text by Sakamoto Ryosuke
『編集者(岩Show)によるコメンタリー無し版』はこちら
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承前 –End of the Golden Age
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誰にでも、何事にも、転機というものは等しく訪れる。
そして、そこにはいつだって”別れ”というものの影がひっそりと佇んでいる。
はいどうも、編集者です岩Showです。前回はりょーちんの素敵な思い出話を多くの方に読んでいただけたようで、心から嬉しく思っております。今回もチャチャ入れ・補足・そしてBonus
Trackを書かせていただくので、どうぞよろしゅうに。
とりあえず、いきなりシリアス。こういう序文って記事において大事なものだと思ってるわけよ。
前回思い出語りをさせて頂いた通り、10余年の時を超えて果たした「マジック」との再会は、紛れもなく一つの転機だった。
僕や他のマジック仲間とも出会えたわけやしね。違う道を進んでいたら、こうして「記事」を書くなんてこともなかったのかもしれん。
憧れの的だった美しい《Bayou》は自らの手元で毎日のようにマナを生み出し、干ばつに襲われ、そして時に脈絡もなく山と化していた。
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ほんまに脈絡もなく山なるからね。「うわ、月真っ赤やん!」ってベランダ出たら、港町が山になってたりするんやろうか。
そして、特に思い入れの欠片もない謎の大型ルアゴイフやら、歩く《ファイレクシアの闘技場》やらが戦場を駆け巡り、そして感慨深いことに見慣れた農場で鍬を握る運命を歩んでいった。
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所謂「農場送り」。かつては物凄い数の《アーナム・ジン》が主導で耕作を行っていたが、現在はBobさんと色白の元鍛冶屋がゴイフに耕具を引かせているらしい。オカルト占い師やゴーグルかけた不健康ティーンエイジャー、カマキリ人間も増えてきているらしい。
私はもう、10枚並んだ《沼》から《夢魔》を叩きつけることはなかったし、《ラノワールのエルフ》から《ガイアの子》を繰り出すこともなかった。2度と、なかった。
20枚並んだ《沼》からの《堕落》とか、《クローサの雲掻き獣》をチャンプされ続けることももうないな。HAHAHA
…あれ、なんか……寂しい…な。
1.
Days at the Races
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競技マジックというもの―この頃はレガシー一辺倒ではあったが―に触れ、私のマジックへの没頭は加速した。
60枚目(75枚目でないのが今となっては恥ずかしくもある)が決まらず夜な夜な調整を繰り返し、大会に出ては惨敗し、そして時々勝利の栄光に浴して思考を止める。
マジック上手い人と知り合うと教えて貰えるんやけどね、サイドボード抜きの60枚でデッキを考えているうちはまだまだなんやと。サイドボードとは、ただ差し込むカードの束じゃなくて、それを含めて75枚のデッキを作りなさい。そう教えてくれる人が僕の周りには何人かいて、彼らはもれなく結果を残したプレイヤーだった。
そんな日々だった。
しかしある時、具体的には1枚のカードの登場により、苦悩の日々は終焉を迎える。
最近では『イニストラード』~『ラヴニカへの回帰』が如何にエターナルに大きな影響を齎したかということは、何度も、何度も繰り返してきた。
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しかし今思えば、レガシーというフォーマットに激震が走ったのは、『アラーラの断片』ブロックだったのだ。
《ヴェールのリリアナ》《終末》《死儀礼のシャーマン》…ついこの間までスタンダードにいたやつらがレガシーでブイブイ言わしてる、って不思議な話だったけど今じゃ普通のことやね。そしてアラーラ・ブロックね、確かに未だにレガシーやモダンで現役のカード多数あるね。
《野生のナカティル》?
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確かに素晴らしい1枚だ。
立て続けに登場した《長毛のソクター》等と並んで、一気に「Zoo」というデッキを一線級に持ち上げた。
「Naya
Lightsaber」とかいうカッコ良すぎるデッキ名
《遍歴の騎士、エルズペス》?
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これも素晴らしい。
最初は誰かがおそるおそる「Landstill」のフィニッシャーとして使い始め、いつしか非青ミッドレンジの最終兵器としても活躍するようになっていた。
名PWの代名詞。3種類全部トーナメントシーンで活躍したけど、やっぱり4マナペス子が最強に思う。+3/+3飛行を「カタパルト」と呼んでいた日々はもう遠い。
違う。
本当の悪夢は、そう、
《むかつき》
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という狂った1枚だった。
S級妖怪
世紀末覇者
地上最強の生物
A Nightmare on Elm Street
「殺す」という本能
北の侍
《むかつき》 New!
