントレードを成立させる。

また、吸血鬼という部族面でのサポートもしっかりしており、非常に頼りになる1枚だ。黒の主要部族として吸血鬼がフィーチャーされるようになり、そのタイミングで次代を切り拓くエースとして登場。かつての《セラの天使》がそうであったように、色の顔役として様々なセットに再録された。

「Nighthawk」はヨタカ(小~中型の夜行性の鳥類)、転じて夜型の人間および「夜盗」を意味したりする。ライフやクリーチャーの命を奪うという点で、非常に素晴らしいネーーミングとなっているが…日本語では夜鷹(ヨタカ)ではなく夜鷲(ヨワシ)と訳されている。ヨワシという鳥はおらず、これは造語であるのだが…。

江戸時代に夜道で客引きをする娼婦を「夜鷹」と呼ぶ風習があった。そのため、単語からそのようなイメージを持たれないように…という理由での英断であったそうな。

ちなみに、鷹(hawk)と鷲(eagle)、良く似たこれらの猛禽の区別は「サイズ」で行われており、大型の猛禽は鷲に区分される。「時のらせん2」なんかで、より大型の《Vampire Nighteagle》なんかが登場でもしたら、どのような訳になるのか…そんな妄想を膨らませながら、本日の夜話はここまで。

閉じる
2014/09/06 「歩く墓場、髑髏茨」



メタルと言えば髑髏!髑髏と言えばメタル!

マジックには非常に多くの髑髏をモチーフとしたイラストが登場する。それはもう、山のように。その何れもがメタルバンドのアルバム・ジャケットのイラストに採用されても違和感のない素晴らしいものが勢ぞろいなのだが…

個人的に、頭1つ抜けてメタル魂が爆発している最近のカードは《歩く墓場、髑髏茨》でキマリ。

このカード、イラスト見た瞬間に「あぁ、もう大好き」となったわけですよ。自身の色でもある黒と緑という最小限のカラーで描かれたグロテスクさと儚さが同居するイラストは、近年のオルタナティヴ・ロックのジャケにピッタリ。幽玄な水墨にも見えるタッチで描かれた髑髏、そして茨!茨と言えば宗教的アイテムであり、それが髑髏と合わさることでメタル指数は針を振り切るレベル。

さてカードとしてのレビューにうつろう。BGの2マナ1/1と、軽くて最小限のサイズではあるが、速攻を持っている。そして、対戦相手にダメージを与えると返り血でも浴びて成長するのだろうか、+1/+1カウンターを1つ得る。

つまり殴れば殴るほど、ドンドン強くなる。このカードが収録されたのは「統率者」だ。つまり、多人数戦を前提として設計されたこのセットに含まれているということは、髑髏茨もそれに特化して作られているということである。統率者戦で2ターン目となれば皆一様にマナを整える段階であり、殴る相手には事欠かないだろう。とりあえず1パンチ。続く3ターン目、皆クリーチャーを出してきたが1つだけ空いている所があったので殴る。ここで3/3なので戦闘力はまあまあ。以後は除去を撃ったりしながら、万遍なくプレイヤーのライフを平らにしてゆく。

ゲームが進めば、何れ誰かが我慢ならんとばかりに《神の怒り》を撃つこともあるだろう。この髑髏茨は、それすらも意に介さない。破壊されたことで統率領域に移動。ここで、所謂「育てる」類のカードはまたスタートからやりなおしとなるのが辛いのだが…このホラーの傑物は、なんとそのまま。このカードは戦場を離れたとしても、「公開領域」にある限り+1/+1カウンターがその上に乗っている状態を保持し続ける。非常~に特殊な、イレギュラーなカードである。さすがに手札とライブラリーではその能力は効力をなさないが(もしそれらでもカウンターが乗ったままだとしたら、一体どのような処理がなされていたのだろうか。気になって仕方がない)、それでも他のカードには見ることの出来ない、「選ばれし1枚」である。

しかし、この能力は時として自身にとって非常にマイナスに作用することがある。

この怪物は、+1/+1カウンターに限らずあらゆる種類のカウンターをそのまま保持する。なんらかの形で現在のタフネスを超える-1/-1カウンターが置かれてしまうと、とりあえず死亡する。死亡するが、その-1/-1カウンターを抱えたまま死んでゆく。これでは統率領域に移動しても、次に唱えると即座に死亡してしまうのだ。こうなってしまうと、髑髏茨を中心にデッキを作っていると所謂「詰み」に陥ってしまうので、なんらかの墓地から手札に戻すカードをデッキに入れておくと良いだろう。

「メタル・ウィークvol.2」、最後までお付き合いいただきありがとうございました。楽しかったなぁ。長い長いレビュー、たまにはこういう息抜きを挟みつつ、さあ来週は何ウィークを書こうか…

閉じる
2014/09/05 「兵員の混乱」



 訳が分からなさすぎる、というのがパッと見の印象。すごいもんね、テッカテカのレオニンがダイブしててその下からニュッとゴブリンがサイドステップしながら呪文爆弾的アイテムを爆発させ、光線が走り抜けエルフは地に膝をつく。

その背後に迫るのはなにかもわからないダンゴ虫のバケモノ的殺戮マシーン、そして前から迫るは《エイトグ》チックな頭部とカエルのような手足、なめらかなサナダムシ状の身体を持ったメタリックな無機物生命体。

これにはエルフも蹴り上げをぶちかますが、絶体絶命の状況には変わりなし…この狭い空間にこれだけ濃密な戦闘が繰り広げられているが、それに加えて左後方に見える噴火と打ち上げられる人物など、情報量がパンク寸前。

Ron Spencer氏による素晴らしくメタルなイラストに加えて、マナコストは③RR、カードタイプはエンチャント。

この時点で「あ、はい」とテキストを読むのを止めてしまう方も少なからずいたのではないだろうか。毎度お馴染み、どんなエキスパンションにも1つは設けられる赤の特等席「カオス枠」。鋼鉄の次元「ミラディン」のそれは、とりわけChaotic。その名は《兵員の混乱》。


アーティファクト・クリーチャー・エンチャントが戦場に出ると、それと同じカードタイプを持つ対戦相手がコントロールするパーマネントと強制的に交換させられてしまう。

これは全てのプレイヤーに適用されるため、お互いに何かを出しては何かを奪うということを繰り返す。これが本当に混乱を生み出すのだ。どちらかが強力なパーマネント…例えば《悪斬の天使》を戦場に投下しても、それはすぐさま相手の《極楽鳥》と交換になり寝返る。

しかしその気になればすぐに取り戻すことが可能で、そうこうしているうちに《梅澤の十手》と《真鍮人間》が交換されて地獄を見る…といった具合に、もしフィーチャーマッチで登場すればカバレージ担当者をリアル混乱させること間違いなしな、はた迷惑すぎる1枚だ。


実は、ここまでカオスな存在である割にはトーナメントレベルでのサイドカードとして使われたことがある。赤単に積まれたこれは、赤が触れない《赤の防御円》しかり《崇拝》しかり、強烈なアンチ赤・エンチャントを自身の割とどうでも良いエンチャントと交換することで対策してしまうのだ。

混乱に乗じて勝機を見出す、狂気にしか見えない正気の沙汰。こういうの実戦で炸裂させて結果を残す人ってかっこいいよなぁ。ちなみに僕は統率者戦で《二の足踏みのノリン》と組み合わせてアホほど相手のクリーチャーをいただきました。ホームシックすぎる交換留学生コンボ、是非一度お試しあれ。

 いやしかし本当にメタルなカードだ。イラストのみならず効果も、なんというか持っている空気そのものも。オルタナティヴ・メタル、ヘヴィロックが聴きたくなってくる。「煩さ」への欲求というものを可視化する必要があるならば、これを筆頭にあげたい。




閉じる
2014/09/04 「ヴィダルケンの解剖学者」



メタルとおどろおどろしさ・ホラー要素は「共にある」存在である。おそらくは、そのどちらか一方が欠けた世界ではもう一方も今日のような発展を見せることなく終焉を迎えたことだろう。

この両者は運命的に結び付けられている。そして、ご存知の通りマジックとホラーも切れぬ関係である。ホラーというジャンルがなければ、おそらくマジックは黒を除いた4色で構成され、全体的にふんわりとした真面目なカードばかりになっていたことだろう。

この2つが切れぬ関係であるならば、ホラーを中心とした「友好3色」的思考でマジックとメタルも運命的結合があるのでは?と思ってしまう。

数年前に「ソリッド・シチュエーション」というジャンルのホラーが流行したものだが、本日紹介する《ヴィダルケンの解剖学者》のイラストはそれを想起させる、緊迫した密室劇が描かれているイラストが静かなインパクトを放つ。

いかにも「俺たちはダークだぜ」と自己主張するメタルアルバムのジャケットといったところだ。フィンランドなんかの北欧デスメタルの雰囲気がね。

これがもう少しコミカルになると大御所「MEGADETH」のアートワークっぽくなるのだろう。描かれているヴィダルケンも、かなり原形を留めない方向に改造され、すっかり新ファイレクシア人と化している。感情の欠片も伝達する気のない頭部が実に不気味だ。

カードとしてはリミテッドで優秀なアンコモンとして、ケースによってはレアを遥かに超える力を発揮する。3マナという決して軽くないマナとタップを要求するが、クリーチャー1体に―1/―1カウンターを乗せた上でタップ・あるいはアンタップするという起動型能力を持っており、鉄壁のディフェンス力を誇る。タフネスが1のクリーチャーは即座に除去。

5/5の大型生物も、2ターンほど寝かしつければこちらの3/3でキャッチすることが可能になる。そのタイミングで相手は後続を出してきているだろうから、今度はそっちを封じ込めればいい。

この、サイズ縮小が緩慢ではありながらも確実に戦況を有利に進める。多くのタッパーが持つジレンマである「Aを抑えている間にBが出てきた。でもAを自由にするわけにはいかずそのままBへの解答を引けず負け」を完全にではないが解消してくれる可能性のある1枚である。

「All Will Be One」と題された「ミラディンの傷痕」の世界観を伝えるトレイラーでは、このカードのイラストがアニメーションによって不気味に動き、またファイレクシア語のナレーションがあたかもデスボイスであるかのように聴こえて恐怖に満ちた世界観を伝えるのに成功している。




閉じる
2014/09/03 「墓穴までの契約」



マジックとメタルの親和度はかなり高い。もはやシナジーの域に達していると言っても問題ないであろう(あるんじゃないか)。

その象徴的な1枚が《墓穴までの契約》である。このカードはメタルの歴史を追体験することが可能な1枚である。一体何の話をしているのか。とりあえずそれは置いといて、まずはカードの解説だ。

黒のトリプルシンボルを含む4マナと、決してコストは安くはないエンチャント。となれば盤面に大きく影響をもたらしてくれなければ・あるいはアドバンテージが稼げなければ使うに値しないだろうと思われる方も多い条件であるが、この《墓穴までの契約》は完璧な物件である。

そもそも、黒のトリプルシンボルのカードを思い浮かべて欲しい。…スッと出てくるカードはどれも強力であったり熱烈なファンがいるカードではないかな?(※1)さらに黒の4マナのオーラでないエンチャント…これまた、構築で活躍した連中が並んでいるではないか(※2)。

というわけでこの《墓穴までの契約》はジンクスの部分でも強者であることが確約されているのだ。その能力は、あなたのクリーチャーが死亡する度に誘発し、他の全てのプレイヤーに道連れを要求する。

これが戦場に貼り付けられるだけで、戦闘の難易度はグンと跳ね上がる。個々の戦力では負けていても数では優位に立っているという状況であれば、もう相手はなんらかの解答なしでは攻撃してくることはないだろう。

戦線に膠着をもたらすだけでは少々味気ないので、今度はこちらから仕掛けてやろう。《ナントゥーコの鞘虫》《ゴブリンの砲撃》といった能動的にクリーチャーを生け贄に捧げることが出来るカード、そして《墓所這い》や頑強・不死といった能力持ちのクリーチャーと並ぶと、相手のクリーチャーを根こそぎ墓場送りにして一種のロック状態に持ち込むことが可能だ。

コンボデッキやコントロールに効果がないのはやむなし、むしろクリーチャーを用いて勝利するおおよそすべてのデッキに中指を突き立てる驚異的なエンチャントである。

僕が「マジック殿堂入りカード」を決めるならば、確実に名を連ねる1枚である。デッキを作りたくなる、適度なパワーと現実性、そしてヴィジュアルが高次元で共存する、本当に素晴らしいカードだ。

前半で記したメタルの進化の追体験どうこうというのは、このカードが多くのセットに再録され、新イラストを獲得する機会が多かったことに由来する。

初登場時「ストロングホールド」の味わい深いイラストは、70年代80年代の「レコードの時代」を想起させる。

続く「第8版」のイラストではCD全盛期、メタルのジャケットイラストもよりコミックチックというか、「メタルイラスト」として独自のジャンルが確立された時代、黄金時代への郷愁を抱かせる。

そして「第9版」以降の顔を務めるイラストは、CGも使用されるようになり音楽フォーマットもMP3へと進化して…という現代らしさを感じさせる。

こうやって振り返ると、ゲームや音楽などのジャンルを問わず、表現方法と言うものは確実に形を変えていっていることがわかる。そして、そのどれもが素晴らしいものであるというのは真に喜ばしい。

※1《ネクロポーテンス》《悪疫》《死の雲》《ゲラルフの伝書士》《戦慄をなす者ヴィザラ》etc.

※2《Nether Void》《The Abyss》《死者の神、エレボス》《無慈悲》etc.



閉じる
2014/09/02 「モグの偏執狂」



このカードのイラストを一目見たら、以後このモグの「狂っている」としか言いようのない表情がしばらく脳裏にまとわり続けることになるだろう。

目を閉じれば、ホラ、ヒャッハーーーッッ!パンク要素も強くありつつのスラッシュメタル感溢れるイラスト、そう今週はご好評いただいた「メタル・ウィーク」!その「vol.2」をお届けしている。それでは2トラック目の《モグの偏執狂》レビュー、いってみよう。

2マナ1/1と、サイズの面では1ミリも期待できないカードであり、アタッカーとして運用することはまずないだろう。このカードの価値は、全てその能力に集約される。

反射と書いてリフレクトとルビをふりたくなる能力は、この偏執狂が受けたダメージを対戦相手に叩きつけるというもの。

そう、タフネス1なのでおよそダメージと呼べるものを受けると死亡してしまう肉体に宿っているのは、神をも恐れぬ狂える魂。火達磨に・氷漬けに・ペチャンコに・粉々になりながらも「痛でぇぇぇよぉぉぉぉぉ」と叫びながらエモノをブンブン振り回しながら特攻をかましてくる姿は、想像するにどこかコミカルで「トムとジェリー」のようなリアクション系アニメを思い出させるもの。

しかし狂乱の一撃は笑い飛ばせるものではない。対戦相手がトランプルをもたないデカブツを展開してきた場合、そのアタックをビタ止まりさせることが可能である。1/1にして抑止力となるのは素晴らしい。最後の数点を削りにきたアタックを、《霊気の薬瓶》から飛び出してキャッチすれば《濃霧》+本体火力の働きを見せてくれる。

また、悪用が出来る能力でもある。何故なら、皆様おなじみの《ボロスの反攻者》のようにダメージ源を誰がコントロールしていようが構わず対戦相手にダメージを跳ね返す。

《シヴ山の隕石》で13点コンボは一度は狙ってみたいものだし、もっと現実的なラインで行くなら《地震》などは相性抜群にもほどがある。地割れに飲みこまれつつ手当たり次第に背負った熊手やモーニングスターなんかを投げつけてきて対戦相手へのダメージを倍加させる。

倍化、そう倍化と言えば《双子神の指図》《ラースの灼熱洞》なんかを絡めると、コイツが受けるダメージが倍、反射させて与えるダメージが倍のなんと4倍ダメージを刻み付け死んでゆく。前述の《シヴの隕石》が5マナ52点火力へとハイパーインフレ。訳が分からん。執念は全ての武器に勝るのだ。


前述の通り、早い演奏とがなり立てるような矢継ぎ早のボーカルによって構成されたスラッシュメタルのジャケットに相応しいぶっ壊れたイラストが愛おしい。個人的に合うと思う楽曲は「Madness At The Core Of Time」。畳み掛けるような展開を聴いていると、自然とこの唾液をまき散らかす顔が浮かんでくる。


閉じる
2014/09/01 「使徒の祝福」



 今年は8月が去りゆくのがやけに早いように思います。皆様、いかがお過ごしでしょうか。夏と言えば、「夏フェス」。そう、音楽のね。

めちゃめちゃ蒸し暑い中、押し合いへし合いの大興奮の渦で暴れ回る、日が暮れて熱気も落ち着いた中でしっとり聴き入る…いろいろな楽しみ方があるかと思うが、夏フェスは最高だ。音楽は最高である。

僕はこの夏はどこにも行けなかったよ、GPの準備があったからね…

というわけで、その鬱憤を晴らすためにも今週は「メタル・ウィークvol.2」!大好きな音楽ジャンルである「メタル」っぽさを感じさせるイラストのカードを中心に紹介して行こう!


