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日比野 泰隆 電波なモダンデッキ録 第1回 「感染」 ~《さまようもの》は完成の夢を見るか?~ 
 

text by Yasutaka Hibino

突然ですが、皆さん。

構築デッキに《さまようもの》って、入れようと思いますか?



ただの1マナ1/1という、マジック史上でも最弱といっても差し支えないスペック(ただし《Little Girl》を除く)
「EDHデッキにウケ狙いで1枚差し」はありえるかもしれませんが、まず間違いな構築デッキに入れることはないでしょう。


では。


《巨大化》をデッキに入れることはありますか?




リミテッドでは強力な1枚ですが、クリーチャーありきのカードのためアド損することも多く、そもそもカードパワーも高いとは言えないので、構築デッキにはまず入らないと思います。


ですが


《さまようもの》に「感染」が付いたら、状況は一変します。




《さまようもの》に《巨大化》をプレイして殴り勝つ。まるで小学生が考えたかのような、それでいて爆発力はモダン最高峰。そんなデッキをご覧ください。






Kelvin Chew
プロツアー「ラヴニカへの回帰」トップ8
19land
2 《森/Forest》
1 《島/Island》
2 《繁殖池/Breeding Pool》
4 《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》
2 《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》
4 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
4 《新緑の地下墓地/Verdant Catacombs》

14creature
4 《ぎらつかせのエルフ/Glistener Elf》
4 《貴族の教主/Noble Hierarch》
4 《荒廃の工作員/Blighted Agent》
2 《胆液爪のマイア/Ichorclaw Myr》

27spell
3 《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》
4 《手練/Sleight of Hand》
3 《血清の幻視/Serum Visions》
4 《地うねり/Groundswell》
4 《古きクローサの力/Might of Old Krosa》
3 《怨恨/Rancor》
4 《巨森の蔦/Vines of Vastwood》
2 《使徒の祝福/Apostle's Blessing》
15sideboard
4 《呪文滑り/Spellskite》
4 《呪文貫き/Spell Pierce》
2 《否認/Negate》
2 《四肢切断/Dismember》
3 《忍び寄る腐食/Creeping Corrosion》

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このデッキの勝ち筋は、感染クリーチャーを展開し、すみやかに相手を毒殺するという、至ってシンプルなものです。サブプランと言われるようなものは一切ありません。

特筆すべきはその速度で、モダン環境においてもトップクラスのキルターン数を誇ります。
その速度、実に最速3キル。構成によっては2キルすら可能です。
(例:1ターン目《ぎらつかせのエルフ》→2T目ランドセットから《地うねり》+《古きクローサの力》+《変異原性の成長》で毒11点》)

何せ、感染クリーチャーにプレイされる強化スペルは、実質的に全て2倍の効果を持つため
《古きクローサの力》《地うねり》は1マナ8点火力相当と言えば、その凄まじさが伝わるでしょうか。
上記のデッキには採用されていませんが《変異原性の成長》は0マナ4点火力
バーンの代表的カード《溶岩の撃ち込み》(1マナ3点火力)なんて目じゃない破壊力です!


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このデッキを相手にする時は、間違っても「殴り合いをしよう」などとは思ってはいけません。
正面からこのデッキと殴り合って勝てるデッキは殆ど存在しません。(あの「親和」でさえも、感染を相手にしたときは受けを考えなければならないほどです。)

一見理不尽な暴力を誇る感染ですが、当然、弱点も存在します。

・攻撃の主体が感染クリーチャーに依存しており、強化スペル単体では使えない
・感染クリーチャーは非常に貧弱(全員タフネスが1)で、速攻持ちも居ない
・デッキ全体のカードパワーは極端に低く、アドバンテージを得る手段も無い。

そのため、とにかくクリーチャーの除去を第一に考え、消耗戦に持ち込むことが重要です。

長引けば長引くほど、あなたが勝利する可能性は高まっていきます。

序盤を凌いで《電解》や、《瞬唱の魔導士》+《稲妻》、《残忍なレッドキャップ》、《ヴェールのリリアナ》などでアドバンテージを取りつつ除去出来れば、かなり勝利は近いでしょう。

注意すべきは、ケアをする意識です。
例えば、以下のような状況の場合、あなたならどう動きますか?
(※問題の簡略化のため、前後の手順や墓地の状況などは省いてます)



「自分ならこうするプレイング」を考えてみていただきたいのはもちろんですが
「やってはいけないプレイング」も併せて考えてみると、面白いと思います







あなたの考えはまとまりましたか?