僕の「強い」言葉辞書に新しい項目が書き記された瞬間だ
それまでレガシーのコンボ・デッキで一線級と呼べたのは「フリゴリッド(ドレッジ)」位であり、「Painter
Stone」や「Helm Void」なんかはまだまだファンデッキの域を出ていなかった。
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ペインター登場時に黒ウィニーで大会に出た僕は、恐怖心に負けてサイドボードに《ガイアの祝福》を入れてしまったのだった。今思い出した。なんか悔しい。後《ストロームガルドの騎士》と《ナントゥーコの影》を半々で使ってたんだけど、「これナン影の方が強いから変えろ」って初対面の人に言われてムカついたんで《思考囲い》で《剣を鍬に》を放置してストロームガルド1枚で押し切ってやった記憶が蘇ってきた。「…プロ白強いっすね」と言わせられたのでその夜は安眠できた。
それ故にこの衝撃は大きかった。
何せ、勝てないのだ。
ほんまに勝てなかった。
えっちらおっちらと鳥やら蛇の老婆?やらでマナを伸ばして、時々思い出したように手札破壊を打ち込む程度では、「Ad
Nauseam Tendrils(以下ANT)」というデッキを抑え込むことは不可能だった。
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《桜族の長老》って老婆なのか?爺ちゃんっぽくもあるけど顔の丸さは確かに女性的でもある。マーフォークなんかは性別見分けやすいんやけどね。
更に言えば、当時は今と禁止カード&マナの持ち越しのルーリングが異なっていた関係で、
・アップキープに《神秘の教示者》
・更に《ライオンの瞳のダイアモンド》を起動
・ドロー、《むかつき》プレイ
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なんていう常軌を逸したプレイングが可能だったのだ。
「シンリュウケーーーーーーン!!」
「シンクウハドーケーーーーン!!」
言いながらプレイしたっけな
最初の内は《Hymn to Tourach》の偉大さ故に勝ち星を挙げることも不可能ではなかったが、同時並行で従来のクロック・パーミッションやコントロール、更には根強く残る「フリゴリッド」まで倒しきるのは至難の業であった。
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《Hymn
to Tourach》のレガシーでの強さって、乱高下するというか。評価低い時と最優先される時とがあって、さらに評価低い時・対して効かない相手にさえ手札の落ち方次第で勝負決めたりする。「ランダム」に何かするカードってやっぱり面白い存在やね。
そして1年程経つ頃、具体的には『ゼンディカー』が発売される頃には…「ANT」というデッキとその乗り手が更に習熟し…
更に文字通りそのカウンターとして隆盛する「ベースラプション(※)」。
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※《相殺/Counterbalance》《師範の占い独楽/Sensei's
Divining Top》コンボで相手の呪文をシャットアウトし、《タルモゴイフ/Tarmogoyf》で攻めるクロック・パーミッション。
特に《闇の腹心/Dark Confidant》を採った4色の物を「ベースラプション」と呼ぶ。
…手札破壊の天敵である《師範の占い独楽/Sensei's
Divining Top》を主軸とし、かつ打ち消しや《霊気の薬瓶/AEther
Vial》を持たないデッキに対し圧倒的な優位を誇った。
「ゴブリン」を使っていた俺ちゃんには関係のない話。後に《炎渦竜巻》を採用して「ゴブリン」「マーフォーク」への耐性を高めた「竜巻CTG」が出て、事情は変わった…かな。ゴブ側はゴブ側で、プレイングを変化させて戦っていたね。懐かしいわ~ほんま。
もはや牧歌的なデッキで戦うのは限界が来ていた。
そして、私は観念し…
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《Force of Will》をバインダーから取り出した。
覚悟を決めた時。「俺は一歩を踏み出したんだ。降りたんじゃない」。
2.
The Rock is Dead
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最初は普通の「カナディアン・スレッショルド」…ではなく、何故か「Super
Grow」だった。
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残念ながら、《クウィリーオンのドライアド/Quirion
Dryad》というカードが好き過ぎて、まだまだ正統派には迎合できなかったのである。
くーやんもGrow大好きやし、ドライアド惚れ込み勢は多いでしょう。最初、あのランド10枚以下のリストを見た時は衝撃を受け…るんだろうけど、僕はマジック始めた当初に友人がランド7枚の「ストンピィ」とか使ってたので、むしろ「あいつの構築って未来の構築だったのか」と違う衝撃を受けたもんだ。
とは言えやはり時代の覇者は《タルモゴイフ》。
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じっくり子育てしている間に12点持っていかれてはたまったものではない。
遺伝子操作で生まれた強靭な生命体を前にして、一からの子育ては無力なものよ…ただ、時間さえあれば無限に成長するという「可能性」は人(ドライアド)の力だ。
暫くすくすく育つドライアドを楽しんでいる内にふと目が覚めた。
勝ちたい。
勝ちたいよな。
大好きな「The Rock」を捨てた。
覚悟を決めたよな。
それはすべて、勝利の為。もう負ける訳にはいかない。
中途半端な勝った負けたじゃねーぞコラ!噛みつくならしっかり噛みついてこいよ!
ならば何を使うべきか。
「カナディアン・スレッショルド」?
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―ダメだ、線が細すぎる。一昼夜で勝てるようになるデッキじゃあない。
よく「綱渡り」と表現されていたね。《秘密を掘り下げる者》出てからはオラオラやけど。
「Landstill」?
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―これもダメだ。負けないことを貫けるほど自分は強くない。
相手の心を折るタイプのデッキは、まず自分がその過程に折れないという前提のもとで使用するべきである。ゆったりと、平常心で居続けることは難しい。
ならば。
―相手が何かやる前に、息の根を止めてしまえばいいのだ。
FATALITY
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