1トラック目は、《使徒の祝福》。イラストがね、最高にメタルしてるよ。炎の中心に立つ、おそらくはエリシュ・ノーンの信奉者であろう新ファイレクシア人が経典を片手に何やら法術を唱えている。

その効力が、取り巻く炎を退けているのであろう。彼(?)のマントの下には、ツルツル頭の赤子のような小さな新ファイレクシア人が隠れており、この「使徒」がか弱き者を護るために信仰の力を用いているのが伝わってくる。


カードの効力もまさしく守るものであり、自身のアーティファクトあるいはクリーチャーに、選んだ色かアーティファクトに対するプロテクションを付与する。

アーティファクトを護れたり、プロテクションが色のみならずアーティファクトも指定できる点は珍しいが、白にはすでに同様のコンバットトリック系インスタントは溢れているし、《剃刀の障壁》はプレインズウォーカーなどのその他のパーマネントも守備範囲であり、効果自体は別段特別な呪文ではない。これで勝利できるわけでもないしね。


それでもこの呪文がある特定の層に支持され、熱烈に使い続けられているのは偏に「ファイレクシア・マナ」を持つ呪文だからである。デッキの色を問わず、無色マナ1つと2点のライフでキャストできる。

「壊れデザイン」の象徴、ファイレクシア・マナを持つカードの中でも《四肢切断》《出産の殻》に次いでよく見る第3のカードと言って差し支えないだろう(《精神的つまずき》のことは忘れよう)。モダンやレガシーにおいては、《荒廃の工作員》《ぎらつかせのエルフ》らをサポートするカードとして愛用されている。除去を躱したり、強引に戦線を突破したりと良い仕事をするカードだ。


英名の「Apostle's Blessing」も良い響きである。「Apostle」というバンドの「Blessing」というアルバムのジャケだと想像すると、おぉ、レコード屋に並んでいそうじゃないか。宗教感と独特の鋼鉄感、これは王道をひた走るヘヴィーメタルバンドのジャケットに相応しすぎるイラストだ。



閉じる
2014/08/29 「終末の時計」


《終末の時計》は起動された。『アーマゲドン・クロック』は起動された。それを人が生み出した時点で、彼らの破滅は決定していた。後は遅かれ早かれだ。時計の針が『終末の時』を指示せば、世界が終る。

「あくまで抑止力として」という免罪符を携え、人は神の/悪魔の発明に挑戦し、そして作り上げた。

人はそれを、他の種族に向けて振りかざし、政治的優位に立とうとした。他の種族達は団結し、それに抗った。

この抗いに苛立ちをつのらせた人は、遂にそれを起動した。戦場に時計が立ちはだかった。人は、他の種族達に命じた。
「4つのマナを支払い延命するか、滅びを受け入れるか」

海の種族は応えた。「海の民は逃げない。《逆説のもや》にて時計を推し進めん」

森の種族は応えた。「オレたち、《倍増の季節》使う。お前苦しむ、オレたち頑丈」

沼の種族は応えた。「《伝染病の留め金》を用いて滅びの疫病を促進させる。これぞ我々の宿願である」

山の種族は応えた。「やったぞぉぉぉ《ラースの灼熱洞》だぁぁぁぁぁ」
そして平地の民、人は自らの招いた厄災が手に負えなくなった。滅びの呪文を唱えるしかなかった。「《ハルマゲドン》」

…こういうノリの良い統率者戦がしたいなーと思わせる、素晴らしいカードだ。独自の「破滅カウンター」という響きもたまらない。英語だと「Doom(ドゥーム)」カウンター。ドゥームですよ、ドゥーム。

ちなみに上記のストーリーのようなターン展開になると、ドゥームカウンターが6個乗り12点のダメージが全てのプレイヤーに降り注ぐ。次のターンには24点だ。誰が最初に滅ぶのか?


閉じる
2014/08/27 「疲弊の休息」


皆様、「グランプリ神戸2014」にご参加いただきまことにありがとうございました。そして、お疲れ様でした!楽しい時間はあっという間に過ぎ、そして残るのは思い出…と、年々確実に増加しているものがここにはある。

それは、首の後ろや肩の当たりにドッシリと居座り、二の腕や腰に張りをもたらし、眼球や咽頭の正常な機能を奪う。それの名は「疲労」。

2000人を大きく超える規模にまで成長した日本のGP、裏方もジャッジも、そしてもちろんプレイヤーもライフを大きく削り取られるイベントとなっている(削れた分だけ楽しいのも事実、ライフを糧にしていく《ネクロポーテンス》理論)。

マジックの腕だけでなく、ある程度の体力をつけた上で臨むべきだろう。不摂生やぐうたら生活をしていてはGPをどっぷりと楽しむことは出来ないぞ。


まあとりあえず疲れた体は癒す必要があるということで、本日のご紹介は《疲弊の休息》。

フレイバーテキストにもある通り、あらゆるプレインズウォーカー達にとって凶暴・残酷な土地への順応を求められる試練の次元であるゼンディカー。そんな純然たる厳しさに満ちた土地からも、癒しという恵みが与えられることがある。

土地が自身の戦場に出ることでボーナスを得られる能力「上陸」。攻撃的なものが多い能力であるが、その中でもこの《疲弊の休息》は守りに特化した1枚。

通常ならば2マナ4点回復インスタント、《聖なる蜜》の上位互換であり、《生命の噴出》の下位互換といったところだが。前述の上陸を満たしたうえで唱えると回復量が一気に2倍の8点に。

2マナで8点回復って、バーンや軽量ビート側からすると「ちょっと待ってくれよ」となってしまうことだろう。《ボロスの魔除け》2発を、たった2マナで打ち消すと言いかえればたかがライフ回復には過ぎないがその強力さが伝わることかと思う。


その回復量の高さは特定のマッチアップでは脅威となり、《神秘の指導》でサーチしてくる「シルバーバレット」としては優秀であり、モダンにおいて青白黒の「神秘の指導コントロール」をデッキとして成立させた。

現在ではモダン環境の大きな変化によりその姿を見ることは激減したが、またプレイヤー達が癒しを求める時が来れば立ち上ってくることだろう。

閉じる
2014/08/20 「血時計」


血は失えないものである。血液が流れ続けると、生命に危機が及ぶ。かといって、必要以上に得られるものでもない。人それぞれの上限値は決まっており、身体がストックなどを作っておいてくれるわけではない。

そのため、あらかじめ自身の血液を採取しておいて、それを競技当日に用いるというドーピングが様々なスポーツで行われている。身体に本来含まれるよりも少し多い血液が流れるだけで、パフォーマンスが段違いになるという。それだけ血は人間にとって絶対的なものであり、ある意味それに支配されていると言える。


《血時計》は、人間にとって越えられない絶対的な存在である「血」を用いて、同じく抗えない支配者である「時間」を読むという、禍々しくも神々しいアイテムである。このカードが登場した舞台である神河は、血で血を洗う大戦乱の真っただ中。このような狂気の発明がなりたつだけの下地はあったわけだ。それにしても恐ろしい存在である。


このカードは《生命維持コード》の同型再版として作られており、名前が違うだけであとは全く同じなカードである。各プレイヤーはそのアップキープの開始時に、2点のライフを支払うかパーマネントを1枚手札に戻すかを迫られる。


強力かそうでないかと言えば「いささか悠長」という返答をすることになる1枚。妨害をしたくても相手がライフを2点払えば済まされてしまうし、後半になれば余った土地を出し入れされているだけで実質的に打ち消されてしまう。

このカードを使うのならば「相手のパーマネントにこちらから積極的に触れる」「相手がライフを支払うという選択を選び辛くさせる」「こちらが《血時計》を苦にしない」というデッキ構成が求められる。


これらを考慮したうえで、最適の相方と言えるのは《なだれ乗り》であろう。土地を破壊し、速攻で殴る。《血時計》の能力でエコーを支払う前に手札に回収し、いつまでも土地を攻め続けるのだ。このシナジーが形成できれば、《血時計》に流れる血液が増すのも時間の問題だろう。

閉じる
2014/08/19 「無限の日時計」


時は無限にさえ思える瞬間もあれば、気が付けば日が沈んでいて確実に「失われた」と実感することもある。

宇宙誕生から100億年以上だのと言われている。その時に、時間という存在も誕生した、と。この太陽系、宇宙はいつか滅びるのかもしれない。それらが消えてなくなっても、時間は流れ続けるのか?こういった疑問に対する人の探求心は永遠のものだ。

さて、マジックにも無限のような存在である時を象徴するアイテム「時計」に関するカードが多数登場する。

それらの1つとして今日は《無限の日時計》を紹介しよう。この古代の超文明が残したオーパーツチックなイラストのカードは、その能力も唯一無二のユニークカードとなっている。

このカードにはそれなりに長いテキストが書かれているが、ひらたく言うなら「あなたのターンを終了する」の一言で済んでしまう。シンプルにして、比類するものがないディープさを誇る一文だ。

かつて同様の効果を持った《時間停止》が登場した時の衝撃は計り知れないものがあった。

「ターンを終了する」ということは、戦闘やスタックに乗った呪文や能力も全て「破棄」される。なかったかのように全てが終了する。例えばX=20点の《火の玉》が飛んできても、ターンを終了すればそれは過ぎ去りし一瞬となる。

《無限の日時計》は、《時間停止》よりも軽く、しかも何度でも起動できる能力になったかわりに、効果範囲は自分のターンのみという制限が加わっている(相手のターンが飛ばせたらPower 9のさらに上をいくカードになる)。

自分のターンを強制的に終了させることにメリットのあるデッキで用いてこそ、意味がある。悪用するならば、メリットが大きいがデメリットも大きい、それでいてそれらが「別箇」の能力であるカードなんかと組み合わせると良いだろう。

例えば《ファイレクシアン・ドレッドノート》や《日々を食うもの》のようなデメリット誘発型能力を持つカードを、それらを帳消しにしながら運用できる。なかなか魅力的じゃないか。あるいは《煙突》のような、両者に平等に不利益をもたらすカードとも相性が良い。

その見た目と能力の双方から、非常にロマン度が高い1枚だ。超古代文明からもたらされたかのようなルックスで「基本セット2012」からのニューフェイスというのも、なんだか趣があって良いものだ。

これからもマジックが繁栄していく中で、変わらぬ存在感を放ちながら時を刻むのだろう。



閉じる
2014/08/18 「時計回し」



さてさて皆様お立合い。この夏のマジックのお祭り、GP神戸2014がいよいよ今週開催!残り時間はあとわずか…ということで、今週は「カウントダウン・ウィーク」として、時間の経過に関係のあるカードをとりあげていこう。時は金なりということで、序文は手短に。

今週最初に時を刻む1枚は、《時計回し》。「時のらせん」でのテーマである、「過去のセットで登場したメカニズム」と新たな能力「待機」の両者に関係のある、同セットの顔と言っても差支えの無いカードである。過去と現在と未来を繋ぐカードにこの上なく相応しいカード名だ。

《時計回し》は、アドバンテージがとれる呪文ではない。対象のパーマネントか待機中の呪文に乗っているカウンターを、増やすor減らす。ちっぽけな能力である。

ただ、そのちっぽけなものが時として強大な変化を起こしうるものだということは、皆さんもご存知のことだろう。

このカウンターを1つ増やすという効果だけでは、あらゆる「増殖」呪文の下位互換となってしまうが、そこは「バイバック」という過去から来た能力がサポートしてくれる。マナはかかるが、手札の損失無しでカウンターを増やすことが出来るようになるのだ。

主に増やすべきは各種蓄積カウンターや勝利条件にかんする独自カウンター、忠誠値カウンターだって増やせる。

減らすべきは、相手の忠誠値カウンターや自身の待機呪文の待機カウンター、クリーチャーに乗せられた―1/―1カウンターなど。残念なことに、プレイヤーは対象にとれないので、毒カウンターは増やせない。

カウンターが乗っていないものも対象にとることが可能。通常、意味はないが《夢への放逐》と併せると4マナで除去打ち放題のコンボが完成する。

このコンボが強いかはともかく、本来の設計とは違ったベクトルでのシナジーを持つカードは多いということの見本である。


閉じる
2014/08/12 「先祖からの貢ぎ物」



しばらくお盆休み、ここの更新もストップするわけで、そこで本来は《Living Wall》でも書こうかという気分になっていたが「一週間もあんなグロテスクなイラストを晒すわけにはいかない」という使命感から、急遽こちらに差し替え。お盆だし、皆で先祖を敬おう。


このカードは、墓地にあるカード1枚につき、プレイヤーに2点のライフを与えてくれる。カード1枚で(下準備が必要とはいえ)結構な量のライフを一気に回復してくれるためか、点数で見たマナコストは7と高めに設定されている。

7マナと考えると、X(G)でX点回復の《命の川》が7マナで6点回復。そのため、カードが4枚以上ある状態で使用すれば、他の回復系カードと遜色がない活躍であると言って問題ないだろう。バーンなんかが二桁回復されたら、そりゃもう心が折れる。これがさらにフラッシュバックで2回使えるとなれば、投了だ。

12マナというフラッシュバック・コストは《ワームの突進》と並び、歴代最大のものである。こんなん払えるわけあらへん!解散~と言う前に、払えるデッキを作ればいいじゃない。ということで《ミラーリの目覚め》から無尽蔵にマナを生み出すどっしりデッキ「ウェイク」のサイドボードに採用され、何の苦も無く運用されたのだった。ビートダウンやバーンからすれば、たまったもんじゃない。

英語名の「Tribute」には、日本語名の「貢ぎ物」という意味もあるが、「すばらしいもの」「贈り物」という意味も含む単語である。

貢ぎ物とは、位・身分の上の人にささげるものであるため、個人的には先祖からそれを受け取るというのはしっくりこない。贈り物と思っておくのが、おそらくはベストの解釈なのだろう。先祖たちが眠る一族の墓を大事にすることで、彼らから庇護を受けることが出来る。デザインとフレーバーが調和した、素晴らしくわかりやすい1枚である。

皆も、先祖を敬おうじゃないか。トップが強くなるかも…なんてね。


閉じる
2014/08/11 「恐怖の中の恐怖」



日本には盆休みという風習がある。先祖の霊を迎えるために、皆この日は仕事を休んで田舎に帰ったり供養したりしましょう、というものだが…実質的には、最大の行楽シーズンとなっている。事実上の国民の休日である。このコラムも13~17日はお休みをいただきますので、ご了承ください。

まあそんなお盆が近付くと、我々とは違う世界に住む霊たちがこの世に還ってくるらしく、そういった怖い話をするのが定番だ。日本の夏に怪談はつきもの、不思議なことにね。そんなわけで今週は「恐怖!真夏のホラーウィーク」とでもやりたかったが、お休みなんだったね…

《恐怖の中の恐怖》。古いホラー映画のキャッチコピーなんかでありそうな響きだが、「レジェンド」にて登場した《Horror of Horrors》カードが、およそ11年の歳月を経て「第9版」にて獲得した日本語名である。直訳ど真ん中ストレートであるが、インパクトがあって一度聴くと忘れられないカード名だろう。

この「恐怖」を連呼するカード名から、マジックのクリーチャー除去の代名詞《恐怖》が思い浮かぶ方も多いことだろう(当コラムでも1年前に紹介しました)。しかし意外や意外、このカードはその逆を行く「除去対策」カードである。

5マナのエンチャントで、沼を1つ生け贄に捧げることで、黒のクリーチャーを再生するという恒常的なクリーチャー・サポートだ。後半、余りがちな土地を有効活躍できるのは素晴らしい。

マナが不要なので、大型アクションとお互いの脚を引っ張り合わない点は評価できる。戦闘を有利に進めることが出来るだろう。ただし、これで盤面をひっくり返したり出来るわけではないし、能動的に起動して行ってアドバンテージが取れるわけではないので、そこは注意しながら構築したいポイントだ。

「Horror of Horrors」で検索すると、同名のバンドがヒットする。これがまた本当に名前のとおりといったサウンド・ボーカルのメタルバンドなので、興味がある方は聴いてみてほしい。他にもバンド名とかぶってるカード名、ちょくちょくあるのでそういうのを新しい世界への糸口だと思っていろいろ吸収してみるのも素敵なことだと思う。

「レジェンド」版のフレーバーテキストに出てくる人物名も、ググってみるとある男性の生涯を見ることが出来る。おもしろい。マジックのカードって、本当に情報の宝庫だ。

閉じる
2014/08/09 「勝利の神、イロアス」



テーロス・ブロックの神様達はそれぞれに「剥き出し」の個性を放ち、強烈な存在感を示した。彼ら彼女らは「神」と呼ばれるだけあって、定命の者とは違って簡単に喜怒哀楽が表れないんだろうなと思わせる、無表情なイラストばかり(ゼナゴスを除く)。

その中でも《勝利の神、イロアス》は頭部全面を覆うヘルメットで隠され、どのような顔をしているのかさえわからない、無表情以前の問題だ。神様ってやっぱり何考えてるかわかんねーべ…否、その姿を今一度見て欲しい。どう見ても「万歳」「ガッツポーズ」、超絶にお喜び遊ばれておられる。ということで、イロアス様は感情も剥き出し、今日も地平線の彼方でワーイワーイ。

カードとしては、4マナ7/4という尋常じゃないパワーを誇るクリーチャー(になる可能性をがある)に加えて、《ゴブリン・ウォー・ドラム》+《巨岩の門》という、攻撃に関する2種類のカードの常在型能力を2つも持っている。いずれもその赤白=ボロスカラーには相性の良いものだ。

