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Deck Remember Vol.7 
 
text by Iwa-Show



前回、何の前触れもなくやって来た山崎兄弟は、結局「神河」に帰る方法が見つからず、しかし途方に暮れても仕方がないので、僕の近所の庭師のおじいさんの家で働くことになった。

彼らはさすがにパワーには長けており、また浪人だったとはいえ侍は侍。武家の嗜みも心得ていたため、「わびさび」を理解しており、庭師としての仕事にも向いていたようだ。後継ぎがいなかったおじいさんも喜んでくれて何よりだ。今は近所の公園の造園に精を出しているようだ。遊具の中に、彼らが造ったであろう《まどろむ虎の像》が混じっているのは気にしないでおこう。







 僕は彼らの過去を知っている。彼らは、自らの手で大切なものを失ってしまった過去・そして、それを償うため、守り続けた故郷がある(今年中にはBIG MAGIC LIVEの背景ストーリー解説コーナーで取り扱う予定なので、こうご期待!)。そこから先、彼らがどのような道を歩み、ここへ来たのかはわからない。しかし、ある一件から口を開くことのなかったという彼らが、この次元に来てからは笑顔を見せるまでになった。これももしかしたら《激憤明神》のお導きかもしれない。







ある日、彼らと話していると、兄・征太郎から質問があった。「以前、公園の植え込みの手入れをしておった時、奇妙な老人が小さな動物の群れを従えておった。あの心和む獣は、なんというのか?」  うーん。もうちょっと情報が欲しい。すると弟・秀次郎が付け足した。「栗の木だったように思うのう」  なるほど、それは栗鼠(リス)ですな。たしかに、神河ではリス・トークンを生むカードはなかったね…って、リスを従える老人??







 Vol.7 リス対立









1.詳細
かつて、「リス対立」というデッキがあった。デッキ名で全て伝わるレベルのシンプルな名前であるが、初見の方も少なからずおられるとは思うので改めて解説しよう。このデッキは、「ウルザズ・デスティニー」の強力レア達の中でも特に注目を集めた《対立》によるロックを、全力で狙いにいくコンボ要素の強い中速コントロールといった塩梅のデッキだ。

《対立》はその性質上、こちら側にクリーチャーがたっぷりいなくては効果がない。相手のパーマネント総数を超えるクリーチャーがいて初めて「相手のアップキープに全てのパーマネントを縛り上げる」→「フリーになったクリーチャーでアタック」を複数繰り返してライフを射程圏内に確保してからの「フルパンチで勝利する」というデッキのストーリーを形成できるのだ。青単色では、これが実に心許ない。そのため、白羽の矢が立ったのが《錯乱した隠遁者》という、1枚のカードで5体のクリーチャーを供給するスゴイヤツを抱えた緑である。この2枚だけで、パーマネントを5枚も縛ることができる。ここに隠遁者をキャストするためのマナ加速である《ラノワールのエルフ》《極楽鳥》が加われば、後は自分のターンに好き放題動いて、相手は自分のアップキープにインスタント・タイミングの行動しかとれなくなる。勝ちじゃ勝ちじゃ!




2.サンプル
本日は2つのサンプルを紹介しよう。まずは、元祖「栗鼠対立」。「業師」中村聡氏が作り上げたこのアーキタイプの全盛期をご覧いただこう。

アジア太平洋選手権00 ベスト8
中村聡
フォーマット スタンダード(第6版+ウルザ・ブロック+マスクス・ブロック)
24land
6 《島/Island》
7 《森/Forest》
2 《真鍮の都/City of Brass》
1 《ガイアの揺籃の地/Gaea's Cradle》
4 《樹上の村/Treetop Village》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》》

22creature
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
4 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
3 《ヤヴィマヤの農夫/Yavimaya Granger》
4 《ヤヴィマヤの古老/Yavimaya Elder》
3 《マスティコア/Masticore》
1 《スカイシュラウドの密猟者/Skyshroud Poacher》
3 《錯乱した隠遁者/Deranged Hermit》