それでは、筆者が考える模範解答は以下のとおりです。

妥当なプレイ:メインフェイズで《稲妻》を《ぎらつかせのエルフ》にプレイ。
もし、相手が《使徒の祝福》で《稲妻》を弾いたら《突然の衰微》で《ぎらつかせのエルフ》を除去。
もし、《ぎらつかせのエルフ》を除去できたら、《闇の腹心》をプレイ。


1マナしかない状態では、相手はほぼ《使徒の祝福》でしか対応できないため、2枚の除去を重ねて打てる状態であれば、確実に《ぎらつかせのエルフ》を除去することが可能です。
相手の動き次第ですが、相手が《使徒の祝福》を持っておらず《ぎらつかせのエルフ》を除去した上で《闇の腹心》までプレイできれば、非常に有利なゲームプランを描くことができるでしょう。

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危ういプレイ:土地3枚を立たせて《稲妻》と《突然の衰微》を構えてエンド
一見、最も安全な様に見えますが、実はこのプランが一番死亡率が高く見返りも少ないです。

例えば、相手がランドセットからメインで《古きクローサの力》プレイ→対応して《稲妻》→対応して《地うねり》→対応して《突然の衰微》→対応して《使徒の祝福》とプレイされた場合、除去を全て捌かれた上に毒を9点受けて、あなたは死にます。

そこまで極端は話は無いにせよ、相手は除去を弾けるハンドであれば勝負を決めにきますし、除去に耐性が無いハンドであれば、不用意にパンプせず、そのまま《ぎらつかせのエルフ》で殴り、クリーチャーを横に並べるようプレイするでしょう。相手に選択の余地を与えてしまうという観点でも、このプランはあまりオススメできません。

仮に、クリーチャーを除去することが目的であれば、妥当なプレイで示したようにメインフェイズで除去しておけば確実に除去が可能であるのに、土地を立たせてターンを返すことで、除去できるかどうかも不確定になり、死亡するおそれすら発生するという罠があるのです。

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危ういプレイその2:《闇の腹心》をプレイして《稲妻》を構えてエンド

こちらの展開と相手への対応の折衷案…といった形で、一見妥当に見えますが
《闇の腹心》をブロッカーに回さない場合、相手が強化スペルを大量にかかえていた場合、こちらは《稲妻》1枚しか対応できないため、即死する可能性がもっとも高い選択肢となります。

《闇の腹心》をブロッカーに回すのであれば即死はありませんが、その場合、こちらの今後のゲームプランの見通しが立たなくなるため、不利ではないにせよ、決して有利とも言えない状況となります。

総じて「相手のクリーチャーを除去する」「即死を防ぐ」「《闇の腹心》によるアドを稼ぐ」といういずれの面でも、妥当なプランで示したメインフェイズで除去するプランよりもリスクが高い選択肢となります。

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あなたの考えた戦略と考えて、いかがでしたでしょうか?
もちろん、上記の考えが絶対の正解という訳ではなく、相手の手札やゲームプランによって他の選択が正解となることもあるため、あくまで参考という形にとどめておいてください。

「ちょっとケアにケアを重ねすぎなんじゃないか…?」と感じた人も居ると思いますが
感染というデッキ相手には、どれだけケアしても足りないということはありません。

中盤以降は相手が露骨に息切れするので、ケアも楽になってくるので、
その分、最序盤の攻防はとにかく細心の注意を払って、死なないように立ちまわるのが感染を相手にする時のコツです。





感染に対する特に効果的なサイドボードの一例は、以下のとおりです。


《呪文滑り》

このカードは2マナ0/4の壁として有効なだけではなく、何と、相手の強化スペルの対象を自身に変更することで無力化するという、感染の戦略を根本から否定する事が出来る、強烈なキラーカードとなっています。
能力を使用する際のコストも、感染相手であれば躊躇なくライフで支払いができることも強みの一つです。



《虚空の杯》

X=1でプレイすることで、デッキの半分以上のカードをプレイ不可能にさせてします。
冒頭のデッキリストでは、なんと30枚以上が1マナスペル!
また、感染側が置物を割るためサイドインしてくるカードも、同じく1マナスペルである《自然の要求》であることが多いので、対策の対策の対策カードとしても有効です。






《仕組まれた爆薬》

感染のクリーチャーのほとんどが1マナもしくは2マナであることと、感染側が除去に対する対応策は《使徒の祝福》や、《呪文滑り》であることから、このカードは非常に感染に対して有効に働きます。
起動した場合はほぼ確実に相手のクリーチャーを破壊可能であるため、このカードの場合は、コンバットフェイズでの起動も視野に入れて問題ありません。


 