《ゴブリン・ウォー・ドラム》能力は、相手の計算を大いに狂わせる。「アタッカーが2体以上によってしかブロック出来なくなる」というのは、実質的に相手のクリーチャーを半分除去したようなもの。何せたった2体のクリーチャーを止めるために4体ものクリーチャーを割かねばならないのだ…そんなにいないってぇ。

《巨岩の門》能力は、こちらの計算を不要にさせる。どれだけクリーチャーの質で負けていても、とりあえずアタックすれば良い。本家と違って、「戦闘以外のダメージ」も受けなくなるのは大きい。《パワーストーンの地雷原》と併用して問題なし。

この2つの「ガンガンいこうぜ」能力は、その赤白カラーのギルド・ボロスとも相性が良い。基本的に、軽量のクリーチャーを並べて面で攻める色に加えて、3体以上でアタックすればボーナス獲得の「大隊」という能力が噛み合いすぎている。大隊達成のために1/1を犠牲にしなくちゃならないし、かと言って殴らなくてもジリ貧…というジレンマを、たった1枚で補ってくれるイロアス様は額面通りの「神」。

どう見てもエンチャントなカードだが、クリーチャーサーチで持ってこられるのも魅力だ。モダンで《出産の殻》デッキでこれをサーチしてきて計算を大きく狂わせて勝ってみたいね。地平線の彼方でワーイワーイ。

閉じる
2014/08/08 「偶然の出合い」


 「出合い頭」は「出会い頭」と表記しても問題ないらしいが、言葉の本来の意味を重視するならば「出合い」の方がシックリくると個人的には思っている。「出合い」は、川や沢などの合流点のことも意味する。何かと何かが顔を合わせる・直面するということを意味するのが「出合い」だ。

 この《偶然の出合い》は、カード名は「出合い」ではあるが僕にとっては「出会い」だった。「オデッセイ」発売日に出会い、以後長い付き合いになる。ちなみに英名のEncounterも人と人との「出会い」という意味を主で持っているが、同時に「出くわす」「遭遇する」という意味も持っている。

このカードを含む、勝利条件エンチャント・サイクルは、5種全ての英名に「戦闘」に関する単語が含まれているのが特徴であり、このカードのEncounterは「遭遇戦」を意味している。たまたま街角で出会ったツワモノ同士がストリートファイト…格闘漫画の世界が思い浮かぶ。

 しかしこの世界は多元宇宙だ。出合う場所は街角ではなく砂漠地帯、出合うのは二人のシャーマンだ。となれば、ここで競い合うはシャーマンとしての力量・魔術の激突である。しかしてその内容は…「運ゲー」じゃ。唐突にコインを投げるシャーマン。ピンッ「裏!」パタン(裏)「よし!」運勢カウンター1個get!…こんな感じで10回勝利すれば、You Win。シャーマン達は一体何を争っているのだろうか。

 勝利条件カードの多くは、お膳立てが出来る(あるいはお膳立てありきのカードもある)。前回の《死闘》や山のように聳え立つ200枚超のデッキ「バベル」で有名な《機知の戦い》など、そのエンチャントを場に出す前に、勝利に向かう条件を用意出来る。

しかしこの《偶然の出合い》は、そんな「茶番」は許さない。これを場に出したうえで、何らかのコイン投げカードを用意して、その上で10回勝ち、自らのアップキープを迎える。とにかく不正は許さない、実に男らしい、否、「漢らしい」カードである。これで勝つために、1体どれだけの構築を行い、そして大敗してきたかもうわからない…。

そんな日々を過ごしていたある日、2009年4月24日。オラクル更新が行われた。その内容には、コイン投げカードの代名詞《熱狂のイフリート》のパワーレベル・エラッタの解除が含まれていた。《熱狂のイフリート》は0マナでコインを投げることが出来る起動型能力を持っていたが、この《偶然の出合い》と出会う直前に「《熱狂のイフリート》が場に出ている場合」という能力に制限が設けられ、無限にコインを投げることは出来なかった。

そして、これが解除されたことにより、イフリートを無限に起動→どんなに運がなくとも、1億回コイン投げれば10回は勝てるだろ→You Winという「必然の出合い」コンボが誕生したのである!

 …しかし僕は、狂気乱舞はしなかった。やはり、このカードの魅力は「どうしようもなさ」にあるのだと、改めて思ったのだ。僕が出会ったカードは、そういう勝つとか負けるとかコンボとかと全く違うベクトルの刺激を提供してくれた《偶然の出合い》なのである。

ビアトリクス・ポターの名作「まちねずみジョニーのおはなし」に登場する田舎のねずみ、チミー・ウィリー。都会の喧騒に馴染めず、一見退屈な田舎の穏やかな暮らしを愛する彼に感情移入しつつ、随分長くなった今日のお話はここまで。


閉じる
2014/08/07 「死闘」


クリーチャーとは相手を攻撃し、あなたの肉壁となるために用いられる。そのどちらも、ゲームに勝利するためには必要なことである。当たり前のだが勝利のためのクリーチャーでありデッキである。その方向を突き詰めるのであれば、こういうクリーチャーの使い方も間違いではあるまい、と言いたげな1枚が《死闘》だ。

 このカードが要求する勝利のための条件は、あなたの墓地に20枚以上のクリーチャーが眠りにつくこと。兵士達は死ぬために戦い続け、彼らの屍が築き上げしは真の玉座。黒には時折、クリーチャーが死ぬことを良しとするカードがデザインされるが、これはその最上級だ。むしろ、生きててくれちゃ困る。

 他の勝利条件カードの例に漏れず、それ専用にデッキを組む必要がある。普通のデッキでは、クリーチャーをしこたま積んだとしても30枚程度が限界である。

《死闘》4枚は必須として、最も一般的な枚数の土地の枚数=24枚と併せれば58枚。あと2枚、何を入れるのかという話。というより、こんだけクリーチャーが入るならそれらの質を高めて殴り勝とうぜ、となってしまう。

実際に、この《死闘》を用いたデッキのためには様々なアプローチがとられた。思い切ってデッキを80枚にすることで、クリーチャー以外にそれらを墓地に落とすためのカードなどをしっかりと積んだ形。…スタンダードはおろかブロック構築でさえ、活躍するのは厳しいものだ。

実際に僕も「トーメント」のBOXを買ったら出てきたのでデッキを組んでみたが、手札に《死闘》がない時に墓地を肥やそうとあれこれやっている時に「あれ、なんでこんなことしてるんだろ…」と悲しくなったものだ。後に友人がレガシーでこれを用いたデッキを閃いて、二人で形にしたことがあった。

《波動機》でサイクリング持ちのクリーチャーをボンボンと埋めていく、なかなかに楽しいデッキであったが、サイドに《トーモッドの墓所》4積み当たり前という時代であり、横を見ればより瞬殺性に長けた墓地利用コンボ「ドレッジ(フリゴリッド)」が大暴れしていた。またしても「あぁ、何やってるんだろ…」と思ったものだ。

 僕はそれ以降、《死闘》デッキを使うことを諦めてしまったが、世界のどこかにはまだまだ終わらぬ死闘を続けている戦士がいるのかもしれない。未だ見ぬ英雄に敬意を表しながら、筆を置こう。


閉じる
2014/08/06 「獰猛さの勝利」


「勝利!ウィーク」3枚目にして早くも「勝利条件」カードではないカードをご紹介。テーマはあくまで「勝利!」だからね。ということで今日の1枚は《獰猛さの勝利》。

「勝利」というカード名であるが、その能力はどちらかというと「勝利して得た物」という印象を与える。実際に英語名の「勝利」の部分にあたる「Triumph」は、幅広い意味を持つ単語だ。

基本的には勝利と近い言葉をカバーするが、そこから発展して「征服」や「極致」といった意味でも使われることがある。

何にせよ、何かを打ち負かし勝者となった時に使う言葉には違いない。自軍のクリーチャーのパワーが対戦相手のそれらを上回り、獰猛さにおいて「勝利」したため勝者の特権を勝ち取りカードを1枚引く。緑のエンチャントにはカードを引くことに関するものが複数存在するが、その中でもこれは最も緑らしい1枚だと言える。

カードとしては、メインで採用するというよりはサイドボードに控えていることが圧倒的に多かった。

緑を中心としたアグロデッキが、「青白コントロール」などのクリーチャーを出してこない相手に叩きつければ、クリーチャーを何でも1体コントロールしていれば無条件で1ドローだ。1ターン目にマナ・クリーチャーから2ターン目にこれを叩きつけると、その後の展開が格段に楽になってくる。

こっちは適当にクリーチャー出していけば《至高の評決》を何度撃たれようがすぐに戦線を立て直すことが可能だ。使い道はそれ以上でも以下でもなく応用が利くカードでもないが、その癖の無さは特筆すべきもの。必要以上のことが書いていないのも、強いカードの条件だったりするのだ。

イラストは呪いをかけられたガラクさんが「さっさと呪いを解けコノヤロー」と悪女リリアナの首根っこを掴んで右手手甲の武器を突き付けて脅しているところだ。

まあこの勝負の結末は対になっている《残虐の勝利》を見ればわかるのだけど、そういったストーリーに関するお話は長くなりすぎるのでここでは置いといて…珍しくヘルメットを脱いで髪を振り乱すガラクさん、ワイルドでかっこいいよね。

どこぞのメタルバンドにでもいそうな風貌だ。ご自慢の武器「ガラクロー」(勝手に名付けた)もこうやって突きつけられると恐ろしいことこの上ないだろう。これクローだけじゃなくて確実に拳もヒットしてるんだろうね。痛ッッてぇぇぇぇ

閉じる
2014/08/05 「ダークスティールの反応炉」


勝利するために必要なものとは何か。よく耳にするのは、強靭な精神と肉体・折れぬ心・不撓不屈の忍耐力…形容を様々に変えても、とどのつまり言いたいところは「壊れない」ものに尽きるのだと僕は思う。そういう意味では、この《ダークスティールの反応炉》はマジックでもっとも勝利を体現しているカードだ。


「ダークスティール」とはエキスパンション・セット名にもなったが、原作中にて登場する決して破壊することの出来ない金属の名称であり、カードでは「ダークスティールの○○」というように表記され、それらは軒並み「破壊不能」の能力を持っている。

アーティファクトとは原則的に色を選ばないため、どんなデッキでも採用できるし強力なデザインに化けやすい。そのため、各色にこれに対抗する手段が設けられるという形で対処されている。

それらの中で最も多いのがシンプルな対策である「破壊する」というもの。ダークスティール製のものは、その枷から解き放たれた進化の一段階上の連中である。しかしながら、当然ではあるが基本的には同等の能力を持つカードより1,2マナ重く設定されたり、本質的なパワーを下げたデザインがされることで「壊れ」カードの登場を防いでいるようだ。


さて、話を反応炉に戻そう。このダークスティール製の謎の浮遊物は、勝利条件カードである。破壊という妨害行動が為されない点は非常に素晴らしく、他の勝利条件カードにも是非見習ってほしい姿勢であるが、しかし単体で使用すると勝利するまでに20回のアップキープを迎えなければならない。

これは悠長も悠長、大悠長。20ターンもあれば《モンスのゴブリン略奪隊》でも世界を支配できる時間だ。そのため、様々な相方を用意する必要がある。《逆説のもや》《地核絞り》《エネルギー室》《倍増の季節》《育殻組のヴォレル》《解体作業》…Wikiを見なくてもパッとこれだけ相性の良いカードが思いつく。真剣に調べれば、その相方は膨大な数に及ぶことだろう。是非ともデッキを作ってみたい。


タイミングの制約なく、即座に勝利できるのは素晴らしい。が、対戦相手に《白金の天使》を出されている時には注意が必要だ。20個たまった瞬間に勝利→天使により勝利出来ず→しかし20個あるので勝利!→こっちは負けませんしあなたは勝てませんね→でも勝ち!→負けない!→勝ちだってぇ!→…と永久に自己主張を繰り返す悲しい結末に、全宇宙が巻き込まれてしまう。

閉じる
2014/08/04 「らせんの円錐」


その昔、「Orb of Insight」という公式が用意した遊び心とサービス心の結晶体的風物詩が存在した。現在では公式サイトや各国のマジック情報サイトを通じて、新セットの情報が続々と毎日更新されて行きプレリ前には全てのカードを把握できるようになっている。

しかし以前は、こういった最新カードの情報を正式な発表以前に「自分で引き出す」ことが可能だったのだ。それが特設サイトに設けられる「Orb of Insight」コーナー。ここでは、オーブに向かってワードを入力すると、偉大なるオーブがその次元の情報を引き出してくれるというもの。

具体例を挙げて説明しよう。例えば「Goblin」と入力したとする(僕はまずこれを入力していた)。すると、オーブには「6」という数字が浮かび上がる。そう、この数字は、このセットのカードテキストに書かれたその単語の数を示すものだ。

この情報から「今回のセットには○○に関するカードが○枚ある」という断片的な情報が得られるというわけだ。「今回のセットにはマーフォークがいないよ…」「オーラがやたらあるぞ」「当たり前だけどMoxでは一件もヒットしなかったぜHAHAHA」といったやりとりが世界中で行われ、プレイヤー達は現物を見るまで様々な想像に胸を膨らませるのである。それはそれは楽しい企画だった。

「イーブンタイド」のオーブが公開となった日、僕もいろいろ打ちこんではその結果を掲示板などで共有していた。そこで僕が実際に入力してみて「Win」と「100」という豪快な単語に、それぞれ1件のヒットがあった。

これを早速友人・ネットと共有し、皆で「100って何?ライフ回復とか?」「新たな勝利条件カード登場か~」「夢の100点火力キターー!」など盛り上がっていた。

そして、正式にスポイラーが公開される。そこにあったのは、まさかの「Win」と「100」双方に関するカード《円錐のらせん》の姿であった。塔カウンターという独自のカウンターを用いる、最軽量にして最も投資が必要な勝利条件カードである。

《機知の戦い》デッキはその塔の如き姿から「バベル」と呼ばれるが、このカードは自らがバベルの塔と化す。垂直に100個カウンターを積み上げてみたいが、周りの迷惑も考慮しようね。

僕は統率者戦にてこれを使用していた時期がある。《ラノワールの使者、ロフェロス》がコマンダーとして指定できた僅かな期間だが、その頃は各種「無限マナ」コンボは勿論のこと、《覚醒》と組み合わせることで難なくあっという間に100個のカウンターを用意することができた。楽しかったなぁ。

そんな訳で今週は「勝利!ウィーク」をお届けしよう。

閉じる
2014/08/02 「太陽のタイタン」


「サン・ウィーク」、最後は誰もが太陽から連想する1枚であろう、《太陽のタイタン》を、満を持してご紹介。 名実ともに、この方が「太陽」カードの頂点で輝いているのは毎朝太陽が昇るが如く疑いようのない話である。早速その性能を見ていこう。

 白で6マナ6/6…実はこの時点でマジックの歴史でも有数の恵まれたスペックである。 現在、白でこのマナ域でこのサイズのクリーチャーは《太陽のタイタン》を含めてまさしく「片手で数えるほど」の5種類しか存在しない。

そんな白にしてドラゴンやワームの如き戦闘力を誇るサイズの選ばれし者の中でも、《太陽のタイタン》はずば抜けた能力を持っている。

 戦場に出た時、そして攻撃した時に誘発する能力は、3マナ以下のパーマネントを墓地から戦場に戻すというもの。 3マナ以下という制限はあるものの、パーマネントなんでもOKというのは「すごい」の一言に尽きる。

以下にタイタン様が釣り上げられるものをリストアップしてみた。

・《浄化の印章》《原基の印章》:パリンパリンと置物を割り続けるアンチ文明系巨人

・《処刑人の薬包》《破滅の印章》《骨砕き》:命を軽々しく踏みつける無慈悲なる巨人

・《ジェイス・ベレレン》《ドムリ・ラーデ》《ヴェールのリリアナ》:忠誠を強いる傲岸不遜の巨人。ティボルトは知らん

・《ライオンの瞳のダイヤモンド》《Black Lotus》:マナを生み出しては宝石を集める乙女系巨人ちゃん

・《幻影の像》:巨人が増える、増えまくる。太陽は1つなど誰が決めた。

・《破滅的な行為》:太陽が、全てを飲み込む。全てが、終わる。

 いかに強力な能力かわかっていただけただろう。まだまだここにあげていない組み合わせでも「許されざる」シナジーは沢山あることだろう。 それを突き詰めるのもまた楽しいし、何も考えずにマナカーブのトップに据えるだけでも強い、100点カードではないか。

 デュエルデック「英雄vs怪物」にて新規イラストで再録。その姿は、「テーロス」を意識した「スパルタ重装歩兵」を髣髴とさせる荘厳かつ逞しさが増したもの。 これ、各タイタンのこのバージョンも見てみたいな。

閉じる
2014/08/01 「太陽と月の輪」


 僕らの星には「太陽」と「月」がある。地球は太陽を中心に、月は地球を中心に回転し続けている。この2つの天体が、地球にもたらす影響については皆さんご存知の事かと思う。地球は、この2つがなければ今日のように生命に満たされた惑星とはならなかったことだろう。昼と夜をもたらす二つの星の追いかけっこを、我々は有史以前から眺め続けてきた。