14spell
3 《対立/Opposition》
3 《水位の上昇/Rising Waters》
3 《不実/Treachery》
3 《誤算/Miscalculation》
2 《魔力消沈/Power Sink》
15sideboard
4 《リバー・ボア/River Boa》
1 《マスティコア/Masticore》
4 《ブラストダーム/Blastoderm》
2 《火薬樽/Powder Keg》
1 《不実/Treachery》
1 《無効/Annul》
2 《調和ある収斂/Harmonic Convergence》

2.サンプル(+詳細)
 実に美しい!お見事としか言えない、計算されつくした姿である。《対立》と《錯乱した隠遁者》のみではロックしきれない状況でも、《水位の上昇》サポートがあればあっさりと詰みの状況を作れるものだ。隠遁者の枚数は3と減らしてあるが、《スカイシュラウドの密猟者》が入っているので実質4枚入っているのと同じだ。

しかもコイツは後続の隠遁者をライブラリーから引っ張り出してくることができる。こうも表に出てきては「何が隠遁なのか」と問いたくなるレベルだ。「ネメシス」の恩恵をフルに受けたデッキは、見事アジア太平洋選手権トップ8まで勝ち抜いている。ビートダウンプランに変更可能なサイドボードにも注目だ。



さて、続くサンプルは《対立》と《錯乱した隠遁者》を含むウルザ・ブロックがスタンダードを去ってから2年半後に登場したデッキだ。これは、「7th」に《対立》が再録されたことで復活と相成った訳だ。では、リスは?これは、《錯乱した隠遁者》の後継機である《木の実拾い》が…













ごめんなさい、ウソです。新たなリス製造手段、《リスの巣》が「オデッセイ」にて登場。《錯乱した隠遁者》が誇る瞬間最大風速には劣るものの、より軽い3マナで、毎ターン確実にトークンを供給することが可能というスタミナ面で勝る1枚だ。この2枚が2代目タッグを結成したデッキを紹介しよう。


マスターズシカゴ03 優勝
Franck Canu
22land
3 《真鍮の都/City of Brass》
10 《森/Forest》
4 《島/Island》
3 《汚染された三角州/Polluted Delta》
1 《沼/Swamp》
1 《地底の大河/Underground River》

11creature
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
3 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
4 《野生の雑種犬/Wild Mongrel》

27spell
2 《陰謀団式療法/Cabal Therapy》
3 《獣群の呼び声/Call of the Herd》
4 《綿密な分析/Deep Analysis》
3 《強迫/Duress》
4 《対立/Opposition》
2 《物静かな思索/Quiet Speculation》
1 《ワームの咆哮/Roar of the Wurm》
4 《燻し/Smother》
4 《リスの巣/Squirrel Nest》
15sideboard
1 《陰謀団式療法/Cabal Therapy》
3 《天啓の光/Ray of Revelation》
2 《ワームの咆哮/Roar of the Wurm》
2 《静態の宝珠/Static Orb》
1 《物静かな思索/Quiet Speculation》
2 《被覆/Envelop》
1 《クローサ流再利用/Krosan Reclamation》
3 《幻影のケンタウロス/Phantom Centaur》



 この手の「マナクリーチャー並べて何かする!」デッキは、何かしようとしている段階でクリーチャーを除去されてしまうと途端に息切れを起こしてしまうのが弱点であった。それを解消してくれたのが《リスの巣》であり、各種フラッシュバック呪文とそれをサーチする《物静かな思索》だった。これらの尽きぬことない青と緑の攻め手に加え、クリーチャー除去・手札破壊・《リスの巣》と相性抜群の《陰謀団式療法》のために黒を足したこのデッキは、「マスターズ」という強豪のみが集うプレミアイベントにて、見事優勝の座を掻っ攫ったのだった。