《四肢切断》

感染相手にはライフロスがデメリットとならないため、このカードは実質的に無色1マナ-5/-5の除去となります。
また、ダメージではなくマイナス修正であるため、万が一除去しそこねたとしても、最悪5点軽減してくれるのが嬉しいところです。


 


《魂の裏切りの夜》《死の支配の呪い》

タフネスを1下げるだけであれば簡単に強化スペルで対処されますが、永続的にマイナス修正を受けるとなると話は別です。感染クリーチャー達は基本的にタフネス1ばかりであるため、一切の生存が許されません。
これらのカード単体では間に合わないことが多いですが、他の除去で序盤を凌いだ後、蓋をする役割として強烈なメタカードとなります。






・《巨森の蔦》をキッカー込みでプレイされると2マナ必要なので《呪文嵌め》が気持ちよく刺さりそうですが、キッカーコストは点数で見たマナコストに数えないため1マナ換算となり、支払っているマナは2マナですが、《呪文嵌め》の対象にはなりません。
逆に《使徒の祝福》をペイライフでプレイした時は1マナでプレイしていますが、φマナコストも点数で見たマナコストに数えるため、2マナ換算となり、支払っているマナは1マナですが、《呪文嵌め》の対象とすることが可能です。



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・《シルヴォクののけ者、メリーラ》をコントロールしている状態で《墨蛾の生息地》をクリーチャー化した場合、メリーラの「感染を失う」能力の上から「感染を得る」効果が上乗せされます。ですがメリーラの能力で「あなたがコントロールするクリーチャーは、その上に-1/-1カウンターを配置できない」「あなたは毒カウンターを得られない」ため、最終的には「《墨蛾の生息地》はあなたとあなたのコントロールするクリーチャーに一切ダメージを与えられない」という、奇妙な状態になります。

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・今回のデッキリストでは採用していませんが、《ヴェールのリリアナ》などの対策に、《ドライアドの東屋》を採用しているリストも存在します。
《ドライアドの東屋》は森でありながらクリーチャーでもあるため、《霧深い雨林》などの森絡みのフェッチランドからインスタントタイミングでサーチすることが可能です。
相手が不自然にフェッチランドを構えている時は、可能性の一つとして意識しておく必要があります。


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・感染デッキの中でも、最も厄介クリーチャーは《墨蛾の生息地》です。対策としては《地盤の際》が非常に有効なカードとして挙げられますが、感染は非常にマナ域が軽いため、土地が3枚でも十分に戦う事が可能であり、もし《地盤の際》が見えていた場合は、4枚目の土地は置かないようケアされてしまいます
そのため、もし手札に《地盤の際》を持っていた場合は、出す順序は最後にするのは勿論のこと、相手が4枚目の土地を置くまで、たとえこちらの土地ストップすることになっても、手札に抱えたまま我慢して出さないことで、《墨蛾の生息地》を討ち取れる可能性がぐっと上がります。

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・《古きクローサの力》や《地うねり》などの1マナで+4/+4という修正値は非常に強力ですが、強力ゆえに条件付きとなっています。
・《古きクローサの力》は、ソーサリータイミングでプレイしなければならない
・《地うねり》は、上陸(土地がこのターン場に出ている)状態でないとならない
以上の理由から「土地をセットしていない戦闘フェイズでは、1マナで+4/+4の修正は発生しない」ということになります。自分が即死するかどうかの計算の際は、意外に重要な情報になりますので、覚えておいて損はありません。

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いかがでしたでしょうか。少し対処は特殊ですが、挙動を知って落ち着いて対処すると、思った以上に早く相手が息切れして、勝利は目前となります。

もし、あなたが感染デッキを持ちこむとしたら。
感染デッキは、クリーチャーに極度に依存したデッキであり、かつそのクリーチャー達の除去耐性は低いものばかりなので、軽量除去や《ヴェールのリリアナ》が多いような環境では、勝ち抜くことは難しいでしょう。具体的には、ジャンドやBG、トリココンが多いと考えるならば避けたほうが無難です。

逆に、軽量除去がなかったり、中盤以降に本領発揮するようなデッキが多い環境。具体的には、スケープシフトやストーム等が多い環境だと、相対的に強いデッキとなるでしょう。


日比野 泰隆

主な戦績
グランプリ横浜2013 5位

プロツアー“ドラゴンの迷路” 出場

グランプリ横浜2013でTOP8入賞を果たした名古屋のプレイヤー。
フォーマットや場所を問わず、精力的な活動を続けているプレイヤーである。

本人のブログ:電波な日記帳

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「モダンへの誘い」 
モダンは誰もが主役になれるフォーマット!


「電波なモダンデッキ録」
第0回
第1回 感染

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