この永遠のサイクルを美しいイラストと、終わらない能力という形でカード化した(のであろう)1枚がこの《太陽と月の輪》だ。

「シャドウムーア」にて登場したこのエンチャントは、いずれかのプレイヤーに貼り付けるオーラである。このオーラをまとったものは、それ以降あらゆる領域から墓地にカードが置かれる際に、代わりにそれを公開した後にライブラリーの1番下に置くという「置換」するタイプの常在型能力の支配下に置かれることになる。

即ち、墓地を悪用する動きが封じられるということだ。「リアニメイト」などの特定の墓地利用デッキ対策となるのは勿論だが、同セットにて登場した「頑強」も無効化できるので、そういったクリーチャーを多く採用したデッキ相手へのサイドボードとしても優秀だ。墓地に落ちるということ自体がなくなるので、「墓地ストーム」完全終了は言うに及ばずだ。


ちなみに、「対戦相手」と書かれている訳ではないので、自分自身に貼り付けることも可能だ。ライブラリーアウト狙いのデッキは涙を流すことになるだろう。また、墓地にカードが落ちないことが活きる組み合わせもいくつかある。

《エネルギー・フィールド》は素晴らしい相方となることだろう(《安らかな眠り》にレギュラー剥奪されたとか言ってはいけない)悪用の最上級は、これと《倍増の季節》と《思考を築く者、ジェイス》を揃えた時に起こる。

ジェイスで大マイナス・所謂「奥義」を使用→忠誠値ゼロになったジェイスが墓地に落ちずにライブラリーへ→ジェイスの奥義解決。自分のライブラリーからサーチするのはジェイス!→相手のライブラリーから呪文が尽きるまで、終わることのないアッパーカットをぶちかませ!統率者戦でオススメ

閉じる
2014/07/31 「捕らえられた陽光」


ライフを回復する、という動きは「難しい」ものである。マジック誕生時は、それが強力なものであるとみなされていた。ものすごく手間のかかる方法で1点回復するカードがレアだったりする時代だ(言うか迷ったけど《Farmstead》様のことだ)。

それからマジックが繁栄を遂げていくにつれ、一部の強力なカードを除いて(《スパイクの飼育係》のことだね)ライフを回復するカードは「カードを1枚使うに値しない」と認識されるようになった。

例えば相手の場にズラズラとクリーチャーが並んでいる状況で《天使の慈悲》で7点ゲインするくらいなら同じマナで《神の怒り》を撃った方が良いよという話。そらそうだわ。

しばらくそういう時代が続き、中にはその回復量の凄まじさやコンボを生み出すカードとして使われるカードもチラチラ登場するようになった。

そして現代。ライフ回復は様々な効果の「オマケ」として添えられるようになり、それらの数字はいずれも大きくて多くのビート・バーンユーザーの心をへし折りにかかっている。

《捕らえられた陽光》も回復+αをウリにしている1枚である。いや、ちょっと雰囲気が違うか。ともかく解説していこう。

このカードは「アラーラ再誕」にて登場した「続唱」の緑白のコモン枠を担当する1枚である。4マナソーサリーで4点回復、というと目も当てられないカードだが、そこに続唱が上乗せされることで、カードとしてのポテンシャルはグッと高まる。

このカードは「3マナのカードに1マナ追加することで4点の回復を付与するカード」と考えれば、なかなか強力なのだ。4マナで《忘却の輪》や《大渦の脈動》+4点回復、これはかなり「オイシイ」。とは言え、デッキ構築によってはムラが発生しちゃうので、そこはぬかりなきよう。

しかし太陽光を捕まえて(光を液状にする秘法などがあるのだろう)それを葉っぱの盃で飲み干すとは、豪快なシチュエーションではないか。ナヤのガチムチ《鼓声狩人》なんかに「ささ、グイッと」とか言いながら勧められるんだろうな。お腹壊しそうで怖い。

閉じる
2014/07/30 「全ての太陽の夜明け」


マジックは、背景世界があるカードゲームである。一部のカードは、背景世界=ストーリーの大事な場面そのものをカード化したものがある。

ゲームをただ遊んでも良いし、そこに描かれた物語を楽しむのも良い。マジックがこのスタイルを確立し、世に広めた功績は計り知れないものである。いやーほんまに「発明」ですよこれは。


今週は「サン・ウィーク」をお届けしているが、太陽を扱ったカードにもこのストーリーのワンシーンを担当するものがある。

この《全ての太陽の夜明け》は、旧ミラディン・ブロックのストーリーの終盤に差し掛かるところ、グリッサがメムナークに操られたカルドラに襲われ大ピンチ!という場面で(いろいろあって)緑の太陽が誕生し危機を救うというシーンの後、だと思われる(詳しいお話を書くと長くなり過ぎちゃうのでまたいつか)。

それまで、ミラディンの空には「太陽」と呼ばれる天体が4つ浮かんでいた。それぞれ白・青・黒・赤のマナと関連があり名前もついていたりするが、例によって詳しくはまたいつか。その天空に5つめの緑の太陽が昇り、全ての太陽が夜明けを迎えた姿がこのイラストに描かれている。


カードとしては、5つの太陽が揃ったことと関連しており、墓地にある5色それぞれの色のカードを1枚ずつ手札に戻すというもの。

《新たな芽吹き》より始まり《再供給》といったカード達が継承した「緑の墓地再利用カード」の系譜に名を連ねる1枚だ。その性質上、このカードだけでは何も意味がなく、既に墓地に複数枚のカードが落ちていることが前提の1枚となる。

5マナで手札が5枚増え、またドローと違って調整のしやすい墓地であるため強力なカードを手に入れやすい。こう書くと超強力にも聞こえるが、実際はなかなかそうもいかない。

5色のカードを使うって結構大変な話だ。と言うより呪文を5つ使用している時点で、勝っておきたいというのが本音である。


しかし同じマナ域である《再供給》がカードを2枚戻すということから考えると、3枚以上戻せればカードとしては十分な力を持っていることがわかる(《再供給》には同じ色のカードを2枚戻せるという強みがあるが)。無理せず運用していくのが良いだろう。


天敵中の天敵が存在するカードである。その名は《マイコシンスの格子》全てのカードが色を失い、太陽はその輝きを失うことになる。

作中でもマイコシンスが後々ミラディンを汚染・滅ぼしているので、少々因縁めいたものを感じてしまう。

閉じる
2014/07/29 「太陽のしずく」




何かしら輝きを放つものを太陽に例える風潮がある。光を放つもの、真紅や黄金の色合いのもの、また視覚的にはそうでなくても人柄・オーラが輝きを放っているものを「○○の太陽」と呼ぶことがしばしばある。それだけ、人間の生活に太陽が不可欠なものであり、その恩恵を受けて生きている何よりの証拠だ。

マジックにも太陽の恩恵を受けられるカードは複数ある。その中でも「恵み」感がより一層強いのはこの《太陽のしずく》。マジックで受けられる恩恵は数多くあるが、それらの中でも最もシンプルなものの1つが「ライフ回復」である。この《太陽のしずく》は、そのライフ回復を細く長くもたらしてくれる素敵なお守りである。挙動を具体的に説明しよう。

・僕が先攻、2ターン目にこれを設置しました。そう、無色の2マナというのが使い勝手が良い。さて置き対戦相手にターンを渡そう。ライフはもちろん20

・対戦相手は《山》《山》から《灰の盲信者》、僕は2点のダメージを受けました。しずくが誘発して、蓄積カウンターが2つ乗る。ライフは18

・ターンが返ってくる。アップキープにしずく誘発。蓄積カウンターを取り除いて1点回復。まあ土地置いたりしてターン終了。ライフは19

・対戦相手のアップキープ、しずく誘発。1点回復。ライフは20。

対戦相手の《灰の盲信者》を、このしずくが実質無効化しているのがおわかりいただけたことかと思う。つまり対戦相手は、毎ターン3点以上のダメージを与えることでやっとこちらのライフを削っていけることになる。これが2、3ターン目でポンポンと2つ並んだりすると、小粒で攻めるビートダウンやバーンは苦しいことになる。

ビバ太陽、ビバお守り!

しかしながら、このお守りはダメージを受けることで誘発すること・各ターンに1点しか回復しないこと・速効性がないこと・盤面に影響を及ぼさない…などが弱点にあげられる。既に大ダメージを受けた後でトップした時の虚しさはなかなか「くる」ものがある。初手に合ってこそのサイドカードなので、なかなかおいそれとは運用できない。最近では《台所の嫌がらせ屋》《強情なベイロス》といった後引きでも速効性があり、回復以外の使い道があるカードの方が愛される傾向にある。太陽よ…

ちなみに、このコラムを書くに当たり「太陽のしずく」で画像検索した結果、みかんやさくらんぼが多くヒットした。太陽の恵みをいっぱいにうけたジューシーな果物たちは見ているだけで美味しそう、

やっぱりビバ太陽!

閉じる
2014/07/28 「太陽の槍」



 暑過ぎる日々が続いている。うん、暑いよ。クーラーの効いたオフィスでPC仕事をしていると何も感じないが、用事で外に出るとその照りつけるような日差しと炙り焼きと化したアスファルト、風を阻むビル群という「灼熱地獄」であっちゅう間に滝のような汗が流れてくる。

そんな時は「サハラ砂漠よりも20℃以上マシだから…」と謎の自己暗示をかけて乗り切ることにしている。皆も熱中症・脱水症状には気を付けて、健やかなマジックライフを送って欲しいと願うものだ。

 そんな灼熱をもたらす太陽を、今週はフィーチャーしていこう。「サン・ウィーク」だ。その一番手は、この「らしくない」1枚《太陽の槍》に任せることとしよう。

 白という色は、マナシンボルを見れば一目瞭然・太陽の色である。陽の光、というものは地球上のおおよその場所では「聖なるもの」として大事にされている(勿論、そうでない文化圏もあるよ)。夜という、本能的に危険を感じる存在をかき消す太陽は、人々を見守る母なる存在であると言えよう。

この光を用いて何かを行うカードが、白には多数用意されている。それらの中で、趣の異なった輝きを見せるのがこの《太陽の槍》である。白は、その黎明期から現在に至るまで、クリーチャーを直接的に除去できる色の1つである。しかしそれらは往々にして「破壊」「追放」あるいは戦闘の類を禁止するという形をとる。

この《太陽の槍》は3点のダメージを与えるという、非常に珍しいダメージによる除去呪文である。…まあ、ここまで長々と言っておいて、何故これがそのような役割を与えられたのかという話は、「『次元の混乱』だからね」の一言で済まされてしまう。

『次元の混乱』はマジックの伝統・色の役割をシャッフルするのが狙いであり、これは赤から白にその役割がシフトした、《掃射》のリメイクである。その狙いの全てが効果的だったとは思わないが、このカードは悪くない1枚だ。

 ただし、「悪くない1枚」ということはベストではないということの裏返しである。「ボロスウィニー」「セレズニア対立」「オルゾフビート」などの白が主体のデッキが蔓延っていた時代、白のクリーチャーを対象にとれないピン除去は、基本的にお呼びではなかった。全てはタイミング、改めてそう認識させてくれる1枚だ。


閉じる
2014/07/26 「ファイレクシアの盾持ち」



「破壊アルノミ」ウィークのラストを務めるのはターミネーターの如き破壊の執行者・ファイレクシアから送り込まれた決戦用歩兵《ファイレクシアの盾持ち》だ。

4マナ3/3という当時の黒なら一般的なサイズのゾンビに追加で3点のライフを支払えば、最終決戦モードとなってそのサイズは5/5と膨れ上がる。

他に能力は何一つ持たないが、4マナ5/5と言えば当時ではかの《Juzam Djinn》が誇っていた「オーバースペック」なサイズであり、クリーチャー最強を掲げる緑でもデメリットなしでは得られないサイズだった。

この《ファイレクシアの盾持ち》も前述のようにライフ3点を支払うというデメリットがある(少なくともライフ3点以下の時は運用できない訳だ)が、これを《Juzam Djinn》の継続的なライフルーズと比較すると、決して高い代償ではないことが分かってもらえると思う(《Juzam Djinn》についてはアーカイブその3に掲載されています)。


そして、この破壊者が登場した当初は、黒には《暗黒の儀式》があった。これが全てだ、とは言わないが、このカードの価値を飛躍的に高めていたことは事実だ。

2ターン目に強襲してくる盾持ちは、ほぼ止められることなく5点のダメージを叩き込むことに成功していた。

ハンデスや除去でサポートすれば、二・三撃目も喰らわせて一気に致死圏内へと追い込むことも可能だ。当時、最も使われていた除去が《火炎舌のカヴー》であったが、盾持ちはその名の通りしっかりとタフネス5の盾でカヴーの吐き出す火炎弾(4点ダメージ)も防ぎきってしまうという点が素晴らしい。


「Void」や「マシーンヘッド」といったデッキでアタッカーを務め、世界選手権優勝デッキに採用されるという栄誉も経験している良レアである。

その優勝デッキ「マシーンヘッド」では、その装甲機兵団的外見を『ディープ・パープル』のアルバム名とかけてデッキ名にもなっている。その機械の頭部はトンボなどの昆虫をモチーフにしているのだろう、最高にクールだ。


ちなみに英名の「Scuta」はラテン語で「盾」「防御」を意味する「Scutum」の複数形。転じて、盾持ちの意味も持つそうだが、この盾持ちというのは、文字通り盾を持つのが役目の存在であり、騎士の従者である。即ち、この4マナ5/5には上司がいるわけだ。

《ファイレクシアの十字軍》のような騎士達の露払いを務めていたのかもしれない。ワクワクする光景ではないか。


閉じる
2014/07/25 「踏み吠えインドリク」


今週は「破壊アルノミ」ウィークをお届けしているが、ここで今一度「破壊」について考えてみよう。

破壊とは…「物に何らかの力や影響が加わることにより、その物の形状・機能・性質などが失われること。また、それを引き起こす行為のこと。」だそうだ。改めて書くと難しいように見えるが、なんてことはない我々がモンキーだった頃から繰り返してきた日々の営みである。

破壊の無い人生というものは有り得ない。スプーンより重いものを持ったことのないお嬢様でも、生命の尊さを伝える偉いお坊さんでも、目に見えないような小さな「何か」をプチッと踏み潰し破壊しているものだ。


そう、踏みつけるというアクションは最も原始的にして、合理的な破壊なのだ。脚を使って歩くことに特化した生物は、一様に大きく丈夫な足の裏を持っている。これにはゾウやサイなどの大型の四足獣に加えて、我々人間も含まれる。人間の足というのは、立派で頑丈なものだ。

そんな四足獣も我々も、もの(生物も含む)を踏みつけて破壊することを得意としている。自身の体重や重力を効果的に用いた、シンプルにしてデンジャラスな破壊。マジックでこれを得意とする動物は「インドリク」というラヴニカで家畜とされている動物だ。


《踏み吠えインドリク》は、「187」「CIP」「EtB」と呼ばれる能力持ちだ。いずれも場に出た時に誘発する能力の呼称だが、現在一般的には「Comes Into Play」の略である「CIP」だろう。

現在ではルールが変更され「Enters the Battlefield」が正しい表現なのだが、以前の風習が色濃く残っているのが現状だ。

さて、このインドリクのそれは、アーティファクトorエンチャントの破壊である。文明の利器でも、呪術の集大成でも、かまわずバキバキッと踏み潰してしまう強力な「ストンプ(踏みつけ)」の持ち主である。

踏み潰すことで呪いやオーラなどであるエンチャントが壊れるというのはパッと見よくわからないが、「突き詰めれば物理攻撃最強」ということでここはひとつ。


ご覧の通りの便利な能力と立派な体格を併せ持ち、ラヴニカの各種印鑑をバリバリ割りながら《密林の猿人》なんかの道を防ぐことが出来る生物として多くのプレイヤーに愛用されたものだ。

現在は《酸のスライム》という同マナ域でパワーアップ版とでも呼ぶべきカードが登場して見かける頻度は減ってしまったが、タイプがビーストであることを活かすことが出来ればまだまだ見せ場はあるはずだ。Let’s stomping!


閉じる
2014/07/24 「破壊の宴」


英語のお話回。この《破壊の宴》、まさしく「破壊アルノミ」ウィークに相応しい、破壊衝動を具現化したような効果、イラスト、何れも素晴らしいが、今日はそのカード名について解説したい。
 このカードの英名は「Wrecking Ball」。「Wreck」とは難破・海難という意味と共に衝突・破壊という意味がある。「Ball」は言うまでもなくボール・球体を指す。

「破壊の球体」って、何のことかと思われるかもしれないが、あなたはおそらくそれを見たことがあるはずだ。工事現場で、クレーンのような重機から鎖などでぶら下げられている巨大な鋼球・鉄球。ビルの解体時に、グイーンとスイングしてぶつける、あの鉄球の事を「Wrecking Ball」と呼ぶのだ。

マジックで言うと《ヘルドーザー》や《破壊のオーガ》なんかが装備している「アレ」は「Wrecking Ball」と呼んで差支えないだろう。トゲトゲついたり酸をまき散らしているのは気にしないで。


さて、「解体用の鉄球」という意味はわかったが、しかし何故このカードにそのような名前がついているのだろうか?