3.リブート
さて、そんな伝統のあるデッキを毎度の様にリブートしてみよう。とりあえず、「リス対立」の決定的な弱点は「全体除去」だ。マナクリーチャーを並べて《対立》置いて、これからロックしていくで!というタイミングでの全体除去は逆王手と言っても良い。いやいや、縛っちゃえば良いんだよ!と意気込むのも良い。ただ、その前に現実を紹介しておきたい。《対立》使えるフォーマットは、(カジュアルフォーマットを除いて)現在エターナル環境のみ。「レガシー」には、タフネス1の強力なクリーチャーが数多くいるため、《妄信的迫害》という2マナのインスタントがよく採用されている。《貴族の教主》《極楽鳥》から《錯乱した隠遁者》に繋いで、これを撃たれるともう投了して帰ってしまいたくなる。というわけで、これに負けない形でのリブートにすることは必至となる訳だ。


フォーマット:レガシー

Sample Deck
22land
3《新緑の地下墓地/Verdant Catacombs》
3《汚染された三角州/Polluted Delta》
3《霧深い雨林/Misty Rainforest》
2《Bayou》
2《Underground Sea》
2《Tropical Island》
2《不毛の大地/Wasteland》
1《ドライアドの東屋/Dryad Arbor》
1《教議会の座席/Seat of the Synod》
1《島/Island》
1《沼/Swamp》
1《森/Forest》

8creature
4 《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》
4 《断片無き工作員/Shardless Agent》

17spell
4 《苦花/Bitterblossom》
2 《リスの巣/Squirrel Nest》
3 《対立/Opposition》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
2 《思案/Ponder》
4 《突然の衰微/Abrupt Decay》
4 《陰謀団式療法/Cabal Therapy》
2 《梅澤の十手/Umezawa's Jitte》
1 《罠の橋/Ensnaring Bridge》
1 《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》
1 《殴打頭蓋/Batterskull》
1 《真髄の針/Pithing Needle》
1 《悪夢の織り手、アショク/Ashiok, Nightmare Weaver》
15sideboard
2 《ボーラスの工作員、テゼレット/Tezzeret, Agent of Bolas》
4 《弱者の剣/Sword of the Meek》
4 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
2 《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》
2 《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》
1 《罠の橋/Ensnaring Bridge》


一体何のデッキや!というレベルの見た目になっている。正直、《リスの巣》は他のカードと入れ替えるべきだとも思っているが、そこはほら「リス対立」なので。より軽い《苦花》と《梅澤の十手》《陰謀団式療法》という相性抜群のカードで《対立》までの時間を稼ぐ。《悪夢の織り手、アショク》は勝利手段にもなるし、《対立》の弾となるクリーチャーを相手からかっぱらってくる渋い働きをしてくれるだろう。BUGというカラーの嗜みとして、近年作られた2大クリーチャーは問答無用の採用。


サイドボードは、まさかこのデッキを相手に墓地対策をガン積みしてくることはあるまいという訳で、墓地を利用し《対立》とも相性の良いトークン生成手段となる《飛行機械の鋳造所》《弱者の剣》コンビを投入。そしてそれらが入るとなると、相方とも言える《ボーラスの工作員、テゼレット》を積んでサイドボードはアーティファクト一色に!メインも、嗜みで入れた《断片無き工作員》や《梅澤の十手》がアーティファクトであり、実はアーティファクト・カウントが多い。まさかの「テゼレイター」に変身してアッと言わせてやろう。


もはや原型は留めていないが、リスと《対立》…いや、もうトークンと《対立》さえ入っていればそれは「リス対立」の遺伝子を受け継ぎしデッキとなる!…《対立》が重い?4マナが重いなら《精神を刻む者、ジェイス》はどうなるんだよ!というのが僕の持論である。実際使うと、なかなか侮れんぜ。



4.終わりに
2つの強力カードによるコンボを中心に、単品でも戦えるようにそれぞれと相性の良いカードを揃えてデッキを作る構築は、このリスがパーマネントを寝かしまくっていた時代から現代にも通ずるものである。グダってしまう展開になっても、クリーチャーでコツコツ殴っていれば勝てる、というタイプのデッキは今後も現れ続けることだろう。新しいカードが出る度に、このアプローチに取り組んでみてはいかがだろうか。


しかし、山崎ブラザーズの言うところのリスを従える老人が気になってしょうがない…続くッッ
 
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