たしかに、イラストに描かれているゴブリン達はトゲトゲ鉄球のようなものを投げて破壊行為を行っている。しかし、この小さな鉄球自体がこのカードではフィーチャーされるようなものなのだろうか。さらに言えば、《破壊の鉄球》ではなく《破壊の宴》という日本語訳。これは一体…と思ったからには、調べないと落ち着けない性分。なので、いろいろと調べてみた。


「スラング」というものは今では一般的に使われる言葉となったが、改めてその意味を見てみると「特定の集団の中でのみ通用する隠語・略語・俗語」である。かつては、翻訳を行う立場の人間にとってはこれが「鬼門」であった。

アメリカの若者の間では通用する単語であっても、異なった生活圏の人間にとっては辞書をいくら調べても出てこない謎の言語だったり、脈絡もなく意味不明なタイミングで飛び出す謎の単語だったりで、それらを翻訳するには多くの見識と苦悩が必要だったことかと思われる。

そしてこの「Wrecking Ball」も、おそらくはそうしたスラングを含んだ、所謂「ダブルミーニング」な名前であることがわかった。「Ball」とは、主に男性向けの表現で「度胸がある」という意味で用いられることがある。

主に男性向け、という時点でなんとなく察してくれた方もおられるでしょう…暗にそれを意味しています、正解です。そしてこの「Ball」を「I had a ball」と用いた場合、その意味は更に異なるものとなる。「楽しいひと時を過ごした」と。


「破壊」の「楽しいひと時」、即ち《破壊の宴》。いやはや、恐れ入りました。マジックには他にもこういったネーミングのカードがまだ潜んでいるように思えてならない。せっかく情報を容易く手に入れることが出来る時代に生きているのだから、バンバン調べて楽しみたいものだ。


閉じる
2014/07/23 「残虐無道の群れ」




土地を破壊する。古より続くマジックの、最も根本的な破壊アクションの1つである。「アルファ」の時点で、これに属するカードは9枚(《Chaos Orb》とかいう問題児を入れれば10枚になるがさすがにノーカウントでしょう)も創られており、マジック誕生時から勝利へとつながるアクションとして設定されていた。

近年では、一方的なゲームを生み出し過ぎる恐れがあるという懸念の元、これらのカードは明らかなパワーダウン傾向にある。かつての土地破壊のド定番《石の雨》すら危惧されている時代だ。これにはおそらく、プレイヤーにいろんなマナ域のカードを遊んでほしいという作り手の思いも込められているのだろう。

そんな現代の事情や思惑なんて微塵も知らない、土地破壊全盛時代に生まれたカード達の中から本日紹介するのは《残虐無道の群れ》。これね、まず名前が凄いですよね。「ポータル三国志」は文字通り三国志の世界を舞台としており、この無法者達はかの「酒池肉林」で有名となった董卓の配下の連中をカード化したもの。

董卓は、元は中華の中心より遠く離れた辺境の地の一将軍に過ぎなかったが、その北の地にて無頼の連中を手懐け力を蓄えていた。

中華を治める後漢の皇帝・霊帝が死去したことにより乗じた混乱の中、満を持して進軍した董卓はあれよという間に政治的実権を掌握。自身の手で新たな皇帝を擁立し、その地位を確固たるものとした。

以後、酒池肉林に代表されるやりたい放題・悪逆無道の限りを尽くす。これを見かねた各地の諸侯たちは「董卓討つべし」と団結して、こうして群雄割拠の三国志の時代が始まっていくんだね。

政治的な地位を盾に、民衆から金品を強奪するなどの「鬼畜の所業」とでも言うべき行いをしてきた董卓の軍勢を見事にカード化した1枚である。

5マナと重いとはいえ、クリーチャーであるということはいろいろと悪さが出来ることの証明である。これを連打されると、虐げられた無力な民の気分になれることだろう。

ちなみに、近年は「董卓はそこまで無茶苦茶はしていなかった」という説も出てきている。

歴史書とは、あくまで生き延びた側が記し後世に残していたこの時代。「真実」を確認する術はないが、ロマン溢れる時代に想いを馳せることは今を生きる者の自由だ。


閉じる
2014/07/22 「破滅の儀式」



「破壊なくして創造はなし」という言葉がある。マジックでも、日々新たなカードが既存のカードを破壊したり、ルールそのものが破壊されたりすることで、次の時代が創造されているのだ。

新しいものが生まれるには、破壊は不可避なものであり、ネガティブなものとは限らないのだ。

今週は、そんな「破壊」的なカード達を紹介していこう。「破壊アルノミ」ウィークだ。


トップバッターは…いきなりの超重量級選手で面食らうかもしれないが、《破滅の儀式》。7マナ、ソーサリー、基本的に何が起きているかよくわからないが「何だかすごい」イラスト。

こういったテキスト以外のカードを構成する要素が、既にこのカードを「赤のお家芸」である「カオスな呪文」の系譜だということを証明している。

赤は…その黎明期から今日に至るまで、セット内のレア枠をこういった呪文に捧げ続けてきた。20年もの間。軽い呪文が好まれるようになっても、色の役割変更が行われても、変わらずに紡がれ続けた混沌と破壊の言葉。

「アヴァシンの帰還」のような、ハッピーエンドな世界においてもそれは変わらない。赤だけは、いつまでも無意味な怒りを叩きつける役目なのだ。


《破滅の儀式》は、近年よく見られる「統率者戦意識しまくりカード」の代表格とも言えよう。セットに入っているカードが、何もトーナメントシーンでバリバリ活躍するカードばかりでなくても良い。《破滅の儀式》は、全てのプレイヤーが土地・クリーチャー・アーティファクトを失うというド派手な効果を持っている。

それも、あなたがそれらのタイプを指定した順によって、効果は大きく変わってくる。自分が土地に余裕があるならば3番目に指定すればよいし、有力なクリーチャーを丁度3体コントロールしているやつがいればそれを3番目に指定することがベストの選択肢となるだろう。この手の呪文にして、案外に手堅く・狙い通りに運用できる点で、この呪文は優秀な方だ。


ちなみに生け贄に捧げるのは指定した順番通りに行われるので、いずれかのタイプのパーマネントが戦場を離れた時に誘発する能力を持ったカードの処理には注意が必要だ。


閉じる
2014/07/19 「神経スリヴァー」



 「部族支援」と一口に言っても、それこそ部族によって様々。

それぞれの部族によって得意不得意は存在するし、何より色の特性というものも無視はできない。

空を飛びまわるエルフ達、再生能力を得た人間達。 なんかイヤでしょ。部族によって出来ることとできないことがあるのは当然なのだ。

しかし、スリヴァーという部族なら、それこそ何でもしてくれるんじゃないだろうか。 何せ5色全てに属している、この特権は他の追随を許さない。


何でもできちゃうスリヴァー達にとっちゃ、アドバンテージの獲得さえも容易いもの。 《神経スリヴァー》は「対戦相手に戦闘ダメージを与えれば1ドロー」という、所謂「カササギ能力」というやつを群れに共有する。

盤面に並べてナンボのスリヴァーは、手札の消費が激しい。相手が盤面に対処できるデッキならば、二の矢三の矢を用意できなければ苦戦を強いられることになりそうだ。

この問題も、この《神経スリヴァー》がいれば万事解決。殴って引いてパワーアップ、殴って引いてパワーアップ、この繰り返しはまさしく「確変」というもの。
スリヴァー全体で見ても、かなり強力な能力を有していると言って良い。


しかし、強力な能力を有しているとは言っても、単体では5マナ3/3。

これのみでこの能力を誘発させることは、かなり難しい。強力なレアであっても、コモンの《有翼スリヴァー》のようなサポートがなければその能力を活かすことは困難である。

スリヴァーはあくまで、スリヴァーなのだ。この塩梅が、スリヴァーという種族を素晴らしいものにしているのだと僕は思っている。


フレーバーテキストには、このスリヴァーが「精神エネルギー」を餌にしているということが書かれている。それ故にゴブリンに危害を加えることはないというのは面白いと共に、興味深い。

この能力をスリヴァー達が共有すれば、彼らの食性は全て「精神食」へと変化するのだろうか。 もしそうであるならば、ゴブリン達にこのスリヴァーを携帯させていれば、どんなスリヴァーの群れと出くわしても常勝ということになる。

これは熱い!…いや、そこまで知恵が回る精神エネルギー、持ってないんだったね…。


閉じる
2014/07/18 「支配されざる横行」



 以下、我が新聞社に投函されていた「激浪計画関係者の手記」より引用

「そもそも《グラクシプロン》すら完全にコントロールすることは困難だった。後付けになってしまうかもしれないが、私はこの計画には賛同的ではなかった。

彼らスリヴァーは、「群体生物」である。群れそのものが一つの生物として行動するには、高次元の統率者は不可欠である。

彼らの生体の中心には、明らかにそれを司る「王」ないし「女王」のようなものが存在したはずである。

しかし、我々研究者の大半は、その生態の根底よりも彼らの共有能力にばかり注目し研究を進めてしまった。

我々が彼らの遺伝情報を操作し、彼らがそれを群れで共有する。完全な生物の誕生をまさにこの手で行っていた我々は一種の狂乱病にも似た倒錯の真っただ中にあった。


我々は自身の手で生み出した怪物に、喉元を食い破られることとなった。スリヴァー達は脱出し、このオタリア大陸全土へと爆発的に増殖し、既存の生態系を破壊し尽くした。勿論、それには人類・セファリッドといった高等生物も含まれていたのだ…。

彼らは土地という土地を破壊して回る。各地で魔術師が、彼らに対処しようと特別な土地・聖地からマナを引き出すたびに、彼らはその波長に吸い寄せられ、徹底的な破壊を繰り返す。

都市文明がこれへの防備を構えれば、それに応えるかのように彼らは街を蹂躙する。全ては間違いだったのだ。我々は神ではない。叡智が辿り着いた先は、これ以上ない愚かさだったとは何という皮肉だ。

今まさに彼らはその襲撃の矛先を、彼らの生まれ故郷であるこの《激浪の研究室》へと向けている。

…私が対抗策を研究し始めたことを、奴らは感知したのだ。もう、ここも徹底的に破壊されることだろう。

さらに皮肉なことに、この大陸で安全な場所は《森》や《平地》といった超自然な土地のみだ。それ以外の人為的空間は、すべて彼らの《支配されざる横行》の餌食と化すであろう。」


閉じる
2014/07/17 「冬眠スリヴァー」



 眠ることが何よりも大好き!という方を多く知っている。僕も、生活が乱れていた時期はそうでした。寝れば寝るほど眠くなる、負のスパイラル。この無限ループを脱してからは、もう「常におねむ」を卒業し、なんとかシャキッとした一日を送れている。

でもこれが長い正月休みとかに入るとまたそういう病にかかっちまうんでしょう。いっそのこと長期休眠したい、「冬眠してしまいたい」そう願ったことのある人、いるでしょ。冬眠願望持ちはあなた一人じゃないので、安心してください。


スリヴァー達も、冬眠を行うらしい。冬眠とは、厳密に言うと哺乳類と鳥類の一部が行う、体温を低下させて活動停止状態で厳しい冬を乗り切る能力の事を指す。カエルやカメや昆虫が冬場に活動停止することも冬眠と言うが、恒温動物と変温動物のそれは根本的な部分で異なるメカニズムであるため、後者のそれは「冬越し」と呼ぶのが正しいようだ。まあ、どっちでも意味は通じるんだから良いよね。

スリヴァーが恒温動物か変温動物か、それは現状判断材料に欠ける。見るからに変温動物チックな個体群も居れば、恒温動物の可能性を感じさせる人型の形状の連中も居る。

まあ何もかも共有する彼らの事だから、こういう部分も共有してうまく解決するのだろう。そんな生き残りの知恵をまさしく共有するのが《冬眠スリヴァー》。


2点のライフを支払うことで、戦場から手札に戻る能力を共有する。この手札に戻る、という動きを冬眠と結びつけたセンスは、類い稀なものだと思う。

たしかに安心して眠ることが出来る場所である。この冬眠は、あらゆる環境の変化にも対応することが可能だ。《神の怒り》も《滅び》も《紅蓮地獄》でも《ジョークルホープス》でもなんでも持ってこいや。

再生や被覆といった除去耐性と、また違ったアプローチであるこの能力は、それらと併用することでより強力なものとなる。トーナメントシーンでもよく見られた1枚。


このスリヴァーを用いたテクニックをご紹介しよう。相手がコンボデッキだとする。こちらは「カウンタースリヴァー」を使っている。文字通り、カウンターとスリヴァーで構成されたデッキだ。

ここで「カンスリ」側はおもむろに土地を全てタップし、手札が残り1枚になるまでスリヴァーを展開する。返しのターンで、コンボ側は待ってましたと動き出す。

フルタップなので通常のカウンター呪文は飛んでくることがなく、手札が1枚なので所謂ピッチスペルである《Force of Will》が飛んでくることもない。勝った!と思って相手がコンボの要である呪文を叩きつけると、こう宣言してあげよう。

「スタックで《冬眠スリヴァー》の能力で《有翼スリヴァー》戻します。この有翼をコストに《Force of Will》」

気持ちがいいぜ。


閉じる
2014/07/16 「湿布スリヴァー」




スリヴァーは現在で97種類、もうすぐ100に届く大所帯へと成長した。この大家族、皆が皆それぞれ「オンリーワン」な能力を持っている…わけではない。

それぞれの時代・個体群で、欠かすことの出来ない役割というものがある。サイズを上げる・回避能力を付与する・戦闘を有利にする・その他、不思議な能力を与える…こういった同質の役割を持ったスリヴァーがそれぞれの世代を支えているのだ。「戦隊ヒーロー」みたいなものだね。

今回紹介する《湿布スリヴァー》は、初代スリヴァーの系譜から続く「再生」担当の第3世代ヴァージョン。リミテッドにおいてはかなり重要な能力であり、構築でも環境次第では輝く要素となり得る能力、再生。《神の怒り》とか《恐怖》の前じゃ意味がない、とは言っても、クリーチャーがこれを持っているに越したことはない。

この再生、色としては黒と緑のクリーチャーが主に持つ能力であり、初代スリヴァーでは黒のコモン枠《凝塊スリヴァー》が担当し、続く「レギオン」第2世代では同じく黒のコモン枠《墓所スリヴァー》がそれを引き継いでいる。

そして「時のらせん」では赤のレア《管草スリヴァー》が再生を付与する能力を持っているが、これは「リメイク・スリヴァー」サイクルで、能力も再生を与えるというよりは沼をコントロールしていることでボーナスを得られるという能力を共有させるものと捉えた方が良い。

そのため、この「次元の混乱」の《湿布スリヴァー》がらせんブロック=第3世代の正統な再生担当となる。なるのだが、これの色は白。白は確かにクリーチャーを保護する能力には長けているが、しかし再生自体はあまり割り振られていない色である。

そのため、最初に見た時は違和感を覚えたものだが、ちょっと考えて納得。色の役割が乱れまくっている「次元の混乱」でしたよね、と。

それにしても「湿布」とは素敵な名前だ。スリヴァーの最大の特徴である(シャンダラー勢を除く)前に出た鉤爪。イラストではこれが何やら柔らかく優しげなように描かれているし、フレーバーテキストにはそこから治癒物質が分泌されるらしい。これを幹部に充てることで、自身や仲間の傷を癒すのだろう。慈愛に満ちた優しい能力だ。

まあ、ここまで真面目に「湿布スリヴァー考察」を書いたのは前フリです。このカードをチョイスした最大の理由は、そのイラストから。この反応をされるために、このスリヴァーは生まれてきたと言っても過言ではない。せーの

「目がある!」

閉じる
2014/07/15 「巣石」




スリヴァーに関するカードは、何も「○○スリヴァー」というクリーチャーカードのみだと思いがちではあるが、ところがどっこいこの《巣石》のようにクリーチャーでなくともスリヴァーという部族を支援するカードは存在する。

このようなクリーチャーでない「部族支援カード」というのは多々あるが、《巣石》はそれらとはちょっとベクトルが違う支援を行うのがこのカードをユニークなものとしている。この謎のオブジェは、スリヴァーを強化するわけではない。あなたがコントロールする全てのクリーチャーをスリヴァーへと変貌させてしまうのだ。

このカード以前にも、「部族書き換え」の能力を持ったカードは複数存在している。それらとこの《巣石》が一線を画すのは、兎にも角にも「スリヴァー」という固定された種族への書き換えが行われる点だ。

先日の《調和スリヴァー》回でも述べたように、スリヴァーというクリーチャーはサイズなどの点で見ると、他の部族より秀でているわけではない・むしろ3マナ1/1とか平然といるので弱い。そのスリヴァー達の弱点を補える可能性を提示するのがこの《巣石》だ。

何せ、《タルモゴイフ》のような優秀なサイズを持ったクリーチャーがスリヴァーとなるのだ。「4/5、飛行、被覆、②生け贄に捧げる:4点回復、2点のライフを支払う:手札へ戻る」こんなスーパースリヴァーが誕生する可能性もある。

このカードは、トークン生成カードとの相性が非常に良い。《錯乱した隠遁者》は一気に大量のスリヴァーを提供し、《苦花》は尽きぬスリヴァー弾幕を補充し続ける。これらが「②生け贄に捧げる:対象のクリーチャーかプレイヤーに2点ダメージ」なんて持っていたら、なんと支配的なことか。

最高に夢が広がるカードである。ただし、デッキを作る際は注意が必要。あまりにもそれらのシナジーを重視して構築してしまうと、《巣石》を引けなかった時の「噛み合わなさ」がとんでもないことになってしまう。

最も効果的に運用されたのは「時のらせん」ブロックでのリミテッドにおいて。相手がスリヴァーデッキを使用している際にサイドインすれば、相手が得ている恩恵をそっくりそのまま自軍にも与えることが出来る。一種の「打消し」的役割を担ってくれることだろう。

ストーリー上は、次元ラースを治める偉い職・エヴィンカーが代々用いてきたアイテムのようだ。フレーバーテキストから察するに、相手のスリヴァーを操って自軍のスリヴァーでないクリーチャーにもその特性を付与させている光景が思い浮かんだ。なるほど納得の能力だ。

閉じる
2014/07/14 「調和スリヴァー」



個人的な驚きの1つが、「M14」にて行われたスリヴァープッシュが、今週発売の「M15」でも引き続き行われているという点。これはスリヴァーファンには嬉しいサプライズで、スタンダードでより強力な(とは言ってもカジュアル寄りだが)スリヴァーデッキが短い期間ではあるが組めるようになったし、モダンで往年の「カウンタースリヴァー」のようなデッキを組むことが出来るようになるかもしれない。

いずれにせよ、カードが増えるのは良いことだ。今週は、そんな家族がまた増えるスリヴァー一家を紹介しよう。「スリヴァー・ウィークpart.2」、いってみよう。

一番手は現在シーズン真っただ中・大盛り上がり中のモダンで活躍する《調和スリヴァー》。このスリヴァーは、数少ない「スリヴァーであることを抜きにして強い」という理由で、他にスリヴァーがいないデッキで多々採用された経験を持つカードである。

基本的にスリヴァーは、それ1枚だけでは可もなく不可もなく、としか言いようのない性能のクリーチャーとして作られている。しかし、一度同種との邂逅を果たしたのならば、その戦力は跳ね上がる。お互いの持つ身体的特徴・特殊能力を伝達・共有し合うこの不思議な生物は、群れを成すことで驚異的な怪物へと成り上がる。

その、成り上がることが前提のスリヴァーにして、この《調和スリヴァー》は単体で十分にプレイアブルであるため、群れから引っ張り出され「孤高の王道」を歩むことになった一匹である。


調和スリヴァーの能力は《帰化》あるいは《解呪》を全てのスリヴァーに・勿論自身にも付与するというもの。これは、「時のらせん」で登場した「リメイク・スリヴァー」サイクルの一角を担う。

リメイク・スリヴァーとは、既存のカードの能力を与えられたスリヴァーの総称であり(今勝手につけたのは内緒)、この《調和スリヴァー》は《オーラの破片》のリメイクとなっている。こちらは扱いやすいクリーチャーとなったが、能力を誘発させるのがスリヴァーのみとなることでバランスを保っている。所謂「置物破壊」をクリーチャーが、速効性のある形で持っていることは素晴らしいことである。この有用性を活かして、所謂「シルバーバレット」要因として現在でも各種「出産の殻」デッキで大活躍。


難点は、リメイク元の《オーラの断片》と違い、破壊が「任意ではない」こと。エンチャントおよびアーティファクトを必ず破壊してしまうため、自分の戦場にしかそれらがない場合はデメリットとなってしまうのだ。また、旧スリヴァーは相手のスリヴァーにも能力を分け与えてしまうため、相手にコピーされたり、スリヴァーを出されたりすると予想外の大損害を受けてしまうハメになる。便利さが仇となることは、どんなジャンルにでも存在するのだ。

閉じる
2014/07/12 「North Star」



こぐま座α星のポラリス。それが、通称「北極星」と呼ばれる輝星である。

遭難者などの命を救う、人間にとってはありがたい星である。常に同じ星が北極星というわけではないらしく、数千・数万年の時の移り変わりと共に北極に最も近い星は移り変わっている。今現在の我々にとっての北極星は、前述のポラリスなのだ。

この北極星の名を冠したカードが、その名もストレートに《North Star》。イラストはKaja Foglioならではの絵本のようなやわらかく、幻想的なタッチで星空と霊的な女性、そして彼女が手にする輝星の如き光を放つ宝石が描かれている。これが《North Star》なのだろう。

この宝石の現在のテキストの日本語訳を紹介しよう。

「このターン、呪文1つについて、その呪文のマナ・コストを支払うのに、マナを他の色のマナであるかのように支払ってもよい。(追加コストは通常通り支払う。)」

例えば《ラッシュウッドの精霊》は、強力だが「GGGGG」という強烈なコストが多色デッキではネックとなるカードだが、一度《North Star》を起動すれば、このマナの支払いはどんなマナの組み合わせでもOK!

極端な話、5色で支払っちゃうことも可能だし、逆に《スリヴァーの女王》みたいな5色のカードを単色で唱えてしまうことも出来る。所謂、「マナフィルター」の役目を果たすわけだ。これで唱えるのにマナのねん出が厳しい呪文の運用も楽ちん!


……
………

Yes I know. It’s too much heavy too use.

動揺しすぎて英語になってしまう、それぐらい弱い!弱すぎる!

どんな色マナでも呪文の支払いに充てられるのは素晴らしい。そのために4マナが必要って、それだけの手間をかけるのならば、頑張って色マナを用意する方が容易い。

先述のラッシュウッドを唱えようと思ったら、結局トータル9マナ必要なのだ。おかしいよ!設置に4マナ支払っているのだから、この効果はもう、常在型能力でええやないか!

悲しいくらいに弱い、夜空の星よ。

…こんな《North Star》であったが、実は一時、「裏ワザ」が使用可能ということで注目された時期があった。「時のらせん」で登場したサイクルが有名な、「呪文コストを持たない」呪文達。

通常は「待機」によってのみ唱えられるこれらの呪文、後に「続唱」とのコンボで一躍脚光を浴びるのだが、それ以前にこの《North star》経由で唱えられることが可能という時期が存在したのだ。

《North Star》の能力が「呪文の点数で見たマナ・コストに等しい量の無色マナで支払う」という「代替コスト」に変更されていたため、4マナ払ってから0マナを払えばOK、これでラグなく《死せる生》コンボも決められる!

…本家《生ける屍》使った方がナンボか安いわ。チャンチャン。

閉じる
2014/07/11 「星の揺らぎ」



「真面目さ」というものは得難い。得難いが故に、今日ではそれが人物評価につながるものとなっている。真面目に、そして「熱心に」物事に向き合う姿勢は、結果そのもの以上に評価されるものである。


この「真面目で熱心な姿勢」がマジックの世界で炸裂して生まれたカードを、本日は紹介しよう。《星の揺らぎ》、まずはテキストに目を通して欲しい。…うん、無茶苦茶。えげつないほどのリセット呪文だ。全てのパーマネント、手札に干渉する。星が揺らぎ、狂った時間が全てを流し去る。プレイヤーはゲーム開始時の状態にタイムスリップすることになる。ただし、ライフだけは初期の約1/3の7点に減少した状態となる。若返ったのかミイラになりそうなのかわからないが、これもたぶん星が揺らいだせいだ。そういうことにしよう。


さて、これだけ「ふざけた」呪文ではあるが、一体何が「真面目に、熱心に」だというのか。お答えしよう。実はこの呪文には元ネタがある。それは「アングルード」の《Once More with Feeling》。

《星の揺らぎ》とほぼ同じ効果のこのカードは、白マナ×4という見た目にも強烈なマナコストだった。これをこともあろうかそのまま引き継いで、最初期に作られた《星の揺らぎ》は4マナの呪文だったのだ。4マナ…たしかに《神の怒り》も《ハルマゲドン》も4マナ、《意外な授かり物》は3マナだ。しかしこれらの複合体であるこの呪文が、4マナて!悪用されるに決まっとるがな!周りがのほほんとする中「熱心なテストプレイヤー」は声を大にしてこのカードの危険性を訴えた。彼の真面目な主張が通って、《星の揺らぎ》は6マナとなった。

…あんさんら、まだわかってまへん!《激動》、知ってまっしゃろ?あれを越えた呪文を作るつもりでっか?テストプレイヤーは、この6マナという提案にも頷かず、もっと適性のマナコストがあるはずだと主張し続けた。そして最後には、10マナという世にも恐ろしいマナコストの呪文が誕生することになったのだった。


この調整を「真面目すぎる」と思われた方もいるかもしれない。しかし、コノストイックな・妥協しない姿勢のおかげで、マジックは救われることとなった。

「星の揺らぎコントロール」「ターボ星の揺らぎ」というデッキがしっかりとトーナメントシーンに登場したのだが、これが4マナのままだったら?確実に凶悪なコンボデッキとなり、延々リセットを繰り返す遅延発生マシーンとなり、今日のような繁栄を遂げる前にマジック終了、となっていた可能性は大いにある。テストプレイヤー、あなたの真面目さ・熱心さで、我々の星は救われたのです。

閉じる
2014/07/10 「Falling Star」



かつてマジックは「別ゲー」だった。全くもって、別のゲームだった。ルールの変遷、数多くあった。リンボ、ダメージスタック…今のプレイヤーが聴いたことのない用語。度重なる調整によりその機能を大幅に変え続けたカード…今となっては、遠い日々の記憶である。

そういった記憶の最深部にあるもの。原初のマジックの姿。それは、プレイヤーがゲーム中におもむろに立ち上がる姿…


《Falling Star》。それは、戦いに「ネクスト・ステージ」をもたらす禁断の秘術。その名の通り、「流星」は天から降る。これを唱えた場合、まずプレイヤーは「1フィート」を測らなければいけない。

次元をも超える能力者の激闘が繰り広げられる、二次元の地平線・テーブルより、成層圏を越えた遥か上空・1フィート(30.48cm)。その宇宙空間より、神の御手の代行者であるあなたは、この《Falling Star》を「はじく」。

はじかれた呪文札は真の流星となって、戦場に佇むクリーチャーの頭上へと降り注ぐ。このカード自体が直撃したもの全てに、3点のダメージを与えそれらをタップする。


…いや、何の話よ。カードゲームはカードゲームの腕・知略を競うものであって、「手先の器用さ」を競うゲームではない。これは僕らの知るマジックよりも、世間一般で言う「マジック(手品)」の腕前の方が求められるカードである。

こんなもん、何もかもオカシイ。クレイジーなカード揃いだった「コンスピラシー」でも、ここまで「いかつい」カードは登場することが許される許されない以前の問題である。「アングルード」「アンヒンジド」が手招いている。これが通常のパックから出て、ほんの短い間とはいえトーナメントで使用できる期間が存在したことに驚きを隠せない。


1994年8月、現在で言うところのヴィンテージであるType.1にて制限カードになる。その後、1995年11月に堂々の「禁止カード」となった。

トーナメントに喧嘩を売っている「アンティ」関係のカードでもなく、「別ゲー専用機」である策略カードでもない、ましてや銀枠でもない、通常のカードの中でヴィンテージにて禁止されている「三傑」。この孤高の存在の1つとしてキラリと輝いているのが《Falling star》なのだ。


僕個人としては思い出深いカードで、なんでもありのマジックで《武芸の達人 呂布》これを投げたのだが「外した」経験がある。次のターンにトップした《Chaos Orb》を命中させて、その時は皆で大笑いしたものだ。

閉じる
2014/07/09 「次元の被覆」



マジックのウリの1つが「多元宇宙」という世界設定。これをベースに用いたことで、マジックのカードデザインやイラスト、その物語は単一の世界観に縛られることなく、次々に生み出される多種多様な「次元」と共にその幅を常に広げ続けている。

マジックの20年を超す歴史と共に多元宇宙も様々な世界・命・ドラマを生み出し成長していった。僕らの住む宇宙も現在進行形で広がり続けていると言われていて、確認のしようがないその壮大な話をずっと「なんのこっちゃ」と思っていたのだが…

案外、この多元宇宙のように巨大な存在が、宇宙を創造し続けているのかもしれないなんて考えれば、ロマンがあっていいじゃないか思い始めた今日この頃。


しかし様々な次元が多元宇宙が登場するにあたって、ずっと疑問に思っていたことがある。これらの次元には星空や太陽や月がある。ということは、天体なのか?次元=惑星?でもそういうことカード見ても書いてないしわからんわ!

…そんなある中学生の疑問に答えてくれたのが、「プレーンシフト」で登場した《次元の被覆》である。


このイラストは当時の僕には衝撃的だった。それまでマジックのファンタジー世界とは無縁だと思っていた、惑星と宇宙空間の様子が描かれているのだから。「おったまげる」とはこういう時に使うのだろう。

これにてドミナリアは惑星の形をしている次元なのだということが分かった。プレイヤーに世界観を伝えるという非常に重要な役目を与えられた、それだけでこのカードはマジックの歴史において「重要」な1枚となったわけだ。


カードとしては、「なんとも言えない」にも程がある。各プレイヤーは自分がコントロールする土地の中から平地・島・沼・山・森の各タイプを持つ土地1つずつ選ぶ。それらを、そのオーナーの手札にバウンスするという、「疑似土地破壊」呪文である。

今風の言い方をすれば「マナ・ディナイアル」、相手のマナの伸びを防ぎ展開を遅れさせる呪文になるのだが…使い勝手は悪い。大前提として、相手が基本土地タイプを持つ土地を複数枚コントロールしていないと効果が薄い。土地1枚しか戻せないケースなど、分量をしくじった時のそうめんつゆの如き薄さである。相手がドメイン系のデッキならば、一方的な《ハルマゲドン》として叩きつけることが出来る。出来るが…


見かけでなく中身で勝負!という言葉は素晴らしい。しかし世の中には、見かけだけでお腹いっぱいになれるものがあっても良いじゃない。

閉じる
2014/07/08 「星のコンパス」



夜空に輝く星は、かつて人の生活においては欠かせないものだった。「方角」というものが生死を分かつものだった。

道を間違えることが即ち死に繋がる領域は、今でこそ少なくなったが初期の人類はそういった所に住んでいたのだ。夜間の航海など、文字通り命懸けである。

それでも人々が道を誤ることなく目的地に辿り着けたのは、星々のおかげである。彼らは星の輝きの強さ・配置・それらの動きで方角を見定めた。この技術は「スター・ナヴィゲーション」と呼ばれ、現在でも用いられることがある。方

角を知るには様々な技法が存在するが、天体と方角を結び付けた方角算出技法を英語圏では「スター・コンパス」と呼ぶ。


その「スター・コンパス」文字通りのマジック版がこの《星のコンパス》だ。所謂マナ・アーティファクトというやつで、このグループはどの色でも使えるマナ加速として統率者戦ではデッキを構成する要素として不可欠であるとさえ言われるものだ。

無色を複数生み出したりするものがある中で、この《星のコンパス》は1マナのみではあるが「有色」マナをプロデュースしてくれる有難い存在である。

旅路を示すコンパスが、マナの湧き出る場所を指示してくれるおかげでマナを得ることが出来るというものだろうか。ただしこのコンパスは、5色のマナ全てに導いてくれる可能性もあれば、いつまでも針がグルグルと定まらず何も与えてくれない可能性もあるのだ。


このカードは、あなたのコントロールする基本土地に依存する。あなたがコントロールする「基本土地」が生み出すことの出来るマナと同じ色マナを提供してくれるのだ。

だから、単色デッキでのブーストとして用いる分には何も問題はないが、多色デッキでの事故回避になりはしないということをしっかり認識しておこう。「基本土地タイプ」を参照するわけでもないので、デュアルランドやギルドランドを所有していてもコンパスは道を示さない。

例えどんな優れた道具でも、それを使うものが「理解」していないと、それは屑鉄に成り下がることもある。


さらに言うと、基本土地が「生み出すことのできるマナ」という点にも注意したい。例えば《社交の達人》なんかと並んでいると、問答無用で5色をプロデュース。

逆に《汚染》や《Naked Singularity》(当コラムでも以前取り上げた問題児のことね!)で生み出せるマナを変更されていると、それにならってしまう。


2011年5月、地味~にオラクルが変更されているが、カードの機能には影響はしないものだった。英語版のテキストにたった1単語「that」が追加されるという、些細なものだ。しかしこういった調整が、世界の秩序を保っているのも事実。

閉じる
2014/07/07 「星明かりの天使」




今日は七夕。短冊に願いを書いて笹に吊るすということを、永らくやっていない方も多いことだろう。今夜は久しぶりに、そういうことをしてみるのも「風流」で良いかもしれない。都会を離れ、天の川がしっかりと観れるような場所に行ってみたいものだ。

星空の美しさは、人間の原初の喜びというか、そういうものを刺激する。そんな訳で、今週は「星ウィーク」をお届けしよう。

一週間のトップを飾るのに相応しい美麗なイラストを誇るのは《月明かりの天使》。天使というと、眩い太陽の光と共に地上に降臨するイメージが強い。おそらくは有名な絵画や、各種ゲーム・漫画などでの扱いがこのイメージを作り上げたのだろう。

そのため、これらとは趣を別にする、星空を背にする天使のイラストを目にした時は、何とも言えない感動を覚えたものだ。

色鉛筆や水彩で描かれたのであろう、淡く優しいタッチはまさしくRebecca Guayならではのもの。この作品を通して彼女のファンになった人間も、この地球に少なからずいるはずだ。雲とドレスの質感といい、この作品を「美しい」以外に形容する言葉を持っていないことに歯がゆさを覚える。それぐらいに美しい。

このカードは、所謂「北京語版」と呼ばれている、簡易文字を使用した中国版マジック「万智牌」において、独自のアートワークが用いられていることで知られる。

以前は、マジックのカードを発行する際に、中国の表現規制に引っ掛かりそうなもの…髑髏などのグロテスクなものや宗教的な存在、さらにはエロティックなものが描かれたカードは、イラストが差し替えられていたのだ。

《星明りの天使》も、おそらく宗教的な要素で引っかかるおそれがあるとして差し替えられたのだろう。このイラスト違いは、天使ということも相まって人気が高いコレクターアイテムとなっている。

このカードにはもう一つ、面白い「エラー」バージョンが存在している。それも、なんと日本語版に。どこがおかしいのか、よーく視ると…アーティスト・クレジットが「John Avon」となっている。何やら夢のある組み合わせでのエラー、面白い。


閉じる
2014/07/05 「Frankenstein's Monster」



「モンスター」という単語は、今でこそ各種ファンタジーや各種モンスターゲームのブームにより、「ポジティブ」な意味合いを受け取りやすい言葉となっているが、その本質は「悲哀」に満ちたものであると僕は思う。

主人公と一緒に旅をする、不思議な生き物…最近のモンスターは子ども達に受け入れられている存在である。

これに対して、モンスターという言葉を全世界に広めたであろう小説及び映画「フランケンシュタイン」に登場する「フランケンシュタインの怪物(モンスター)」は、不気味で拒絶される悲しい存在として描かれている。可哀そうなんだけど怖い、という独特の感情を呼び起こすもの。怪物の背負いし宿命に、人はある種の「美」を見つける。


マジックにおける「モンスター」も不遇な存在である。『おいおいこのゲームではモンスターなんて単語は使わねえぜ。クリーチャーって呼んでるんだ、人間だっているわけだからな』こんな説明をされたこと、マジックを始めたばかりの時に受けたことがある人もいるだろう。

マジックの世界に「モンスターはいない」。いや、いたのだ。いたのだが、彼らも怪物ならではの苦しみを持って生まれてきた。

「レジェンド」「ザ・ダーク」と立て続けに2体登場した後「メルカディアン・マスクス」でさらに2体が現れる。そこから、数が増えることもなく、彼らに共通点などもなく。そして無慈悲な「大編成」にて、怪物達は袂を分かつ。モンスターは「絶滅種族」となった。滅びゆく者達は美しい。


そのモンスターの中でも、最も「モンスターらしさ」を放っていた1枚が《Frankenstein's Monster》だ。

先にあげた「フランケンシュタインの怪物」そのままである。元となった作中では、フランケンシュタイン博士が理想の人間を作るために墓を暴いて死体を集め、つぎはぎして造りだした新しい生命である。

この設定に基づいて、マジックのこの名も無き怪物も、墓地にあるクリーチャーカードを繋ぎ合わせて誕生する。場に出るに際し、X枚のクリーチャーカードを取り除く。取り除かれた枚数1枚につき、+2/+0・+1/+1・+0/+2カウンターを好きな組み合わせで配置する。

X=3で5マナでバランス良く配置して3/3。ちょっと割高だが、マナを注げば・墓地を食わせれば食わせるほど、肥大化する「ロマン」に溢れた怪物だ。


場に出るに際し、墓地のクリーチャーの数がXを下回っていると場に出ることなく墓に眠る。このようなデメリットを持つ割に、トランプルなどを持っていないため非常に使いにくいカードである。

しかし、この不遇な怪物をベースに《縫合グール》という名カードが生まれており、彼の悲しみに満ちた誕生も無駄にはならなかったことはハッピーエンドと言って良いだろう。


閉じる
2014/07/04 「コビトカバ」



ギニアやコートジボワールなど、アフリカ大陸の限られた地域に分布。悲しいことにナイジェリアの個体群は絶滅している。

体長150cm、肩高75cmほど・体重は200kg前後。カバというには小さいのが分かってもらえたかと思う(カバの体重は大きいもので2tを超す)。

カバといえば、「水浴び」。全身水に浸かって目と耳と鼻だけ水面から出して鼻息バフー、耳ピクピクといった光景が思い浮かぶ。カバ=水中生活、のイメージが強くあるが、この《コビトカバ》には、それは当てはまらない。

小さな体の彼らは、森林や沼地に生息している。この彼らの住処は、非常に多湿な環境である。皮膚が弱く常に水分を必要とするカバの仲間でも、常に霧に包まれている様なこれらの環境では、水浴びをすすんで行う必要もないのだ。

森林や沼地ならば身を隠す場所にも事欠かないので、カバが日中を水中ですごしている理由の事如くが、陸上生活で補えてしまう。そのため、《コビトカバ》は陸生傾向が強い種ではあるのだが、水中での活動にも適応しているため、日本などの動物園ではカバと似たような飼育方法がとられており、スイスイと泳ぐ姿を見ることが出来る。


基本は一頭で行動しているが、夫婦やその子どもといった小さな家族で暮らしていることもある。

このかわいらしい動物の存在は、当初はカバの奇形であるとして種としては認められなかった。しかしドイツのとある動物商は、現地に伝わる黒い豚の怪物「ニベクヴェ」の伝承を信じて、これの捜索を根強く続けたのだった…


毎度おなじみ、「カード関係なし長すぎ序文シリーズ」をお届けしたところで、本題に入ろう。

能力もこの序文と同じく長いことが書いてあるが、攻撃してブロックされなかったら誘発し、戦闘ダメージを与えない代わりに何らかのボーナスを得る「サボタージュ能力」と呼ばれるものを持っている。

この《コビトカバ》のそれは、相手の土地のマナ能力を強制的に起動し、それらのマナを空にした後、自分のマナプールに相手が引き出したのと同数の無色マナを加えるというもの。基本的に、この能力が解決される前に相手は土地を寝かせてしまうため、マナを吸収する用途を主目的にすると「ほぼ機能しない」カードになってしまう。しかしここに《冬の宝珠》が並べば「天下無敵」。強烈なロックをかけることが出来てしまうのだ。


Foilカードがマジックに登場する以前に、このカードを含む数種類のカードを用いて「テストプリント」が行われた。

後に出回るFoilとは少し違った雰囲気のこれらのカード、文字通り試作のものだったのだが、誤って市場に出回ってしまう。これに世界中のコレクターが眼をつけないはずもなく、今では「お宝」として、多くのプレイヤーのあこがれの対象となっている。


ちなみに「絶滅種族」ウィークなので現在は廃止されたタイプを持っていた。元々「カバ」だったが、「カバ」は廃止され「カバ」へと変更となった。

…コイツは何を言ってるんだと思われるかもしれないので、部分的に英訳してみよう。「Hippopotamus」は廃止され「Hippo」へと変更となった。何故微妙に変えたのかは謎のままだ。僕らの住む世界の《コビトカバ》は、生息数を激減させている。愛らしい彼らが絶滅しないことを願いながら、筆を置く。

閉じる
2014/07/03 「Spinal Villain」


「Spinal」は「背骨の・脊髄」、Villainは「悪党・悪役」という意味がある。さすれば、この《Spinal Villain》を直訳すれば「背骨の悪党」となる。

意訳…のしようもないな、背骨の悪党さんとしか言い表せない。意味はわかるけどわからないし、わからないけどわかる不思議な言葉だ。


この古き良き「レジェンド」の怪生物は、3マナ1/2と非常に脆弱な肉の欠片のような生き物だ。ハッキリ言って戦闘では全く役に立たないスペックにして、とある局面に異常に特化した恐ろしい能力を持ち合わせている。

この蟲…チックな怪物は、タップすることで青いクリーチャーを無条件で破壊することが出来る。赤の「対抗色」…この時代の感覚で言うならば「敵対色」の1つである青。それに対する徹底したアンチテーゼ、赤い処刑マシーン、Small Red Thing。この背骨の悪党が機能し始めれば、マーフォークなど鱠に干物に蒲焼にと、「フルコース」に成り下がる。これ、ダメージじゃなくて破壊なのが凄まじいね。

《霜の壁》とか《リバイアサン》ですら一撃必殺。青いクリーチャーをこよなく愛するプレイヤーからすると、まさしく「悪党の中の悪党」。


個人的にはイラストが大好きな1枚。映画「エイリアン」に登場するフェイスハガーのような、醜悪にして地球の蟲なんかと似ていても全く異なる進化を辿ってきたことがわかる絶妙なデザイン。

多肢で描かれることが多いこの手のクリーチャーには珍しく2本の腕のようなものを持つのみで、しかもゴリラのような「ナックルウォーク」の姿勢をとっているのも独特で素晴らしい。このイラストを見るに、確かに背骨っぽさはある。

あるんだけど、あくまで「ぽさ」なので、カード名が指す「背骨の」とは、コイツの形状を指すのか・はたまた青い生物の背骨に寄生して内側から破壊する様をイメージさせるものなのか、それはプレイヤーに委ねられている。

考える余地があるネーミングにイラストの組み合わせというのは良いものだ。


フレーバーテキストには、著者名と引用書物の名前が書かれているのだが、調べてみても全く何なのかわからなかった。相当古い古典か、それとも「それっぽい」ものを作り上げたのかはわからない。これを読むに、静かにこっそりと獲物を殺してしまう化け物であることを伝えたいようだ。


今週は「絶滅種族」ウィーク、この悪党も「悪党」というワンアンドオンリー種族であった。職業…と呼ぶにもくくりが大きい、「生き方」がクリーチャータイプになっている稀有な例だった。

例によって今週毎日書いている「例のアレ」こと大編成でビーストととなり、悪党は滅んだ。しかしこそこそした悪事は不滅なのだ。
閉じる
2014/07/02 「超心霊体」


クリーチャーが戦闘ではない形で、プレイヤーやクリーチャーにダメージを与える。この能力の事を、「ティム」という表現の仕方をするのは、皆さんも耳にしたことがあるだろう。「アルファ」にてマジックの誕生と共に登場した《放蕩魔道士》。

彼がある映画の魔道士・ティムに似ていたため、この能力はこう呼ばれるようになった。《放蕩魔道士》は青いカードであり、直接ダメージを与えるのが赤の役目になっている現在では違和感のある能力に思えるが、青は霊感的念動力、「サイコキネシス」的な魔法を担う色としての役割が与えられていたため、念動力でダメージを与えるというのはあながちおかしい話でもない。「アルファ」からしばらくの間は、この念動力で直接ダメージを与える青いカードがちょくちょく用意されていたものだ。


《超心霊体》も、そんなティム一族の系譜に名を連ねるカードの1つである。しかも、コイツはすげえや、2点も飛ばせるときたもんだ。毎ターン2点飛ばせるようになれば、リミテッドでは正直なところ「勝ったも同然」である。小粒は叩き落とし、大物でも2ランク下のサイズと相討ちを余儀なくされる。それが嫌でにらみ合いに妥協すれば、本体に初期ライフの1割に値するダメージが飛んでくる。これは放っておけばゲームが終わる!勝ち!初手!


…そんな美味しい話、ないですよね。当コラムをやってきて何度目だろうか?持ち上げて落とすのは…。《超心霊体》が抱えるデメリットは、対象に2点のダメージを与えつつ、自身にも3点のダメージを与えるというもの。フレイバーによれば、この霊界に住む蛇チックな生き物は、相手にサイコキネシス噛みつきが出来れば、自身が消えてなくなろうとも気にしないとのことだ。なるほど、犠牲を払わなければ対価は得られない。でも、それにしたって高くつくものだ。


上手く使うには、タフネスを上げる・プロテクション(青)を与える・破壊不能を与える・再生させる、など選択肢は多い。これらを与えた上で絆魂を与えれば、物凄い勢いでの回復を見込める。個人的には、相性最強なのは《活力》。能力で自身を対象にとれば、一気に7/7へと驚異の成長を遂げる。うん、もうティム能力とかどうでも良いね。リメイク版の《心霊スリヴァー》ならもっといろいろ気にせず楽に運用できるので、そっちを選ぼう!


かつて持っていたタイプは「エンティティ」。カード名(《Psionic Entity》)からそのままつけた形になる。今でなら、翻訳テンプレートに従って「精体」となるのかな。いずれにせよ、固有種族であったため2007年9月の大編成にて「ビースト」となる。これにも違和感があったのか、続く2008年1月18日のオラクル変更で「イリュージョン」に生まれ変わった。お、《非実在の王》でタフネス上げれるやん!と思ったけど、3点なのでキッチリ死んじゃう。マジックって本当によく出来ている。
閉じる
2014/07/01 「人さらい」


古今東西、ありとあらゆる国・地域で、子どもを叱ったり注意する際に、謎の存在に攫われるという表現をする風習がある。妖怪だったり、幽霊だったり、山奥に住む怪しい人物だったり…僕も子どもの時に、某昔話番組で「子取り」という恐怖の存在を見てからしばらくの間は、自分を連れ去ろうとする得体のしれないものがいつ現れるかという恐怖に怯えていた時期があった。ひとりぼっちでお留守番とかちょっと怖かった時期、皆もあったんじゃないかな。

今日においても誘拐事件は時折おこるものだが(非常に悲しい事実だが)、これが時代を遡って中世なんかに差し掛かると、それこそ日常茶飯事だったんじゃなかろうか。今日もまた、街角で誰かが攫われる…まさに「暗黒時代」。というわけで、そんな時代が舞台の「ザ・ダーク」より、本日のご紹介はこちら、《人さらい》。ちょ、直球すぎやしませんか…

この《人さらい》は、4マナ2/1とはっきり言って大したことのないサイズの持ち主。しかしその能力は、まさしく人を攫うもの。黒のトリプルシンボルとタップで、相手の手札を覗いてその中からランダムにクリーチャーを1枚抜き取るというもの。ターンがやってくれば1人、また1人と姿を消していく…フレイバーがうまくカードと噛み合った、良デザインだ。

ただし、デザインが良くても強いかどうかとなると話は別だ。4マナで場に出し、次のターンに3マナ払ってようやく、クリーチャーカードを1枚落とせるというのは速効性に欠けるし、かなり割高だ。

そもそも、4ターン目以降に相手の手札にクリーチャーがいなければ意味を為さない能力である。vsウィニーではすっかり展開されて手札には土地のみ、vsコントロールではそもそもクリーチャーが入っていないのでこちらも空振り、と噛み合う相手を選ぶ能力ではある。これが相手のターンでも使用できれば、ドロー後に起動して人を攫う雄姿(?)を見ることが出来たと思うと残念でならない。リミテッドでは、重たい強力クリーチャーを1枚でも抜ければお役御免だ。そういったクリーチャーは「人」ならざる者達ばかりなので、「ワームさらい」「スフィンクスさらい」と名乗っても問題なかろう。

今週は「絶滅種族」ウィークということで、これが初出時に持っていたタイプ「人さらい」も、「第7版」再録時に「ミニオン」に置き換えられて、絶滅となった。良かった。本当に良かった。人さらいのロードとか、シャレにならない。

閉じる
2014/06/30 「Narwhal」



「自然を大切に」といった類のキャッチフレーズを目にする機会は多いことだろう。現在、地球上では急激な環境の変化を主な原因として、非常に多くの動植物が「絶滅」の危機に瀕している。僕ら人間は、その光景に心を痛め、彼らを可能な限りそのままの姿でいさせてあげたいと思うことが多い。何故、人間は他の動物を保護するのだろうか?

自分達と直接関係のない生き物を絶滅から救うことには、どんな意味があるのだろうか?ここで忘れてはならないのは、僕らもあくまで「自然の一部」だということ。人間の行いだって、地球にとっちゃ一生物が起こした自然の出来事なのだ。同じ自然の一部が完全に失われてしまうことは、人間にとっても都合が悪いことなのだろう。

このままカードの話を忘れて三千文字くらい書いてしまうところだったが、落ちつこう。マジックの世界にも、環境の変化についていけずに絶滅してしまった種族が存在する。今週はそんな悲しみを背負った「絶滅種族」ウィークだ。古代生物図鑑を見る感覚で楽しんでいただければ…

1枚目は《Narwhal》。「Narwhal」とは、和名で「イッカク」。クジラの仲間である。「ホームランド」の舞台となった次元ウルグローサでは、我々の世界同様にこの小型のクジラが寒い海に生息しているようだ。

カードとしては、4マナ2/2という小ぶりのサイズに先制攻撃とプロテクション(赤)を併せ持つという、青のクリーチャーには珍しい能力持ちだ。ちなみに、青単のクリーチャーでこれらを初めから併せ持っているのはこの《Narwhal》のみ。

マルチカラーもありにすると、もう1種《鋼の風のスフィンクス》の名前があがる。本当に珍しい組み合わせなのだ。これと全く同じ能力を、後に《銀騎士》が半分の軽さの2マナで達成してしまった。まあ色には得手不得手があるということで。

登場時のクリーチャータイプはそのまま「イッカク(Narwhal)」だったが、2007年9月の「サブタイプ大編成」にて「鯨」に統合された。これにより「イッカク」は最初で最後の1枚のみの登場で絶滅。

実際に、僕らのこの世界に生息しているイッカクも、絶滅危惧種である。今でこそ5万頭近くが北極海を中心に生息しているが、彼らを外敵から守る流氷が溶けつつある今、シャチなどに食い尽くされる可能性が大きいと考えられている。《霧氷風の使い手、ハイダー》さんには是非ともこれらの流氷を溶けないように保護して欲しいものだ。

閉じる
2014/06/28 「Snow Mercy」


ちょいと時期外れかもしれないが、「スノーグローブ」「スノードーム」って呼ばれているおもちゃ…というより置物か、皆の家にもあったんじゃないかな?半球状のプラスチックのオブジェで、中に水で満たされたジオラマと紙ふぶきが入ってるやつ。

ひっくり返してから元に戻したり、振ってから置いたりすると、紙ふぶきがブワーッと舞ってまるで雪が降っているかのような風景がそこに…というもの。見たことあるでしょ、お土産屋さんとかでも定番アイテムだし。

そんなおもちゃのマジック版が、この氷雪エンチャント《Snow Mercy》だ。ガラスっぽい球体の中に城のような建築物と、粉雪、そして宙を舞う機械風のオブジェクト…確かに雪の光景ではあるけども、これって一体、何を示しているのだろう?

その疑問を解くカギは、カード名にある「Snow」は勿論「雪」だが、では「Mercy」は?これには情けや「慈悲」という意味がある。雪慈悲?なんのことだろう。ここまでくれば、勘の良いマジックオタクにはわかること。

このカードは、《無慈悲》のパロディなのだ。《無慈悲》は英語で「No Mercy」。ノーマーシー→スノーマーシーという、「ダジャレ」に過ぎない。めちゃくちゃくだらない話だが、こういったくだらなさにも全力投球なところが、僕は心の底から好きだし、尊敬している。

さて、《無慈悲》のパロディということで、このスノードームの内容物はその《無慈悲》に描かれていたもので構成されている。《無慈悲》は文字通り、ファイレクシアの侵略兵器が《トレイリアのアカデミー》へ侵攻してくる様を描いたものだ。

アカデミー側も応戦用の兵器で迎え撃ってはいるが、分が悪そうだ。この光景がしっかりと再現され、立派なアカデミーがそびえる中を戦争機械達がフワフワと漂い舞っている光景は、シュールだがどこか美しく、何故か雪とも合っている。

このカードは、《無慈悲》と同様に、あなたにダメージを与えたクリーチャーにデメリットを与える。《無慈悲》では慈悲の欠片もなく破壊だったが、こちらでは多少の慈悲はあるようで「球体カウンター」という独自のカウンターを置くに留まっている。

このカウンターが置かれたクリーチャーは、このカードの起動型能力によりタップ状態になってしまう。この起動型能力が…「タップ・アンタップ・タップ・アンタップ・タップ」という豪快なコストだ。振って起こして振って起こして…というスノードームのフレーバーを表現しているのだ。

ルールに厳密なツッコミをすれば、コストは書かれているものを同時に払うので、これは「どう頑張っても払うことの出来ない」コストなのだが、そんなことに触れるのはヤボというものだ。銀枠でしょ?

ちなみに振り過ぎると、中の物が飛び出して大参事になる恐れあり。フレーバーによると「窒息・低体温症・次元侵略」の恐れがあるそうだ。「本物」が入っているんだね…
閉じる
2014/06/27 「Phantasmal Sphere」




幻影とは。幻の影。感覚の錯誤によって、実際には存在しないのに、存在するかのように見えるもの。まるで現実に存在しているかのように、心の中に描き出されるもの。ありもしないもの。ありもしないのに、見える・見えてしまうもの。心をとらえるもの。


その幻影を生み出す宝球なのか、幻影により生み出された宝球なのか、イラストを見た限りではちょっとわからない。しかし、これがかなり怪しい・危ないアイテムなのはよく伝わってくる。アイテムというより、生体兵器というところか。何にせよ「禁断のテクノロジー感」がたまらない。

このカードは「Sphere」と名がつくのにクリーチャーであるというなかなか珍しい1枚だ。最初は2マナ0/1飛行という貧弱極まりない体格の持ち主だが、ターンを経るごとに1/2、2/3、3/4と成長してゆく。5/6なんかになれば制空権は握ったようなもの、2マナで《マハモティ・ジン》!勝った!…と喜ぶのは早い。そうもお得なカードを、この時代の「シビアすぎる」デザイナー達が許してくれるわけがない。アップキープの開始時に+1/+1カウンターが乗った後には、厳しい「お支払タイム」が待ち受けている。カウンター1つにつき、1マナ支払わねばこの生ける宝玉は砕け散る。世の中、安い話ってないものだ。


それでもコツコツと支払いを続けて、人に自慢出来る立派な体格に成長したので満を持して戦線に送り出そうと、試みたタイミングで土地が止まってしまった。悲しいものだ。

アップキープに支払いが出来ずに、それまでの育成は水泡に帰した。そして、悲しみはこれだけでは終わらない。ふと視線を上げれば、相手の戦場に先程まで自分が育てていた禁断の風船型生物とうり二つの物体が浮かんでいる。そう、このカードが戦場を離れてしまうと、対象の対戦相手の戦場にこれに乗っていた+1/+1カウンターと同数のパワー・タフネスを持つ飛行生物が出現するのだ。

それまでのターン、何かを展開したり構えたりすることを放棄してコツコツ投資してきたものが、たった一度の支払いを怠っただけで崩れ落ち、そして裏切られる。そのリスクをしょってまで使えるカードなのかと言うと、全くもってそうではない。

このカードは「この世の不条理を凝縮した物体」として、永遠に語り継がれるべき存在だ。悲劇を繰り返しては、いけない。再録禁止カードで本当に良かったと思える、数少ない1枚だ。レアだからとりあえず使ってみよう、と犠牲になる少年少女が1人でも少ないに越したことはない。

こんだけ言ってるけど、僕は結構好きなカードなんですよ。イラストとかデザインの雰囲気は素晴らしい。弱くても、良いんです。



閉じる
2014/06/26 「火の玉」



「X火力」はここから始まった。後に様々な次世代機を生むことになる、最初の火種はその名も《火の玉》。X火力とは、支払ったマナが多ければ多いほど、その効果が増すという使い勝手も良く、初心者にわかりやすく、それでいて強力なカード達の総称だ。

勿論Xが1や2程度だと、《ショック》なんかと比べると割高の1枚である。しかしこのカードの評価されるべき点は、「そういう使い方もできる」という点にある。例え割高でも、《ラノワールのエルフ》を焼くことで勝利に近付ける盤面は存在する。後半に引いてきたのならば、ありったけのマナを注いで本体に叩き込んでやれば良い。X火力は最高なのだ。

《火の玉》はその系譜の元祖にして、なかなかトリッキーな一面も併せ持っている。追加で1マナ払えば、その火の弾が焦がす対象を増やすことが出来る。例えば、X=6でキャストする場合。相手の場には3/3が2体・2/2が3体いたとする。

この時、追加で1マナ払えば2体の対象をとり、6点のダメージを2で割った数=3ダメージをそれぞれに与えることができる。3/3を2体焼くのが得策だろう。追加で2マナ払えるならば、6÷3=2点のダメージを3つの対象に与えることができる。2/2を3体掃除してやるのが良いだろう。

この時に注意しなければいけないのが、このカードは「ダメージを割り振る」カードでは「ない」という点だ。

先ほどの様に例を挙げるならば、3/3・2/2・1/1がそれぞれ1体ずついるという状況で、X=6・追加で2マナ払うとどうなるか。割り振りと勘違いしていると、「3点2点1点、一掃!」という青写真を描いてしまう。しかし現実では「6÷3=2点をそれぞれに」なので、3/3が生き残ってしまうのだ。

せっかくの「リミテッド10点」「タッチしてでも使え」カードでも、その正しい効果を知らないと思わぬ計算違いが起きる時がある。思い込みを除外するために、大事な場面では改めてカードテキストをしっかり確認したいものだ。

個人的には、このX火力応用版といった挙動をするカードが、純粋なX火力である《猛火》より先に作られているのが不思議でしょうがない。ちなみに僕は《火の玉》コレクターで、いろんなヴァージョン・言語のものを集めている。これも様々なセットに再録しやすい基礎的な呪文なればこそ。個人的に好きなのは「ビートダウン」のマナコスト表示に「Y」が描かれているもの。マナコスト「Y」が見れるのはこれともう1枚(わかるかな?)という稀有な存在だ。


閉じる
2014/06/25 「Vibrating Sphere」


 「振動する宝球」とでも訳されようか。イラストを見る限りでは、複数の層から構成される、複雑な球体の様だ。内部に脳のようなうねりが見えるのが、なんとも不気味である。球体の周囲に展開されている水色のヴェール状の物は、その振動により発生した衝撃波的なものだろうか。

このイラスト、現在のマジックではおおよそ見られない80年代アメリカンコミック調の画風が特徴的ではあるが、シンプルに描かれているためこの宝球の大きさがわかりにくい。動物の骨で出来た台座にも見えるし、巨木や石柱のようにも見える。とりあえず、骨の台座説で話を進めよう。ありがたいことに、アーカム・ダグソン御大の解説文がフレーバーテキストに書かれている。訳してみよう。

「神秘的で、不可視の繊維がこの球体から発されている。そしてそれは、これに近付く全ての者をもつれさせる。」

見えない糸が放出され、それを生体に接触させることで振動を流し込んでいるようだ。そしてそれにより、対象者は脚がもつれたり痙攣が起こったりしてうまく行動が出来なくなるようだ。

カードとしての機能は、なかなかに類を見ないもので面白い。自分のターンには、その振動を増幅させて兵士達の筋肉を増幅させたり神経系を研ぎ澄まさせたり、単純に興奮させたりしてパワーを+2上乗せする。これは素晴らしい、「早速我が軍でも採用だ」と上官が独断で導入し、兵士達は不可視の糸でパワーアップ。ウォー。

しかし、ターンを相手に返すと、兵士達は突如地に膝をつく。やっぱりドーピングみたいなことって、ダメ絶対。本来受けるはずのない負荷である、反動があるに決まっているのだ。というわけで自分以外のターンでは自軍のタフネスが-2となる。

このデメリットが、このカードの運用を非常に困難にしていることは言うまでもない。これがタフネスでなくパワーだったら、まだ気にならなかった。タフネス-2は「概ね死んじゃう」値である。

全体のパワーを+2して嬉しいデッキは、小粒のクリーチャーを大量展開してナンボだ。例えば《未練ある魂》。殴る時は3/1飛行が2~4体、たまらん。勝てる。相手にターンを返してしまうと場には何も残らない。たまらん。負ける。

往々にして、パワーを2上げるだけの置物をデッキに入れるのならば、もっともっと使い勝手の良いデッキに合ったものが存在するものだ。かと言って、これの利用価値がゼロだと断ずるには早い。例えば、相手に《寄付》してはどうだろうか。ウィニーや部族といったデッキなら継続的な《神の怒り》として機能するぞ!《死の支配の呪い》《仕組まれた疫病》とかの方が…とか言っちゃダメだ。

あるいは、自分で開き直って使うのも良いのかもしれない。死亡した時に何か起こすクリーチャーをズラリ並べて強化して殴って「Go!」と言ったら相手のアップキープにスタック山積み、とか絵的に面白い。《血の芸術家》で残ったライフを吸いつくそう!


閉じる
2014/06/24 「精神固めの宝珠」

「プレイヤーはライブラリーから探せない」。うーん、ズシッとくる一文である。シンプルにしてディープな、行動制限系カードのお手本のような1枚である。このカードが場に出ている限り、所謂「サーチ系」のカードは「紙屑」と化す。では、そんな紙屑候補生たちを見ていきましょう。

・各種フェッチランド:「オンスロート」「ゼンディカー」にて登場。生け贄に捧げ1点のライフを支払うことで、対応した基本土地タイプを持つ土地をライブラリーから場に出す。レガシーやモダンでは最重要カードの1つ。あ、「ミラージュ」「アラーラの断片」にもありましたね。

・《適者生存》《獣相のシャーマン》《出産の殻》《自然の秩序》《召喚の調べ》etc.:ライブラリーからクリーチャーを引っ張ってくる、緑のお家芸。デッキに1枚だけ仕込んだ、ある特定の局面で有効なクリーチャーをサーチしたり、普通には唱えることが難しいクリーチャーを叩きつけたり。緑をやる理由の1つ。

・《石鍛冶の神秘家》:装備品をサーチして手札に。一見、限られたものしか持ってこられない様にも見えるが《饗宴と飢餓の剣》などの各種「剣」シリーズ、禁断のオーバーテクノロジー《梅澤の十手》、装備品にして優秀なクリーチャーである《殴打頭蓋》と、勝利するに十分な「兵器」をサーチできる驚異のカード。

・《吸血の教示者》《伝国の玉璽》《Demonic Tutor》etc.:「チューター」と呼ばれる、各種サーチカードの中でも、特に強力なのは黒のそれ。基本的になんでも持ってくる、使い勝手の良さがウリ。

・《根絶》《ロボトミー》etc.:ライブラリーを探すカードというのは、何も自分のものだけを探すのではない。対戦相手のライブラリーから、ある特定のカードを引っこ抜く妨害系カードにもしっかりと「同じ名前を持つカードを探し」などの一文が刻まれているのだ。

・その他、《けちな贈り物》《ゴブリンの女看守》《ドラゴンの嵐》《原始のタイタン》など特定のデッキでキーカードとなるもの沢山

これらに対する回答となる、《精神固めの宝珠》。「4マナは重いよな~」と仰るそこのあなた!これが3マナだったら先手2ターン目マナクリーチャーから貼れるんやで!それこそ「マジック最終回」。このカードは「4マナ」という絶妙なバランスでデザインされたこと自体に、価値があるのだ。

閉じる
2014/06/23 「抵抗の宝球」

サッカー、ワールドカップ。これを書いている段階ではどの国がどのような結果を迎えたのかはわからない。わかっていることは、世界中が熱狂の渦に巻き込まれ、1つのお祭りを楽しんでいるということ。これは確信を持って言えることだ。サッカーのユニフォーム交換って、素敵やね。マジックプレイヤーも、あれを見習ってフェアかつ対戦相手をリスペクトした姿勢でゲーム終了を迎えたいものである。

そんなわけで、今週はカードイラストに登場する球体をサッカーボールに見立てての「ボール・ウィーク」だ。まあまあ無理がある選出だとは思うが、はりきっていってみよう。

まずは今まさにディフェンスラインを突破してシュートがネットに突き刺さらんとしている瞬間に見えないこともないイラストの《抵抗の宝球》。イラストに描かれているのは、モグ(ゴブリンの亜種)・スリヴァー・サルタリー・《操り骸骨人形》という「次元ラースに生息する面々オールスター」だ。

これらが一堂に集結しているイラストは、このカードぐらいのものだ。そんな貴重なシーンで、彼らは皆一様に強い光を発する球体に恐れ・驚いている様子である。約1名、こっちを向いて球体に気付いていないような「アホヅラ」を披露してくれているオイシイやつもいる。このまま球体が後頭部に直撃するのだろうか。良い仕事、してますね。ゴブリンはやっぱこうじゃない。

彼らが恐れ目を背けるその球体は、全方位にその光の柱…ビームを射出している。このアーティファクトの効果は、すべての呪文に追加のマナコスト①を請求するというもの。よくある「①払え。払えないなら○○しろ」というタイプではない。「とにかく払え。いいな」という、柔軟性の欠片もない非常さでプレイヤー達を責めたてる恐ろしいカードなのだ。

このカードは対戦相手のみという生易しい効果範囲ではなく、勿論自分自身も1マナ請求ビームに悩まされることになってしまう。決して気軽に使えるタイプのカードではないのだ。

この気難しいボールを扱うには、デッキ構築の段階から「これありき」の構成にしておく必要がある。ちょいと添えておくには過ぎたるものだ。後半、展開しきった盤面で引いてきても何の役にも立ちはしない。初手に握って1ターン目に叩きつけてナンボ、即ち自ずと構成は固まってくる。マナブースト…それも呪文では駄目だ。土地であるに越したことはない。そして4枚積み。そうでなくては意味がない。

こうした研鑽の末に生まれたのが、ヴィンテージにおける「スタックス」「MUD」といった「ハメ殺し」デッキである。2マナランドから1ターン目にこれ置かれたら、大抵のデッキはキレそうになる。

純粋に、「ストーム」「親和エルフ」などの軽量呪文を唱えまくって勝利するデッキに対する効果は絶大なので、サイドボードに用いられることもままあった。最近では《エーテル宣誓会の法学者》に取って代わられた感はあるが、こっちにはこっちの利点がある。




閉じる



過去のアーカイブはこちら  その1  その2   その3


BIGMAGIC LIVE
BIGMAGIC LIVE YouTubeチャンネルBIGMAGIC LIVE ニコニコ動画
(C) Copyright BIG MAGIC All Rights Reserved.